髪はワタシの命でした
小さな頃から
小さな頃から、お姫さまやアニメの魔法少女に憧れていた私。ドレスやコスチュームはもちろんのこと、それと同じくらい、彼女たちの髪型はなんて可愛いの!と溜め息ものだった。
幼少期はほとんど祖母が私の髪を切ってくれていた。
おかっぱで前髪は眉よりちょっと上。それが当時の私のお決まりヘアスタイルだ。
しかしあるとき、めずらしく(たぶん初めて)母がハサミを手にやって来た。娘の髪を慎重にカットしていく母。
いつも仕事でいない母をゆっくり独り占めできる時間だったからか、私はとても機嫌よく切らせていたそうだ。
母「あれ?…ん?…あっ!」
やがて、母が「ふうっ」と終わりの合図らしい息をつき、私は喜び勇んでタタタタターッと姿鏡のある廊下へと走っていった。
一 鏡を覗いた笑顔のロッタちゃん(私)がそのまま固まってね、少し間があってからウワァ~ン!て大声で泣いたの。おかあさん、胸が張り裂けそうだった。
そう、後に母が語ってくれた。
右から左、あら、斜めだわ。じゃあ、左から…と切り揃えていくうちに、どうも真っすぐにならんぞ?とどんどん短くなり、最終的に前髪は生え際から3センチくらいになっていたそうな。
七五三を終えて
なぜだか我が家の方針で、私のマストヘアスタイルは“おかっぱ”か“ショート”という決まりごとが確立していた。
ある程度の長さまで髪が伸びてくると、祖母が布裁ち用のハサミでジョキジョキと散髪してくれる。
だが、小学校にあがってから私は放置されるようになった。
ここで言うところの“放置”とは、育児放棄ではなく、“髪を伸ばさせてくれた”という意味である。
ちょうどその頃、お姫さまや魔法少女に憧れはじめた私は、長い髪でいられることに底はかとないうれしさを感じていた。
とくに、おさげをしてもらうと大好きな赤毛のアンと同じ髪型になり、さらにおさげ髪を解けばウェービーヘアになるので、お姫さま気分を味わえて二度おいしかった。
そして迎えた七五三。
祖母の姉が現役の美容師さんだったので、長く伸ばした髪を結ってもらったあと、祖母のリクエストどおり、ありったけの髪飾りを付けてもらった。
なかなかの重さで、不二家の店先にあるペコちゃん人形のように頭がフラフラと揺れた。
初めてアップにしてもらい、あんみつ姫的結い髪に、私自身とても満足していたのを憶えている。
だがそれは、数日後に訪れる別れの伏線にすぎなかった。幸福なロングヘアライフは、文字どおり断ち切られたのである。すべては七五三に向けての“放置”だったのだ。
私は再び、おかっぱロッタに戻った。
ショートとノイローゼ
我が家はこんなにも合理主義だったのか?
おかっぱどころか、ショートにシフトしているではないか!
七五三を終えて間もなく、私の髪はバッサリとカットされた。理由は、ショートのほうが洗髪後すぐ乾くし清潔感があって朝は髪型に悩まずラクだから。
自分の意思ではない。
子どもの頃、髪型や着る服において家族の意向に沿うことはごく当たり前だった。
ショートになって最初の試練は、クラスも学年も違う見知らぬ男子から「こけし!」と呼ばれたこと。
ほめ言葉として放った言い方ではなく、あきらかに罵る感じのニュアンスだった。
家に帰って祖母にそのことを話すと、「あら、こけしって可愛いのよ」とポジティブに捉えられてしまった。違う!そういうことじゃないのに!
街で男の子に間違えられることも度々あった。
「ぼく」と呼びかけられても、訂正することはしなかった。
自分の髪をブラシでとくたびにだんだんと髪が伸びる夢を見た。幸福な気分で目を覚ますと、現実では私の髪は短いまま。
散髪やさんの鏡越しに見えるポスターのお兄さんたちが、自分を見て「男の子みたいだね」って笑っている気がして涙が出たこともある。理容師のおばさんが切る手を止めて、「髪の毛入っちゃったかな?」と涙をぬぐってくれた。
私は長い髪でいたい。
髪を伸ばしたい!
レボリューション
ついに私は声をあげた。
「私、これからは髪を伸ばすから!」
そう家族に宣言した。高学年になったある日のことだった。
意外にも、家族からダメとは言われず、拍子抜けするくらいすんなりと受け入れられた。
念願のロングヘアライフのはじまりである。
移りゆく髪質と揺れる乙女心
思春期をむかえた私の髪は、ひどいクセっ毛へと変貌した。
うねる髪、ごわつく手触り、束ねれば綱、ほどけば女ターザン。
高校時代はスチームアイロンを応用したスチームブラシなるものを購入し、毎朝30分は鏡の前でクセを伸ばしていた。
大学生になり、はじめてのカラーリングやパーマ、縮毛矯正も経験した。結果、髪は傷みに傷み、枝毛地獄に。
金髪や奇抜な髪型以外は、けっこういろいろな挑戦をしてきたと思う。
結婚式では、集大成ともいえる髪アップにドレスという子どもの頃からの夢、お姫さまスタイルを実現するチャンスがついにやってきた。
が、当日、同式場で髪をセットしてもらった友人と、花嫁である自分の髪型が細部まで丸かぶりするというミラクルが起きた。
現在の私は、白髪染めとふくよかな頬を包み込むように隠すことに血道を上げている。というヘアスタイルに落ち着いた。
髪が人生のすべてではない。
もっと大切なことは他にもたくさんある。
けれど、自分を形成するアイデンティティのひとつではあった。
夢に見るほど、魔力を借りてでも長い髪を求めた子ども時代の自分。あの子はたしかに過去、存在していたのだから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました🍀
