ブッシュドノエル【クリスマス百景】

(本文973文字 字下げ空白除く)
小学生高学年の頃。
クラスのN子ちゃんに「クリスマスのケーキを作ったからこない?」と誘われた。その子を特に意識してなかったけれど、少しどぎまぎした。
「え、まだクリスマスちゃうやん」
「いや、クリスマスにもケーキをお母さんと作るんやけど、練習で作ってん。だから食べてくれへんかなと思って」
「行くわ」
ケーキをただで食べれるのだ。行くに決まってる。しかもわざわざ私を指名して。これは小学生でも舞い上がる。
「お母ちゃん、N子ちゃんがケーキ食べにおいでと言ってるから行ってもええ?」
「ええなあ。行っといで」
「行ってくるわ」
「あっ、ちょっと待ち」母は台所でごそごそしだした。
「これ持っていき」母が紙袋を手渡す。
「なに?」
「ケーキ食べさせてもらうんやろ?お礼せな。N子ちゃんに渡して」
「わかった」
私は母にも感謝した。私が恥をかかないようにしてくれたのだと。
N子ちゃんの家につく「ごめんください」「はーい」N子の軽やかな声が響く。大きなお家。うちとは違う。
「ああ、T君、いらっしゃい。あがって」
「うん。あ、これ、お母ちゃんが持っていきなさいって、N子ちゃんに渡しって」
「ええ? お土産? ありがとう。お母さん! T君からもらった」
「あーごめんね。お母さんに電話しとくね。ありがとう。どうぞあがって」
私はドキドキして靴を脱ごうとすると玄関には多数の靴。えっ……。
案の定、応接間にはクラスの子、男女5人くらいがすでに人生ゲームに興じていた。そうだ。人生は甘くない。幻想は一瞬にして崩壊するものだと知った。
N子ちゃんのお母さんがケーキとジュースを持ってくる。
「えーっ?これN子ちゃんが作ったの?」「すごーい」「普通のケーキと違うんや」それぞれの歓声が部屋いっぱいに響く。
「これな、ブッシュドノエルっていうクリスマスのケーキやねん。うまくできたかわからへんけど」
「いただきまーす」
「おいしい」「不二家のロールケーキみたいやな」「木みたい」
「外国ではこれがクリスマスのケーキやねんて」
N子ちゃんのケーキは絶賛され試食会は終わった。
次の日、彼女が私に話しかけてきた。
「あ、昨日はありがとう」
「うん。あ、T君のお土産もお母さん喜んでた」
「あ、そうなん」
「おいしいって、たくあん」
「えっ」
「なんか似てるよね、ブッシュドノエルとたくあんって」
N子ちゃんは優しい子だと思い、同時に母を呪った。
続く
みわからすさん、歩行者bさんの共同企画#いつきちゃんのアドベントカレンダーへの参加作品です。連作形式でお届けしています。
