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もみの木 【クリスマス百景】


ADVENT CALENDAR みわからすさん


(本文989文字 空白字下げ含まず)

 まだ小学生にもなっていない頃だったか、突然に父がもみの木の鉢植えを抱えて帰ってきた。
「縁側の横のところへ植えとけ」父は母にそう言ってもみの木の鉢を無造作に置いた。
「大家さんに聞かないと。勝手に木なんか植えたら」
「構わん。植えとけ」

「お父ちゃん、これなんの木?」
私はただただ不思議に思い父にそう聞いた。
「これか? もみの木や」
「なんか花、咲くの?」
「花? 知らん。これはクリスマスのときの木や」
「え、クリスマス、うちでするん?」
「これが大きくなったらな。飾り付けして。幼稚園でやってないか?」
「絵はかいたよ。サンタとか。壁に先生が木の絵をかいて、それに折り紙で飾った。星とか作って」

「そうか、来年くらいはうちでほんまのクリスマスできるで」
「ほんま? うちでするん?」
「ああ、ほんまや」父は私の頭を撫でた。こんなに優しい父は初めてだ。嬉しくて母を見るとぼんやりともみの木を見ていた。私と父のことは一切見なかった。

 しかしその年はもちろん、次の年も私の家にクリスマスが来る気配がない。
「なあ、クリスマスは」
「え、お父ちゃんに訊いて。お母ちゃんはわからん」

 その日父が顔を真っ赤にして帰ってきた。サンタの服くらい赤かった。
「お父ちゃんお帰り、なあクリスマスはくるんやろ」
「え、なに?」
「クリスマス。来るゆうたやろ」
「え? あ、ああクリスマスなあ…… あの木、大きいか」
「うん、大きなったで」
「ほんまか。しばらく見てないからなあ、サンタが気づいてくれたかどうか」
「ええーっ」
「大丈夫や。来る、来る。寝てまっとけ」
私はその言葉を信じ薄い布団にくるまり眠った。

 次の朝、目覚めてすぐにもみの木を見に行った。
しかし縁側の横に、もみの木がない。

「お母ちゃん、クリスマスの木がない」
「お父ちゃんに訊き」

「お父ちゃん、木がない」
「え、ああ、あれな、昨日の晩、サンタが来てな。ちょっと貸して言うて持っていったわ」
「ええ、サンタ来たん?」
「ああ、なんかな、もみの木が足らん言うてな、ちょっと貸しといて言うてな」
「うちのクリスマスは?」
「そやな、また今度かな」
 泣きそうになって頬を膨らませる私に父はフーセンガムを二つくれた。
安物のフーセンガムは私の頬ほども膨らまなかった。

 ずっと後に聞いた話だと、頃合いに大きくなったもみの木は結構な値段で売れたらしい。

 そういえばその夜、ショートケーキを食べたような気がする。


 続く


みわからすさん、歩行者bさんの共同企画#いつきちゃんのアドベントカレンダーへの参加作品です。連作形式でお届けします。






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