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dorobe56
りんご右折 #毎週ショートショートnote
「わしが母さんと初めて会ったのがな」
父がコップ半分の酒でいつもの昔話が始まる。俺と弟はまたぞろ頷く。
「戦後食えない子供がそこら中にいてな、あいつは腹が減って泣く気力もなかった。それでわしは林檎を闇市の店先から盗んで食わせた」
「仕方ないけど悪いことは悪いよな」弟が言う。
「そう。でもそれでわしらは生き延び所帯をもち、お前らを生んで育てた。わしも母さんも長生きできて……」
父はいつもここで泣く。いつも俺はそれを待って「親父、もう寝るか?」と訊く。
「戦争はいかん」と父は言いながら立ち上がろうと。俺は父を支える。
「部屋はどっちだ?」
俺は父の言葉に耳を疑った。
「リンゴ右へ!」
突然の命令口調が響く。
「はい!」父は背筋を半分のばし廊下を右に部屋へひとりで戻った。
「か、母さん?何?今の」
「最近あんななのよ。でね、昔取った杵柄ってやつね。喝いれるの。盗ったら右折で路地へ逃げろって」
「仕切ってたの?」
母は林檎を旨そうに口へ運んだ。
完410文字
りんごの唄 並木路子、霧島 昇 (コロンビアレコード)
私も夢にまで出てくるほど好きな椎名林檎ちゃんは皆さんが沢山使うのであえて封印しました。ここは本当に婆ちゃんが好きだったりんごの唄を採用し、皆さんが行かなそうな方向でのお話ということで。
でも、この手の話はよく親や爺ちゃん婆ちゃんから聞かされてましたよ。
そういうことって大切なんですよね。
たらはかにさんの毎週ショートショートの企画、今週のお題「りんご右折」に参加させて頂きました。最近、年寄りを武器にして投稿すること多い。いかんいかん、原点に戻ろう。
「はーい、ねーちゃん、茶、しばきに行こうぜ(お茶飲みに行こうぜ)」
あかん、これがオジンの証拠やな……
