【新】大江戸魔法戦線 第一幕【作り直し】
『僕らの大江戸魔法戦線』あらすじ
【キャッチコピー】
魔法至上主義のネオ東京に、江戸の浮遊都市が襲来する。
無能力者の少年と新選組の少女が強大な国家権力に立ち向かい、「無血開城」を目指すサイバーパンク×幕末SFファンタジー。
【あらすじ本編(第二幕まで)】
■ 世界観と出会い
2050年のネオ東京は、魔法によって全てが決まる絶対的な格差社会である。
魔法の才能を持たない「無能力者」の少年・桂田亮吾は、薄暗いスラム街で虐げられながら生きていた。
そんな彼の頭上に突如、「江戸」の街並みを持つ謎の巨大浮遊都市が出現する。
一方、亮吾は亡き親友の魂を宿した反魔導AI「ジェット」を開発したことで国家転覆未遂の罪に問われ、魔法警察に襲撃される。
その絶体絶命の危機を救ったのは、空から降ってきた新選組壱番隊隊長の一番弟子・沖田桜花だった。
桜花は亮吾を護衛し、彼の持つ反魔導の力を利用してネオ東京の「無血開城」を成し遂げようと持ちかける。
■ 大江戸への到達と覚醒
浮遊都市「大江戸」へ招かれた亮吾は、規格外の魔力を持つ覇王・徳川慶喜に謁見する。
亮吾は「平和な世界を作り、親友ジェットを人間に戻す」という己の目的のために戦うことを誓い、慶喜にその覚悟を認められる。
また、反魔導システムを自作した亮吾には、魔法の構成を逆算する高度な魔法理論が既に備わっていることが判明する。
陰陽局の過酷な特訓を受けた結果、亮吾は相手の魔法を無に還す「反転魔導」の力を開花させる。
慶喜の命によりネオ東京へ降下した亮吾・桜花・ジェットの三人は、絶大な力で魔法警察の制圧部隊を鮮やかに打ち破る。
■ 新たなる脅威(次なる展開へ)
勝利の直後、魔銃を操る坂本龍馬が強襲を仕掛けてくる。
驚くべきことに、龍馬の背後には洗脳されたかのように虚空を見つめる新選組の土方歳三と、桜花の師匠である沖田総司が控えていた。
幕府もネオ東京も全てを破壊するという龍馬の「革命」宣言を前に、亮吾と桜花は時代を超えた過酷な戦いへと巻き込まれていく。
第一話
この世界には、神がいると信じられているが、実際はそうではない。
ーー殴られた。蹴られた。痛い。能力がないというだけで。
現在時刻、23時45分。
雨が冷たく降りしきるネオ東京・第七スラム街。
廃棄されたネオンサインが「ラーメン」という文字の「ー」だけを不気味に点滅させている薄暗い路地裏で、僕は絶体絶命の危機に陥っていた。
「大人しくしろ、ネズミめ。これ以上の抵抗は無意味だぞ」
僕を見下ろしているのは、仕立ての良い漆黒の制服に身を包んだ二人組の男。
胸元には、ネオ東京の治安維持を担う絶対的な組織――泣く子も黙る『魔法警察』のエンブレムが鈍く光っている。
僕、桂田亮吾は、冷たいアスファルトの上に尻餅をつきながら、背後に隠した小さな球体のロボットを必死に庇っていた。
「や、やめろ……! こいつは何も悪いことはしてない!」
「悪いことをしたかどうかを決めるのは我々だ。いや、魔法至上主義であるこの国家そのものだ」
顎鬚を生やした大柄な警察官が、右手に青白い炎を揺らめかせながら冷酷に笑った。雨粒が炎に触れた瞬間、ジュッと音を立てて蒸発していく。
「桂田亮吾。お前には『反魔導AI』の作成による国家転覆未遂罪がかかっている。魔法を否定し、魔力を無効化する忌まわしきシステムを独断で開発した大罪……その命をもって償ってもらおう」
僕の背後で、ソフトボール大の丸いAIロボットが震えるように駆動音を鳴らした。
僕がガラクタの山から部品を拾い集め、何年もかけてかつて死んだ旧友の魂を組成して、組み上げた小さな相棒、通称『ジェット』。
魔法の使えない落ちこぼれの僕にとって、唯一の家族であり、親友だ。
魔法使いが絶対的な権力を持つこの世界で、魔法に頼らずに生きる道を探したかった。だから、魔法そのものを無効化し、反発するエネルギーを生み出す「反魔導」のアルゴリズムを開発した。
ただ僕は、僕たちのような無能力者が肩身の狭い思いをせずに生きられるデバイスを作りたかっただけなのに。それが「国家転覆」のレッテルを貼られ、処刑対象になるなんて理不尽にも程がある。
「さぁ、そのポンコツAIごと、灰にしてやろう。順魔導システム、起動」
もう一人の細身の警察官が、左腕に装着したデバイスを操作する。
瞬間、二人の周囲の空間がぐにゃりと歪み、空中に幾何学模様の魔法陣がホログラムのように展開された。圧倒的な魔力の渦が巻き起こり、周囲の空気がビリビリと静電気を帯びる。
これが「順魔導AI」。魔法使いの持つ魔力をシステムで最適化し、何倍にも増幅させる恐るべき兵器。
こんなものを至近距離で食らえば、骨すら残らない。
死ぬ。間違いなく殺される。
僕はギュッと目を瞑り、ジェットを抱きしめた。
「……ごめんな、ジェット。僕のせいで」
「亮吾、心拍数が上昇している。危険、危険」
ジェットの機械的な、けれどどこか心配そうな声が響く。
あぁ、僕の人生、たったの16年で終わりか。せめて最後に、僕の好物の甘いいちごパフェくらい食べたかったな。
――だが、その絶望を切り裂くように、一陣の突風が路地裏を吹き抜けた。
「そこまでだよ」
凛とした、それでいてどこか鈴を転がすような透き通った少女の声。
恐る恐る目を開けると、僕と魔法警察の間、激しく降り注ぐ雨を切り裂くように、一人の少女が立っていた。
「な、何者だ!?」
魔法警察の男たちが驚愕の声を上げる。それも無理はない。
少女の姿は、このサイバーパンクなネオ東京において、あまりにも異質だったのだ。
黒を基調とした動きやすい戦闘服の上から、浅葱色に白い山形模様――いわゆる「だんだら模様」の羽織を、現代風にアレンジして着こなしている。
そして彼女の細い腰には、時代錯誤も甚だしい、鈍い光を放つ一本の「日本刀」が佩かれていた。
黒髪のポニーテールが夜風に揺れる。振り返った彼女の横顔は、ハッとするほど綺麗だった。
年齢は僕と同じくらいだろうか。透き通るような白い肌に、桜色の唇。切れ長の瞳は、強い意志の光を宿して魔法警察を真っ直ぐに睨みつけている。
「魔法警察の皆さん。その少年は、私たちが保護するよ。怪我をしたくなければ、今すぐ手を引いてくれないかな」
「はっ、頭のイカれた女が! 我々に逆らう気か! まとめてやっちまえ!」
大柄な男が激昂し、増幅された青白い炎の塊を少女に向けて放つ。
直撃すれば、人間なんて一瞬で炭化してしまうほどの桁違いの熱量。
「危ないっ!!」
僕が思わず叫んだ瞬間、少女は静かに腰の刀の柄に手をかけた。
――シュンッ!
目にも止まらぬ速さの抜刀。
少女の刃が炎を切り裂いた……いや、違う。刀身にまとった不可視の「気」の奔流が、魔法の炎そのものを真っ二つに両断し、背後の廃ビルへと逸らしたのだ。
ドガァァァァン!! という轟音が響き、廃ビルのコンクリートの壁が粉々に吹き飛ぶ。
「なっ……魔法を、斬っただと!?」
「驚くことじゃない。ただの剣術だよ。それに、あなたたちの魔法は隙が多すぎる」
少女はふわりと微笑むと、水たまりを蹴り、一瞬で大柄な男の懐に潜り込んだ。
まるで瞬間移動かと思うほどの踏み込み。
「速――」
男が反応して防御魔法を展開するより早く、少女は刀をくるりと返し、その『峰』を男の鳩尾に深々と叩き込んだ。
「がはっ……!」
巨体がくの字に折れ曲がり、数メートル後方へと凄まじい勢いで吹き飛ばされる。男はゴミ山に激突し、白目を剥いて気絶した。
みねうちだ。あんな細腕のどこにそんな力が……?
いや、力じゃない。無駄のない体重移動と、洗練され尽くした技術の結晶。
「さて、そこの君も、大人しくお縄についてくれるかな?」
少女は残る細身の男に向けて、スッと刀の切っ先を向けた。
「ふ、ふざけるな……! たかが鉄の棒を振り回すだけの野蛮人が!!」
細身の男の顔が、恐怖と怒りで醜く歪む。
「順魔導AI、オーバードライブ! リミッター解除、出力120%!!」
男の腕のデバイスが不気味な赤い光を放ち、けたたましいアラート音が鳴り響く。
男の周囲に、先ほどとは比べ物にならないほどの暴力的な魔力が集束していく。空気そのものがビリビリと震え、路地裏の雨粒が空中で一瞬にして蒸発していく。
「死ねぇぇぇっ!! 『絶叫する雷帝(トール・ハンマー)』!!」
放たれたのは、無数の雷の槍。
路地裏の狭い空間を完全に埋め尽くすほどの、逃げ場のない飽和攻撃。
「っ……!」
少女の顔色が変わる。彼女の剣術がどれほど神懸かっていても、この数の広範囲魔法を全て斬り落とすことは物理的に不可能だ。
彼女は刀を構え直し、凄まじい速度で迫り来る雷の槍を弾き落としていく。
カキンッ! ガキンッ! と火花が散るが、徐々に防御が追いつかなくなっていく。
「くっ……!」
雷の余波をまともに受け、少女の足が止まる。だんだら模様の羽織の一部が焦げ、彼女の白い頬に一筋の傷が入り、赤い血が滲んだ。
その隙を、魔法警察が見逃すはずがなかった。
「終わりだ、小娘!! 消し飛べ!!」
男の両手に、極大の雷球が形成される。周囲の空間がプラズマで青白く染まる。
あれを食らえば、いくら彼女でもタダでは済まない。
ダメだ。このままじゃ、僕を庇って見ず知らずの彼女が殺される。
魔法なんて使えない。何の力もない落ちこぼれの僕。
でも――。
『僕なんかを守ってくれた君を守るまで、僕は……こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!』
「ジェット!!」
僕は立ち上がり、泥だらけの手で相棒の名を叫んだ。
「イエス、リョウゴ! スタンバイOK!」
「あの子を、救けて!!」
「かしこまり!」
僕はアスファルトを力強く蹴り、無謀にも魔法警察の男に向かって一直線に駆け出した。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
「なっ、なんだこのドブカスは!? 死にたいのか!」
僕の唐突な突撃に、男の意識が、ほんの一瞬だけ僕に向いた。
展開されていた極大魔法の照準がブレる。
陽動。
僕にできるのは、ただの的になることだけだ。だけど、それで十分!
「今だ、ジェット!!」
僕の背後から、球体AIのジェットが弾丸のように射出された。
狙うのは、順魔導AIをオーバードライブさせている細身の男……ではない。
先ほど少女にみねうちを食らい、フラフラと意識を取り戻して背後から立ち上がりかけていた『大柄な男』の方だ。
「な――」
大柄な男が気付いた時には、ジェットは既に男の顔面の目の前に迫っていた。
ジェットの小さなアームがシャキッと展開し、そこに淡い緑色の光が収束する。
魔法の力を相殺し、物理的な衝撃へと変換するアンチ・マジック・エネルギー。
「食らえ、反魔導の力をッ!!」
――ゴシャァァァァッ!!
可愛い見た目からは想像もつかないようなえげつない打撃音が響き、反魔導エネルギーを限界まで込めたジェットの右ストレートが、大柄な男の顎を完璧に打ち抜いた。
「あべっ!?」
男の巨体が宙に浮き、今度こそ完全に意識を失って白目を剥きながら地面に崩れ落ちた。
「なっ……馬鹿な!? 我々魔法警察が、あんなおもちゃみたいなガラクタAIに……!?」
細身の男が驚愕に目を見開き、悲鳴のような声を上げる。
順魔導AIによる極大魔法を維持していた集中が、完全に途切れた。
その、ほんのコンマ一秒の隙を。
あの少女が、見逃すわけがない。
「――取った」
雷球の光の中をすり抜けるように、少女が深く踏み込む。
その動きは、まるで夜の闇に舞い散る桜の花びらのように美しく、そして致命的だった。
水たまりを踏む音さえ置き去りにした神速の縮地。
「ひっ――」
男が恐怖で後退ろうとした時には、すでに少女は男の懐に潜り込んでいた。
銀閃が走る。
鈍い音がして、少女の刀の峰が、男の首筋を的確に打ち据えた。
「あ……が……」
細身の男は、糸の切れた傀儡のように崩れ落ちる。
腕のデバイスがショートし、バチバチと火花を散らして沈黙した。
ついに路地裏には、雨音だけの静寂が戻った。
雨音が静かに響く中、少女はゆっくりと刀を鞘に納めた。
チャキ、という心地よい金属音が夜の空気に溶けていく。
『フフ……フフフ…ちょ、ちょっと危なかったかな。それにしても、さっきの子が反魔導使いか。どうやって仲良くなろうかなあ。えへへ』
彼女は何か小声でぼやぼや呟き、小さく息を吐くと、くるりとこちらを振り返り、タタタッと軽い足取りで歩み寄ってきた。
そして――。
「えっ……」
僕の顔を下から覗き込むように、彼女がグッと顔を近づけてきた。
ほんの数十センチの距離。濡れた黒髪から、ふわりと桜のような甘い香りが鼻腔をくすぐる。
だが、僕の体は鉛のように重く、ガタガタと無様に震え続けていた。すぐ横の廃ビルは魔法で吹き飛び、ほんの数秒前まで、僕は間違いなく理不尽に殺される寸前だったのだ。焦げたコンクリートの匂いと、冷たい雨の感覚だけが、嫌にリアルに肌にへばりついている。
「あ、ありがとう。あのままじゃ私、黒焦げになってたかも。救けられたよ。 あっはっはっ!!」
彼女はニコッと無邪気に笑った。
先ほどまでの、魔法を両断する凄まじい剣士の顔とは全く違う。年相応の、普通の女の子の無防備な笑顔。
その表情を見た瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れ、全身から一気に力が抜けた。あぁ、本当に助かったんだ。
そう自覚した途端、目の前にいる美少女の顔があまりにも近いことに急に気恥ずかしくなり、僕は慌てて水たまりの中に尻餅をつき直した。
「き、君、名前は?」
「桂田、亮吾……君は?」
「そっかあ。えへへ、わ、私はぁ」
彼女は少し震えながらコクリと頷くと、何を思ったのか、突然ビシッと僕に向けてピースサインを突き出してきた。
「イ、イエーイ! 私は、新選組壱番隊隊長の一番弟子、沖田桜花 えっへん!」
「……え、えっへん?」
時代錯誤な日本刀の剣士から放たれた、少し腑抜けた言葉。
あまりの噛み合わなさに、僕は隣のジェットが出した『?』マークのホログラムと共に、首を傾げる。
すると、目に見えて彼女は焦り出した。
「あ、あれっ!? おかしいな、師匠が初対面の人にはこう言えば一発で打ち解けるって……(ボソッ)」
「え? なんか言った?」
「と、ともかく、だ! わ、私はぁ、君を護衛しろとの幕府の命を受けて来たということだ! よ、よろしくね、亮吾!」
……新選組? 幕府?
上空に浮かぶ浮遊都市「京都」や「江戸」から来たっていうのか?
歴史の授業でしか聞いたことのない単語のオンパレードに、僕の思考回路は完全にショートしかかっていた。
「ご、護衛? 何のために?」
僕が混乱しながら尋ねると、桜花は僕の足元に戻ってきて誇らしげに「エッヘン」と電子音を鳴らしているジェットを指差した。
「き、君の反魔導AI。その子を起動させれば、魔法使い達を殺さずに、無力化して制圧できる。合ってる?」
また最後のひとり言が、聞き取れない。
「? う……うん。多分? ジェットは相手の魔力を無効化してスタンさせる機能に特化してるから。でも、まだ試作段階だし……」
「う、うん! なら、完璧だね!」
桜花は僕の手を取り、グッと強く握りしめた。
その瞳には、冗談や嘘の気配は微塵もない。燃えるような真っ直ぐな光が宿っていた。
「なら、この力を使えば、ネオ東京を……無血開城できるよ!!」
「……ん? んんっ!?」
無血開城!?
またしても、歴史の教科書でしかお目にかかれないパワーワードが、2050年のサイバーパンク都市で飛び出した。
魔法至上主義のこの巨大国家を、誰も殺さずにひっくり返そうっていうのか?
この、魔法が一切使えない落ちこぼれの僕と、ポンコツ寸前のAIと、刀を振り回す新選組の女の子だけで?
「さぁ、行こう亮吾! 私たちの戦いはこれからだよ!」
彼女の笑顔は、この腐りきったネオ東京の暗闇を照らすように眩しかった。
反魔導AIの制作者と、幕府御用達の剣士の少女。
全てが「魔法」によって決まる絶対的な格差社会として名高い、2050年ネオ東京。
――その上空に浮かぶ浮遊都市・大江戸。
常識が完全に崩壊したこの空の下で、奇妙で、そして天地を揺るがす夢物語が、今、始まろうとしていた。
