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温泉場の人のぬくもり

 私は某県、某田舎の温泉地に住んでいます。一番近いコンビニは歩いて15分かかります。秘境ではないです。そんな生活の楽しみはやはり温泉です。居住地区ごとに温泉場があり、月数千円を払えば24時間入浴可能です。

 みんな顔馴染みなので入る時は「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」と言い、出る時は「お先に失礼します。ごゆっくり」、「おやすみなさい」と言ったりします。

 そんな和やかな雰囲気の中、ただ1人、私が挨拶をしてもこっちをチラッと見て、無視するおじいさんがいました。「私が嫌いなのか…よそ者だから嫌いなのか…」少し被害妄想気味になり悩みもしました。でも礼儀なので挨拶は続けました。

 ずっと挨拶を無視されて6年の月日が経ちました。

 私は膝の裏を怪我してしまって松葉杖の生活をしていました。家でゆっくり回復を待てばよかったのですが、温泉の効力を確かめたいという欲望が沸々と湧き上がり、片道10分の温泉への道をゆっくり松葉杖を使って歩きはじめました。

 歩いていると、静かな田舎には似つかわしくないスピードの軽トラックが私の前で急に止まりました。

 運転していたのは僕の挨拶を無視していたおじいさんでした。おじいさんは

 「どうしたん?」

 理由を説明する私。

 「そうか…。大事にな。」

 と言った後、走り去りました。これが初めての会話でした。私は足の痛みを忘れしばらく呆然としていました。

 私の頭の中にあったそのおじいさんに対する暗い黒雲のようなイメージが晴れ渡る空のように消えていきました。

 温泉の効力より、そのおじいさんの奥に優しさを秘めたぶっきらぼうな言葉の方が私の足を暖かくしてくれました。

 あまり、頭の中でガチガチに人のイメージを作らない方がいい…もっと柔らかく生きたいなと思った出来事でした。


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