関西人がツッコむ中世ヨーロッパ文学の世界~ 第7回『マリー・ド・フランスの「十二の恋の物語」より ランヴァル』~
1.今回は二本立ての番外編の予定・・・だったのですが
しょうこりもなく、まだまだ続きます、このシリーズ。
今回は、前回のヨネックの記事で予告させて頂きました通り、番外編ということで、引き続きマリー・ド・フランスの二作品をダイジェストでご紹介・・・する予定だったのですが。
またまた、嘘ばっかりで本当にすみません。やはり二作品をいっぺんにご紹介すると、とんでもないボリュームになり、読者様も読むのが大変かと思いますので、一作品ずつにしたいと思います。
というか、私がストーリーを端折ってぎゅっとコンパクトにするということが、非常に苦手でして・・・。
あれもこれも、面白く語ろうとするとエピソードを詰め込みすぎてしまう、筆者の悪い癖です、反省しております。(ションボリ)
さて、二回にわたってご紹介する二作品の共通点。
それは、唖然とするほど男ばかりイイ思いをしている、男の願望みんな叶えちゃいます、な内容だということ。
作品が成立した時代背景を考えれば、多少は男尊女卑なのは理解できるとはいえ、ちょっとこれは夢見すぎやぞ、男ども、みたいな。
題しまして、「そんなに男に都合が良くてええんか~い!ビシバシツッコませて頂きますスペシャル」!僭越ながら筆者が世の女性代表として、いつも以上に、容赦なくツッコんでいきたいと思います。
2.据え膳食わぬは騎士の恥~ラブ・ストーリーは唐突に~
今回ご紹介するのは「ランヴァル」という作品。
主人公は、タイトルにもなっているランヴァルという名前の騎士です。
何と、彼はあの有名なアーサー王に仕える騎士の一人。
もともと、異国の高貴な王族の生まれなのですが、次男以下だったので、生家の家督は継げず、イングランドにやって来てアーサー王に仕えるようになりました。
イケメンだし、勇敢だし、人柄も悪くはない。
しかし、別に本人にとりたてて落ち度はないのに、妙に他人から妬まれたり、疎まれたりしてしまう、損な役回りの人というのがいるもので、ランヴァルはまさに、そういうタイプなのでした。
そのため、持っていた財産を使い果たしお金がなくなって困っているのに、主君のアーサー王は何にも下賜してくれない。王族生まれのプライドがあるので、自分からお助け下さいとも言えない。友達もいないぼっちだから誰かに援助もしてもらえないし、とにかく宮廷でも居心地が悪くて仕方ありませんでした。
ある日、鬱々した気分を晴らすため、一人で馬を駆り町の外へと抜け出したランヴァル。
やがて広大な草原にたどり着くと、マントを敷いて寝っ転がり、何で俺はこんなに運が悪いんだろうなあ・・・と、一昔前の少年マンガの主人公みたいに、空を眺めながら悶々と物思いに耽ります。

すると突然、彼の傍に見知らぬ二人の美少女が近づいてきて、
ランヴァル様、わたくしたちのお仕えする気高く賢く、美しい姫様のご命令により、あなたをお迎えに参りました。姫様のいらっしゃる天幕はすぐ近くです。どうぞ、ご一緒においで下さい、と告げるので、愛馬も放置したまま、ほいほいと二つ返事で美少女たちについていくと、ローマ皇帝ネロの黄金宮殿か、ヴェルサイユ宮殿の黄金の間をコンパクトにしたような、超ゴージャスな天幕に案内され、その中で、これまたゴージャスな寝台に臥して彼を待っていたのは、優美な体の線がくっきり見えちゃう、スッケスケの薄物一枚のみを身にまとい、首から胸元、腰のあたりは露わにむき出しという、何だか峰不二子みたいな、超美人のセクシーダイナマイトプリンセス!
(気高く賢い姫様っつーか、これだとむしろ高級娼婦っぽいイメージなんですが・・・貴婦人は、わざわざ寝台に臥して男を呼び寄せんでしょ)
ランヴァルがやって来ると、不二子ちゃん(もう、フランス人っぽい他の名前をつける気がしなくなってしまった筆者)はランヴァル様、ようこそおいで下さいましたわ。どうぞ、こちらにいらして♡と寝台の脇に座らせ、初対面のはずなのに、ランヴァル様、わたくしもう、貴方に首ったけですの♡
貴方にお会いしたいがために、故郷を離れ、遠くから旅をしてこちらに参りましたのよ♡と唐突に熱烈告白。
貴方が騎士らしく、勇敢で雅な振る舞いをして下さるなら、いかなる王侯貴族も、皇帝でさえ知らぬ富と歓びが貴方のものになりますわ。だって、このわたくしが誰よりも貴方に恋しているんですもの、うふふ♡
とまあ、胡散臭いぐらいおいしすぎる話をするのですが、単細胞なランヴァルはもう一目でころりと、不二子ちゃんの美貌とお色気に悩殺され、すっかりメロメロ。貴女のためなら、世界も敵に回します、とテニプリか、一昔前の缶コーヒーのCMみたいなこっ恥ずかしいセリフを吐き、不二子ちゃんを喜ばせます。
すると不二子ちゃんはランヴァルに、今後はいくらでもお好きなだけ、使っても使いきれないぐらいの財産をわたくしが用意して差し上げますわ、と
約束し、さらには、わたくしも全部、貴方のものになってあ・げ・る♡と、前回ご紹介した「ヨネック」の謎の騎士とアンヌに匹敵するマッハ級のフルスピードで、オトナな関係に突入。(・・・もう、こういうのには慣れました・・・あえてツッコむ気力なしです)
ただし、くれぐれもわたくしたちの関係については秘密になさって。さもなくば、貴方は永遠にわたくしを失って、もうわたくしの体も抱けなくなりますわよ(これ、筆者がわざとエロい表現してるんじゃないんですよ。原作にこう書いてあるんスよ、本当に)と意味深に警告しますが、欲に目が眩みまくっているランヴァルは、はいはい、OK、OKです。もう何でも、不二子ちゃんのご命令通りにしちゃいま~す、と秒で了承し、即同衾。
日が暮れるまで、思うさまイチャコラしまくり、今後、わたくしに会いたければこっそり逢引きできるような場所を貴方が考えて下されば、わたくしは貴方のお望みを叶えるため、密かにそこに出向きますわ、と再会を約束してくれた不二子ちゃんに、ランヴァルはまたもや有頂天。
しかし、別に亀を助けたわけでもないのに、竜宮城もかくやと思わせるランヴァルへの至れり尽くせりのおもてなしはまだまだ続き、寝台から起き上がると、あの、彼を天幕に案内してくれた美少女たちがしずしずと再びやって来て、立派な衣装を着せてくれたうえ、手まで洗ってくれ、どうぞ、姫様とご一緒にお召し上がり下さいませ、と饗される豪華ディナーはまさに酒池肉林。ずっと貧乏していたランヴァルはありがたくゴチになり、食事の合間にはディナーだけじゃなくて、不二子ちゃんも食べちゃうぞ、とばかりに(・・・何でこいつが周りに疎まれるか、よく分かりました)不二子ちゃんにキスしたり、抱き締めたりして、またイチャイチャとお愉しみ。
もはや、深夜の風俗店のごとき、びん乱状態であります。(ええい、食事するのか!助平なのか!どっちかにせんかいっ!)

さすがに、こんな桃源郷に迷い込んだかのような非日常体験をしてしまうと、全部、夢だったんじゃないか?と大きな不安にとりつかれながら帰途についたランヴァルですが、質素だったはずの自分の館に帰り着いてみると、何と召使いたちはみんな見違えるように立派な身なりに変わっており、不二子ちゃんが約束してくれた通り、望めば好きなだけお金がざっくざく。
ランヴァルは晴れて、他の裕福な騎士や貴族のようにパーティーピーポーの仲間入りをし、たびたび豪勢な宴を催し、集まった人々全員に贅沢なプレゼントをばら撒き、宴を盛り上げてくれた吟遊詩人には、もっと上等の服を買えよと小遣いを渡し、捕虜になった仲間の身代金も払ってやり、もう毎日、IT企業の若社長みたいに、大盤振る舞いの札束乱舞。(中世に紙幣はありませんよ、念のため)
愛しの不二子ちゃんとも、昼夜問わずの逢引きで、あんなに自分の不運を嘆いていたのが嘘のように、この世の春を謳歌。
まさに、望月の欠けたることもなしと思へば。ほぼ、フランスの藤原道長になっちゃったようなものです。
3.ガーデンパーティーのいけない誘惑~ランヴァル、BL疑惑浮上~
聖ヨハネの祝日も過ぎた頃(つまり、6月下旬頃)の、ある日のこと。
王宮の庭園へ、アーサー王配下の騎士たちが三十人ほど連れ立って、気晴らしに行くことになりました。まあ、ガーデンパーティーというか、雅なお庭遊びみたいなものでせう。
この催しにはアーサー王の甥で、円卓の騎士の一人として有名なガウェインも参加することになっていました。(フランス語表記ではゴーヴァンなのですが、ガウェインの方が日本ではまだ、なじみがあるかと思うので、この記事ではあえてガウェイン表記とします)
ランヴァルとは対照的に、陽キャでみんなの人気者のガウェインは、
なあなあ、最近、ランヴァル君はずいぶん気前が良くなって、色んな人におごったりプレゼントしたりしているようだし、今日のパーティーに誘ってあげなかったのって、ちょっと大人げなかったんじゃない?ランヴァル君は、れっきとした王族の生まれで、僕らの仲間じゃん?
と、クラスの熱血委員長のようなことを言い始め、一緒にいた騎士たちも、だよなー、とガウェインに同意。わざわざ来た道を引き返してまで、ランヴァルの館に立ち寄り、ランヴァル君、仲間外れにしてごめんよ、と謝って、ガーデンパーティーに連れて行きます。(何か昭和の教育ドラマに出てくる小学生みたいなやり取りやなあ・・・)

しかし陰キャのランヴァルは、パーティーはもう自分でも開きまくっているし、わざわざこのうえ、誘われてまで行きたくはなかった様子。
他の騎士たちは、王妃に仕えるとびきり美人の侍女たちがタイミングよく、連れ立って庭園に姿を現したので大喜びし、すすんで紳士的にエスコートしつつ雅な宮廷人の会話を楽しんでいるというのに、ランヴァルは一人、
はん、別に王妃様の侍女とか興味ねーわ、とでもいうふうに冷めきった目をして、その場を離れます。実際、ランヴァルは
他人が楽しんでんのなんか見たって、こっちは何にも嬉しくないんですけど?俺だって、今すぐ不二子ちゃんとイチャイチャしたい!うおお~!あのナイスバディーに、めっちゃ触りたくて辛抱たまらんのじゃ~!
と、要するにものすごくイライラ、ムラムラしていたのでした。(ガウェイン、こんな性格悪い助平野郎、わざわざ誘うことなかったよ)
すると、そんな一人妄想全開中のランヴァルにそっと近寄る人影。アーサー王の王妃ギネヴィアです。
円卓の騎士ランスロットとの許されざる愛に生きた、一途な情熱の王妃、というイメージが強い彼女ですが、ブロードウェイミュージカル「キャメロット」に登場する彼女は、5月は淫らなことがしたくなる季節~♪いけないことしちゃって、みんなで罪を犯しましょ~♪などと、かなり奔放でぶっ飛んだ歌を歌っているので、意外にそういう女性なのかもしれません。
しなを作ってランヴァルの傍らに座ると、
ランヴァル殿、実はわたくし・・・前々から貴方のことを愛しく思っておりましたの。さあ、わたくしの愛を差し上げますわ。貴方、きっと満足なさってよ♡貴方のお気持ち、聞かせて下さらない?
と言い寄りますが、猛烈にイライラ、ムラムラしているランヴァルは、とにかく不機嫌。
え?何ですか?そういうの間に合ってますんで、ちょっと今、構わないでもらえます?自分、アーサー王の騎士なんスよ?貴女の愛とか恋とか、めっそうもないし、陛下の信頼裏切るとか、できるわけないっしょ?
と、愛想もへったくれもない塩対応で、まさか拒否されるとは思ってもみなかった女王様気質の王妃は大いにプライドを傷つけられます。
あ~ら、ランヴァル殿。よっく分かりましたわ。噂通り、貴方やっぱりゲイなんですのね。美少年を集めて、ハーレム作って愉しんでるんでしょう。
嗚呼、何て汚らわしい!何て恥知らずの田舎者!貴方なんかに仕えられては、陛下の方がいい迷惑でしてよ!
と、屈辱のあまり、ランヴァルにトンデモ疑惑をかける始末。(・・・王妃様、なぜそういう発想が・・・もしかして隠れBLファンですか?)
ただでさえ、イラついていたランヴァルは、いきなりバンコラン(言わずと知れた魔夜峰央先生の伝説的ギャグマンガ『パタリロ』に登場する、美少年キラーの凄腕エージェント)扱いされてブチ切れてしまい、相手が王妃だということも忘れ、
はあ?俺、そっちの趣味ないんですけど?それどころか俺は今、めっちゃイイ女と熱烈大恋愛中よ?ついでに言わせてもらうと、彼女に仕えてる侍女の方が、顔もスタイルも教育も人柄も、全部、王妃様より上で~す!
と、迷惑系ユーチューバー並みに、なめくさった挑発的なセリフを吐いてしまいます。(いや~、もうこの男、アホすぎてむしろ清々しいね)

王妃はこの、面と向かってのひどい侮辱に失神寸前。
こ、このわたくしに向かって、よくもそんな・・・あんまりですわ・・・よくってよ、覚えてらっしゃい!と、よろめきながらその場を離れると、部屋に閉じこもって泣き崩れ、夫であるアーサー王が戻ってくると、あのいやらしいランヴァルがわたくしに強引に言い寄ってきて、断ったら、自分の恋人の自慢とかして、わたくしは恋人の侍女より劣るとか、めっちゃ馬鹿にしましたのよ、ねえ、ひどいでしょ~?と、半分は真実、半分は嘘の告げ口をします。王は激怒し、不届き者のランヴァルは裁判にかけられることに。
もし法廷で身の潔白を証明できなければ、火あぶりか縛り首の刑に処されることに決定してしまったのでした。
一方、まだ自分が訴えられたことを知らなかったランヴァルは、ようやくウザ過ぎるガーデンパーティーが終わったのでさっさと館に戻り(またもや清々しいぐらい、協調性ゼロ!)ふと、己の犯したとんでもない過ちに気づきます。それは、仮にも主君の妻である王妃様に対し、ついかっとなって、無礼きわまりない物言いをしてしまった・・・ことではなく、めっちゃイイ女と大恋愛中で~す!とか、調子にのって自ら暴露してしまったこと。
しまった!不二子ちゃんとの恋は、絶対にシークレットラブにしておかないとダメだったんだっけ!不二子ちゃんと約束したのに、破っちゃったじゃん!やばっ!
と、たちまち真っ青になり、部屋に閉じこもると(どうやら「ヨネック」同様、彼も不二子ちゃんとは愛のテレパシーで通じ合えていたようです)
不二子ちゃん、聞こえる?約束破って、本当にごめん!マジ反省してるから、許して!お願いだから、返事してよ~!また会えるよね?ねえっ!?と、100回ぐらいしつこく(ほんまにしつこいな)何度も何度も何度も必死で呼びかけ、謝罪を繰り返し、頼むから、また会ってよ~と懇願し続けますが、もう不二子ちゃんは一切、応えてくれません。メールと電話は受信拒否、ラインもブロックされてしまったようなもんです。
ランヴァルは傷心のあまり、失神したり、叫んだり、ため息をついたり、頭かきむしったり、悶絶しまくって半狂乱状態。
うわあああ~、俺の馬鹿、俺の馬鹿、俺の馬鹿!不二子ちゃん、頼むから許してくれよおおお~!と、部屋の中を転げまわっていると、アーサー王の使者たちがやって来て、お前、王妃様に訴えられたで。さっさと宮廷に出向いて、陛下の御前で申し開きしろや、と、しょっ引かれてしまいます。
ランヴァルは、あのさ、もういっそのこと、ここで俺を殺してくれん?生きてても仕方ないんで、と、言いたいぐらいのどん底絶望モード。
ちょっと前までフランスの藤原道長だったのに、何という浮き沈みの激しすぎる人生でせう。
4.キャメロット法廷ファイル~美女の証言これ全て正義なり~
問答無用でしょっ引かれ、怒り心頭のアーサー王の御前に立たされたランヴァルは、
お前、家臣の分際で、どえらいとんでもないことしてくれたなあ。王妃に罵詈雑言を浴びせて、わしまで侮辱するってどういうつもりやねん?おまけに、しょーもない、自分の恋人の自慢とかしくさって、王妃は恋人の侍女以下やて?ええ加減にしろや、この不埒者が!と、王にどやしつけられます。(関西弁にしたら、アーサー王が組長化したことをお詫びいたします)
にもかかわらず、そこでとりあえず平謝りしないどころか、私は王妃様に言い寄った覚えはないんで、陛下の名誉は傷つけておりません。ですが、恋人の自慢をしたのは事実ですし、王妃様に申し上げたことも全て真実を言ったまでですので、と火に油どころかガソリンを注ぐような、空気読まなさすぎる発言をしたので、アーサー王はますます本気でブチ切れてしまいます。
ランヴァルは後日、本格的な審判にかけられることとなり、逃げずにちゃんと出頭する証に、保証人を立てて保証金も支払えと命じられますが、頼みの綱の不二子ちゃん銀行の無限ATMも差し止めになり、あわれ貧乏に逆戻りしたランヴァルにはそんな大金をすぐには用意できませんし、ぼっちなので保証人も立てられません。
すると、そんな孤立無援のランヴァルに救いの手を差し伸べたのが、頼れるみんなの人気者、熱血委員長ガウェインと、彼の仲間の陽キャな騎士たち。
彼らのモットーは「困っている仲間は放っておけないよ!」
ちょっと暑苦しいぐらい、仲間思いで親切な彼らは自分たちの領地を担保に保証金を肩代わりし、連名で保証人にもなってくれます。
そして、王の甥であるガウェインが保証したということもあり、とりあえず今日は館に帰ってよし、とランヴァルが仮釈放されると、
ランヴァル君、大丈夫かい?僕たち、心配だから館まで付きそうよ、と一緒についてきてくれ、
騎士A「恋人に会えなくなったんだって?つらいのは分かるけど、そんなに度を越して思いつめるのは良くないよ」
騎士B「そうだよ、裁判のことだって、君は王妃様に言い寄ったりしていない、不当な訴えだってのは、僕たちも分かってるよ。あの方、ちょっとわがままなところがあるから、困るよね。僕たちは最後まで仲間を見捨てないから、あまり悲観しすぎちゃダメだよ」
騎士C「ずいぶん、顔色が悪いね。ちゃんと、食事しないと病気になっちゃうよ。はっ!ランヴァル君、まさか君、自ら食を絶って命も・・・とか、馬鹿なこと考えてるんじゃないだろうね?」
ガウェイン「確かに、かなり心配だな。なあ、みんな。明日から交代で、ランヴァル君を毎日、見舞うことにしないか?ちゃんと食事を取れているか確認しないと、僕たちも安心できないだろ?何たって、仲間だからな!」
騎士ABC「ラジャー了解っス!」
という感じで(ちなみに、このあたりのセリフについては筆者の想像による演出も含まれますので、あしからず・・・)一人にしてほしい陰キャのランヴァルには恐らく、暑苦しすぎてありがた迷惑なぐらい、こぞってお節介を焼いてくれるのでした。
そして、各地から招集された判事役の諸侯も勢ぞろいして審判が開始し、審議が重ねられた結果、ランヴァルが自慢している恋人とやらにも証人として出頭を要請して、彼の無実を証言してもらうしかないんじゃないの?という結論が出されます。
しかし、お前の恋人に弁護してもらう以外に無罪放免になる方法はないと言い渡されても、それがもはや不可能なのは、ランヴァル自身が一番よく知っていることでした。

となれば、火あぶりか縛り首の刑を覚悟するしかない・・・とランヴァルがいよいよ絶望的な心境で判決を待っていたそのとき、突如として、王妃に劣らぬほど優雅で気品ある美少女たちが相次いで二人ずつ、豪華な絹の衣装をまとい、馬に乗ってアーサー王の御前に姿を現し、
わたくしたちがお仕えする姫君が、王様にお話したいことがあるとのことで、ほどなくこちらに参られます。どうぞ、十分なおもてなしをご準備し、姫君がお泊りになるに相応しい、金襴のタピスリーで飾られた最上級のお部屋もご用意して頂きたく・・・と慇懃に要請します。
その度に、二回にわたって審議は中断し、一刻も早くランヴァルに復讐したい王妃は、んもう、何をぐずぐずしてますの?あんな男、さっさと死刑になさいませ!と、ひどく腹を立てますが、さあいよいよ今度こそ、ランヴァルの判決が言い渡されようとしたそのとき、白馬にまたがり、猟犬を従え、腰のあたりが露わに見える、相変わらずのセクシースタイル(どこへ行くにもこのチラ見せファッションだけは、ゆずれないようです)に黄金色の長い髪をなびかせ、華々しくやって来たのは愛しの不二子ちゃん!
二度と見られないと思っていた、恋人の輝く美貌を目の当たりにして、ランヴァルはもう死刑になっても良いし、不二子ちゃんが許してくれなくても良い。姿を見られただけで、バキバキに折れまくってた心が、めっちゃ癒されたよ・・・と男泣きに泣いたのでした。
不二子ちゃんは王の前で颯爽と馬から下りると、その場に居合わせた諸侯や王の家臣たち全員の視線が自分に注がれているのを意識してか、いかがかしら?わたくしの美貌、もっとよくご覧なさいませ、ほほほ、とでもいうふうに、自分からマントを脱いでしまいます。
そして、不二子ちゃんの人間離れしたビューティーオーラに圧倒され、自ら立ち上がって出迎えた王や諸侯に対し、彼女は物おじせず訴えます。
陛下、わたくしは貴方の家臣ランヴァル様を愛しました。彼は今、この法廷で罪に問われておりますが、わたくしは彼を苦しめたくはありません。今やお分かりでしょうが、間違っているのは王妃様の方でございます。ランヴァル様は、王妃様に言い寄ったりなどしておりません。彼が口を滑らせてしまった自慢話も、このわたくしと、侍女たちをご覧になれば納得して頂けるかと存じます。どうか皆さま、ランヴァル様を釈放して下さいますよう。
・・・えーと、その場にいなかった不二子ちゃんがなぜ、ランヴァルが王妃に言い寄っていないと、そんなに力いっぱい断言できるのか??
現代の法廷に置き換えると、ほとんど有力な証言にはなってない気がするのですが、どうやら中世の、アーサー王の法廷では全然OK!美女の証言は無条件で正義!がセオリーのようです。(ワケワカラン・・・)
そりゃ、こんな絶世の美女が恋人なら誰でも自慢したくなるし、侍女たちも確かに王妃様と同レベルの美人揃いだから、ランヴァルは嘘ついてないよね!(いや、人柄も教育も全部ひっくるめて、王妃の方が侍女より下って言ったんですけど?この判決じゃ、王妃の立場なさすぎない?)従って嫌疑は晴れたから、これにて審議終了!自分ではみごとなぐらい何~にもしてないけど、気づいたら逆転無罪を勝ち取っていたランヴァルは、自由の身となります。
すると、不二子ちゃんはもう自分の役目は果たした、とばかりに黙って早々にその場から去ろうとします。(え?泊まるんじゃなかったの?ご要望通り、最上級のお部屋、ご用意してますけど・・・気まぐれやなあ)
再び白馬に乗り、いずこかへ旅立とうとする不二子ちゃんに、待ってよ~と慌てて追いすがり、ランヴァルも彼女の馬の背に後ろから飛び乗って、共に宮廷を去ったのでした。
その後、二人は伝説の美しい島アヴァロンへ渡ったと伝えられていますが、それから先、どうなったのかは誰も語っていないので、私にも分からない、とマリーはこの物語を締めくくっています。
男性読者の皆さま方、いかがでございましたでせう。
何~にもしなくても、ある日突然、絶世のセクシーダイナマイト美女が現れて熱烈に愛してくれて、シークレットラブのお約束さえ守っていれば、莫大な富も快楽も望みのままに与えてくれて、うっかりアホなことをやらかして危機に陥っても、ちゃんと美女が見捨てることなく窮地から救い出してくれて、最後は二人でパラダイスな島に旅立つ。
まさに据え膳上げ膳の究極形みたいな物語、存分にご堪能頂けましたら幸いでございます。
まあ、女性である筆者にもひとこと言わせて頂くと、ランヴァルは筋金入りの、どーしようもないヒモ体質ってことではないかと思いますが。
世の多くの男性方の究極の幸せ、理想の人生。
それはすなわち美女のヒモになること、という結論で・・・間違っておりませんでしょうか?
※この記事は『十二の恋の物語~マリー・ド・フランスのレー~』月村辰雄訳(岩波文庫, 1988年)を底本としています。
なお『レ~中世フランス恋愛譚~』本田忠雄、森本英夫訳(東洋文化社メルヘン文庫, 1980年)も参考にしました。
