関西人がツッコむ中世ヨーロッパ文学の世界~ 第4回『マリー・ド・フランスの「十二の恋の物語」より 二人の恋人』~
1.今回から、地味にリニューアルのお知らせ
前回に引き続き、今回もマリー・ド・フランスの「十二の恋の物語」の中から、ツッコミどころ満載の物語をご紹介したいと思います。
作者と「十二の恋の物語」という作品については、前回のミロンの記事で解説させていただいたので、割愛しますが。
実はより読者様に読みやすい記事づくりを目指して、今回から地味に記事の構成をリニューアルし、前回のミロンの記事に関してもだいぶ手を加えております。(すでにお読み下さった方も、よかったら確認してみて下さい)
加筆修正も少しだけ行いましたが、一番大きな改正点は、こまめに改行して段落を増やしたこと。そして、何と!文中に画像を!挿入したことです!(おおおお、すごい!)
・・・それのどこが改正やねんと、どうかじっとり生温かい視線を向けないでくださいませ。未だにSNSが怖い(あ、でもnoteもSNSなんですってね。それさえ最近まで知りませんでした)昭和アナログ人種には、そもそも文中に画像を自分で挿入するという発想そのものがなかったのです。
決して、自己満足に振り切って文字ギチギチの殺風景な記事ばかり作成していたわけではありません。
時おり、他の投稿者の方の記事を拝読するようになって、文中にカラフルな画像がたくさん挿入されているのに気づきはしましたが。
わあ、すごいなあ。こうゆうのは、コンピューターの知識に強い理系人やからできる技なんやろうなあ、アナログ文系の私には無理やんな、と思っておりました。
しかし、あまりにも自分の記事が活字でみっちみちなので、これはちょっと
意識して改善しなければなと。試行錯誤を繰り返しつつ、何とか地味リニューアルにこぎつけました。
どんなに私のツッコミが冴えわたって?いても、文字ギチギチの見た目だけで敬遠されるのは、悲しいです。
せっかく美味しいお料理やスイーツをたくさんご用意してあるのに、店構えがアレな感じで、お客が全然来ない残念な店にはなりたくありませんので。
今後はできるだけ、文字が詰まり過ぎないようにし、そして画像も適宜、挿入して読者様の目に優しい記事にしたいと思います。
(第1回、第2回の過去記事に関しても、ボチボチ手を加えていく予定)
いきなり生成AIとかに適応はできませんが、ゆるゆるマイペースに進化してゆければと思っておりますので・・・みなさま、どうぞよしなに。
あと、いきなりコメントでぶしつけな質問をしてしまったにもかかわらず、まさに、私が探し求めていたような著作権フリー画像がたくさん掲載されている、素敵すぎるサイトを教えてくださったmalkomeさまに、この場で改めてお礼申し上げます。おかげさまで、noteでの投稿がより楽しくなりそうです。(深謝)
malkomeさまの記事は、幅広い時代の西洋史を現代的感覚で分かりやすく、面白くかみ砕いて解説して下さっているので、本当に興味深く、私も大笑いしながら読ませていただいております。西洋史、特にフランス史に興味がおありの方は以下にリンクを貼らせていただきましたので、ぜひぜひご一読を~。中世史に関する記事も多数、投稿されており、勉強になります。
malkome【誇張しすぎる西洋史】|note
2.お父様は心配性~アブないパパとマッチョな求婚者たち~
さて、今回ご紹介する物語「二人の恋人」は、今までご紹介してきた物語のようにフランス王国、イングランド王国、といった、現在のヨーロッパ諸国につながる国家の基盤がまだ確立しておらず、ヨーロッパ大陸全体が非常に混沌としていた中世の前期(恐らく大体9世紀頃?)のノルマンディー地方のお話です。12世紀を生きていた作者のマリーが「その昔・・・」と語っているので、ちょっとフランスの昔話でも聞くような感じで、お楽しみください。(NHKの永遠の5歳児に叱られる番組に、「まんがフランス昔ばなし」っていう傑作パロディコーナーがありますが、ご存じの方はあのノリで、清水ミチコ氏のナレーションを脳内再生しながらお読みいただいてもけっこうです)
昔々、ノルマンディーに一人の王様がおり、王妃に先立たれて以来、美しい一人娘を目に入れても痛くないほどメロメロに溺愛し、昼も夜も愛娘の傍らで過ごしておりました。(うーん、だいぶヤバ親父やね)
妙齢の美しい王女には当然、たくさんの裕福で立派な家柄の求婚者が現れますが、王妃を失った王様の心の慰めは可愛い可愛い娘だけ。
離れて暮らすなど考えられん、絶~っ対に嫁になんかやらんぞ、と縁談はすべて、断り続けていました。
いくら王様でも、いや王様だからこそ、ちょっとそれはおかしいんじゃないの?一粒種の王女なんだから、むしろ国のために嫁いでもらわないと困りますよ、と、家臣のみならず多くの人が彼を非難。
あの王様、ヘンタイだよね~。ていうか、ロリコン?まさか近親相姦だったりして!うっそ~、まじヤバすぎ!と噂され、白い目で見られまくります。
この事態に、少しは反省すればいいものの、そこは王様、自分は偉くて正しいと信じて疑っていないので、どうすれば次々と愛娘に求婚してくる、うっとうしい連中をゼロにできるか、をひたすら考え、思いついたのが、求婚者たちにムチャぶりの試練を与えて、あきらめさせること。
すなわち、そのムチャぶりの試練とは!?
王女と結婚したかったら、彼女をお姫様抱っこして、そのまま一回も休憩なしで町の外へ出て、登山をし、山頂まで登れ、というもの。
もはや、苦し紛れに思いついたことがまるわかりの、ただただ訳がわからん
荒唐無稽な試練ですが、そこは王様なので、こんな意味不明の試練について大真面目に王として決定を下し、国中にお触れを出します。
恐らく国中の人間が、うちの王様、大丈夫か、と少なからず不安にさせられたであろう、トンデモお触れ。
しかし、封建社会は権力者が法律。まさにリアル王様ゲーム。
どんな馬鹿馬鹿しいムチャぶりでも、命令されちゃったら嫌でも従うしかないのです。
果たして、美しい王女と結婚するため、力自慢、筋肉には自信あります、の
マッチョな求婚者たち(とは、原作にははっきり書いてませんが、こんな試練に、うらなり君がわざわざ自ら名乗りを上げて挑戦するってことは、あんまり考えられないので・・・)が大勢集まり、王女をお姫様抱っこしたまま町の外まで出て、そのまま休まず登山・・・に挑みますが、誰も成功しない。山の中腹まで、何とか到達できた猛者はいたものの、山頂まで休まず、というのは、本物のゴリラでないと、人間には無理でした。
もしかすると、単に王女がぽっちゃりだったんじゃないの?という疑問をお持ちになる方がいらっしゃるかもしれませんが。
お姫様抱っこって、なかなか腕の筋肉に負担がかかる、超ハードな運動だろうなというのは、女性の筆者でも想像はつきます。
下の絵画(私の大好きなラファエル前派の画家、ジョン・エヴァレット・ミレイの作品です)の女性のように、たおやかで華奢な王女だったとしても、やっぱりこの試練はそもそも、王様が愛娘を誰にも嫁にやらないために考えたものなので、成功させるのは不可能なのです。

こうして、多くのマッチョな求婚者たちが涙を呑んで去ってゆき、
美人の王女様と結婚はしたいけど、そんなゴリラでないと無理な命がけの試練とか、面倒なんでけっこうです・・・。
結婚して、ヤバいお義父さんと付き合っていくのもしんどそう・・・。
別に、美女は他にもいるしな・・・。
と、世の男たちは完全に王女を敬遠するようになります。
こうして、王女はヘンタイなパパの思惑通り、誰にも求婚されなくなり、何年も未婚のままでした。
しかし、好きでもない、汗臭いマッチョ男たちに何回も、長時間にわたってお姫様抱っこされるという、恐らくあまり嬉しくはない、というか、かなり気持ち悪い目には遭わされたものの、ずっと未婚でいることは王女にとって決して不本意ではありませんでした。
というのは、王女にはちゃんと、恋人がいたからです。
伯爵家の子息で、頭が良くて優しくて礼儀正しくて、そしてジャニーズアイドル並みにイケメン。(←ここ重要)
父王の宮廷に頻繁に出入りしていて、お互い何度も顔を合わせるうち、彼の方がすっかり王女の美しさのとりこになってしまい、熱心にアプローチされるようになりました。
王女も、彼の立派な家柄や人となりはよく知っていましたし、それゆえに父王もまた、彼を厚く信頼しています。
どちらかというと、武闘派ではなく頭脳派タイプですが、とにかくハリウッド俳優並みにイケメン。(←しつこいようですが、ここ重要)
まさに乙女心をキュンキュンさせてくれる理想の貴公子、拒否する理由はありません。(名前がないと呼びにくいのですが、原作ではなぜか若者、としか表現されていないので、以後は彼のことをフィリップと呼ぶことにしませう)
こうして「パパにナイショで付き合ってます♡」状態を長く続けてきた二人ですが、お互いの身分や立場もあり、できるだけ誰にも知られないようにお付き合いする、というのはなかなか、難しかったようです。
せっかく、やっと二人きりになってイチャコラできる!と思っても、誰かがこっそりのぞき見しているのでは?会話を盗み聞きされているのでは?と常に周りを過剰に気にしていなくてはならず。
別に悪いことはしていないはずなのに、何とな~く、やましいような、後ろめたいような気持ちにさせられてしまう。
そこへきて、王が出した訳の分からないお触れ。人間には成功不可能なムチャぶりとは知っていますが、もしかして、どこからともなく人間離れした筋肉だるまが現れて試練を成功させてしまったら・・・と考えると、もうフィリップは気が気でなく、夜も眠れません。

ある日、フィリップが非常に思いつめた様子で王女のところへやって来て、
姫様・・・僕はもう、ノイローゼになりそうです・・・耐えられない。
貴女と結婚したいと陛下にお願いしたところで、陛下は貴女をとても大事にしておられるので、山頂まで貴女を抱き上げて運ぶ(馬鹿みたいな)試練を成功させない限り絶対に僕に下さりはしないでしょう。かくなる上は、僕たちが結ばれるためには駆け落ち!もう駆け落ちするしかないんですよ、姫様!お願いです、僕を愛しているなら、一緒についてきてくれませんか!?
と切々と訴えます。
フィリップ君ってば、駆け落ちだなんて、なかなかの情熱的ロマンチストさんではありませんか。先に惚れたのも彼の方なので、よっぽど王女にぞっこんラブ(死語)なのでしょう。若いって良いねえ、まあ頑張りなさいよ、と言ってあげたくなりますが、愛に燃え萌えのフィリップとは対照的に、王女はやけに冷静。
・・・あのね、フィリップ。わたくし、あなたのことはよく知っているつもりですけれど、あなたって、決して強くはないというか、力自慢の人じゃないから、わたくしを山頂まで抱いて運ぶのは無理ですわ。
うわ、めっちゃきっつい。どうやら、王女は綺麗な顔して意外に、はっきりものを言うタイプのようです。それにしても何もこんなに、面と向かってずばりと強くないとか、言わんでもええやん・・・ねえ。
言われなくても、フィリップ自身も分かっていることでしょうし。
大好きな王女様にこんなこと言われたら、もう繊細な男のプライド粉々になっちゃうんじゃないかしらん。
さらに父王に溺愛されて育ったファザコン王女は、フィリップが一世一代の覚悟で懇願したであろう駆け落ちの誘いも、
大好きなお父様を怒らせたり、悲しませたりしたくないから、そんなのダメですわ!わたくしが、あなたと駆け落ちなんかしたら、お父様は拷問のような苦しみを味わって、きっと病気になってしまいますもの。他の方法を考えてちょうだい、とあっさり断ります。
フィリップ君、何ともお気の毒。でも、相手は王女だし、結局、恋愛は先に惚れてしまった方が立場が弱いのでしょうねえ。
ううう・・・じゃあ一体、僕はどうしたら・・・と、すっかり意気消沈してうなだれる恋人に、王女は思いがけない提案をします。
3.伯母さまは魔女?~サレルノで秘薬ゲットだぜ~
王女がかわいそうなしょんぼりフィリップ君を元気づけるように、提案したのは以下のようなことでした。
実は、わたくしにはサレルノに伯母がおりますの。もう30年ほどかの地で暮らしていらっしゃって、とても医術に通じていらっしゃるのよ。薬草や、薬になる植物の根っこのことなんかにも、お詳しいの。
わたくしが伯母さまにお手紙を書きますから、あなたはそれを持ってサレルノへ行ってらして。伯母さまに事情をお話すれば、きっと相談にのって下さいますわ。あなたのお体にみるみる力がみなぎってくるような、そんな不思議なお薬を授けて下さるはずよ。その上で、サレルノからお戻りになったら、お父様にわたくしと結婚させてほしいって願い出て、例の(馬鹿みたいな)試練を受けて下さいませ。
伯母さまのお薬があれば、あなたは試練に成功して、わたくしたち、晴れて結婚できるという訳ですわ。
ここで、なぜ唐突にイタリアのサレルノが出てくるのか、ちょっとだけ解説させていただきますと。サレルノには、ヨーロッパ最古の医学校があり(現在のサレルノ大学の前身)すでに9世紀には専門的な医学研究が行われていました。10世紀頃にはヨーロッパ諸国の王族の保養地にもなり、病気はサレルノで治療する、医者になりたかったらサレルノで勉強する、というぐらい、中世ヨーロッパの人々にとって医学=サレルノ、という共通認識が広く浸透していたと思われます。
愛する王女が出してくれたアイデアは、すっかりしょげ返っていたフィリップをいたく喜ばせました。
え、力がみなぎる不思議な薬って何それ、大丈夫なん?伯母さまって、まさか魔女じゃないよね?と、筆者には次々と疑問がわいてしまうのですが、そんなけしからん考えは、彼には微塵もありません。
姫様、それは素晴らしい名案です!僕たちの未来のために、貴女がそこまで考えて下さるなんて、僕は本当に嬉しい。ありがとうございます。ではさっそく、サレルノに行って参ります!
という感じで王女に暇乞いをすると、大急ぎでひとまず自分の領地に戻り、何せ王女の伯母上にお会いするのだから、普段着では無礼だ、と豪華な晴れ着に着替えたり、馬や路銀を調達したりして十二分に身支度を整え、厳選した信頼できる従者だけをお伴に、いざサレルノへ出発。

数日の旅を経て無事に到着すると、王女の伯母に面会して預かってきた手紙を渡します。姪からの手紙を読み終わると、伯母さまは、なるほどね、事情はよく分かりました。可愛い姪が本当に愛する人と結婚できるように、協力してあげましょう、と快諾してくれました。
そして、薬を調合するために必要なのよ。今からあなたの体を隅々まで、調べさせてもらいます、と問答無用で、念入りに身体検査されまくってしまうフィリップ。
・・・うーん、滋養強壮薬を調合するのに、体を調べる必要なんかあるんですかね?しかも、隅々までって何。さては伯母さま、単に若いイケメンの体を思う存分、見たり触ったりしたかったのでは・・・と、思わず穿ったツッコミを入れたくなってしまいますが。
フィリップは何日かサレルノに滞在している間に伯母さまに謎の薬を調合してもらい、そのおかげで、だいぶパワーアップします。
(・・・え、改造されたん?)
しかし、元来が頭脳派なので、それでもまだ、あのムチャぶり試練を成功させるには残念ながらパワー不足。
そこで伯母さまが授けてくれたのが、どんなに疲労困憊、衰弱していても飲めば一瞬で、全身の骨にも血管にも力がみなぎって勇気りんりん、元気百倍、ほうれん草を食べたときのポパイ化する、秘薬ミラクルスーパーエネルゲンX(仮名)!
これさえあればもう、向かうところ敵なし。
フィリップはありがたく、この怪しい秘薬を持ち帰ります。
これで、愛する王女と結婚できる!と、もう足取り軽く、鼻歌ルンルン。
時間が惜しいので、自分の領地に戻るが早いか、さっそく王に謁見し、試練を受けて、必ず山頂までお運びしますから、どうか姫様を私に下さいっ!と、正式に申し入れます。
王様は、受けたければ受ければよいが、そちのような若造が、あの誰にも成し遂げられなかった試練を受けたいなどとは、まことに愚かなことよのう、ほっほっほ、と、はなから馬鹿にしまくりましたが、とにかく申し入れは受理され、フィリップが試練を受ける日取りが決められます。
4.プリンセスの悩殺ダイエット作戦~騎士道とは、萌え死ぬことと見つけたり~
すると、王様はよっぽど身の程知らずのフィリップを見せしめにしたいのか(家臣として信頼しておったのに、知らぬ間に可愛いわしの娘に目をつけとったんかい!と、一種の逆恨みのような感じで、ブチ切れたのかもしれません。ヤバ親父な上に、性格も悪い王様・・・めんどくさ)自分の家臣とか友達とか、とにかくありとあらゆる知り合いに片っ端から声をかけ、試練を見物に来るよう招待します。
それに加え、達成不可能なムチャぶり試練をあえて自分から受けたがる物好きな男など、もう何年も現れていなかったため、へえ、誰がそんな無謀なことすんの?どこのどいつで、どんな奴よ?と興味を抱いてやって来る物見高い人々。
久々に、王女様の美しいお姿を拝見できる絶好のチャンスじゃ~!目の保養、目の保養~!と王女目当ての不純な?動機でやって来る人々。
四方八方から、噂を聞きつけた人々がわらわらと、フィリップが試練を受けるのを見物しに集まってくることになってしまいました。
一方、いよいよフィリップが試練を受ける日が正式に決まったと知った王女は、恋人を助けるために、試練当日までに自分にできることは何かしらと考え、とにかく彼に負担をかけないよう体を1グラムでも軽くしなくてはと、何と過激な絶食ダイエットを開始。生命維持に必要な、最低限の水分以外は何も口にしなくなり、もうふらふらです。
王女として生まれ、父王に溺愛され、何不自由なく育ってきた彼女には、恐らく初めて味わったであろう、空腹なのに何も食べられないというつらさ。
貧しくて食べる物がない、とかではなく、一流のお抱えシェフが三食もれなく絶品フルコース料理を用意してくれるのに食べられないのですから、なおさら、つらかったことでしょう。
嗚呼、豚の丸焼きの、焦げてパリパリのところ食べたいっ!デザートの蜂蜜りんごケーキ、大好物なのよ、せめて一切れだけでも食べたい!食べたいですわ~っ!と何度も食卓で、悶絶していたのかもしれませんが、とにかく王女は愛のために食欲に打ち勝ち、もはや飢えに近い空腹にも、みごとに耐え抜きました。
そして、いよいよ迎えた運命の試練当日。
セーヌ河に臨む野原に大勢の見物人がひしめく中、まず試練を受けるフィリップが一番に到着し、やがて父王に連れられ、王女もやって来ます。
そのいでたちは何と、体の線が見えそうなぐらいスッケスケの、シュミーズみたいなものを一枚まとっただけの、悩殺セクシースタイル!(いや~ん)
仮にも一国の王女が、衆人環視のなかお肌をさらすなど、ただごとではありません。
恐らく父王も、ど、どうしたのじゃ、そのはしたない恰好はっ!わしの娘が、そのような姿で人前に出てはならぬ~!とさんざん、止めたのではないかと思われますが。
王女には父王の制止を振り切ってでも、この恥ずかしい恰好でこの場に来なくてはならない理由がありました。
そう、とにかく愛するフィリップのために体を軽くしなくては!という、健気で一途な乙女心。付け焼き刃のダイエットだけでは、どうにも心もとないし、かといってさすがに、裸で来るわけにはいかないので、限りなく裸に近い恰好で、恥をしのんでやって来たというわけ。このままお姫様抱っこをされて、至近距離でちょっとぐらい体を見られたとしても、見ず知らずのマッチョ男ならぞっとしますが、相手は彼氏だし、別にいいの・・・きゃっ♡
という、恋する乙女ゆえの大胆さ?もあったのかもしれません。

一方のフィリップは、普段は王女らしく、慎み深く露出度の低いドレスをまとっている恋人がいきなり、予期せぬセクシースタイルで目の前に現れたのでギャップ萌えし過ぎて理性が吹っ飛び、頭の中が真っ白になってしまいました。(多分、人前じゃなかったら、盛大に鼻血吹いてた)
さらに、そのまま彼女をお姫様抱っこして体が密着しまくったので、
うわあああああっ!姫様のお体、すっごい柔らかいいいいっ!我が人生に、一片の悔いな~しっ!と猛烈に感動し、もはや秘薬ミラクルスーパーエネルゲンXのことなんか、一瞬で忘れ果ててしまいます。
もう、とにかく一秒でも早く、こんな馬鹿みたいな試練終わらせたいっ!
終わったらすぐに結婚したいっ!押し倒したいっ!(下品ですみませぬ)
と、欲望と萌えのダブルブーストがかかったフィリップは、手加減なしの猛スピードで山の上へ一気に駆け上がります。
え?ワープしたん?と思うぐらい、あっという間に、二人は山の中腹に到達。その尋常ではないスピードに驚いた王女は、
ち、ちょっと、フィリップ!こんなに最初から吹っ飛ばして大丈夫ですの?きっとお疲れでしょう、早く伯母さまの秘薬をお飲みになって、力を取り戻してちょうだい、と預かっていた薬瓶を渡そうとしますが、鼻息荒く暴走中のフィリップは拒否。
立ち止まって、薬なんか飲んでるひまがあったら、前進あるのみです!それに、見物人たちにあいつ、立ち止まって何飲んでるんだよ?って、下手に怪しまれたり、非難されたら面倒ですから!
と、馬車馬のような勢いで山を登り続けますが、残念ながら煩悩のブーストは無限ではなく、もともとのパワー不足も祟り、一気に前半の反動が来て、フィリップは足もとがおぼつかないぐらい、消耗してしまいます。
『鬼滅の刃』の炭治郎がヒノカミ神楽の必殺技を連発すると吐血して死にかけたように、人間が感情の高ぶりゆえに人間離れしたことをしてしまうと、後で必ず命の危機を迎えるのです。
しまいには、顔面蒼白を通り越し、顔が土気色になってきた恋人を見かねて、王女は何度も、お願いだから秘薬を飲んで!と懇願しましたが、男のプライドなのか、怪しい薬を飲んでいたと後ろ指さされたくなかったのか、単純に、やっぱりそんな変な薬飲みたくねえ~!という思いだったのかは謎ですが、とにかく断固としてフィリップは秘薬を飲みません。ぜいぜいと苦し気に肩で息をしながら、とうとう山頂に到達しましたが、到達した瞬間に力尽きてその場に倒れ、あわれ、昇天してしまいます。(アーメン)
しかし、まさか死んだとは思わなかった王女は、まあ大変、フィリップが気絶してしまいましたわ!と、慌てて秘薬を飲ませようとしますが、彼はもうぴくりとも動かないし、目も開かない。ほどなく王女も彼が息絶えていることを悟るとわああっと大声を上げて泣き叫び、こんな薬なんて!何の役にも立たなかったじゃありませんの!と薬瓶を勢いよく放り投げます。
その拍子に、中に入っていた秘薬ミラクルスーパー・・・(以下略)が辺り一帯にまき散らされ、たちまち山の植物がぐんぐん育ち、何と国の土地すべてが豊かに潤されたのでした。(そんな薬を人間が飲んだら、どうなってたんでしょうか・・・くわばら、くわばら)
あんなにお願いしたのに、どうして薬を飲んでくれなかったの?わたくしを置いて死んでしまうなんて、あんまりですわ!馬鹿!フィリップの馬鹿~!という感じで、王女は激しく嘆き悲しみながらフィリップの亡骸のかたわらに身を横たえ、両腕でぎゅっと抱き締めて目と唇に最後のキスをします。
すると、ついに嘆きが心臓にまで達し、王女もまた、その場で息絶えてしまったのでした。

そんなこととはつゆ知らず、山のふもとで二人が戻ってくるのを待っていた父王や家臣たちは(ていうか、ちゃんと試練が成功してるかパパは見届けてないの?ムチャぶりだけしておいて?だったら、二人が駆け落ちしようとすれば、できてたってこと?)いつまで経っても戻って来る気配がないので、陛下、ちょっと、いくら何でも遅すぎませんかね?うむ、あの若造はどうでも良いが、娘が心配じゃ!と捜索に向かい、山頂で二人そろって死んでいるのを発見。
おおおおお~!な、何ということじゃ!わ、わしの可愛い娘が、男と抱き合って死んでおる~!!
ショック過ぎて、パパはたちまち失神。
もう、王様は失神するし、王女とフィリップは死んでるし、周りの人間はてんやわんやの、しっちゃかめっちゃかですよ。(大変だなあ)
こうして、悲しい運命のもとに命を落とした恋人たちは大理石の棺に納められ、終焉の地となった山の頂きに、共に葬られました。
以来、人々はこの山を「二人の恋人の山」と呼ぶようになったそうな・・・。
以上が、この物語のあらすじになります。
いかがでしょう、恐らくこの物語は悲劇だと思われる方が多いのではないかと思うのですが、筆者は、意外にハッピーエンドというか、王女とフィリップの運命としては他にベストな選択肢がなかったのでは、と考えたりします。もちろん、二人とも若い身空で共に命を落としたのは哀れではあるし、相思相愛だったのだから、生きて幸せに人生をまっとうできればそれに越したことはなかったでしょう。
しかし、仮に試練に成功したフィリップがあのまま死んでおらず、めでたく結婚できていたとして。絶対に、父王が二人の結婚生活の大きな障害になったであろうことは、容易に想像できます。政略結婚で、王女が夫に愛がなければまだしも、ちゃんと恋愛結婚ですからね~。
愛娘が、若い夫とイチャイチャ新婚生活を送るのなんて、許さないでしょう。もう、職権濫用の極みでありとあらゆる手を使って、邪魔してきそう。
実際、13世紀のフランス王ルイ9世(聖王と呼ばれ、カトリック教会で聖人として列聖されている高潔な王様です)は王妃マルグリットを熱愛し、非常に大切にしていたのですが、彼には息子を溺愛している上、政治的権力も握っている厄介なママンがおり、王族の夫婦が、寝るとき以外、一緒にいる必要はないザマス!って、とにかく二人きりになるのを断固阻止するので、王は仕方なく、おっかないママンの目を盗んで、自分の妻であるマルグリットと密会していたという、わりと歴史好きの間では有名なエピソードもあり。マルグリットは伯爵家の娘だったので、王女とフィリップの場合、まさにこの男女逆転バージョンになっただろうと思われます。
かといって、フィリップが提案していた駆け落ちをもし、王女も了解して、二人で手に手を取って逃げていたとしても、またしも娘大好きの父王が地の果てまで、執念深く追ってくるような気がしますし。(こわっ)
やはり、二人が真の意味で幸せになるには、あの世に駆け落ちするしかなかったのでは、と思うのです。
まあ、フィリップは肌も露わな王女をお姫様抱っこして、萌えが最高潮に達した時に、すでに人生最高の至福を味わっていたかもしれませんが・・・。
※この記事は『十二の恋の物語~マリー・ド・フランスのレー~』月村辰雄訳(岩波文庫, 1988年)を底本としています。
