あったかいうどんを食べる時、私はきっと。
2歳との外出は、ほとんど勝てないギャンブルのようなものだ。
予定調和は、ない。
2歳男子、体重は13kg。お米より重い。
単なる13kgではない。
13kgの、一目散なカジキマグロであり、
13kgの、私の腕をするりと抜けるイカであり、
13kgの、床に張り付くイソギンチャクである。
13kgを、156cmの私が、制して、運び、床から剥がす。
(※私の体重は言えない。かわいい認識でいてほしいからだ。)
予測不能な13kgの、安全を守るだけで手一杯。
生きて帰れただけで御の字だ。
自分の用事を済ますのは、ほとんど無理に近い。
子どもの用事ですら、済ませるかどうかは、運否天賦だ。
そんな2歳が喜んでまっすぐ行ってくれるのが、近くのフードコートにある「丸亀製麺」。
偏食でもある彼は、食べられるものが多くない。
そんな美食家の彼の口を喜ばせたのは、丸亀製麺の「鮭おにぎり」と「うどーなつ」だ。
「うどーなつ」とは?
丸亀製麺の新名物の一つ、原材料にうどんを30%以上使った小麦で揚げた、まるいドーナツのことだ。うどんだって小麦なんだから、小麦だけで作ったのとあんまり変わらないんじゃないか、と思っていた。だが、食べてみると不思議なほどに「うどん」を感じた。ほんのり甘く、もちもちの食感。
2歳も驚くほど喜んで食べてくれる。丸亀製麺で、鮭おにぎり、うどーなつ、私の食事としてうどんを頼む。それが、私たちの「正解」になりつつある。
しかし、丸亀製麺でうどんを頼むのも、楽ではない。丸亀製麺はセルフサービスだ。2歳を右脇に抱え、利き手でない左手でうどんを運ぶ。この時だけは、大人しくしていてほしいと祈るように頼み込み、一番近くの席まで、運ぶ。(※忙しくない時は、店員さんが運ぶのを手伝ってくれる)
悲劇が、大きな悲劇にならないように、私は冬でも冷たいうどんを頼む。
運ぶ時だけではない、2人で一緒に食べる時の悲劇も、私は想像してしまう。私が火傷するのは構わない。でも、2歳を火傷させたくない。
それに、冷たいうどんだって美味しい。私は丸亀製麺のうどんが大好きなのだ。食べる前からコシを想像させるような、白く艶のある麺が、フードコートの明かりに照らされて光る。歯に反抗するような噛み心地。好きだ。ちなみにおろし醤油うどんが好き。私はうどーなつをちぎり、鮭おにぎりを崩し、2歳が食べている隙を狙って、うどんをすする。
時々、あったかいうどんも食べてみたいなあと、思う。
いつになったら、あったかいうどんを食べられるだろう。
ところで、最近2歳に変化の兆しが現れた。少しだけ、ほんの少しだけではあるが、私が体を張らなくても、自ら動くようになった。外出時だけではない。生活全体で、食べる、ちょっと遊んだらお風呂に入る、ねんねする、外に出たら歩く、道路に出ない。遊んだら終わりにする。こうして書いてみると、まだ全然できていないことを感じるが、数回に1回だけ、指示が通る時があるのだ。
この前も、「あともう一回パズルしたらお風呂に入る」と約束したら、本当に一回だけパズルをしてお風呂に向かったのだ。なんていう有言実行。大人でもできないのに。彼は、なぜ私が驚いているのか、わからないみたいだ。「約束通りに動くのは、普通ですが?」なんて顔をしている。
私が言うように彼が動いたとき、拍子抜けして、そしてなぜだか、寂しくなった。なんでこんなに寂しくなるのか、わからない。よく言われる通り、子どもの成長が寂しくなるんだろうか。でも、言うことを聞いてくれたら、嬉しいはずだ。それなのに…。
私はもしかして、反抗にこそ、彼にうどんのような「コシ」つまり、存在を感じてるんじゃないか。私の手首を引っ張り、腕から抜け出して、駆け出し、床に張り付き、水たまりで跳ねて靴を汚し、好きなものを食べて、常にミニカーをねだり、牛乳をねだり、常にどこに向かうかわからない。圧倒されながら、存在そのもののエネルギーを感じてるんじゃないか。
自分勝手かもしれない。親のエゴってやつかもしれない。
子どもは成長してほしいし、自分でなんでもできるようになったら、嬉しい。フードコートで自分の分を頼んで、自分で運べるようになって、それぞれ自分の好きなものを、大人しく食べて、そうなったら、どんなにか楽になるだろう。
だから、自分でも、絶対変だと思うけど。
あったかいうどんを食べられるようになった時…
私はきっと、泣く。
(1,800文字)
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