見出し画像

【掌編小説】さみしさのレシピ

A「僕将来の夢があって」
B「唐突やねぇ……まあ、聞こか」
A「研究家になりたいねん」
B「ほお、研究家? 研究者じゃなくて」
A「そこやねん。料理研究家っておるやろ」
B「リュウジとか」
A「リュウジのレシピを見てると作りたいなあと思ってこおへん?」
B「くる!材料揃えてまうねん」
A「リュウジのレシピには"ぼくにもできそう"がつまってるねん」
B「じゃあ、料理研究家になりたいんか」
A「ちゃうねん、俺がなりたいのは、なんでも研究家やねん」
B「なんやねんそれ」
A「それを今からやりたいなあおもて、一緒にやってくれへん?」

A「どうも〜〜なんでも研究家のルージです!」
B「ルイージみたいにいうな」
A「皆さんのリクエストにお応えして作っていきますんでね」
B「はいはいそういう形式ね」
A「今日作るのは、さみしさです」
B「さみしさなんや、まあ、聞こか」
A「材料は概要欄に書いてあります」(両指を下に向ける)
B「わからんて!説明して!」

さみしさ
<材料>
・道路灯 43番目
・おばあちゃんちでみつけた星 9番目
・ちいさい秋みつけたの歌 1フレーズ
・ひぐらしの声 500Hz
・叔父の結婚式で見た叔母 1人
・市民プール 500mL
・太ったなあという気持ち 1kg
・5時間目の国語 10秒
・最近の歌手が分からん父 1人
(その他お好きな材料)

概要欄

B「どこから突っ込めば……」
A「突っ込むんやない、感じるんや」
B「はあ……」
A「これから作っていくで。まずは、高速道路の灯を茹でこぼしていきます。何か、感じることはありませんか?」
B「そうやなあ……」

Bは幼い頃、父親に連れられてチャイルドシートから見た道路灯のことを思い出した。車に揺られると決まってだんだんまどろんでいくのが常であった。父親の好きだったカーペンターズが流れて、その曲名もわからないうちにメロディーだけ覚えて、車窓から朧げに道路灯だけが見えている。父は自分が眠っているものと思い込み、母と何かわからない話をしていた。その時の父の声はいつもと違っている。何もわからない、今ならわかるかもしれないけれど……

Bの思い出

B「な……なんか、さみしなってきた!」
A「まだ早いって! この調子でそれぞれの材料をね、したごしらえしていきます」

それからAは、おばあちゃんちでみつけた星のヘタをとって、ひぐらしの声を乱切りにして、叔父の結婚式で見た叔母は市民プールでちいさい秋みつけたの歌を聴かせながら一晩寝かせたものをあらかじめ準備して、太ったなあという気持ちを抱えた5時間目の国語を紐で縛って、最近の歌手が分からん父に粉をまぶした。

Bは材料が下ごしらえされるたびに思い出に取りつかれた。さみしさは一瞬で、つかもうとすると消えてしまう。はっきりとしないのに、時に痛いほどに胸を突いた。けれども、これ以上空間が冷え込まないように、必死で突っ込みを入れた。

調理はシンプルであった。材料を和えていって火は使わないようであった。

A「叔母や父もいるし揚げたりはできへんやろ」
B「そこは色々守るんや」
A「今は炎上とか怖いねん」
B「ここまで来てそこ気にするねんな」
A「どう?」
B「なにが?」
A「だから、できそうと思ったかどうかでいうと」
B「……なあ」
A「え?」
B「なんでそんなことするん?」
A「そんなことって……」
B「笑わせようと思ってここにおるやん」
A「笑うてはったで」
B「それは俺がつないでたからや……ってこのセリフまでお前の台本や」
A「……」
B「ぼくにもできそう」
A「……」
B「ぼくらにもできそう」
A「……もちろん、覚えてるで……」
B「そういうて、お前が俺を誘った。だからここにいる」
A「わかってるって」
B「だから、全うせな……最後やねんから」
A「なあ」
B「うん」
A「……解散しても、会うてくれる?」
B「キショっ! 重っ!」
A「いつもお前がそういうこと言うから、こういうネタ作ったんや」
B「……」

Aは幼少期から、自分の希望が他人と異なることをうすうす感じていた。Aは次第に、希望を隠すようになった。いつも、「したい」を「できそう」という言葉で、くるんだ。

あの時だって、そうだった。

B「わかっとったで、最初から」
A「……それでなんで、ついてきてくれたんや」
B「うれしかったから」
A「え……」
B「途中まで一緒に帰ろ、って言われたら、なんかうれしくならへん?」
A「……ありがとう。でも、悪かった。俺のせいで、迷惑かけたね」
B「なんで? たのしかったやん」
A「ぜんぜん、売れへんかった。今日やって、誰も来てへん」
B「俺の嫁が来てるやん」
A「嫁さんすら笑ってへん、ぐちゃぐちゃに泣いてる」
B「……向いてへんかったなあ、俺ら」
A「お前が向いてへんねん」
B「え? ここにきて俺のせい?」
A「……やさしすぎるねん」
B「それはお前もや」
A「……」
B「……」


A「はい! これでさみしさが完成しました〜!いかがだったでしょうか!なんでも研究家、ルージのチャンネル登録、よろしくお願いします!」
B「そこまで含めてか〜い! もうええわ、ありがとうございました!」

(了)

いいなと思ったら応援しよう!

亜麻布みゆ📕言の葉みゆフィーユ チップのご検討、ありがとうございます。 3歳児を育てつつ、スキマ時間に創作を続けています。 いただいたチップは、家事の時短や創作時間の確保に使わせていただき、より楽しい文章をお届けする力に変えていきます。応援が本当に励みになります。