短編小説「外面がいい」④〜奥さん大好き芸人〜
愛されていても世界は変わらないけれど、愛していたら、世界は変わる。
↓今までの話はこちら。
「奥さん大好き芸人」の回に出演することになった、と雅也が告げた。
ベッドでスマートフォンを弄っていた私には一瞬、何のことか分からなかった。「おくさんだいすきげいにん」と言う文字列だけが頭の中を移動する。
「ヒルトーーク!!」は、「昼下がり決死隊」がMCを務める人気トークバラエティ番組だ。毎週、特定のテーマに沿って芸人たちが集められ、そのテーマにまつわるエピソードやトークを繰り広げる。昼下がり決死隊は、コンビの1人の闇営業疑惑で解散の危機に見舞われたが、相方の尽力で復帰。復帰後はますます勢いを増す番組となっている。
博識でエピソードトークを得意としている雅也も、「読書好き芸人」、「家電好き芸人」、「サンリオ好き芸人」、「iphoneアプリ好き芸人」など様々な回に出演していた。
特に雅也が番組内で初めて披露した、ポムポムプリンのお尻についての知識は、スタジオが笑いの渦に飲み込まれた。「ポムポム回」という神回となった。
だが、どんなトークの時も彼は、私も含めて家族の話題を一切出さない。
雅也にも愛妻家のイメージなどはないはずだ。
だから、なぜ「奥さん大好き芸人」に彼が呼ばれたのか分からなかった。
聞けば、雅也は代打での出演らしかった。
出演が決まっていた同じ事務所の芸人の不倫が発覚。
とても「奥さん大好き芸人」には出せないと言うことで、急遽トークに定評のある雅也の出演が決まったのだそうだ。
「悪いねんけど、ちょっとシオのこと喋らせてもらうわ。」
私は本名の詩織を略してシオと呼ばれていた。
「どんなふうに?」
聞くと、彼はちょっと間を置いてから、こう言った。
「決めてへん。…けど、迷惑かからんようにはするから。」
「迷惑なんてそんな、全然いいけど…」
そのような会話をした後、程なくして雅也の寝息が聞こえた。
だが、私はその後横になりながらも、なかなか寝付くことができなかった。
自分について喋ることなどあるだろうか?
平凡で、むしろできないことの方が多い人間だ。
勉強ができると思っていた時期もあった、でも、大学に入ったらそんなのは普通すぎて、別に個性とは言えなくなってしまった。
そもそも彼は「奥さん大好き芸人」なのだろうか?
私は雅也のことが好きだ。好き、と言うより、いわゆる「推し」だ。
初めて会った時から。そして、今もだ。
メディアや舞台での輝きも、普段の物憂げな姿も。
だけど、雅也から、結婚を前提の交際を提案された時、戸惑った。
「プロポーズ」は確か英語で提案という意味だったな…と思い出すぐらいの「提案」だった。
確かに嬉しかった。だって、推しなのだ。
それなのに、自分の推している気持ちと、彼の告白は、なんだか、こんがらがって、すれ違ってるようで、自分の中で結びつかなかった。
「もしかして、誰かと間違えてませんか?」と思わず聞くと、彼は笑った。だが、再び真剣な目に戻り、
「そんなん、間違えるわけないやん。」と言った。
「好き」だとか「愛してる」だとか、彼から直接的な愛情を表す言葉が出たことは一度もない。
彼の「間違えるわけない」の言葉は、私の中の宝箱にしまわれている。時々取り出されて、眺められ、撫でられ、磨かれる。
その言葉があるにもかかわらず、彼が「奥さん大好き芸人」であることを私は疑っていた。
なんで、一緒にいてくれるのだろう。こんな私なんかと。
一度、それについて雅也に尋ねたことがある。
すると、少し彼は考えてから
「似てるから。」
と答えた。
ますます分からなくなった。
彼は、天才なのだ。私とは、全く違う。
そんなことを思い出しながら、考えを巡らせたが、
「まあ、なんとかなるでしょ。」
と思い直した。
そもそもTVの中と素は全くの別人である。
雅也のことだ、きっと私のことも嘘などを交えて上手く作ってくれるのだろう。
寝返りを一つ打って、私は眠りについた。
たねあかし
アメトーーク!!とは関係ない…ふりをしている。
宮迫さんを応援しているので、アメトーーク!!の理想形を書いてみた。
でも、昼下がり決死隊っていう名前は、なんかのんびりしていて平和そうだ。そもそも闇営業も近づけないだろう。
いいなと思ったら応援しよう!
チップのご検討、ありがとうございます。
3歳児を育てつつ、スキマ時間に創作を続けています。
いただいたチップは、家事の時短や創作時間の確保に使わせていただき、より楽しい文章をお届けする力に変えていきます。応援が本当に励みになります。