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居酒屋の端っこで、曇り声を響かせる。

居酒屋の中心で、出身地を叫んでいた。
「……けん………ちばけん……千葉県です!!」

私の中の最大出力、のはずだった。
それなのに、向かい側の席から「え…なになに?」と聞き返されてしまう。ようやく聞き取ってもらえたと思ったら、もう出身地の話題は終わっていた。

私は、絶望的に声が通らないのである。

声には、晴れ、曇り、雨がある。
透き通ってカラッとした、晴れの声。
しっとりと艶っぽい、雨の声。

私の声は、くぐもって空気と同化した、曇りの声だ。
どこから始まってどこから終わるのかもわからない。

特に居酒屋のような喧騒と、相性は最悪。
私の声は実体がないまま吸収されて、自分でもどこに行ったかわからなくなってしまう。

実のところ、私は飲み会が嫌いではない。
むしろ、楽しみにしている方だ。

いつも仕事の話しかしない上司や先輩が、普段どんなことを考えているのか気になる。そして、自分のことも知ってほしい。だから、積極的に参加していた。飲み会がある日は、キーボードを打つ手もそわそわしてしまう。

どんなことを聞こうか、どんな話をしようか。

それなのに、いざその場にいると、曇った声は通らない。聞きたいことも、言いたいことも言えない。

ぽんぽんと跳ねる会話をニコニコと眺め、時々空いているグラスにお酒を注ぐ。「気が利くいい子」に終始してしまうのだ。

好感は持たれるかもしれないけど、すこぶるつまらない。

そんな私は、タイミングを見計らって席を移動する。
居酒屋の、端っこに行くのである。

居酒屋の端っこ。そこには、あまり人気のなかった料理の最後の一切れ、その下のしなびたサラダ菜、ビールジョッキの空、ささくれた割り箸、くすんだ朱色の座布団が、散らばっている。

そして、同じように喧騒から離れたい人、飲み過ぎてしまって休みたい人たちが、話しこんでいる。

そういう人たちから聞く話が、たまらなく面白いのだ。

「今度マラソン大会なんだよ…」
「オードリーの若林好きな人、絶対バカリズムのことも好きだよね…」

喧騒から少し離れた端っこは、どんな声でも相手に届く。
そして、普段聞けないような話であふれている。

割り込んできた私に気づくと、ある人がこんな話をしてくれた。
「実はあの夫婦…もともとうちの店舗の先輩と後輩の関係だったんだよ…?」
「ええっ!そうだったんですか…?」

話題の夫婦は、旦那さんが別の事務所の所長、奥さんが本社で経理として働いていた。両方とも一緒に仕事をしたことがある。同じ店舗だったということは、そこでの出会いなのだろう。2人は、最初はただの同僚だったけど…次第に惹かれあって…そうして…ある日…

勝手に妄想を広げ、思わず赤面、「はわっ!」という声が出てしまった。
「ちょっと、どこまで想像してるんだよ!」と笑ってたしなめられる。
仕事中は、いつも誰かに厳しい顔を見せていたその人の、初めて見る笑顔だった。

「ところで、君はどうしてこの会社に入ったの…?」
「私はですね…」

この会で、初めて話し始めた。
自分の曇った声に、少しだけ光が差したような気がした。


時が経ち、私はその会社を退職。この飲み会は約10年前のことである。
今後、会社の飲み会に参加する機会も少ないだろう。

でも、私は居酒屋の端っこで話すこの時間が、ずっと好きだ。
そして、この居酒屋の端っこは、今書いているnoteにつながっている。

私は今年の夏からnoteを始めて、自分の好きなことを好き勝手に発信している。「自分の過去について」「推しの芸人について」「男性の好みについて」「家事について」「家族について」「自分の作った小説」…etc。

noteを書く時間は、私にとって特別だ。
居酒屋の端っこで「自分から話し始める」、そんな希望を叶えられていると感じる。

そして、他の人のnoteも「居酒屋の端っこで聞く会話」のように読んでいる。

「実はね…」「あれってさ…」「こんなことがあって…」
世界の喧騒から少し離れている静かな場所だから、晴れの声、曇りの声、雨の声…どんな声も、はっきりと聞こえるのだ。

note。居酒屋の端っこ。ここが好きだから、書き続けて、読み続けたい。
「しばしご歓談ください」…「しばし」なんて言わず、永遠に続けばいいのに。


来年は、noteを書いてる人と、実際に会ってみたいと思う。
私は出身が千葉県だが、今は福岡市に住んでいる。
もつ鍋、水炊き、明太子、お刺身、豚バラ、焼き鳥、鶏皮、冷やしピーマン、あまおうアイス…福岡の美味しいものを食しながら、語り合いたい。


福岡に来た時は、呼んでください。
どこかの居酒屋の端っこで、待ってます。

(本文:1866文字)


「ことばと広告」さん主催の、「 #モノカキングダム2024 」に参加しています。テーマは「こえ」でした。


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