短編小説「外面がいい」⑥〜アンチ〜(追記:注意喚起)
何を「嫌い」かで、自分を語ってもいいじゃない。
でも、違法視聴は、絶対ダメ!
<これまでと今回のあらすじ>
メディアでは黄色い衣装の陽気な芸人の雅也は、普段は口数が少ない。妻は彼が何を考えているのか分からなかったが、人気お笑い番組「ヒルトーーク!!」の「奥さん大好き芸人」の回に出演した雅也の本心を知ることとなる。
一方、人気芸人の雅也のことが好きになれない理子は、共感できる意見を探し求める。
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全く世間はどうかしている。
せっかくの休日だというのに、私はなぜか起き上がれず、イライラしていた。
生理前だろうか。いや、生理予定日まではあと1週間もある。
1ヶ月に1度のイベントに、1週間も前からイライラしていたら人生は活火山になってしまうだろう。
短文投稿サイト、X-witterがにわかに「#不安西先生」「#奥さん大好き芸人」のハッシュタグで賑わっていた。
なんとなくハッシュタグのリンクからネットニュースを辿ると、ちょうど人気バラエティ番組「ヒルトーーク!!」の放送があったらしい。「奥さん大好き芸人」という回で「#不安西先生」というワードが出たようだ。
不安西先生wwwwwwwwパワーワードwwwwwwwww #不安西先生 #ヒルトーーク #奥さん大好き芸人 @OwaraidaisukigeininCCshi
雅也のクソデカ感情ヤバwwwww尊すぎwwwwwwwwww嫁しか勝たんwwwww #不安西先生 @katankoton
奥さんの話聞いたの初めてかもwwwwwなんか人間性初めて見えた気がするwwwwwwww @kamonegi5656
X-witterに生い茂る雑草、「w」をなんとか掻き分け読み解いていく。
雅也という芸人が、初めて妻に対する言及をしたとのこと。家族の話を一切しなかった雅也が妻に対する愛情を見せたことに盛り上がっているのだそうだ。
また雅也か。
私は雅也とかいう黄色い衣装の芸人が、正直嫌いだ。
なんか最近よくバラエティで見かけるが、マンゴーみたいな格好が目立っているだけで、彼で笑ったことが一度もない。
彼を褒めるコメントばかりだと、なぜだか胸の奥がチクリとしてしまう。
動画投稿サイトU-tubeから違法にアップロードされた「ヒルトーーク!!」の放送の一部を見つけることができた。
いつも饒舌な雅也が言い淀みながら妻に対する思いを語る。
そこにMCが「不安西先生」というツッコミを入れたことでスタジオに笑いが起こっていた。
雅也自身は何も面白くないではないか。
動画のコメントを見ると、「ほっこりした」「可愛い」「尊い」などという平和なコメントで溢れていた。
時折、「いやめちゃくちゃスベってるやん」「この黄色おもんない」というコメントも見かけた。
が、そのコメントの返信欄を開くと、「お前の方がおもんない」「お前の人生がスベってる」などの、猛反撃を受けていた。
このやりとりを見て、私は先ほどよりはっきりと胸の奥が痛むのを感じた。
スマホをなぞる指が、Yafuu!ニュースのエンタメ欄を探してしまう。
案の定、雅也が「ヒルトーーク!!」で、妻について語った旨がネットニュースに上がっていた。
コメントは113件。
「相変わらずTVの放送をまとめるだけなんて楽なお仕事してますね」とライターを揶揄するコメントが、
「お前も相変わらずそんなニュースに張り付いてよっぽど、お暇なんですね」と反撃されるというお約束から始まっていた。
「雅也さんは面白い中にも知的さが伝わって好きです」「奥さんが好きなのが伝わってほっこりしました。」「奥さんは愛されて幸せだろうな」という好意的なコメントが上位に来る。
次の、次の、次の、次のページを連続でクリックした。
やっと見つけた。
「彼はなんかええかっこしいで鼻につく。今回も面白くなかった。」
返信欄を開く。
「じゃあ見なきゃいいじゃん」
「なんでわざわざコメントするの?」
「コメ主の人生が上手くいってないから、鼻につくんだよ。」
あぁもう!
Yafuu!ニュースを閉じた。これはもう、好き嫌い.comに行くしかない…と思ったところで思い留まった。
スマホの時計を見ると9:25を指している。
目を覚ましたのが7:30だから、どうやら2時間近く、ただスマホをいじって雅也のアンチコメントを探していたのだ。
嫌いなのにこんなに時間を使ってしまうなんて。
今日は13時に予定がある。だらだらと支度を始めた。
「アンチっていうのはね、一番のファンなんだよ。」
着替えながら、そんな言葉を思い出す。
どのアイドルだかが言ってたけど、しっくりこない。
なんでこんなに、会ったこともない彼が嫌いなんだろう。
自分の人生に関わることは、おそらくないだろうに。
具体的な何が嫌いなのか、というのは、靄にかかったように見えてこない。
面白くない人なんて、たくさんいるのに。
なぜ彼だけに、こんなにイライラするのだろう。
「フェアじゃない」という言葉が浮かんだ。
彼は、ほめられ過ぎてる気がする。
芸能人は、賛否両論あって当然だと思っていた。
でも、彼は賞賛されるばかりで、少しでも否定すると、たちまち他の誰かから反撃される。
そこが、窮屈で、なぜだかさみしいのだ。
私は、アンチコメントを書き込んだことはない。
そこまで成り下がりたくない、という思いがある。
開示請求だってされるかもしれない。
「好き」派は気楽でいいよな。
いざとなったら、「人の悪口はよくない!」とか「誹謗中傷!」とか、倫理とか法律に訴えることができるのだから。
誰を嫌いって、そんなに罪かな。悪いかな。
「好き」と、「嫌い」って平等であるべきじゃないのかな。
「アンチなんて、人生うまくいってないんですね」という書き込みを思い出す。
そんなことない。
仕事だって、入社からずっと続けてるし。
婚活も…
ぐるぐると考えていたら、目的地を告げる電車のアナウンスが流れ、慌てて降りる。
待ち合わせの西改札口に立っていると、
「理子さんですか?」と後ろから話しかけられた。
マッチングアプリで会う約束をしていた「トモユキ」という男。
動いているので多少雰囲気は異なったが、写真で見た顔と同じだ。
「はい、そうです。理子です。トモユキさんですか?」
「トモユキです。雨降らなくてよかったですね、行きましょうか。」
あらかじめ決めていたカフェに入る。
「何頼みます?」
「あ、じゃあ……黒糖バナナラテのアイス、ミルク多め氷少なめを」
「じゃあ俺も、それで。」
2人の注文が来るまでの間、通常のマッチングアプリと同じような会話を交わす。ただ、トモユキはその気さくさから、いつもより早く、自然に敬語が取れかけていくのを感じた。
私は敬語がなかなか取れないタイプなのだが、トモユキが回してくれる大縄に入り込むように、思い切って敬語を外してみた。
途端勢い余って、考えていた言葉が飛び出してしまう。
「昨日のヒルトーク、見た?」
トモユキは私が敬語を取ったことに特段気にする素振りを見せなかった。
「あぁ、見たよ。理子さんは?」
「見てないけど、ネットニュース見て。雅也って人の。」
「あれね。」と、少し小声になるトモユキ。
「ねぇ、理子さんはさ、雅也、好き?」
突然聞かれた。
アンチコメントを探してネットニュースをサーフィンしていただなんて、初対面の相手に言うことじゃない。
「あ……えぇ、うーん。」
言葉を濁していると、トモユキは更に小声になり、内緒話でもするかのようだった。
「好きだったら本当に申し訳ないんだけどさ……俺、雅也、嫌いなんだよね。」
〜つづく〜
注意喚起
誤解があってはいけないので、追記しておく。
語り手の次の記述がある。
動画投稿サイトU-tubeから違法にアップロードされた「ヒルトーーク!!」の放送の一部を見つけることができた。
などと言っているが、実際は違法にアップロードされた動画を見るのはダメなので注意が必要だ。
ちなみになぜダメなのか?見ただけで逮捕されるのか?は、下記のサイトに詳しい。
上記によると、「違法にアップロードする」ことは逮捕の事例が出ている。(最近までよくあった「ファスト映画」と呼ばれるもので動画作成者が逮捕されているようだ。見てません!)
では、ダウンロードはどうなのか?
(2)違法ダウンロードの逮捕事例
令和3年8月時点では、違法ダウンロードの容疑で逮捕された事例は報道されていません。ただし、この事実を「逮捕されない」行為であると解釈するのは間違いです。違法ダウンロードが犯罪である以上、捜査のために必要があれば逮捕されるおそれがあることは間違いありません。
ダウンロードで逮捕された事例はないが、犯罪であることに変わりはない。
では、動画を再生するのはどうか?
たとえば、動画投稿サイト「YouTube」で公開されている動画は、閲覧に際して一時的にデータをダウンロードするものの、ダウンロードと並行して再生する「ストリーミング」という技術が使われています。ストリーミング再生のためにダウンロードされたデータは自動的に削除されるため、パソコンやスマートフォンなどの端末には保存されません。
政府広報や関係団体の広報においても、ストリーミングなどによる視聴は罪にならないとされているため、逮捕される危険は低いでしょう。ただし、この見解はあくまでも政府・関係団体によるものであり、裁判所の判断ではありません。裁判所がどのような判断を下すのかは明確ではないので、違法アップロードであることが明らかなコンテンツの視聴は控えたほうが賢明です。
これは、罪にはならないとされているため、逮捕される確率は低い。
ただ、見る人がいるからアップロードする人が減らないのであって、見ている人も逮捕されていないだけで、犯罪の一端を握っていることになってしまう。
この問題を考えた時、「Tverで見たことにしようか…」とも考えたが、この語り手はわざわざTverで嫌いな人のこと見るとは思えなかったので、やむを得ずこのような描写をしてしまっている。
ただ、「物語として犯罪の描写」をすることまでは止められないかと思う。最近読んでいた小説も主人公が万引きしていたし、「罪と罰」という小説もある。注意喚起を書くことで、ご容赦いただきたい。
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