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嘘を弔う|ショートショート

その寺では、嘘が弔われていた。

嘘が死ぬ時。

それは、嘘をついた人が死んだ時。
嘘が本当になった時だ。

大嘘寺では、たくさんの嘘が焚き上げられていた。
今日は特に煙が白く立ちこめている。

「粉飾決算した会社が倒産でもしたのだろう、この煙は」

住職の夫はそう言ったが、実は私には既にわかっていた。
煙から、どんな嘘だったのか、見えるのだ。

立ちこめる煙をひとつまみする。
全身に嘘を感じた。

とある老婦人が、嘘をつき通して死んだ。
生涯、愛人の存在を夫に隠し続けたのだそうだ。

私は、その老婦人の人生を思った。
住職の妻である私には一層の貞淑が求められる。
それなのに、その夫から既に何年も抱かれていない。

私は、その煙を身に纏わせるように、浴びた。
老婦人の生涯が体の芯に迫ってくる。

老婦人がまだうら若き乙女だった頃。

彼女は、夫より前に彼を知ったらしい。
高貴な生まれである彼女は、使用人の男に恋焦がれた。
使用人は彼女を令嬢としか見ていなかったが、彼女の熱烈さに絆されていく。

瞼の裏に、彼女の視界を感じた。
ぎこちなく唇を重ねる男。
鮮やかな着物をするすると丁寧に剥がしていく、
ひんやりとした手が添えられる。

何年も、交わっていた。

唐突に、突きつけられる赤紙。
使用人は、背中を向けて去っていった。

やがて、彼女は父親の決めた相手と結婚。
多くの子どもと孫に恵まれて生涯を閉じる。

彼女とともに、彼女の嘘が弔われた。

「このようなことは……初めてなので分かりませぬ」

乙女のはにかんだ声とともに、煙はたちのぼっていく。
煙はだんだんと透明になり、雲へと溶けていった。

(了)


読んでいただきありがとうございます。
ま、この話も嘘なんですけどね……

毎週ショートショートnote(お題:大嘘寺)に参加しています。
田原さん、いつも素敵なお題を考えていただき、ありがとうございます。




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