【掌編小説】開けにくいおみやげ
連休明けの恒例行事のようになっている、おみやげ配り。
休み中に旅行をしていた社員が、デスクを回って個別におみやげを配る。
それ以外の社員は業務に集中して、配られることには気づかない……ふりをしている。
本当はいつ自分におみやげが回ってくるか、そわそわしているのだ。
そして、私もその一人。
すでに「萩の月」「白い恋人」「通りもん」が自席の端に寄せられている。業務がひと段落したら、ホットコーヒーとともにいただこう。
また、誰かがおみやげを配る気配がする。
一瞥すると、法人営業部の松尾さんだった。
私は意外に思った。
だって通常、おみやげを配るのは自分の部署だけだからだ。
松尾さんの顔は一方的に知っている。
法人営業部のトップセールスとして、表彰されていたからだ。
「伊能さん」
名前を呼ばれ、振り返った。
松尾さんが小さな包みを手に乗せている。
「おみやげです、たくさん包み過ぎちゃって」
おみやげを……包む?手作り?そもそも何?どこの?
様々な疑問が頭を駆け巡ったが、何から聞けばいいか分からない。
結局、「ありがとうございます」と会釈して、受け取った。彼は他のデスクへと移っていく。
包みは、私の手のひらにおさまるぐらいだった。水色の薄い和紙が風呂敷のように上部で結ばれている。
「ここで開けないほうがいいよ」
隣に座る先輩に言われた。
「結構広がるから……PCがダメになったりすることもあるみたい」
広がる?PCがダメに?
「信玄餅……みたいな感じですか?」
「そうそう、それ系。家で開けたほうがいい」
先輩は腕を組んでうなずいた。
「それにしても、よく集めたわね。松尾くん。相当旅してないとここまで集められないはずよ。捕まえるのも大変だし」
全部聞き取れたのに、全く意味がわからない。
中身はなんなのだろう、早く確かめたくなった。
定時ちょうどに退社し、家に戻った。
鞄から白い包みを取り出して、ゆっくりとほどく。
なに……?
中には、なにも入っていない。
それなのに、なにかが広がっていく。
急に胸が苦しくなり、ぽすん、とベッドに倒れこんだ。
押し寄せてきたのは、さみしさ。
旅の終わりに現れて、消えてしまう、さみしさ。
松尾さんは、それを捕まえて、一つ一つ包んだのだ。
まったく、なんて開けにくいものを。
一人暮らしの部屋に、さみしさがさまよっている。
こんなに苦しいのに、このさみしさを抱きしめていたかった。
「飼い方、聞いとかないとな……」
(了)
長めのあとがき
読んでいただきありがとうございました。
この作品は、「マスクドnote」の企画で作ったものです。
「マスクドnote」が初めての方へ
マスクドnoteは、本田すのうさんの発案からはじまった、「作者名を伏せて書いた文章は、読者に“誰の作品か”当てられるのか?」という遊び心あふれる企画です。今回は第三弾「仮面文豪会」として、コッシーさんと共同で開催されました。
参加者は匿名(本田さんアカウント)で作品を投稿し、読者が「これはあの人では?」「誰かに擬態してる?」と推理する。そんな、“文体の個性”を楽しむ実験の場になっています。
今回の作品は、すのうさんのアカウントから匿名で投稿され、企画の答え合わせを終えたため、改めて私のアカウントでも公開させていただきました。すのうさん、コッシーさん、素敵な企画をありがとうございます!
第一弾と同じく、覆面作家として参加いたしました。
ただ今回は、「旅」テーマと聞いた時、参加するかどうか迷いました。
最近あまり旅の機会がなく、エピソードにも欠けていました。
そんな時、松尾芭蕉の「奥の細道」の冒頭を思い出したのです。
月日は百代の過客(かかく)にして、行きかふ年もまた旅人なり。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老を迎ある者は、日々旅にして、旅をすみかとす。
ここの「日々旅にして、旅をすみかとす」という言葉が大好きです。私は、毎日の通勤、通学、全て「旅」であるという拡大解釈をしています。例えば営業で外回りをしていて、旅をしている意識の人がいたらいいな、という思いで「松尾さん」という人物を作りました。彼がトップセールスなのは行動量(=旅)が多いからです。本名は松尾細道です(笑)
また、旅の最終日につきまとう「さみしさ」に関してずっと考えたいと思っていました。感じたことはありますか?
急にさみしさに襲われることない?
— 亜麻布みゆ|言の葉みゆフィーユ (@amanumiyu) September 6, 2025
旅行から帰る前日とか。
水泳教室終わった後とかに。
おみやげとして信玄餅のきなこみたいに広がるさみしさを描いてみたいなと思いました。PCがダメになるさみしさです。
語り手は日本地図の第一人者で歩いて測量をした「伊能忠敬」にあやかって「伊能さん」にしました。ここには書かれていませんが伊能さんは営業推進部で取引先の一覧を地図に落とし込む仕事をしているのです。
ちょっと歴史人物の名前を匂わせたオフィスものといえば……と、過去記事、特に固定記事の「人事部付 真田雪乃(←真田幸村)の議事録」のタイトルから推測できるようにしました。多くの方に当てていただいて嬉しかったです。結構女性が語り手で不思議な男性が出てくる話をよく書くので雰囲気から読み取りやすかったのかな……って思ってます。
その他もヒントを散りばめました。
・「萩の月」「白い恋人」「通りもん」→「通りもん」=福岡在住なので
・「全部聞き取れたのに」→バッテリィズのM-1ネタ「全部聞き取れたのに!」→お笑い好き
あまりにもヒント散りばめすぎたので全員に当てられてしまうことを危惧してました(笑)
ちなみにこの話続きを考えてまして、ある程度まとまったら公募に出したいなあと思ってました。
・松尾さんに近づくほどにさみしい、そのさみしさを感じたい
・松尾さんがいなくてさみしくなくなってさみしい
・さみしさの地図を作る
こんな感じで話が進んでいきます。
その続きを書くのに夢中になった結果……
ごめんなさい!
予想送るの忘れてた!><
他の覆面作家さんの、書きかけの感想文とかあるのですが、第二弾の分がまだ終わってない状態で……(一個に時間かけすぎる)送れたら送ります!
副賞について〜「あけおみ」好きに〜
私の作品を当ててくださった方、そして、誰かはわからなかったけど「開けにくいおみやげ」(略して「あけおみ」)好きだな〜と思ってくださった希望者に短歌をお送りしたいです。
普段、Xで短歌を詠む活動をしております。
(短歌以外にもつぶやきがうるさめなのですがフォロー歓迎します)
10月の自選短歌をお送りします✨
— 亜麻布みゆ|言の葉みゆフィーユ (@amanumiyu) November 1, 2025
新聞デビューしたり思い出深い月でした🌕
短歌、小説、noteなどの活動をしてるので、短歌以外の投稿も多くなってしまうのですが、それでも拾って読んでいただいて大変嬉しいです。ありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします❣️#自選短歌月まとめ https://t.co/xU06VR577n pic.twitter.com/UU5CAWnAPD
1度だけですが、新聞に掲載されたことも!
第一回のマスクドnoteではこのような形で詠んでいます。
今回は「作品」に対しての短歌を詠めればなあと思ってます。
初めてでもリピートでも大丈夫です!
クオリティ保証できません、すみません💦
ご希望の方はこちらのコメント欄に
・「あけおみ」の感想(一言で大丈夫です)
・ご自身の詠んでほしい作品
(小説、エッセイなど、なんでもOK、長編は途中まで読ませていただいて詠むかも)
短歌はいいや〜って方も感想だけでもいただけると嬉しいです。
マスクドnote楽しかったですね!
主催のすのうさん、コッシーさん、今回もありがとうございました。
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