日記 足元は花占いの跡ばかり。
今年の年末年始はいつになく穏やかな気持ちで過ごせたなあなんて思っていた1月3日、夫が気だるそうに起きてきた。もうちょっと寝ててくれてもいいのに。夫も息子も起きる前、一人で過ごせるこの時間は、ツツジの蜜のように貴重なのだ。
夫が起きていると、なんとなく片付けをしないといけないような気になって、書いていたnoteを中断する。昨日のマグカップやお皿を洗い始めた。冬はなかなか水がお湯にならなくて、手がちめたい。毎年、冬になると食洗機が欲しくなる。今年も食洗機、欲しくなった。
「やっぱ食洗機欲しいなあ」と言ったら、「ちょっと俺にプレゼンしてみてよ。」なんて言う。ほら、そういうとこ。仕事で管理職で部下がいるからって、私のことも部下みたいに扱う。
「お皿洗ってる時間を他のことに使えるし、その時間他の掃除もできる。心穏やかになれる。」
「うーん…プレゼンとしてはどうかなあ…?要は、時間が捻出できるってことでしょう?」
難しい言葉使ってるけど、一緒じゃん。むしろ私の方がわかりやすい。
「じゃあ、ゆうくんがお皿洗う担当になってよ。今までなんとなく私がお皿洗ってたけど、私作る担当で、ゆうくん洗う担当にしたらいいじゃん。」
そう言うと、ちょっと怯んだみたいで、
「まあ、食洗機の場所が取れるかどうか次第やな。」と、投げやりに返答した。やっぱそういうとこ。強気なら強気を貫けばいいのに。論破してしまった気まずさ。
そのうち2歳の息子も起きてきた。今日は、入院中の実父の見舞いに、福岡から佐世保まで行く。遠出なので、息子には良い服を着せたい。先日ららぽーとの子供服店で買った服を初めて下ろすことにした。
息子の服は夫が選んだ。深い青と黒のバイカラーで、お腹にポケットがあるデザインだ。一見シンプルに見えたが、着せると息子に驚くほど似合っていた。夫は自分が着る時も、息子に着せるときも、服のチョイスが優れている。私には到達できない領域だ。こういうところを見ると、私には勿体無い人のように感じてしまう。
「ゆうくんって服のセンスいいよね。」とほめると、
「だろ〜?おしゃれっていうのは、引き算なんだよ。」と最もらしいことを言う。
佐世保に向かう車の中で、息子は「はらぺこあおむし」の歌を動画に合わせて口ずさんでいた。「はらぺこあおむし」の絵本のストーリーを歌にしたものだが、様々に曲調が変わって面白い。特に、息子は「月曜日、月曜日…」のところを繰り返し歌っていた。
げつようび げつようび りんごをひとつ たべました
それでも あおむしは おなかがペッコペコ
息子がおぼつかない口元で、可愛らしく歌っていると、運転している夫が口を挟んできた。
げつようび げつようび 少年ジャンプの 発売日
それでも やっぱり ハンタは休載中
夫はよくこうやって替え歌をする。そして「俺の替え歌センス、すごくね?」と自画自賛するのが常である。替え歌だけではない。しょうもないダジャレに、しょうもなさすぎるなぞなぞをいつも考えては、「俺のセンス、スゲーー」ってなっている。例を挙げようとしたけど、下品のばかりなのでここで出しにくい。「既婚者トーマス」とか「Q.アメリカの有名な企業の笑い方は?A.ガーファファ(GAFAだから)」とか、そういうのばっかりだ。いきなり出されると、どんな険悪な雰囲気でも吹き出してしまうから、悔しい。
予想されていた渋滞は少なく、早めに現地に着いた。合流する予定の母に連絡すると、まだ別の用事が済んでないらしい。そのため現地と別の場所に変更しようとすると、夫が気色ばんだ。
「え?11時に、ここって言ってなかったっけ?」
そうは言ったけど、渋滞を鑑みて早めに集合にしていたのだ。それで、母への連絡と、行き違ってしまった。この場所は近くに子供の遊び場もあるから、そこで息子を遊ばせればいいと、言った。
「息子くんの遊び場があるなんて聞いてない。Where is 計画性?」
と、夫が皮肉っぽく言ったので、ため息をつきたくなった。
息子の遊び場があるっていうのは言ったはずだ。こういう言った言わないの議論の時、夫はすぐ自分が正しいことを主張して、私に責めを負わせる。聞いてなかったんじゃないか。自分にも間違うことがあるって考えないんだろうか。昨日だってアジフライとおでんどっちがいいか聞いて、おでんっていうからおでんを温めたのに、「アジフライって言ったよな」とか言って…そんなことまで思い出されて、怒りが沸々湧いて、口も聞きたくなくなった。
母と合流しても私はしばらく拗ねていた。だが、お見舞金をどうやって渡すか、という打ち合わせをして、その台本っぽさに、心が和んだ。さっき何で怒ってたか覚えているものの、もうリアルな怒りは感じることができなくなった。
病院の面会時間は15分。感染症対策で大人2人しか入れないため、息子を母に預けて夫と2人で父を訪ねた。父は先月怪我をしているが、快方に向かっていると聞いていた。
面会の待合室に椅子があったので座ろうとしたら、
「病院の椅子は感染症の原因になるから座らない方がいい。」
と夫が言う。夫はこういう変なところで潔癖なのだ。私は潔癖を前にすると苦しくなる。特にコロナ以降、潔癖の地位は上がっている。潔癖はまるで正義のように振る舞う。自分が間違ってるんじゃないか、実は汚いことをしているんじゃないか、という気にさせられる。
仕方なく、立ったまま面会時間を待った。病院は華やかな雰囲気で、猫足のテーブルの上に淡いピンクの薔薇を生けた花瓶があった。それを見た夫が、「時間が来たらこのテーブルの下がゴゴゴゴ…って開いて、そこから面会に行けるよ。」なんて言う。待ち時間が思いの外長く、しびれを切らして「やっぱ座ろうか」と。いいのかよ。
父は元気そうだった。息子と母を迎えに行って、帰路につく。母を家まで送ったあと、遊び疲れた息子は車の中で爆睡していた。この時ばかりは、好きなものの音声を流そうと、夫は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を流し始めた。
「これ好きでさ、もう最初覚えちゃってるんだ。…原因はなんです?重量が3キロ減った原因は!」
いつも、こんなことを言う。夫は大のガンダム好き。いや、ガンダムだけではない。少年が好きなもの、大体好きだ。私は、結婚するまで漫画もアニメも触れたことがなかった。私のエンタメはほぼ文学小説のみで、それだけで十分だと思っていた。結婚してから、カイジ、進撃の巨人、ワンピース、ゴジラ、ガンダム、マーベル…が好きな夫に勧められて、怖いシーンもあったものの、見てみると新しい世界が広がったような気がした。趣味が完全に合う人と結婚するのもいい。だが、相手の趣味に興味を寄せることで、自分が広げられることを実感した。これは結婚して良かったと思うことの一つだ。
でも、書けない。手放しに夫が好きとか、愛してるとか、そういうことが書けない。好きな時はちゃんと好きで、嫌いな時は、ちゃんと嫌い。
今日一日でもそうだった。新婚の頃からずっとそうだし、今後ずっとそうなんじゃないかって思う。
旦那さんが好き、奥さんが好きだと書ける人が、羨ましい。そういう真っ直ぐな愛がある人が書くものは、あまりにも眩しくて、直視できない時がある。
私は、花占いをして過ごしてるんだと思う。
好き、嫌い、好き、嫌い…と言いながら、一つずつ花びらを落としていく。
私の足元は、花占いの跡、花びらでいっぱいになってるだろう。
せめて最後は好きで終わりたい。
でも、そうしたら寂しすぎるから、やっぱ嫌いで終わってやろうかな。
ちなみに、夕食にと、母が長崎名物「大村寿司」を持たせてくれた。それを知ってるにも関わらず、夫は「『想夫恋』の焼きそばが食べたい」と、テイクアウトした。どっちも消費期限は今日までだ。結局、「大村寿司、結構ボリュームあるね〜」とか言って食べきれなかった。
Where is 計画性?
(了)
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