【植物×アート】#04 オフィーリアが握る赤い花。ラファエル前派と毒草の美学
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植物の情報サイト『ラブリープランツ』及び、noteブログ『lovely plants@note』の管理人。美大卒・学芸員資格保有者が【植物×アート】をテーマに、植物の魅力を新たな視点から読み解く物語をお届けします。
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ロンドンのテート・ブリテンで、ミレイの《オフィーリア》の前に立つとき、多くの人がその美しさに息をのみます。川に浮かぶ乙女、色とりどりの花々、まるで眠るような穏やかな表情――しかし、よく見てください。オフィーリアの手元から、赤いケシの花が流れ落ちています。
これは単なる装飾ではありません。ケシは「死」と「眠り」の象徴であり、この美しい場面は実は溺死の瞬間なのです。
19世紀の画家たちは、なぜ「毒を持つ植物」を、美しい女性とともに描いたのでしょうか?
三つの毒草――植物学と文化史
1. ベラドンナ(Atropa belladonna)――「美しい女性」という名の毒

植物学:
ナス科の多年草
全草に猛毒アルカロイド(アトロピン)
黒紫色の艶やかな果実
致死量: 果実2〜5個
「美しい女性」の由来:
ルネサンス期のイタリア。貴族の女性たちは、ベラドンナの汁を目に垂らしていました。すると瞳孔が散大し、うるんだ大きな瞳になります。「Bella donna(美しい女性)」という名は、この危険な美容法から生まれました。
代償は大きく、視力低下や失明のリスクを伴いました。美のためなら命さえも――この植物は、まさに美と危険の象徴なのです。
学名の秘密:
属名"Atropa"は、ギリシャ神話の運命の三女神の一人、アトロポス(命の糸を切る者)に由来します。
2. ジギタリス(Digitalis purpurea)――妖精の指ぬきと心臓の薬

植物学:
釣鐘状の美しい花(ピンク〜紫)
全草に強心配糖体(ジギトキシン)
英名: Foxglove(狐の手袋)、Fairy's glove(妖精の指ぬき)
薬と毒の境界線:
18世紀末、イギリスの医師ウィザリングがジギタリスを心臓病治療薬として確立しました。しかし適量と致死量の差は紙一重。ゴッホが晩年に見た「黄色い光輪」は、ジギタリス中毒の症状だったという説もあります(てんかん治療で服用していた可能性)。
イギリス文化との結びつき:
ケルト神話では、妖精がこの花を指にはめて森を歩くと信じられていました。ヴィクトリア朝の花言葉では「不誠実」「私は誠実ではない」――美しいが触れてはいけないものの象徴です。
3. ケシ(Papaver somniferum)――眠りと忘却の花

植物学:
学名"somniferum"は「眠りをもたらす」
大輪の儚げな花(白、ピンク、赤)
未熟な果実からアヘン、モルヒネを採取
神話と歴史:
ギリシャ神話: 眠りの神ヒュプノス、夢の神モルフェウス(morphineの語源)の象徴
古代から鎮痛・鎮静薬として使用
19世紀: 阿片戦争、文学者・芸術家の常用
芸術家とアヘン:
詩人コールリッジは阿片の夢の中で『クーブラ・カーン』を着想し、ボードレールは『悪の華』で「人工楽園」を謳いました。多くの象徴主義の芸術家たちが、阿片やハシシュを「創造の源泉」としていました。
ミレイ《オフィーリア》――死と美の完全な融合

作品情報:
作者: ジョン・エヴァレット・ミレイ(John Everett Millais, 1829-1896)
作品名: 《オフィーリア》(Ophelia)
制作年: 1851-52
技法: 油彩、カンヴァス
サイズ: 76.2 × 111.8 cm
所蔵: テート・ブリテン(ロンドン)
題材: シェイクスピア『ハムレット』第4幕第7場
場面:
狂気に陥ったオフィーリアが花を摘みながら川に落ち、溺死する――しかし彼女は苦しまず、まるで眠るように水に沈んでいく。
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