つぶやき物語【看取1~看取45 】のまとめ(冒頭に【先月のあらすじ】追記)
【看取1246】~は、7/7(月)スタート(o^-^)b ※物語の最初からお読みの方は【先月のあらすじ】を、初めてお読みの方は【前書き】から、ご一読頂けると大変嬉しいです。
【先月のあらすじ】
眠っている父の寝顔を眺めていると、脳裏を過るのは彼に嫌われ続けた忌まわしい幼少期の記憶で、年子の弟だけを寵愛し、当て付けの様に疎まれ、褒め言葉が与えられる事は皆無だった。
嫌われた理由は想像するしか無いものの、決定的な瞬間は鮮明に覚えていて、ある日に弟が不在の理由を母へ尋ね、父と花火大会の見物に出掛けたと聞いたので、手ぐすねを引いてする直訴の準備。
やがて二人が戻って来たので父に講義をすると、私を一瞥して「お前はうっとおしいんだよ」と鰾膠も無い台詞を吐き捨てられると、勘の鈍い私でも流石に、父親から嫌われている現実を突きつけられる。
その後は事有る毎に私だけが叱られ、母からも庇ってはもらえず、不服そうな顔を見せ様ものなら容赦無く怒声が浴びせられ、次第に自分はこの家に不要な子だとの重い十字架を背負わされた。
【看取46】へ続く。
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【前書き】
若い方でも居られるかもしれませんが、ある一定の年齢以上になると、両親共に逝去されている場合が多いと思います。
私は16年前に父を、4年前には母を亡くしましたが、還暦を迎えるとそれも珍しくは有りません。
しかし介護もしておらず、現役の会社員だった私が、両親共に看取る事が出来たのは、息子としては有り難く果報者。
そこで今回は、父との関係性や長男としての複雑な思いを、つぶやき物語として綴って行きます。
看取1【生き仏の如き様】
ベッドの傍らの椅子に腰掛け、眠る父の胸を摩り続けていた。
「この人はどうして、私をあんなに嫌ったのだろう」と、心の中で呟くと、ふと漏らす深い溜め息。
半年以上も意識は戻らず、呼吸器には繋がれているが、目を閉じたその表情は穏やかで、元気な時に見た記憶は殆ど無い。
看取2【合点し当然の報い】
遡る事4年前、父が入院したと母から連絡が有り、息子3人が召集される。
肺に癌が出来ていて、検査結果から早期発見であると診断されたが、取り急ぎ摘出手術が必要との説明。
1本でさえも吸わない人なのに、パチンコ屋に通い詰めた挙げ句の、受動喫煙の弊害が齎されたのだ。
看取3【仇となりし画策】
父が厄介だったのは、自分勝手に振る舞う反面、気が弱い臆病な性格の持ち主。
彼のすぐ下の弟が、「癌と判ると兄貴は落ち込むから、言うなよ」と戒厳令を敷き、完璧に実行された。
この頃は告知が義務化されておらず、本人へは只の腫瘍と伝えたが、結果的には見事に裏目と出る。
看取4【後は野となれ】
医者嫌いの為に手術初体験となったが、「生命保険から金が出るから、もらったら競馬に使える」と上機嫌。
そして摘出は成功に終わったが、給付額を増やそうと退院を渋り、先延ばしを図る。
結果的にリンパ節へも転移は見られなかったが、父は治療を続ける事を微塵も考えなかった。
看取5【因果応報の狼煙】
手術の2年後、「肺癌が再発し、今回は胃にも転移している」と、母からの緊急連絡。
父は退院以降、診察や検査を一切受けず、好き放題に過ごしていたが、紛れも無い天罰は末期へと誘う。
医師は私達へ「もう帰宅は叶いません、そのつもりで」と言い放ち、余命数ヶ月と宣告した。
看取6【悲しみ無き終焉】
病院の廊下で母と息子達が集まり、医師の告知からは、持って年内の命であると理解した。
ここで下の弟が、「親父が先で良かったな」と言い出すと、みんな一斉に大きく頷き、誰も挟まぬ異論。
もし彼が後に残ったら、面倒を見るのが厄介との意味だが、関係性の歪みが露わになる。
看取7【継承されし悪癖】
前回と同じく父は自分の病状を知らず、また給付金をせしめる事が出来る位に軽く考えている。
私が見舞いに行くと元気一杯で、周囲へ聞こえるのも憚らず、喋りまくる医師への文句。
この調子では、かつて祖母がされた様に、強制退院を宣告されるかもしれないと、不安に襲われた。
看取8【零れし魂の喘ぎ】
見舞いの翌日、父が病室で騒ぎを起こしたと、母から連絡が入った。
その模様を聞くと、「建物の下敷きになるぞ、早く逃げろ」と、部屋中に響く怒鳴り声。
主治医は、「幻覚を見たのでしょう」との診断をしたが、私には少し引っ掛かる事が有り、恩師に相談してみようと思い立つ。
看取9【授かりし使命】
御霊様を祀って頂いている教会へ参拝し、病院での騒動についてお尋ねした。
一部始終を聞いた恩師は、「見られたのは予知夢であろう」と、賜るお言葉。
「あなたは今日お父さんの所へ行き、話を詳しく伺って、私へ伝える際は自分の感想は加えずそのままで」と、指令を発せられた。
看取10【息吹き返すが如き豹変】
見舞いに行くと、こっぴどく叱られたのか、父は借りて来た猫の様に大人しい病人然。
私は「教会の若先生から詳しく話を聞かせて欲しいと言われた」と告げ、ベッド脇の椅子へ腰掛けた。
すると憔悴し切った彼の表情は赤みを帯び、その際の情景を一気呵成に捲くし立てる。
看取11【披露されし予知夢】
父の口述を聞き取ると、自分の感想が混ざらない様、詳細を忘れない内にと、急ぎ参拝する。
「赤ん坊を抱いた女性がぽっかりと開いた大きな穴の淵に立っていたので……」と、報告する彼の見た情景。
目を閉じたまま私の話に耳を傾けていた恩師は、「なるほど」と深く頷いた。
看取12【手繰り寄せし命綱】
目を見開いた恩師は、「赤子は父上で、佇んでおられる婦人は30年前に亡くなられた彼の母君じゃ」との説示。
「このままでは幽世へ連れて行かれる、参拝は叶わんか?」と私へ問う。
外出が許可されない旨を伝えると、「お導きせんといかんな」と先生はご祈念を始められた。
看取13【呑気な終末期】
翌日の昼に母から連絡が入り、父が勝手に病院から家へ戻って来たとの事。
詳細を訊くと、看護師の目を盗みパジャマのままで、階段を使って抜け出すと、タクシーを捕まえて帰宅したらしい。
今の様子を尋ねると、余命を聞かされていない彼は、何喰わぬ顔でお茶漬けを食していた。
看取14【嘆き止まぬ伴侶】
脱走行為に呆れ果て、その日は実家を訪れなかったら、夜にまた電話が鳴る。
父が昼過ぎに突然、「おい、教会へ行くぞ」と言い出すと、母へ介助を命令しタクシーにて夫婦で参拝。
「今まで殆ど行かなかったくせに」とぼやき、「病院へ謝るのも私だし……」と愚痴を溢し続けた。
看取15【掌中に収めし百薬】
私が教会を訪れると、「あんたのお父さんは『先生、儲けましたわ』と言いながら来られた」と恩師は苦笑い。
歩行が困難な為、玄関で靴を脱ぐと杖は使わず、畳の上を這う様に駆け寄ったらしい。
その後も2回の参拝を果たしたお陰で、余命は1年半以上も延びる結末を迎えた。
看取16【刻み込まれし関係性】
退院したので実家へ見舞いに行くと、父は呑気にTVを観ていて、反省の色は全く伺えない。
余命宣告をされているので重病人に違いないが、本人は全く知らないので、駆られる事も無い不安。
いつも通り私は労いの言葉を頂けないが、幼少期からの習いで慣らされてしまった。
看取17【突飛なりし親心】
急に気付いたかの様に視線を向け、「この間のは使ってるか?」と父は私へ尋ねた。
病室を訪ねた際だったが、「お前にこれをやろう」と、腕から外して差し出す陳腐な時計。
「俺はまた買うから」とお古を渡すのかと呆れていだが、あれは彼なりの形見分けだったのかもしれない。
看取18【灯りしも風前】
勝手に脱走したので、元の病院で診察は受けられないのは当然だが、本人にもその気は無い。
そこで自宅での療養に切り替える為、母は知人に教えてもらい、新たに依頼する訪問医師。
流石に痛みの症状が出ていたので、渋々ながら薬を服用するも、次第に体の自由は奪われて行った。
看取19【見え隠れし予兆】
母は役所へ問い合わせ、介護認定を受けるべく準備を進めて行った。
数週間後に市の担当者が尋ねて来て、どの程度の状態かを調査する為に、名前等の簡単な内容から始まる聞き取り。
だが馬鹿にされたと感じた父は、「おちょくっとんか!」と怒鳴り出したが、勘違いも甚だしい。
看取20【手慣れし遣り口】
何とか要介護の認定を受けたので、評判が良いと親戚から薦められた女性のケアマネと契約をした。
まあとにかくお喋りな人で、機関銃の様に次々と繰り出される提案。
対象となる父との相性を心配したが、一言挨拶した後は本丸と見た母へ照準を合わせる、熟練の技を展開させる。
看取21【再現されし泥沼】
ついに父の我儘放題の自宅療養と、母の我慢を強いられる介護の日々が始まる。
当初から身勝手な行いで夫に振り回され、口煩くお節介が過ぎる姑に纏わり付かれる、楽しい思い出の無い結婚生活。
一旦は病院で臨終を迎えると安堵したのも束の間、辛く長い戦いの幕は開けられた。
看取22【続けし放蕩】
父は単車屋を開いていたが、場当たりで大量仕入れをし、利益度外視の経営を進めてしまう。
学歴に引け目を感じていた反動で、見栄を張りたいか為に支店を増やし、膨れ上がった負債は最終的に1億円。
だが借金返済の面倒は母へ押し付けて、下戸なのに夜はキャバレーへ通い詰めた。
看取23【繕いし外面】
父は朝は起きて来ず、昼になると家を抜け出して、帰宅は午前様。
だから小学生の間、寝ている所しか知らないので、彼が動いている姿は殆ど見ていない。
では夜までは何をしていたかと言うと、手土産を携えてメーカーの営業所へ入り浸り、女性社員の気を引こうと躍起になっていた。
看取24【歪められし純心】
小学生時代に顔を合わさない父の行状を、私が詳しく知っているのには訳が有る。
気の短い夫へは全く逆らえず、意地悪な姑には抑え付けられ、そんな母が捌け口に選んだのは幼い我が子。
更に親類縁者の良くない噂まで吹き込まれた為、一族が集まる場所では何だか居辛くなった。
看取25【狙いし起死回生】
次第に借金で首が回らなくなって来たので、父が周囲の反対を押し切って挑戦したのがコンビニ経営。
卸市場から格安品を仕入れ、それなりの値段を付けて売り捌く。
更に手作り弁当を始めたら流行り出し、明け方に立ち寄るトラック運転手へは、内緒でビールを提供し荒稼ぎした。
看取26【無謀に思えし策】
父の癌が最初に見付かったその1年前にはコンビニ店も閉鎖し、両親は隠居生活を満喫していた。
だが業種変更をした当初には1億円の負債を抱えていた為、並大抵では跳ね返せない逆境。
そこで苦し紛れに捻り出した作戦が、契約で強いられてもいない24時間営業の敢行である。
看取27【垣間見えし情景】
バイトを雇うと経費が嵩み管理も厄介だと、母が朝から夕方までを、父がその後を引き継ぐ形で開始する。
多くの客と触れ合う小商いが楽しかったのだろう、あの働く事が嫌いな人が大変身。
だがその反動で夜遅く覗きに行くと、彼はいつもレジ前の椅子に腰掛けて船を漕いでいた。
看取28【暴かれし虚像】
私が見た情景に感動したと伝えると、「とんでもない勘違い」と、母は呆れ顔で愚痴を溢し始める。
聞けば父は朝早い内に卸市場で仕入れを済ませると、夜に備えて本来すべきは体を休める睡眠の筈。
だがその予想に反して向かう先はパチンコ屋で、交代時間を何度も遅れていたのだ。
看取29【伸びし鼻の下】
新たに始めたコンビニの傍らに総合運動場が有り、周囲には店屋が一軒も無く、その状況が奏功する。
そこで競技会が催される度にお昼前後は、弁当や飲み物を求め、押し寄せる中高生の群れ。
その盛況振りに対応すべく近所のご婦人3名を雇い入れると、女好きの父はご満悦だった。
看取30【鷲摑みし多幸】
このコンビニは片側3レーンの幹線道路沿いに位置し、停め易いからと大型車が明け方に詰め掛ける。
実は店の向かいに紡績工場が在り、トラックが開門の数時間前に到着して、強いられる待機。
そこで運転手は弁当に飲み物、菓子や雑誌等を買い込むので、高い客単価を叩き出した。
看取31【近寄りし終焉】
自宅療養も1年、実家を訪ねると父はTVを観ながら転寝していて、安らかな表情を浮かべている。
だが彼が横たわるいつもの布団は片付けられ、代わりに見慣れない可動式の介護ベッド。
起き上がるのも簡単では無くなり、ケアマネへ手配を依頼したらしいが、衰弱は加速していた。
看取32【瓦解し男の矜持】
実は先週まで父は一人で用を足していたそうだが、今はトイレへ到達するまで持たない。
そこでヘルパーは紙パンツの装着を勧めるが、プライドなのか恥ずかしいのか断固拒否する内弁慶。
だが自力で動けなくなるにつれ、文句を言う口数は減り、抵抗する意志さえも奪い去られた。
看取33【微笑まし回想】
眠っている姿を眺めていて、父はメーカーの招待でよく海外へ旅行していた事を思い出した。
だが十歳で小学校へは通えず、家業の自転車屋を手伝わされた為、ローマ字では書けない己の名前。
そう言えば私が中2の時にハワイへお供をしたが、帰国の際は代筆させられた記憶が蘇る。
看取34【長閑なりし対応】
更に私が大人になってから知ったのたが、父は驚く事に名前を漢字でさえ書けなかったそうだ。
だが銀行からお金を借りる際には自署が必要な筈で、どうやって乗り切ったのだろうと母へ試みる質問。
「同席して代筆させられた」と聞くと、全く不謹慎な処理だと呆れ返ってしまう。
看取35【伺えしその精神性】
ここまで振り返り、改めてその生い立ちに思いを馳せると、悲惨な幼少期だと気付かされた。
父を病で亡くし、その後すぐに再婚してしまう母に対し、抱いたであろう怒りや失望感。
その苦境への反発から、二十歳で店を構えた彼だからこそ、甘えたな私を嫌ったのかもしれない。
看取36【溢れし恨み節】
寝ている父を起こさない様に部屋を出て、隣の台所へ移動すると母がお茶を入れてくれる。
ただその際に見せた疲れ切った表情は寄る年波の性では無く、長期に渡る介護生活の苦闘がその元凶だと示唆。
そして心に溜まった鬱憤を晴らそうとしたのだろう、私へ愚痴を投げ付けて来た。
看取37【いと悲し老後】
1億円に及んだ借金も返済を無事に済ませた両親は、店を畳んで隠居生活を始める。
そして仲の良い叔父夫婦を伴い国内旅行を楽しむが、費用を丸抱えする見栄っ張りの旦那に母は御冠。
更に余命宣告で病院で終焉を迎える筈が自宅介護へと急変し、不満と負担は増加の一途を辿った。
看取38【唯我独尊し蛮行】
介護認定を受けた後、母はデイサービスに体験で参加させたが、父は自分勝手な性格を発露させ騒動を起こす。
先ずは迎えが遅いとの文句から始まり、続いて昼食で味が薄いと付けるいちゃもん。
遂には「年寄りばかりで辛気臭い」と言い放つと、終了時間を待たず強引に帰宅した。
看取39【明かされじ本心】
介護生活も半年が過ぎると足元が覚束なくなり、お風呂へ入れて頂くサービスを受け始める。
当日は大容量の浴槽が持ち込まれ、男性2人掛かりで運ばれて行く父。
それでも笑顔は見せないし感謝の言葉も発しないものの、実は気持ち良かったらしく、その夜はいつも上機嫌だった。
看取40【明滅し命の灯】
母が介護で最も困ったのがトイレだそうで、それは一人で行こうとして間に合わず、洩らしてしまうから。
勿論その後始末が出来る筈も無いので、紙パンツの着用を懇願するも、父は頑として拒否。
だがその抵抗も虚しく、暫くすると自ら起き上がる力も失い、遂に寝た切りとなった。
看取41【変節し我が情念】
自力で動けなくなって半年が経過し、見舞いに行くと眠っている事が多くなった。
「元気か?」と声を掛けると、父は閉じていた目を薄らと開くが、次の瞬間には戻ってしまう夢の中。
いつも私の姿を認めると文句と嫌味しか吐かない人だったが、今となってはそれさえも懐かしい。
看取42【我ながら悲し風体】
眠っている父の傍らに座り寝顔を眺めていると、彼に嫌われ続けた忌まわしい幼少期の記憶が頭を過った。一つ違いの弟だけを寵愛し、当て付けるかの様に疎まれ、与えられる事が皆無の褒め言葉。
やはり二重顎に埋もれた表情や膨れ上がった巨漢も影響していたのかもしれない。
看取43【仁王立ちし論客】
嫌われた理由は訊けないので想像するしか無いが、決定的な瞬間は鮮明に覚えている。
年少の私が保育園から帰宅するも空腹が原因で、夕食が終わるまで気付かなかった弟の不在。
そして母へ尋ねると父と花火大会の見物に出掛けていると聞き、猛抗議で訴え様と二人を待ち構えた。
看取44【突き付けられし落第点】
やがて二人が戻って来たので、「何で僕も連れて行ってくれないの?」と駆け寄る。
すると私を一瞥した父は、「お前はうっとおしいんだよ」と鰾膠も無く吐き捨てる台詞。
その場の空気は瞬時に凍り、勘が鈍い幼子でも流石に、親から疎まれている事実を心に刻み込まれた。
看取45【掛けられし呪縛】
その後は事有る毎に私だけが叱られ、母は「鈍臭いのよ」と言い、庇ってはくれない。
不服そうな顔を見せ様ものなら「文句が有るなら出て行け」と、容赦無く浴びせられる怒声。
そして「自分はこの家には要らない子なんだ」と心に刻印が打ち込まれ、重い十字架を背負わされた。
