『キュートハウス』
「君たちは私の信徒だ。だが、およそ信徒というものに何の意味があるか。
君たちはまだ君たち自身を探し求めなかった。探し求めぬうちに私を見出した。信徒はいつもそうなのだ。だから、信ずるというのはつまらないことだ。
いま私は君たちに命令する、私を捨て、君たち自身を見出すことを。そして、君たちのすべてが私を否定することができたとき、私は君たちのもとに帰ってこよう……」
ーーーーフリードリヒ・ニーチェ 『この人を見よ』より引用
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全人類の疲れが弾け飛び、全人類が強烈な「愛」で包みこまれ、画面の向こうの存在だけを意識させられた。まるで蛾が強い光に惹きつけられるように、みな、彼女らを仰ぎ見た。
「クァシンちゃん、あかりちゃん、リザヴェータちゃん、ちなちゃん、エレーナちゃんはやはり「QQQ」の中でも特別に可愛いですね。歌もダンスもトークも超一流。……言葉を失いそうです。」
GAFAのCEOや各国の首脳陣などがプライベートで集まり、その姿を配信し、「QQQ」のメンバーを褒め称えるほどに彼女らは人々を魅了していた。世界最高の権力者・富裕層でさえも彼女らのために集まり、彼女らにその姿を讃えていることを皆で知らせるためだけにそのような行為に走るほど「QQQ」は絶対的な存在であった。NHKにより「QQQ」のライブ映像が生で世界に配信されている中、全テレビチャンネル、ネットの様々なインフルエンサー、メディア、大衆なども「QQQ」にのみ目を向け、普段は「ルッキズム」・「メリトクラシー」・「性的搾取」がどうやらこうやらと賢ぶって耳障りな蛙のように聞くに耐えない鳴き声で鳴きながらも、「QQ Q」を賞賛するような話しかしていなかったのである。
「――「QQQ」の中でも「キュートハウス」出身者はレベルが違いすぎます。生まれた時に全世界からかなり厳しい審査を経て選抜された彼女らは、0歳から18歳まで「キュートハウス」でメイク、歌、ダンス、トーク術、演技、ピアノ、料理、裁縫、語学、ファッション、整形、発声などについて超一流の現役アイドルやモデル、インフルエンサー、歌手、声優、料理人などから直接指導を受けます。
「キュートハウス」卒業生は、世界トップレベルにお金を稼ぐことが可能で、しかも、国への圧倒的な貢献度と将来性を評価され免税特権も持っており、誰からも知ってもらえ承認されるので、世界の女の子はみんな、「キュートハウス」に入ることだけを夢見て生まれてくると世間一般的に言われています。
世界史上、最も偉大なアイドルであり最も人の役に立っているとされる彼女らにはその評価を得るまでの圧倒的な努力があり、それに対する絶大な報酬を我々は返すべきなのです。」
アメリカ合衆国大統領は、「キュートハウス」について皆の前で熱弁した。各国の首脳陣やGAFAのCEOなどがそれに対し、共感と称賛の拍手を送る中、日本の女性首相がとても誇らしげな顔で、
「ここにいる皆様なら当然知っている事と存じますが、国立「キュートハウス」は、バブルが崩壊し、危機を感じた当時の首脳陣が苦悩の末に生み出した日本のアイドル養成機関です。
日本は、アニメ・ゲーム・漫画などエンタメの分野で特に世界的に力を示してきた国家です。そういった日本の性質を鑑みた当時の首脳陣は国家公認アイドル養成機関 「キュートハウス」を作り、上手くいけばエンタメの中でも特に金を産み人々を最も幸せにできる「アイドル」というエンタメで日本国内を豊かにし、世界と戦っていくことに決めたのであります。
先ほど、アップルの代表取締役が絶賛していた5人は、「キュートハウス」の1期・3期・6期・7期・9期の首席卒業生たちであります。彼女らは1万人の中から最大10人しか卒業できない「キュートハウス」を見事、首席で卒業し、「QQQ」を立ち上げ、我が国がバブル経済期よりも素晴らしい経済成長を遂げる非常に大きな一因となってくれました。
GDP・GNP・GHP世界1位や経済成長率世界1位を達成し続け、犯罪率・自殺率・精神疾患率を大幅に低下させ、そしてこうして皆様に日本国がとてもいい国であるとみなしてもらえるのもアジア人や女性が世界で白人や男性以上の地位につけたのも全ては「キュートハウス」出身者のおかげであると存じております。
」
――――「キュートハウス」出身者は、実際の見た目やスキルなどもすでに卓越しており人類史の中でも群を抜けて可愛いのにも関わらず、「キュートハウス」というGAFA・ハーバード・ルイヴィトン・エルメスなどでさえブランドとして低レベルに感じるほどの世界最高級のブランドを通し、超一級品の歌やダンス、演技、演奏、ライブなどを使用できるという点でも、世界の人々ーー特に、より高齢でより弱いような人類の中で圧倒的多数派の人々に対し、「ブランド品」としてバフがかかり実際よりも数段階上の存在として見られるというのもあって、これまでの女たちの可愛さとは比べ物にならないほどの脳を犯し洗脳してしまうような破壊力がある「可愛さ」を有していた。「かわいいは正義」という真理を体現した彼女らに対する日本の首相の賛辞は全て的をいていたし、彼の賞賛だけでもまだ全く彼女らを褒め称えるのには足りなかったのはその場で食事をしながら「QQQ」のライブを楽しんでいる皆の顔を見ればわかった。その不足分を補うように、そこにいるすべての人々が「QQQ」に金銭や豪邸、プライベートジェット、ブランド品などを貢ぎ始めた。その総額は、先進国の1年間の国家予算を優に超えるもので、「QQQ」に所属する「キュートハウス」出身者の経済効果は圧倒的であった。「キュートハウス」のアイドルと直接会ったり個別で話したりするのはここにいるような権力者・富裕層ですら叶わないとしても彼らの横には「ピンクハウス」出身者の女たちがついていた。
「「キュートハウス」出身者は、本当に可愛いなんて言葉じゃ表せないくらい綺麗な神みたいな子たちなんですよ。私たち、「ピンクハウス」出身者なんてあくまでも量産型で直接話せたりするのに価値があるんです。」
「いやいやそんな事ないさ。もちろん、「キュートハウス」出身者は神のような存在だけど、君たちもかつてのトップレベルのアイドルに余裕で勝ってるレベルに顔もスタイルもいいし、歌もダンスもトークも上手いし、愛嬌もものすごくあるじゃないか。」
実際、男が「ピンクハウス」出身者に嘯いたことはすべて正しいと言わざるを得ないレベルに「ピンクハウス」出身者はレベルが非常に高かった。ギャラ飲み嬢やラウンジ嬢、キャバ嬢、風俗嬢、デリヘル嬢、グラドル嬢、AV女優などーーアイドルにしかならない「キュートハウス」出身者と異なり、「ピンクハウス」出身者はアイドル以外の性産業や接客業などに就いていたが、本当にかつてのトップレベルのアイドル以上のレベルと言っていいほどのレベルであった。また、「ピンクハウス」出身者が活躍することにより、パパ活やたちんぼなどの違法風俗ビジネスの需要が低下していき、性がより健全に提供されるようになったという社会的意義も「ピンクハウス」にはあった。
「
私たちなんて時給換算で言ったらせいぜい10万円〜100万円レベルですけど、「キュートハウス」の子なんて当たり前のように億単位ですよ。あの子達は、免税特権もあって誰からも知ってもらえるレベルの圧倒的な知名度もあってめちゃめちゃ認めてもらえる。
だから女の子はみんな、「キュートハウス」に入れなくても入ってる姿を妄想し続けて夢を見続けるんです。
まあでも結局は、顔面偏差値80以上ないと「キュートハウス」には入れないんですけど、ない人がほとんどなのでみんな入れません。みんな憧れる「キュートハウス」と違って、金額的なところだけ考えてみても「ピンクハウス」の私たちってほんとレベル低いんですよ。私も「キュートハウス」に入りたかったな。」
富裕層が海外に逃亡せず、多額の納税をし続けてくれるのも大衆が仕事や勉強に明け暮れるのも「キュートハウス」出身者とより深く関わることのできるインセンティブを国から受け取ることができるからであるし、日本が各国に賞賛され膨大な支援金を獲得し、犯罪率や自殺率などが急激に低下したのもすべて「キュートハウス」出身者のおかげであると言っても過言ではなかった。しかし、「ピンクハウス」出身者も直接的な捌け口という意味で非常に大切な役割を担っており欠けてはならない存在であった。実際、皆「キュートハウス」出身者を神のように崇めながら、「ピンクハウス」出身者を人間としてはトップレベルという扱いをし、「キュートハウス」出身者には心を、「ピンクハウス」出身者には体を癒されていた。
――ライブが終わりを迎え会場が感動に包まれる中、権力者や富裕層が「ピンクルーム」出身者の女と個別に会場から去っていく。
会場の凄まじい感動、そしてVIPと女が夜の街へと消えていく数々の後ろ姿が日本の更なる繁栄を告げていた。
◆◆◆
「あいつ、ほんと調子乗ってるよね。まじムカつくんだけど。よくみたら普通にブスだし。」
「それなー。自分可愛いとか思っちゃてんのかな〜。ウケるよね。」
「ライブでもなんか自分ばっかり目立とうとするし、痛すぎるし迷惑だよね。」
「キュートハウス」出身だからって私たちのこと下に見てくんの無理すぎ。お前が下だろ。ガチきしょい。」
「ダンスも歌もまじ下手だしね。イキってんのキモすぎて笑える。」
――――全くもって無名のアイドルグループをたった1人の力で有名にし、世界各国の代表的なドームやライブ会場でライブをし、小国に匹敵するほどの経済力をつけさせた「キュートハウス」出身のアイドルに対し、皆、嫉妬し、溜飲を下げるためホテルで飲みながら罵倒していた。
「あんなブス女よりみんなの方が断然、可愛いのに確かにあの子調子乗ってるよね。」
「愛嬌も歌もトークも君たちの方がすごいよ。どうせあの子、枕営業でもして「キュートハウス」卒業できただけの実力ない女でしょ。」
「あんな偉そうなゴミ女じゃなくて次こそ君たちを主役にできるような番組作るから待ってて。」
テレビ業界や映画業界、アイドル業界においてかなり力を持っている中年男性たちが、一応は超有名アイドルとなった女たちにプライベートで相手をしてもらって浮き足立ち、同調し一緒になって「キュートハウス」出身者を叩いていた。しかし、いくら枕営業をし自分たちを主役に添えようと頑張ろうが、世界はーーそして世間は「キュートハウス」出身のアイドルのみを求めていたし、彼女らはあくまでも引き立て役でしかなった。彼女らのうちの1人が、酔った勢いで机の上にショットグラスを打ちつけた事で、テレビのリモコンに手が当たりテレビがついた瞬間、「キュートハウス」第10期首席卒業生である神崎 環奈の姿がその場のもの目に入り、脳を焼いた。それは、神のように整った美しい容姿、とても長い足とエロティックなくびれ、豊満な乳房を誇った圧倒的なスタイルの良さ、絶対的な輝きで皆を骨抜きにする存在感と透明感を併せ持ち、そして比類のないほど綺麗な歌声と流麗な動きのダンスなどを武器に舞台の上に立っていた。「
――――そうだ、彼女は、最終卒業試験で「QQQ」所属の「キュートハウス」首席卒業生の5人に見た目、歌、ダンス、トーク、演技の全種目で圧勝して9999人が脱落した「キュートハウス」をたった1人卒業できた神の中の神だった……。
」
先程まで神崎環奈を叩き続けていた権力者は、彼女に心を奪われ目を大きく見開きながらつい真実を口からこぼしてしまった。
彼女は、まだ無名だった学生時代に、「キュートハウス」という肩書きを使わず、「キュートハウス」出身者を含む数々のトップレベルのアイドルと見た目、ダンス、トーク、歌、ピアノ、演技など様々な種目で競争し、それを権力者や一般の人々に審査されていたのであるが、その争いに負けたことは一度もなく、「キュートハウス」という世界最高級のブランドさえ必要とせずそれに素の魅力のみで打ち勝つ程の実力者であった。
世界各国のメディアや雑誌、大衆から「人類史上最も魅力的な女性」と称される神崎 環奈の姿は目の前のトップアイドルとの性行為よりもはるかに魅力的なものであったのである。それに激昂したアイドルたちは、リモコンを投げつけテレビを破壊したが、その場に残ったのは敗北感と虚しさ、そして重厚な沈黙だけであった。
「ーーとても大事な話があるから、みんな今から会えない?」
彼女らを慰めながら、厄介ごとから逃げるようにその場を後にする権力者たちが完全にいなくなった一室に、メッセージ音が響き渡る。その音は、グループラインに神崎 環奈がメッセージを投下した合図であった。皆、会いたくはなかったが、彼女はグループ内の飛び抜けた功労者で彼女のいうことは絶対であり、結局、彼女が待つ事務所へと向かった。
「……話ってなに?急に呼ばれて今日はたまたまみんな来れたけど、私たちだって暇じゃないの。」
神崎環奈がグループに所属する前は、グループのリーダーであった女が、彼女に強い口調で少し劣等感が感じられる表情でいう。
「私、このグループそろそろ抜けようと思う。」
――神崎環奈のグループ脱退。それは、グループの死を意味した。散々悪口を言っておきながら、結局、神崎環奈の所属するアイドルグループ 「キュア」は彼女のおかげで飯を食えているだけであり、皆、彼女の脛齧りでしかなかったのである。
「そんな急に言われても困るんだけど……。なんで抜けたいのよ。」
以前グループのリーダーであった女は、非常に戸惑った表情と声で告げる。人間ならば、当然、死刑宣告に対し動揺する。
「なんでって言われてもそれは当然、もう無名のグループを自分の力だけで世界トップレベルのグループにするっていう目的は達成したし、用済みだからかな。世界トップアイドルグループの「QQQ」すぐ入って活躍するよりグループのブランドを使わずにたった1人でグループを大きくしたらとてもいい経験になるし力になるでしょう。だから、あなた達のグループに入ってあげたの。
でもね、普通にあなた達、輝き感じられないゴミだし、もう要らない。
ゴミってちゃんと捨てないといけないでしょ。だから、そろそろあなた達捨てようかなって思ったの。」
神崎環奈は真っ白なティーカップに入った紅茶を啜りながら優雅にいう。鈴のようにあまりに美しい声に、空間さえ喜んでいるように感じるほど彼女の汚い罵倒さえも綺麗だった。以前のリーダー格は、机の上に置かれた紅茶に映った自分の顔が怯えた顔に見えたので、その怯えを取り払うほど気の強い声で、
「あんた勝手すぎるんじゃない。いくらグループに貢献してるからって言っていいこととダメなことくらい大人なんだからわかるでしょ。
正直、こいつやばすぎってみんな思ってるよね?」
1対1じゃ絶対に勝てないと思った女が、他のグループのメンバーに共感を求めるように言う。他のメンバーも枕営業をしている時に飲んだお酒の影響もあってか、罵倒の火力を高め、日頃のストレスを全てぶつけるように目を三角にし声を尖らせて、
「――お前さ、「キュートハウス」首席で出たか知らないけど、その箔があるだけの偉そうなブス女だから。高飛車女まじ死ねよ。」
「ティーカップの趣味も喋り方も顔もおばさん臭いし、ほんとは年齢詐称なんじゃないの。うちらがお前に嫉妬して僻みとか嫉みでお前叩いてるんじゃなくて、お前の脳死したバカな信者よりうちらのほうがお前の事ちゃんと頭働かせて冷静に見てんだからうちらの意見のほうがお前の信者の意見よりにわかで浅はかじゃないし正しい事実なんだよ。いつまでも他人からの否定的な言葉が嫉妬とか僻みとかからくるものって勝手に受け取って自分が上だと勘違いして自惚れんなよ、がちきもいから。」
「これまでチヤホヤされてきたからってわがまま全部通るとでも思ってんの。お前がチヤホヤされてきたの可愛いからじゃなくてみんなお前とのワンちゃん期待して擦り寄ってきて、嘘で可愛いとか綺麗とか言ってるだけだから。勘違いすんな、ゴミ女。」
神崎環奈は、このような砲火に慣れすぎていた。顔面偏差値が80以上ないと入れないとされている超エリートアイドル養成期間 国立「キュートハウス」に入り、その中でも最上位の成績を取り続けてきた彼女は、「炎上対策」の授業においても首席の成績をおさめていた。「炎上対策」の授業は、友達や親族、講師を含むランダムに選ばれた不特定多数の人間が日常生活においてリアルでもネットでも抜き打ちで様々な罵倒をし続けてくるところ、それに対し無視を含む余裕のある返しをよりできるようにするという課外授業であるが、彼女はそれに幼い頃から10年以上もさらされ続けてきたのである。
「
ーーーー他に何か言いたいことはない?あとずっと言いたかったのだけれど、あなた達、ほんのりイカ臭いからちゃんとシャワー浴びてきたら?
」
ゆったりとした態度でマカロンを食べながら嘲笑気味に神崎環奈は、いう。その余裕のありすぎる返答や表情にトップアイドル達は怒り狂う。彼女らはアクセル全開で、神崎環奈をバカにし続け、ついには以前のリーダー格が椅子から立ち上がり、お酒の力を借りて、神崎環奈に襲いかかる。日頃から溜まり続けてきた劣等感や鬱憤を神崎環奈にぶつけるためにケーキ用で机の上に置かれていたナイフを彼女に振りかざす。
「死ね!この勘違い低脳短足ブス女!」
凛々しく美しい竜のように余裕のある態度で、神崎環奈はナイフで切りつけてくる女のナイフを関節を曲げさせることで床に落とさせ、かなり長い足で女の足元にローキックをいれる。弁慶の泣き所に達人の居合切りのように鋭く入ったローキックは女を怯ませるのに十分であった。「キュートハウス」出身者はあまりに洒落たチョコレートケーキを切って口に運びながら氷のように冷め切った声で、
「ここにカメラがあったら結構いい絵撮れたんじゃない。アイドルとか暴力とかかわいいとか泣き顔とか喧嘩とか大衆の大好物ばっか詰め込んでくれてあなた達、まだバズらせるために使えそうではあるよね。」
神崎環奈は「レイプ・ストーカー・盗撮対策」の授業で、格闘技をしっかりと習得していた。世界トップレベルの格闘家たちに格闘技を物心つく前から教わり、「キュートハウス」を卒業する頃には、師を負かすほどの強さを得ていたのである。よって、彼女にはいかなる暴力行使も通用せず、皆を代表し彼女に襲いかかった女は地べたで這いつくばる事になったのであった。場が、極度の緊張感に包まれる中、神崎環奈は巨大で形の美しすぎる乳房についたナイフの女の唾液を拭き取りながら、やれやれといった表情で肩をすくめ皆の「弱さ」を心の底から労い哀れみその場を去った。
◆◆◆
唯一神のような輝きと魅力で、「QQQ」に入ってからすぐにセンターを勝ち取り、他の「キュートハウス」出身者の遥か上に君臨する神崎環奈は、もはやたった1人でアメリカ合衆国を上回るほどの権力と財力、人脈などの力を得ていた。「キュートハウス」で行動経済学や心理学、生物学などの学習を通し、鍛え上げた人の本質を見抜く能力と本能をくすぐる「洗脳」の仕方、アイドルとしての凄まじい知名度と絶大な人気、そして超一流ホスト・キャバ嬢・芸人などから個別に指導を受け伸ばし続けたトーク術などにより彼女は、数多の国の大統領や首相を務めたり、世界的大企業の社長を務めたりしていた。
「――――さて、今回の「キュートラウンジ」は、ゲストになんと「QQQ」の「キュートハウス」首席卒業生6人をお招きしております。「キュートラウンジ」にはレギュラー陣に第7・11期首席卒業生のミカエルさんとアクアさんがおりますが、彼女らと同格以上の方々に6人もおこしいただけるということで私も少々緊張しています。それでは、お入りください!」
何十万人も収容できるライブ会場で、「キュートラウンジ」は開催される。このライブはかなりの頻度で行われるのであるが、「キュートハウス」出身者を生で見れるという性質上、チケットは発売とともにどのような値段で売ろうが売り切れていくほどの人気を誇っている。勿論、世界各地でライブ配信も行われており、これを優先的に自国で開催できる日本国は、天文学的な金額の金銭をチケット代や投げ銭、グッズ代などから得ているだけでなく、これを見るために外国などの遠いところから訪れる観光客から交通費やホテル代、飲食代などからも万博やオリンピックなどよりもはるかに多額の金銭を稼げている。
「「QQQ」の中でも飛び抜けた人気を誇っている先輩達に、それほどまでの人気を獲得する秘訣を教えて欲しいです。」
その場にいる「キュートハウス」出身者の中では1番の若手であるアクアが、「QQQ」の「キュートハウス」メンバーに尋ねるところからライブは始まっていく。フリートーク、歌、ダンス、質問対応など様々なアミューズメントに彩られたライブはそれを見る者にとってあまりに早く終わってしまうほどの魅力があった。ライブは、貢ぐために人々の労働意欲を急激に上昇させ日々の仕事や勉強による疲れを吹き飛ばし、また巨額の富を生み、日本国の地位の向上に非常に役立った。
「思ったんだけどさ、あの子、私たちのこと絶対、飾り程度に思ってるよね。聞いた話だけど、前の「キュア」でもメンバー同士で喧嘩になったか何かでやめてるし、ちょっと信用できないのよね。」
ライブ終わりの楽屋で、「QQQ」のちなが神崎環奈がいない間に神崎環奈の話になっている時に、そうこぼす。皆なんとなくそう思っていると言う空気感の中で、リザヴェータが少し言うのを躊躇っているような声で、
「それはちなの言うとおりかもしれないけど、あの子がいるからこそ「QQQ」がより人気になってすごい勢いに乗れて、びっくりするぐらいのお金と信頼を生み出して日本が経済的にも政治的にもアメリカ以上の地位になれてるっていう現実もあるわけじゃない。だから、あの偉そうな態度も簡単に批判できるものじゃないとは思う。」
――様々な意味でレベルの低い「キュア」のアイドルと比べ、仮にも「キュートハウス」首席卒業生である「QQQ」のアイドルであるからこその思慮深い発言であった。彼女らは、現況を感情を抜きにして冷静に分析し、自分の個人的な感情よりもグループ、ファン、ひいては国家、世界のことまで考えることができるほどに優秀ではあった。しかし、その口調と言葉はやはり神崎環奈に対して批判的であることには変わりはなかった。
「みんな多分そう思ってると思うんだけどさ、私も全然好きじゃないんだよね、神崎環奈。結局、自分が一番自分が一番正しいっていう踊り方とか歌い方とかむかつくし、実際、神崎環奈の光って私たち簡単にかき消しちゃうくらいだから、いたら損でしかないじゃんね、私たちとしては。」
輝く金髪を櫛でときながら足を組み、エレーナはため息混じりにいう。彼女のため息や神崎環奈に対する嫉みには理由がある。「キュートハウス」歴代最強世代と謳われた10期生に対する期待は、これまでの宗教上のどのような神よりも崇拝されていると言ってもいいレベルの余りに輝かしい舞台に立ち続けてきた世界トップアイドルである「QQQ」の5人との見た目、歌、ダンス、トーク、演技の勝負で全て勝つことによる卒業という事態を招いた。10期生は、通常通りにいけば、「キュートハウス」史上最も卒業生を多く出した世代となっていたはずなのであるが、今この楽屋にいる「QQQ」の5人により卒業できたのは神崎環奈だけとなってしまったのである。逆に言えば、神崎環奈は5人それぞれとの勝負において、5票の権力者からの票も5票の一般層からの票も全て得て完全勝利したった1人「キュートハウス」を卒業したのであり、その強すぎる光は彼女ら5人の心に濃い影を作ってしまった。
「それでいうとね、神崎環奈って「キュートハウス」在学中、「炎上対策」の授業でもあの10期生の中で首席の成績おさめてたらしいから正直、私たちが何言ってもなんの傷もつかない心してると思うし、「耐久力・持久力向上」の授業でもどんな痛み与えられ続けてもずっと余裕の笑みだったっていうしね。だからさ、神崎環奈に心なんてないし別に何言っても無駄だとは思うよ。」
「キュートハウス」第3期首席卒業生であるあかりが、上を仰ぎ見るような少し敗北感のある声でそういう。「耐久力・持久力向上」の授業においては最新機器を使用し、擬似的に拷問の痛みを再現しその痛みを与えたり心が極限状態だと感じられるレベルの衝撃的な体験をさせたり被験者がトラウマだと感じる出来事をより強烈に再現しそれを経験させたりする。そうすることで、ただでさえ嫉妬などでバッシングされたり足を引っ張られたりアイドルとして常に評価され続け競争し続けなければならない辛く苦しい地獄のような現実の中でも強く生きることのできる耐久力と持久力をつけさせるのである。他の4人の発言に対し共感しながらも他の4人と比べ、神崎環奈を上だと思っていない「キュートハウス」の初代首席卒業生であるクァシンは、少し強い語気で、顔を顰めながら、
「他のみんなは神崎環奈のことすごいと思ってるかもしれないけど、私は全然すごいなんか思ってない。歌も踊りも存在も全部自我出過ぎてて気持ち悪いし、どんだけ自分好きなナルシストなのって感じ。いうほど可愛いとも思わないし、歌もダンスもトークも上手いって思わないけど、雰囲気で誤魔化してるだけなんじゃない。卒業試験で、たまたま運よく私たちに勝ってたまたま「キュートハウス」卒業できただけの実力いうほどない勘違い女だと思う。「キュア」とかい元々無名だったアイドルグループで2年もイキリ散らかして遊んでたガキと違って私たちは卒業したらすぐ「QQQ」で活躍してたし、本気度も場数も経験値も私たちの方が上でしょ。私は、あの女、ほんとに大嫌い。」
――――神崎環奈は、豪華絢爛な楽屋の扉の前で、彼女らの弾丸のように容赦無く撃たれ続ける言葉を聞いていた。慣れすぎた嫉妬や劣等感による砲撃に怒り、焦り、不安、自分に対する不信などの感情は心から生じることはなく、ただただ余りにリラックスした感情のまま「QQQ」は捨て時だと思うと同時に、彼女は少し体が疲れていると感じたので、旅に出ようと思った。しかし、真実は、残酷で、彼女は「少し」疲れている訳ではなく、体と心はひどく疲れていて、心の崖の暗闇の奥深くにしまい抑圧してきたはずの疲れが、少し溢れ彼女の美しすぎる顔には無意識に流星のように美しい一筋の涙が流れていた。人類史上最も輝いている星のような女には、絶大な支持とともに「キュア」や「QQQ」だけからでなく不特定多数からバッシングや否定的な言葉が投げかけられてきて、そういったヘイトに最高レベルの訓練を受けてきているとはいえ、まだ20そこそこの若造でしかない19歳の女が本当の意味で耐え切るなんて不可能だった。
彼女は、世紀の大天才であるとともに、感情を無理に押し殺してるだけで極普通の感情を持った極普通の女の子でもあったのである。
◆◆◆
「そんなきれいなめっちゃええ声で、なんでこんなとこで歌ってんねん。」
22歳になった神崎環奈は、もはや人間ではなく、形容としてではなく、「神」だった。彼女は1人でアイドルを続け、「QQQ」に人気や経済効果、政治的な地位など様々な側面で勝ち続けるだけでなく、その卓越した頭脳やトーク術、経験、絶対的な支持などで先進各国の首相や大統領を務め、世界的大企業の社長も以前よりさらに多く務め、世界の皇帝と言っていい存在となった。字面通りの「神」であるその彼女が、殆ど誰も知らないような地方で、快晴のもとの大海原に向かって歌を歌っていた。その存在感と歌声は、あまりに圧倒的でハードロックを爆音で聴いていた男の耳と脳、そして心を一瞬にして鷲掴みにしたのである。
22年間生きてきて有名人含め異性に対して可愛さや美しさなどを感じた事が無く、全く好きになることさえないほどどうでもいい存在としてしか異性を認識してこなかった男は、人生で初めて本物の「女」を見た気がしたので1人の「男」としてどう思われようとただただ想いを伝えたい気持ちになった。
「――無視かいな、確かになお前さんにとって俺はただのその辺のゴミやと思うかもしらへん。ただな、一匹のオスとしてこれだけは言わせてくれへんか……
一発でええからやらせてくれ!
」
そう率直に気持ちを伝えるエキゾチックな絵柄が刺繍されてあるシャツの上に黒いライダースジャケットを着こなし、黒と白のカーゴパンツを履いた非常にガタイのいい白人の父親、アジア人の母親、黒人の祖父を持つ身長200くらいの金髪の男は、とても似合っている姿でタバコをふかしながら叫ぶ。神崎環奈は、最初その男の存在を無視し続けていたが、一向に自分自身と話すことを諦めようとしない男に珍しく少々苛立ちを覚え、
「絶対やりたくないし、とても不愉快だから話しかけないでくれる?」
男は、神崎環奈が出会った初めての人種であった。彼女に対しては皆、畏怖、恐怖、尊敬、嫉妬などの感情しか持たず、必ず、皆根本的に自分自身を上だとみなしてきたにも関わらず、目の前の男だけは、そういった優劣ではなく余りに直球に自分を見てくれているような気がした。
「話しかけたいに決まっとるがな。目の前に最高のメスがおんのに、ダイブせーへんクソオスちゃうで俺は。」
「ほんとにどこか行って。あなたなんかと話したくない。」
男は、近づけば近づくほど発揮される女の圧倒的存在感・透明感を浴びせられ続け、ようやく目の前の女がかの有名な神崎環奈である事に気付いた。男は、画面の中の圧倒的人気を誇る神崎環奈をはじめとした有名人は知識としては知っているとはいえ興味があるという訳ではないという相当珍しい部類の人間であり有名で人気、そして圧倒的ビジュアルと才能をもつ人間を前にしてもなんとも思ってこなかったにも関わらず、神崎環奈という絶対的な存在を目の前にするとその輝きに目と心が焼かれるようで味わったことのない多幸感に女をみるだけで包まれていた。その多幸感の正体を知りたいと想い、女の雪のように冷たい態度にも全く物怖じせず、女に徐々に近づいていき、長い金髪を波風に靡かせながら、少し真面目な口調で、
「そう言わんと俺とはなそーや。俺な、お前さんに提案あるねん。割と真面目に。
――環奈もさ、そろそろ死ぬことでガチで不動の神なった方がええんちゃう。みんな若くして死んだ天才っていう記号好きやろ、それにな、若くして死んだらクソジジイクソババアになったブッサイクな顔検索した時出てこーへんから偶像化もされやすいしな。ダーウィンとかコペルニクスとかニーチェとかゴッホとかイエスとかほんまもんの偉人は、死んだ後にかなり脚光浴びるやろ。悲劇から巨大な権力生み出すん人間好きやからな。てことで、俺とセックスしてから死のうや。」
男は、一般人の中に埋もれた天才であった。ただただ大きすぎる才を持って生まれ、死後圧倒的な評価を受け、最高レベルの偉人と化す彼の論考や小説などの作品群は、現在においては趣味の代物でしかなく物事の表面しか見ることのできない周りからはただのピーターパン症候群の発露としか見られていなかった。ただの1人の男として、神崎環奈のことを見つめ、彼女にとって最も最高の選択を天才の視野から提供していた。
「あなた意外と賢いのね。ところどころ気持ち悪いけど、言っていることはわかるわ。悲劇にしか与えられない深みってあるもの。その深みが、進化論・キリスト教・相対主義とかの新しい歴史を作ってきたのも事実だしね。何も文句を言ってこない死人にしか縋れないほど人って弱いし、哀れだもの。確かに、私も死ぬことであのほんとの私なんてわかろうとせず記号でばっか話してレッテルしてくる人たちもより私に縋ることができて、もっとあの人たちを情けなくできる。
「救済」が「仕返し」になるなんて皮肉なものね。
」
神崎環奈は、珍しく饒舌に自分の考えを人に伝えた。忌憚も嘘もない男の存在と言葉が、彼女には非常に新鮮で、本音として求めていたものであるので、多くの質の高い言葉で返したのである。黄金のように輝く夕日と心地の良い潮風が、2人の世界を輝かしく染め上げていた。2人は、少し言葉を交わすだけで波長があまりに合うことをお互い感じ、思考も共鳴しあっていたのである種の感動を覚えていた。男の黒光りするハーレーとサングラスが爛々と輝いて、女の目を怯ませたとき、男は女に甘いキスをした。2人はともに22歳で、若く、生まれて初めて運命的な出会いをしたと心の底で感じていたのである。
「めっちゃ柔らかいやん。まじで最高や……。」
優れ過ぎている観察眼と勘が、この男は人生で初めて自分自身を見てくれていると告げていた。「キュートハウス」首席卒業生としての神崎環奈、「QQQ」センターとしての神崎環奈、先進各国首相・大統領としての神崎環奈、世界的大企業の代表取締役としての神崎環奈などを見て崇めたり嫉妬してくるような人間にしか会ってこなかったので、彼女は、男と口付けをした時、「キュートハウス」で生き残るために忘れ去っていた幼い頃のとても甘い香りのする純情を強く思い出した。
「いきなりキスしてくる時点で気持ち悪すぎるから本当にあなたのこと嫌いだけど、貴方にも喋ってあげてもいいぐらいの価値はあるかもね。」
人工的な添加物が入っていない食材のように瑞々しい感情をここまで持っている男に、女は少し興味を持った。本来であれば、キスをしてきた時点で、権力や財力、社会的影響力などを使用し、男を社会的に殺すつもりであったが、女の感情がいい意味で揺さぶられた時点でその選択肢は消えていた。2人は、その後、つがいとしてともに3年の時を過ごし、2人の語り合った目的を達成するため「おじさん」「おばさん」とされない最後の年である24歳で若くして心中した。
◆◆◆
神崎環奈の死は、大々的に世界各国で報道され、それを嘆き悲しむ信徒たちが、彼女の後を追って死に続けていた。まるで殉職した軍人が何階級か昇進するように、彼女は生前よりも神として崇めたてまつられ続け、その崇拝は年々強まっていった。神崎環奈とともに心中した男に対する関心も非常に強く、彼が生前残した作品は全世界の人々に読まれ、見られていた。神崎環奈の思考は、男の思考と言ってもよくその逆も然りであったので、彼の理論は全世界で採用され、世界中で、「キュートハウス」や「ピンクハウス」だけでなく、男版の「キュートハウス」である「クールハウス」、男版の「ピンクハウス」までも創設され続けた。神崎環奈は自分自身の考えを一切公式には語らなかったので、神崎環奈の思考を体現していると言っていい男がいたからこそ、男が流布した理論により世界がより依存対象を求めてもいいという時代の流れが作られ、人々が「キュートハウス」、「クールハウス」、「ピンクハウス」によって支配されることとなったのである。よって、彼らが出会わなければ、これほどまでに「偶像」が崇拝され、人々がそれに洗脳され支配される時代は訪れなかったであろう。
「父と母は、人の弱さの肯定による現実の直視、そして弱さを誰よりも分析し、それを徹底的に利用することで経済・文明を繁栄させ、人口を増やし続けそれを超越者が管理するべきであると主張したんだ。
あの発情期の猿よりも頭の悪いイエロー庶民やそれ未満の眼中にさえ全くなくハゲブスとデブブスしかいないホワイト・ブラックには、少し快楽を与えてやるだけでいくらでも支配できるし、金を吐き出させることができるんだ。
馬鹿どもに微塵も期待するな。
人は、洗脳されて気持ち良くなりたいだけで誰が死のうが誰が何を言おうがはっきり言ってどうでもいいし自分の方が絶対に正しいと思いながら自分の意見は聞いて欲しい傲慢でどうしようもない生き物なんだ。
そろそろ大人になってそれを理解しろ。それに、父と母の言葉を勝手に歪曲して解釈するな。あまつさえ、その恣意的な解釈を自分たちの怪しげな活動の正当化のために使うなど言語道断だ。」
神崎環奈には、ともに過ごした男との間に2人の子供ができていた。冷酷に現実を誰よりも分析し、まるで母のように人々を徹底的に洗脳する道を選んだ兄は、対峙している弟や死にかけている弟の仲間たちに対し、死体の首を握力でもぎ取りそれをボールのように使って遊びながらとても良い落ち着く声でそう言い放つ。兄は、神崎環奈の子供というだけで神の子でありその圧倒的な権威、資本、人脈を継承し、自らも「クールハウス」出身でその中でもかなり上澄みの神崎環奈にも匹敵する代表的なアイドルとしてーーみなに「人類史上最も魅力的な男性」と評される男として世界の他の誰よりも圧倒的な人気を誇りまた支持され、全ての力を駆使し人々を快楽と興奮の坩堝の中に閉じ込めていた。彼はその力で、何十億もの従順な信徒が如き人間を徹底的に支配し、「キュートハウス」・「クールハウス」・「ピンクハウス」は愛しているが支配までされたくはない反体制側の人間を3000万人ほど処刑してきた700万年の人類史上最も人を支配し最も人を殺し、最も人に愛され信仰され最も人に恐怖され罵倒された世界の皇帝なのである。そしてそういった世界の中で、日本は今や神崎環奈とその子供の力で音楽よりも共通言語であると言える「快楽」を最も与えることのできる「キュートハウス」、「クールハウス」、「ピンクハウス」により世界を支配しており、日本の首相はいわば「世界の皇帝」であった。マクドナルド、スターバックス、アップル、ツイッター、ディズニー、ティックトック、インスタグラム、ハリウッド、キリスト教・イスラム教などこれまで世界の人々に「快楽」・「依存対象」を与え続けてきた代物など比べ物にならないほどに強烈な「快楽」・「依存対象」を与え、人々を洗脳してきた「キュートハウス」、「クールハウス」、「ピンクハウス」は世界の人々の思考を均一化し、思考停止させ、世界の人々に対しその「快楽」を発信する権限を最も持つ「神崎環奈の息子、引いては日本」を世界の中で最も力のある人・国として信仰させるように仕向けることに成功したのである。ーー兄は、大きく改装されどのような皇帝が住んでいた宮殿よりもはるかに巨大になった与党総裁室の世界の王の座席と言っていい豪華絢爛な「日本の与党総裁」の座席に堂々と座り、弟と邪魔されない状態で直接対峙するために自分に立ち向かってきたあまりに危険な凶器を使い対抗してきた1万人ほどの人間をあえて世界最強の軍隊とも言っていい大量の護衛を使わずにたった1人の素手の力で何の傷も負わず息もあがっていない状態で殺しきった。立ち上がることさえできないほどにボロボロになり何よりも大切な仲間を兄に殺され大粒の涙を荒れ狂った滝のように流している弟のみと向かいあった兄の吹雪のように冷たい言葉や態度に対し、弟は人情味のある温かい声で、
「ーーなんで人をこんなに殺して平気な顔でそんなことを言えるんだ。兄さんは異常者だし、ただの大量殺人鬼でしかないよ。そんな頭と心のおかしい兄さんのみんな好き勝手に自分が見たいものだけを見れてしまうように洗脳して、歯向かう人は圧倒的な力で殺していくやり方じゃ、結局、人同士がいらなくなってしまう。僕の仲間たちみたいな反逆者を殺したりして黙らせていく兄さんのやり方は、支配の仕方として2流・3流でもあると思う。それに、父さんと母さんが言っていたのは、人の弱さを肯定しあってお互いを本当の意味で愛し合うことが大事っていうことなんじゃないの。兄さんこそその誰にも受け入れてもらえないし、社会に出てるか不思議なレベルに傲慢すぎる態度で勝手に父さん母さんの言葉を解釈して自分が得する世界を作るために使うのはやめてほしい。
みんなが弱さを認め合って言葉でわかり合って差別をなくして手を取り合えるような平等で愛に溢れてて完璧じゃない人同士が快く助け合える世界を作るのが父さんと母さんが本当にしたかったことだと僕は思う。
」
ボロ切れのような姿にされ兄に対抗し言葉を紡ぐのが精一杯の弟に対し、両親に似て容姿端麗過ぎる兄は返り血さえ薔薇のように美しく感じてしまうほどのあまりに綺麗な姿で支配者らしく金色に輝く紅茶を飲んでいた。まだ生き残っている弟の仲間たちを「クールハウス」時代に得た世界トップレベルの格闘家・軍人を1000人同時に相手しても圧勝してしまった異次元の強さで、木っ端微塵にしながら彼は悠々としたよく通る声で、
「シェイクスピアが仮に今、生きていて、どのような作品を描こうが、皆、彼の権威に興味があるだけで、彼の作品・発言には一切の興味なんてない。シェイクスピアという名を使わずに、彼が全くの無名で『ロミオとジュリエット』を優に超える恋愛物語を描きそれを現代において世に垂れ流そうが、誰にも読まれないし受けない。それどころか、彼の斬新性や過激なシーン・言葉などが散りばめられた小説・劇は、養護学校にさえ入れないレベルの障害を頭に持った早期認知症のバカどもに読むに耐えない・見るに耐えない作品としてこき下ろされ、0円の作品として無価値の烙印をおされるどころか読むのにお金を払ってほしいレベルの駄作と評されることになるだろう。
ーー畢竟、誰が何をいうかのみが重要視されるこの優劣ばかり気にし内容自体を理解する脳はなく障害者より頭の悪い人間ばかりの世で、言葉でわかりあうなどできるわけがない。
」
世界の支配者は兄であり、その唯一の抵抗者が弟であった。兄は人を洗脳し人を全く信用しない道を、弟は人と励まし合い人を心の底から信用する道を選んだ。兄が作った社会の秩序に、そして全人類が望んだ社会の秩序に弾き飛ばされ、今のところは無職でニートで何の学歴も経歴も実績もなく世界・国家に反逆する世紀の犯罪者でしかない弟は、肩書きや地位、金などを持たない代わりに、兄の作った世界に抵抗しようとする人々と洗脳や優劣、忖度によってではない本当の意味で純粋な信頼関係を持っていた。
「俺を、殺して何になる。部下は育っている。
そして、何よりも劣等感や嫉妬、不安、勘違い、差別などの人の「弱さ」を殺さなければ俺を殺そうが、誰かが何度も同じことを繰り返すだけだ。
」
アドルフ・ヒトラーは人を洗脳し支配したのではなく、「弱さ」をむき出しにしていた大衆がほとんどみな、ヒトラーに洗脳・支配を要求し、彼を熱狂的に支持し、神のように祭り上げたのである。
――弟は、数多くの仲間を犠牲にし、世界を支配する兄を殺し世界を自由にするために何年も前から計画を練り続け、兄のもとまでようやく辿り着いた。しかし、その行動を一笑に付すかのような、20万人に対し300人で立ち向かい「モーロン・ラベ=来たりてとれ。」と言い放ち良い勝負をしたスパルタ兵以上に毅然とした態度と言葉で兄は弟に向き合い、弟を圧倒し彼に床を這いつくばらせていた。弟は、瀕死の状態になりながらも誰よりも不屈と称された精神力で、仲間の思いを背負い、最後の力を振り絞り兄に対し重々しい凶器を向ける。
外の雷鳴が轟く刹那、弟は兄を銀色の拳銃で撃ち抜く。
全ての面で他の誰よりも優秀な兄ならば、間違いなく弟よりも早く床に散らばった拳銃を手にし弾丸を弟に対し撃てたはずであるし、他に何かできたはずであるのに関わらず、全くの無抵抗でその非常に整っている顔を一切歪ませず心臓を撃たれているとは思えないほど余裕の態度で座り、兄はただただ少しずつ死へと向かっていく。
「兄さん……なんで、戦おうとしないんだよ。僕の仲間を無茶苦茶にしといて僕と最後まで戦わないとか意味がわからないし、腰抜けなんじゃ無いの。人を馬鹿にしすぎる癖は、本当に最低だと思うしそんなことを平気でする人こそ一番馬鹿だし誰からも相手にされない可哀想な道化だと思うけど、その癖以外は優秀すぎる兄さんなら僕なんかにこんなあっさり殺されるはずないよ。」
弟は、兄の態度を仲間を殺された怒りや考えの相違などから否定しながらも兄の能力と実績には深く脱帽していた。死へとひた走っていく兄は、弟の否定を意にも介さず、
「そろそろ雑魚すぎる羊どもを飼育しておもちゃとして扱ってやるのにも飽きてきた頃だからな。何より世界最高の権力者を殺したという事実と神崎環奈の息子であるという事実があれば、母や俺よりお前の方が反体制側の人間も体制側の人間も容易に支配できる。それに、お前が世界の王になればこれまで脚光を浴びてきたものも浴びてこなかったものも支配できるはずだ。それにな、あえて俺の軍隊を使わなかったのもお前に俺を殺させる確率をかなり上げて1vs1万という大掛かりな取り上げやすい歴史上の出来事として今日の出来事を記録させる為だ。今日の歴史上でも飛び抜けてキャッチーな戦争を通し、お前の「カリスマ」=「偶像」は完成する。
ーーだから、お前と戦いお前を殺すより、本当はただの一方的ないじめになってしまうから嫌だったんだが、お前の仲間を1万人ほどたった1人で殺し俺の実力を証明しつつその「恐怖の象徴」を殺し一躍皆が認める大英雄になるお前に殺され支配権を継承させることを選んだ。
支配するにあたって、あの乞食より汚い上、臭い大衆どももバカのふりをしてるだけで、皆、洗脳され支配されていることなど気づいていることは忘れるな。
けどな、もがき苦しんだ末に世界を自由にし神崎環奈の息子でもあるお前の魅力があれば、あの殺処分する際に使う数秒ほどの時間の方がかなり価値があると思えるレベルの汚物どもも気持ちよくなって自分自身の自己を保つための依存対象としてお前に喜んで管理されるだろう。
勝ち組も負け組もお前のような悲劇の純情・逆転系主人公が大好物だろ。
」
いつもの態度と言葉で、残りわずかの言葉の散弾銃を撃ち続ける。どのレベルの著名人・権力者・評論家・思想家と議論をしても必ず、徹底した理詰めで相手の理論を崩壊させ、自分自身の理論を正当化し山ほどの優れた論客を葬ってきた兄の論客としての姿も見ながら育った弟は、彼と議論しても最終的には負けてしまうということがわかっていたものの瀕死の兄にさえ挑めない自分は許容できなかったので、兄に殺された仲間を見て感情を昂らせ心を震わすため語気を強め、
「僕は世界の王なんかになりたくないよ。ただみんなで言葉でわかり合って、平等な世界を作りたいだけなんだ。
兄さんみたいに人を見下して、自分が一番賢くて能力があると勘違いして偉そうに喋って気持ちよくなってるだけで誰にもわかってもらえない自己満オナニー野郎にだけはなりたくない。
大衆をものすごく馬鹿にしてるみたいだけど、兄さんはその大衆が納めて貢いでくれたお金で生きてるだけの生活保護受給者の裸の王様みたいなものじゃないの。
僕は、そんなナルシスト呪物になるよりも、本当は誰よりも価値のあるただの1人の庶民がいい。
兄さんに殺されてしまった僕の仲間たちこそ本当の英雄で、僕は彼らがいるからここまでこれただけのどこにでもいる凡人だ。
」
弟は、兄の上から目線の冷たすぎる態度を強く否定し、鋭い眼光で兄を見つめながらいう。銃弾と言葉で撃たれても尚、煌々とした座席に世界の支配者らしく座り込んでいた兄は、立ち上がり弟の仲間の死体を積んだ山の上へ歩いていきそこに座り死体を裂き、冷笑しながら、
「大衆を保護し社会的・経済的・政治的・精神的ーー様々な面で支え養ってやっているのは俺の方なんだから、俺が生活保護受給者の裸の王様のようなものなら、奴らは生活保護受給者未満の裸の物乞いだな。
大衆に誰よりも価値があるなんてのはただの言ったもん勝ちの個人の感想でしかない戯言だし、お前が大衆に支持してもらうためのカルト的でアヘンのような甘い嘘でしかない。
お前など甘い嘘でみんなに自分の存在自体が認めてもらってるって勘違いしてるだけの勘違い承認欲求オナニー野郎のオカマでしかない。
お前なんか奴らにとって数多ある依存対象の一つでしかないーー奴らは、お前自体を認めてるわけじゃなくてお前の甘い嘘を認め信じて、神がいないこのふざけた世界でお前を厨二病的妄想力で神に仕立て上げ、奴ら自身の精神を保ち慰めるためのオナニーのおかずにしているだけだ。
」
そして、時計の針の音や環境音さえ明確に聞こえるほどの静寂が訪れた空間の中で、悠々と間を取り追撃するように、
「
お前はそういう「ばっちいオカマナード野郎でしかない低脳底辺のバケモン=大衆」どもが欲しているあまったれた言葉を童貞ナードらしくゲイボットのように並べたてる脳死スピーカーであればいい。
どのみち、おっさんになって力を持てばお前のようなタイプはスターリンや毛沢東、ポルポトのように若い時の気高い理想を求める心をすっかり忘れ去って誰よりも豪遊するし、人を支配する。
それでいい、それがいい。」
夜の帷がすっかり落ち切った曇天からは大量の雨と雷が注がれていた。夜と大量の血、そして人権を完全に無視したような言葉の殴り合い、バラバラになった刺々しい無数の凶器によって黒く赤くなった空間には、重い沈黙が横たわっており、それを切り裂くのは、その大火傷してしまうほどに冷たい絶対零度というべき兄の最後の現実を見過ぎた言葉であった。
「……金をかなり持つようになってかわいい子には、1億使いたいと思っても、可愛くない奴には一円たりとも使いたくないのが人間だ。
かわいいは他の何と比しても優っている「最強」にさえ勝る程の「無敵」の「洗脳手段=暴力」だ。
その「かわいい」の前で、お前が言っているのは、可愛いく歌・ダンス・料理・裁縫がうまく愛嬌も性格も良くトーク力もある子にも歌・ダンス・料理・裁縫が下手で性格も悪くトーク力もないブスにも同じ金額を与えると言っているようなもので、そんな理想はすぐ崩れ去る。仕事の出来不出来や頭の良さ、そして運動能力などの他の能力に関しても俺が今言ったような「かわいい」という能力と同じ事が言える。
――お前への就職祝いに、「キュートハウス」をやろう。世界の皇帝ともなれば、「キュートハウス」の世界最高級の女たちともやりたい放題のハーレムだ。俺の言っていることがすぐ腑に落ちる。」
兄は悟ったかのような笑みを浮かべながら息をひきとった。弟はただただ瀕死の状態で床に這いつくばりながら兄自身が殺した仲間の死体の山の上で巨星以上の輝きを放ち死に絶えた兄を見ているだけで何も口にすることができなかった。世界でたった1人血の繋がった親族と誰よりも言葉でわかり合いたかったのにも関わらず、結局は、暴力に頼ることしかできなかった現実と周囲からの期待によるプレッシャー、またキリスト教・イスラム教のように皆が自分自身を「偶像」にし「世界の支配者」の座席に座らせ共通の信仰対象にする事で互いの差異により発生する差別を緩和し縋る対象として利用し自分たちの精神を慰めようとしたことによる孤独などにより、弟自身、理想の弱さを痛感していた。そして、その自分自身がすがる対象である「理想」の弱さを痛感したことによる傷を癒すために「キュートハウス」を利用してしまった弟は、「キュートハウス」をはじめとした格差を生み出す機関を廃止し平等を実現するという理想をすっかり忘れ去り、歴史上に星の数ほど存在する典型的な権力者の1人になっていた。
「人は弱いから何かに洗脳されなきゃ生きていけないの。
女、お金、仕事、権力、お酒、タバコ、薬物、ギャンブル、学歴・経歴、ルックス・声、音楽、芸術、芸能、食べること・寝ること・性行為、暴力・暴言、スポーツ、承認されること、サブカルーー何かに縋ってなきゃ、心が壊れちゃうから。
――――だからね、2人ともこれだけは覚えておいて。
心から何を失ってでも何を捧げてでも他の何より優先してでもその人と一緒にいたいって思える人と関わることだけが人にとって大事なんだよ。
それ以外は、全部ただの無意味なまやかしだからそう思える人と出会うまで何かに縋ってもいいから無様でも惨めでも生きてね。」
兄を殺してから約65年が経過し87歳になった弟は、そう不敵な笑みを浮かべながらいう母のステンドグラスのように綺麗な声をぼんやりと思い出していた。しかし、兄が予想した通りに、弟は、神崎環奈や兄よりも人々を支配し洗脳し、弟が権力をつけるごとに巨大化していく「キュートハウス」の世界最高レベルの若いアイドルたちとジャニー喜多川など稚児のお遊びと思えるレベルに毎日、豪遊し続け、100万人の一般レベルの女に使うよりも多額の金銭を女1人ずつに貢ぎ続けていた。
