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あの頃のJ POP  2023年 YOASOBI 「アイドル」

あの頃のJ POP その17 2023年 YOASOBI 「アイドル」

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2023年のJ-POPを語る上で、最も象徴的な楽曲は間違いなくYOASOBI『アイドル』でしょう。

しかし、その背景にある「2023年という時代の空気」を読み解くと、いくつかの象徴的な動きが見えてきます。

この曲は、単なる国内のヒットを超え、米ビルボードのグローバルチャート(Global Excl. U.S.)で日本語楽曲として史上初の1位を獲得しました。

アニメ『【推しの子】』との強力な相乗効果、そしてTikTokでのダンスチャレンジを通じた爆発的な拡散。J-POPが「ガラパゴス」を脱し、グローバルな文脈でリアルタイムに聴かれるようになった象徴です。
 
2023年は「現実感のなさをポップに昇華する」楽曲が目立ちました。

  • Ado『唱』: ユニバーサル・スタジオ・ジャパンとのコラボ曲。EDM、ボリウッド風、ラップなどが混ざり合った「過剰な情報量」が、現代の目まぐるしいカオスを象徴していました。

  • ゆこぴ『強風オールバック』: ボカロシーンから生まれたこの曲は、徹底的な「日常の不条理」と脱力感を描き、SNSで圧倒的な支持を得ました

 
総じて2023年は、アニメやSNSというフィルターを通すことで、現実の閉塞感を突破し、爆発的な熱狂を生み出した年と言えるかもしれません。

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と、いつもなら、ここで終わるのですが、この曲については、書いておきたいことが多々ありますので、少しだけ書き加えたいと思います。

この曲は、音楽的な設計そのものがかなり異例です。単にキャッチーというより、「現代のポップミュージックがどこまで複雑になり得るか」を示した曲と言っていい。

まず一番わかりやすいのは、構造の異常さです。
普通のJ-POPは
Aメロ → Bメロ → サビ
という安定した流れを持ちますが、「アイドル」は
ラップ的パート、メロディアスな歌唱、囁き・語り、強烈なサビ、が高速で切り替わる。
しかもそれぞれが別の曲のように性格が違うのに、全体として一つにまとまっている。
これはかなり高度な構成力です。

次に重要なのは、リズムと言語の結びつきです。
この曲はシンコペーション(リズムのズレ)、 早口の詰め込み、 アクセントの頻繁な変化 が非常に多い。
普通はこれだけやると「聴きにくい」曲になりますが、「アイドル」はむしろ強い中毒性がある。
これは日本語の音節構造を、ほぼラップ的に再設計しているからです。
つまり歌とラップの中間を、かなり自然に横断している。

さらに大きいのは、調性(キー)と雰囲気の揺れです。
この曲は明るいメジャー感と、どこか不穏なマイナー感が混在していて、
キラキラしたアイドル像と裏側の不気味さ が同時に鳴っている。
これは単なる歌詞の表現ではなく、音楽そのもので二重性を表現している

「アイドル」はただのポップソングではなく、
表の顔(完璧なアイドル) 、裏の顔(虚構・嘘・消費される存在)
という構造を持っています。
そして音楽的にもキャッチーでわかりやすい部分、過剰に複雑で歪な部分
が同時に存在する。
曲の構造自体が「アイドルという存在の矛盾」になっている。
この曲はある意味で
「現代はすでに多重で断片的である」という状態を、そのまま音にした作品です。

だから「新しいものはもうないのでは?」という問いに対して、この曲はこう答えているようにも見えます。

完全に新しい形式ではない。
しかし既存の要素を極限まで圧縮・接続することで、まったく新しい体験は作れる。


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