見出し画像

第7章(最終章)|「ここで働きたい」と言われた日、接客の意味が変わった

「また来ます」と言われるのは、うれしいです。

商品が売れるのも、もちろんうれしいです。

でも私は、30年現場にいて、

接客の先にあるものとは何だろう、と考えることがあります。

商品が売れること。
お客様に喜んでもらうこと。
また来てもらえること。

どれも大切です。

けれど現場では、
それだけでは説明できないような出来事が起きることがあります。

それが、今年1月にあった出来事でした。

あるお客様との出来事

お店によく来てくださるお客様がいました。

小さなお子さんが二人いるお母さんです。

買い物のたびに少し話をする。
薬を選ぶ時に相談に乗ったり、他愛ない会話をしたり。

特別なことをしていたつもりはありませんでした。

ある日、その方がお会計を終えた後、
少しためらいながら声をかけてこられました。

「今、求人って出ていませんか」

一瞬、意味が分かりませんでした。

夏頃に募集していたことはあります。
でも、もう募集は終わっていました。

なぜそんなことを聞かれるのか。

理由を伺うと——こう言われました。

「いつもこちらに来て、皆さんにすごく親切にしていただいて。

いろいろ話も聞いてもらえて。

そういうのに憧れて、登録販売者の資格を取ったんです」

驚きました。

しかも、小さなお子さんが二人いて、独学で合格されたというのです。

業界経験もない中、
一人で勉強して資格を取られた。

それだけでも、本当にすごいことです。

せっかく資格も取られたと思い、

「他のお店も聞いてみたらどうでしょう」

そう伝えた時、その方ははっきりこう言われました。

「いや、私はここで働きたいんです」

接客が誰かの人生に影響する瞬間

正直、胸が熱くなりました。

接客をしていると、
「ありがとう」と言っていただけることはあります。

「また来るね」もあります。

でも——

自分たちとの関わりが、
誰かに資格を取る決断までさせることがある。

そんなことが、本当にあるのかと感じました。

「ここで働きたい」

そう思われるくらい、
このお店を好きになってくれていた。

それが、何よりうれしかったです。

チームで作っていた関係

すぐにスタッフにも共有しました。

そのお客様を知っているスタッフは、
みんな自分ごとのように喜んでいました。

「小さいお子さんがいるのにすごいですよね」

「独学で合格って、本当にすごい」

お客様の資格取得を、
みんな素直に喜んでいました。

でももう一つ、
うれしかったことがあります。

その喜びを、
スタッフみんなで分かち合えたことです。

お店全体が、
その方との関係を作っていた。

だから、
「ここで働きたい」と思ってもらえた。

私はそう感じています。

接客の先にあるもの

普通、接客は
商品が売れたら終わりだと思われがちです。

もちろん、
売上も大事ですし、
結果を出すことも必要です。

でも、
今年1月のあの出来事があってから、
私は改めて考えるようになりました。

接客とは、
ただ商品を売ることだけなのだろうか、と。

店長が一人で頑張ったわけではありません。

スタッフみんなで作ってきた空気や関わりが、
結果として、
誰かの人生の選択肢を増やしていた。

もし、
接客に“その先”があるのだとしたら——

私はあの時、
少しだけそれを見た気がしています。

そして、
そんな店は強いです。

数字だけでは測れない強さが、
そこにはあるのだと思います。

この文章を届けたい人へ

ドラッグストアの仕事は、正直しんどいです。

孤独な日もあります。
数字を求められる日もあります。
うまくいかず落ち込む日もあります。

それでも、
現場に立ち続けている人がいます。

このnoteは、
そういう人に届けたくて書いています。

30年、
私もうまくいかないことの方が多かったです。

それでも、
お客様との小さなやりとりの中に、
続ける理由を見つけてきました。

もし今、

「自分の接客に意味なんてあるのか」

そう思っているなら、伝えたいです。

その積み重ねは、
誰かの人生を動かしているかもしれません。

まだ、
自分が気づいていないだけで。

あなたの現場にも、きっとあります。

いいなと思ったら応援しよう!