🌙相続学校(特別編)② 🌟 リリーの家のものがたり
むかしむかしといっても、
そんなに昔ではないころ。
山と川にかこまれた小さな村に、
小さなころからずっと仲良しの
男の子と女の子がいました。
ふたりはいつも一緒で、
村の人たちはみんな笑って言いました。
「いつか、きっと夫婦になるね。」
ふたりも、その未来をどこかで信じていました。
幼いころからずっと仲良しだったふたりは、
大人になっても変わらず寄り添っていました。
やがて、リリーのお母さんのお腹には、
小さな命が芽生えていましたーー
「赤ちゃんができた。」
その知らせを聞いた日、ふたりはすぐにでも
婚姻届を出しに行こうと思いました。
けれど、役所は山を三つも越えた先にあり、村の人たちにとっては“旅”と呼べるほど遠い場所でした。
お父さんの仕事も忙しく、日の出前から働き、帰るころには空が群青色に染まっている毎日。
「早く届けを出したいね」
そう話すたびに、お互いの想いは深くなるのに、現実だけが追いつかず、そっと積もっていきました。
ある朝、リリーのお父さんは
木のかばんに道具をつめながら言いました。
「いくつもの山をこえた、そのまた向こうの村にどうしても行かなくちゃならなくてね。
遠いけれど……すぐ帰るよ。」
お母さんはゆっくりとうなずきました。
「じゃあ、帰ってきたら……
一緒に婚姻届(こんいんとどけ)を出そうね。」
ふたりは、あたたかい未来を思いながら
そっと手をはなしました。
ところが、帰ってくると約束した日が何日も過ぎても、
お父さんは帰ってきませんでした。
村には電話も車もなく、
どこかへ向かう道さえ、
山の影にかくれてしまうような世界。
お父さんに何があったのか、
たずねに行くことも、
誰かに聞くこともできません。
ただ、
いつもお父さんが帰ってくるあの道を、
お母さんは静かに、何度も見つめるだけでした。
お父さんは、
お母さんとの約束の日よりずっと前に
目的の村へたどり着き、
すぐに仕事にとりかかっていました。
朝から晩まで、
何日も、何日も、手を動かしつづけました。
ところが――
お父さんが村で働きはじめて
しばらくたった、ある夜。
空は急に暗くしずみ、
強い雨と風が村じゅうを揺らしました。
橋は折れ、道は消え、
家々は水につかり、
けがをした人もたくさんいました。
村の人たちは、あまりに大変な状況に、
立ち尽くしました。
しかし、リリーのお父さんは、ため息をひとつついただけで、
すぐに動きはじめたのです。
壊れた家を直し、
倒れた木をどけ、
けが人を抱えて運び、
村の人たちと力を合わせて
新しい橋や道をつくりはじめました。
(必ず帰る。
君と……あの子のところへ。)
その思いだけが、
毎日を支えていたのです。
季節が少しめぐったころ、
お母さんがいる村に、旅の商人が立ち寄りました。
「遠い遠い山の向こうで、大雨が降って、
大変なことになっているらしいよ。」
その言葉に、お母さんの胸は
ぎゅっと痛くなりました。
きっと、あの人が行った村のことだわ…
あの人は、無事なのかしらーー
その時、風がふっと、やさしく吹いて
お母さんの髪を揺らしました。
不安は消えません。
涙もこぼれそうでした。
それでも胸の奥に、
ぽっと小さなあかりが灯ったのです。
「……大丈夫。
あの人なら、きっと帰ってくる。」
さらに時が流れ、
山にあたらしい緑がそろいはじめたころ。
お父さんたちがつくっていた橋が形になり、
崩れていた道も、
少しずつ人が通れるようになりました。
「……帰れる…帰れるぞ!」
お父さんは木のかばんを背負い、
はやる気持ちをおさえて、
ふるさとへの山道を、一歩一歩、
懸命に、進んでいきました。
夕暮れの光の中、
お母さんがいつもの丘に立つと、
遠くにひとりの影が見えました。
破れた布。
すりへった靴。
でも、
歩き方も、目の光も、
幼いころから知っている、あの人。
「……おかえり。」
お母さんの声は
小さく震えていました。
お父さんは息を整えながら、
静かに言いました。
「ただいま。
君のところへ帰ってきたよ。
心配かけてごめん。」
お母さんの腕のなかで眠る赤ちゃんを見ると、
お父さんはそっと、その小さな手を握りました。
お父さんは、お母さんの手をやさしく取りました。
「役所に行こう。
君との婚姻届(こんいんとどけ)を出したい。
それから――」
眠る赤ちゃんを見て、
ゆっくり続けました。
「この子の“父親の欄”を、
ちゃんと埋めに行きたい。
私は、この子の父親だから。」
お母さんは、
涙をぬぐって笑いました。
「うん……行こう。」
その日から、リリーの家族は
いつも一緒です。
朝は笑い声で始まり、
昼は一緒に美味しいご飯を食べ、
夜には三人で星空をながめました。
少しだけ、遅れて始まった家族だけれど、
そのぶんだけ、
深くて、あたたかくて、
ずっと、ずぅっと離れない、
すてきなすてきな家族になりましたとさ。
おしまい🌙
🌙🌿 ✏️ このお話の ちいさなひみつ
この物語の奥には――
夜の図書館で、リリーが胸の奥からそっと語ってくれた
“家族の名前が並ぶまでのお話” が静かに息づいています。
山の向こうで会えなかった時間。
帰ってきた日の、涙まじりの「おかえり」。
そして、新しい戸籍の中でやさしく寄り添った、三人の名前。
どうして“名前”は並ぶのか。
どうして“空白”が生まれるのか。
そこには、ちいさくて大切な法律のしくみが隠れています。
もし、そのひみつをそっとのぞいてみたくなったら……
夜の図書館の扉を開いてみてくださいね👇
👉 🌙相続学校⑤ 認知ってなに?―名前をむすぶ、小さな届出―
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夜の図書館の奥、“光る本棚”を抜けると――
そこには、家族のつながりを学ぶ“相続学校”の教室がひらけます🌕
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プロフィール
🌿司法書士ママ|みか
平成19年司法書士試験合格。
売買・相続などの不動産登記や会社・法人登記に15年以上たずさわっています。
家族の物語とともに、法律を“絵本のようにやさしく”お届けしていきます🍃
🐢レオくんからひとこと
「ぼくも、まいにち けんたくん・ゆうたくんと まなびちゅう🐢💚」
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