第六話 あかい くるまと クマの ぬいぐるみ
📘 はじめて読む方へ
このお話は、子どもが働く体験のできる
こどものくにを舞台にした物語です。
※前のお話のつづきになります。
前回のお話はこちら👇
👉第五話 二かいめのおしごとー株主総会に出席しようー
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👉🏰こどものくに(やさしい法律教室シリーズ内)
次の日の朝。
その日は、お仕事のない日でした。
はるきは、ゆっくり起きて、
いつもより少しだけ、長く窓の外を見ていました。
「……きょうは、おさんぽしようかな」
はるきは、自分の車に乗りこみました。
ボタンを押すと、
車は、いつもの道を、静かに走り出します。
街は、今日もにぎやかです。
公園では、こどもたちが走りまわり、
道には、いろんな車が、すいすいと通っています。
そのとき。
はるきの目の前を、
とても、とても、かっこいい車が通りすぎました。
つやつやの車体。
ぴしっとした形。
「……かっこいい」
気がつくと、はるきの車は、
その車が止まった建物の前で止まりました。
〈くるまや〉
中をのぞいてみると――
店員さんはいません。
でも、そこには、
見たこともないような車が、ずらりと並んでいました。
ちいさな車。
はやそうな車。
ぴかぴかの車。
どれも、かっこいい。
でも、そばの札を見ると、
コイン 30まい
コイン 40まい
コイン 50まい
「……ぼくのコインじゃ、まだ、かえないな」
はるきは、少し残念な気持ちで、
帰ろうとしました。
そのとき。
「また、会ったね」
声がして、ふり向くと――
昨日、株主総会で会った、
あのお兄ちゃんが立っていました。
「ぼくは、れん」
「ぼく、はるきだよ」
「きょうはね、コインがたまったから、
新しい車を、もう一台、買おうと思って」
れんは、そう言って、
楽しそうに、車を見てまわります。
「これもいいな……
あ、でも、こっちのほうが、はやそうだ」
しばらくして、れんは、一台の前で止まりました。
真っ赤な、一人乗りのスポーツカー。
札には、
コイン 50まい と書いてあります。
「これにする」
れんは、だれもいない空間に向かって、
はっきりと言いました。
「これ、ください」
すると――
ふわっ。
空中に、一まいの紙が現れました。
〈ばいばい けいやくしょ〉
この車をコイン50まいで、
売り買いします。
れんは、紙を受けとると、
さらさらっと、自分の名前を書きました。
その瞬間。
また、別の紙が、ふわりと現れます。
〈赤いスポーツカーの もちぬし リスト〉
「もちぬし」のところに――
れん
と、名前が書いてありました。
「……え?」
はるきは、思わず声を出します。
紙を見て、もう一度、車を見て、
それから、れんの顔を見ました。
「まだ、コイン、はらってないのに……
もう、れんの車になったの?」
れんは、うなずいて言いました。
「うん。
この世界ではね、
とくべつな やくそくが ないかぎり、
売るよ、買うよって
やくそくを しただけで、
もちぬしは かわるんだよ」
「……やくそく、だけで?」
「そう。
だから、やくそくは、しっかり考えてからしないとね」
そのあと、れんは、
コイン50枚を置いて、
真っ赤な車に乗りこみました。
車は、すーっと走り出し、
街の向こうへ消えていきます。
れんが置いたコインは、
ふわっと消えてなくなりました。
はるきは、そのあとを見ながら、
小さく、つぶやきました。
「とくべつな やくそくが なかったら、
売るよ、買うよっていう
やくそくだけで、
もちぬしが かわっちゃうんだ……
でも、コインをはらわなかったら、
どうなっちゃうんだろう……?」
なんだか、すこし、ふしぎ。
はるきは、自分の車に乗りこみました。
ボタンを押すと、
車は、静かに走り出します。
車屋さんを出て、しばらく走ると――
はるきの車は、ガチャガチャがたくさんあるところで止まりました。
「……ぼくが、ガチャガチャしたかったことが
わかったのかな」
公園のそばにも、道ばたにも、
たくさんのガチャガチャが並んでいます。
ガチャガチャには、
どんなものが景品として出るのか、
たくさんの絵が描いてありました。
どれにしようか、しばらく迷ってから、
はるきは、一台のガチャガチャの前で止まりました。
そのガチャガチャだけ、
何の絵も描いていなくて、
大きな「?」の文字だけ。
「どんなものが出るんだろう?」
コインを一まい、入れて――
くるくる。
ころん。
カプセルが、ひとつ、出てきました。
中に入っていたのは、
小さな、小さな、クマのぬいぐるみ。
はるきが取り出してみると――
ふわっ。
さっきまで手のひらにのる大きさだったクマが、
はるきの半分くらいの、大きなぬいぐるみに変わったのです。
「……すごい」
はるきが、
びっくりしていると、
「いいなぁ」
うしろから、声が聞こえました。
ふり向くと、
はるきより少し小さい女の子が、
うらやましそうに、クマを見ています。
「わたし、ずっと、
そんなぬいぐるみが
ほしかったの。
お兄ちゃん、
売ってくれないかな?」
はるきは、少し考えてから、言いました。
「いいよ。
いくらにしようか?」
「コイン、二まいはどうかな?」
「……いいよ」
でも、そのとき。
はるきの頭に、
さっき、くるまやさんで
聞いた言葉が、
ふっと浮かびました。
――とくべつな やくそくが なければ、
売るよ、買うよの
やくそくだけで、
もちぬしは かわる。
(お金をもらわないのに、
持ち主がかわるのは、いやだなぁ……)
どうしたら、いいんだろう。
はるきが困っていると――
ふわっ。
目の前に、
あのときと同じ紙とペンが、
あらわれました。
〈ばいばい けいやくしょ〉
わたしたちは、
このクマのぬいぐるみを、
コイン二まいで、売り買いします。
ただし、
もちぬしは、売主がコインを うけとってから、かわります。
「コインとぬいぐるみ、
こうかんね。」
女の子は、そう言って
うれしそうに
笑いました。
そして、はるきと女の子は、
それぞれ、けいやくしょに
名前を書きました。
女の子が、コインを二まい、はるきに渡します。
それと引きかえに、
はるきは、クマのぬいぐるみを手渡しました。
クマは、女の子の腕の中で、
にこっと、わらっているみたいです。
「…そっかぁ。
やくそくに、
ちゃんと書けば、
コインと ひきかえに、
もちぬしを かえられるんだな」
はるきは、そうつぶやきました。
なんだか、少しだけ、かしこくなったような気がします。
また、ひとつ。
この世界のことを、知った気がしました。
🏰前のお話はこちら👇
👉第五話 二かいめのおしごとー株主総会に出席しようー
🏰次のお話はこちら👇
👉第七話 ネクタイと だいひょうの えらびかた
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平成19年司法書士試験合格。
売買・相続などの不動産登記や会社・法人登記に15年以上たずさわっています。
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