「黎明の護剣士(れいめいのごけんし)」—夜を切り裂き、黎明を呼ぶ者たち—
第十三章 血塗られた記憶 ― 父と影の果てに ―
「お前の父親は、、俺が殺した。」
血影の言い放つ真実により戦場に衝撃が走る。
戦場に響く血影の嗤い声。
「今……何て、言った?」
蓮の声は震えていた。怒りとも絶望ともつかぬ感情に押し潰されながら。
血影は赤黒い外套を翻し、ゆっくりと歩み寄る。
その足取りはまるで戦場を逆再生するかのように重く、過去を語るにふさわしい。
■ 血影の記憶
「奴は……強かった」
血影の眼が細まり、まるで憎悪ではなく畏怖を語るかのように呟いた。
「俺が“七つの影”に座を得る前、ただの狂犬として戦場を渡り歩いていた頃だ。
幾百の命を喰らい、血を刃としながら……その時、奴が立ちはだかった」
夜の帳に染まった荒野。
血影が語る記憶の中、無数の屍の山を背景に、一人の剣士が立っていた。
白銀の髪を風に揺らし、燃えるような瞳を宿す男――灰音宗一。
その背に纏うのは、ただ一人で軍勢を退けるほどの烈しき気迫。
「……あれほどの黎明剣術を、俺は見たことがなかった。」
血影の声が、わずかに震える。
「奴の一閃は、俺の血の盾を易々と裂き、俺の血剣をも弾き砕いた。
初めてだった……死ぬかもしれぬと思ったのは。」
血影は己の掌を見下ろす。
そこには過去に刻まれた深い傷痕が残っていた。
■ 死闘の果て
悲しみを超え、蓮の瞳が怒りで燃え始める。
だが血影は語ることを止めない。むしろ、その目の炎を楽しむかのように言葉を紡ぐ。
「俺と灰音宗一は、三日三晩、血と炎の中で斬り合った。互いの刃は何百度も交錯し、そのたびに大地が裂け、空が裂けた。」
大気を焦がす炎の斬撃。
それを浴びながらも立ち上がる血影。
血影の無数の血刃を薙ぎ払い、なおも前へ進む灰音宗一。
「奴は強靭だった。……いや、強さだけではない。
斬るたびに、俺の奥底に残っていた“心”を呼び覚まそうとした。」
その言葉に、蓮は息を呑む。
「そうだ……奴は最後まで俺を“人”として見ていた。怪物ではなく、同じ剣士として。」
一瞬、血影の瞳に紅以外の色が宿った気がした。
だがすぐに消える。
「だが――その甘さこそ、命取りだった」
血影の声音が鋭さを帯びる。
「奴は俺を討てた。最後の一閃、俺は完全に死を覚悟した。だが……奴は躊躇った。俺の眼を見て、剣を逸らしたのだ。」
その隙を逃す血影ではなかった。
「俺は己の血をすべて刃と変え、奴の心臓を貫いた。接戦の果てに、勝ったのは俺だ。」
血影は嗤う。
だがその笑みには、どこか満たされぬ影が潜んでいた。
■ 父の最期
「宗一は……最後まで笑っていた。」
血影の声が微かに揺れる。
『……蓮を……頼む……』
その言葉を口にしながら、灰音宗一は血影の目の前で息絶えた。
灰音宗一は血影の中に残っていた「人の心」に賭けて、自分の1番大切な物を託したのだ。
まだ闇喰に染まり切っていない血影が「人の心」を取り戻すと信じて。
「俺は理解できなかった。俺を斬ろうとした男が……なぜ最期に、俺に息子を託す?!」
血影は唇を噛む。
「俺は“怪物”だ。人を喰らい、血を刃とし、ただ殺すために在るというのに。」
赤い瞳が、蓮を射抜く。
「だがあの日から……俺の中に宗一が残っている。
奴の刃の記憶と、奴の笑顔が……俺を蝕み続けているのだ!」
■ 告白
蓮は言葉を失った。
血影の語りは、父の死を刻みつけると同時に、血影自身の心の奥底を暴き出していた。
「だからだ、灰音蓮。」
血影はゆっくりと血剣を掲げる。
「お前の炎が……あの日の宗一を思い出させる。
お前を斬れば、俺の中の“残滓”も消える。
俺は完全に怪物になれる!!」
蓮の胸に、燃えるような怒りと哀しみが渦巻いた。
父を殺した男が、今ここで父の名を語り、その記憶に縋っている。
「血影……お前は――」
蓮は刀を握り直し、黎明剣術の構えをとる。
「父さんの仇であり……そして、父さんが最後に認めた“宿敵”だ!!!」
夜空を裂き、再び紅と炎が交錯する。
過去の因縁が、今、決着の舞台へと収束してゆく――。
続く‥‥
