久世家日誌①|序章

橋本良太は最近、訪問リハビリを始めた。
そのせいか、スケジュールはまだスカスカだった。
訪問の世界では、仕事は待っていても降ってこない。
まずはケアマネ事務所へ、挨拶回り。いわゆる営業だ。
その日、橋本はとある事務所のドアを叩いた。
「コンコン。はじめまして。理学療法士の橋本良太です」
「あら、どうも初めまして」
にこやかなケアマネは名刺を受け取り、軽く会釈を返した。
橋本はここが勝負どころだと思った。
少しだけ声のトーンを上げる。
「最近入ったばかりで、スケジュールがスカスカなんですよ。なんでも引き受けます!
特に僕、昔から“クセがある方”とも仲良くなれるんで得意です!」
「えっ……?」
ケアマネの表情が、一瞬だけ止まった。
その次の瞬間、なぜか目が光った。
「じゃあ、ちょうどいい人がいるわ。
最近リハビリの人と上手くいかなくて、新しいリハビリの人を探してたところなのよ」
「ありがとうございます!お任せください!」
橋本は深く頭を下げた。
その時点では、まだ知らなかった。
自分が今、どんな扉を開けたのかを。
こうして、橋本と久世家の物語が始まった。
そして数日後。
橋本は、久世家のインターホンの前に立つことになる。
その扉の向こうにいるのが、
「クセがある」どころでは済まない相手だとも知らずに。
──次回、久世家・初訪問。
