【AI】業務効率化_第10回(10/10)_AIを経営の壁打ち相手にする 戦略・ブランディング・数字分析への活用
「これから会社をどうしていくか」
社長は、いつもこの問いと向き合っています。
売上をどう伸ばすか。
利益をどう確保するか。
人手不足にどう対応するか。
価格改定をどう進めるか。
新規事業に取り組むべきか。
既存のお客様との関係をどう深めるか。
会社の強みをどう打ち出すか。
若手にどう会社の方向性を伝えるか。
日々の業務に追われながらも、社長は常に先を考えています。
ただ、経営の悩みは簡単には答えが出ません。
誰に相談すればよいか分からない。
頭の中では考えているけれど、整理できていない。
選択肢はあるけれど、決めきれない。
社員に伝える言葉になっていない。
数字は見ているが、次の打ち手に落とし込めていない。
こうしたことは多いと思います。
そこで使いたいのがAIです。
AIは、社長の代わりに経営判断をするものではありません。
でも、社長の考えを整理する
壁打ち相手
にはなります。
自社の強みを言葉にする。
戦略案のたたき台を作る。
新規事業の選択肢を出す。
ブランドメッセージを考える。
月次数字の変化を整理する。
社員向けの方針説明を作る。
こうした場面で、AIはかなり役立ちます。
最終回では、AIを少し経営寄りに使う方法を見ていきます。
1. AIは「社長の頭の中」を整理するのが得意
中小企業では、会社の重要な情報が社長の頭の中に集まりがちです。
お客様の特徴。
会社の強み。
現場の課題。
社員の状況。
競合との違い。
これからやりたいこと。
今後の不安。
大切にしている価値観。
社長自身は分かっています。
でも、それを言葉にするのは意外と難しいです。
「うちの強みは何ですか?」
と聞かれても、すぐに整理して答えるのは簡単ではありません。
「対応力かな」
「長年の信頼かな」
「小回りが利くところかな」
「品質にはこだわっているかな」
このように、いくつかは出てきます。
ただ、それを社員やお客様に伝わる言葉にするには、もう一段整理が必要です。
そこでAIが使えます。
たとえば、社長が思いつくままにメモを書きます。
当社は創業40年。地域の製造業のお客様が多い。急な相談にもできるだけ対応してきた。大手のように大量生産はできないが、細かい要望に合わせるのは得意。長く付き合っているお客様が多い。最近は若手が少なく、技術承継が課題。今後は保守や改善提案にも力を入れたい。
このようなメモをAIに入れて、こう頼みます。
上記の内容をもとに、当社の強み、課題、今後の方向性を整理してください。
中小企業の経営者が社員に説明しやすい形にしてください。
これだけで、頭の中にあった考えが整理されます。
AIは、社長の考えをゼロから作るものではありません。
社長の中にあるものを、見える形にする道具です。
2. 戦略案は「たたき台」として作らせる
AIは、戦略案のたたき台作成にも使えます。
たとえば、売上を伸ばしたい場合。
いきなり「売上アップの戦略を作って」と頼むと、一般的な答えになりがちです。
そうではなく、自社の状況をできる範囲で伝えます。
たとえば、こうです。
当社は社員30名の中小企業です。
既存顧客からの売上が中心で、新規開拓はあまりできていません。
強みは、既存顧客との関係性、柔軟な対応、現場対応力です。
課題は、営業担当者が少ないこと、提案資料が整っていないこと、価格改定が進んでいないことです。
今後1年間で売上と粗利を改善するための戦略案を作成してください。
すぐに実行しやすい施策を中心にしてください。
このように頼むと、AIはたとえば次のような方向性を出してくれます。
既存顧客への追加提案
休眠顧客への再アプローチ
価格改定の進め方
提案資料の整備
営業日報から顧客ニーズを拾う
高粗利商品の重点提案
問い合わせ対応の標準化
紹介を増やす仕組みづくり
もちろん、すべてがそのまま使えるわけではありません。
でも、選択肢が並ぶことで考えやすくなります。
社長が一人で考えていると、どうしても同じ考えをぐるぐる回りがちです。
AIに一度たたき台を出させると、
「これは使えそう」
「これは違う」
「これは少し変えればできる」
と判断しやすくなります。
戦略はAIに決めさせるものではありません。
AIには、考える材料を出してもらう。
この使い方が現実的です。
3. SWOT分析や3C分析の整理にも使える
経営戦略を考えるとき、フレームワークを使うことがあります。
たとえば、
SWOT分析
3C分析
PEST分析
競合比較
顧客分析
こうしたものです。
名前だけ聞くと少し難しく感じるかもしれません。
でも、AIを使うと、かなり取り組みやすくなります。
たとえば、SWOT分析なら、次の4つを整理します。
Strength:自社の強み
Weakness:自社の弱み
Opportunity:外部の機会
Threat:外部の脅威
AIには、こう頼めます。
以下の当社の状況をもとに、SWOT分析をしてください。
そのうえで、強みを活かして機会を取りに行く施策を5つ提案してください。
中小企業でも実行しやすい内容にしてください。
3C分析なら、
Customer:顧客
Competitor:競合
Company:自社
を整理します。
AIには、こう頼めます。
当社の事業について、3C分析の形で整理してください。
顧客、競合、自社の観点から、今後の打ち手を考えてください。
最後に、優先すべき施策を3つ提案してください。
こうした分析は、正解を出すためというより、
考えを整理するために使います。
AIを使うと、フレームワークの空欄を埋める感覚で進められます。
社長が一人で紙に向かって考えるより、ずっと始めやすいです。
4. ブランディングのアイデア出しにも使える
AIは、コーポレートブランディングのアイデア出しにも使えます。
たとえば、
会社のキャッチコピー
スローガン
ブランドメッセージ
採用メッセージ
会社紹介文
ロゴの方向性
ホームページの見せ方
代表メッセージ
こうしたものです。
中小企業にとって、ブランディングという言葉は少し大げさに感じるかもしれません。
でも、難しく考える必要はありません。
ブランディングとは、簡単に言えば、
自社が何者で、何を大切にしていて、誰にどんな価値を届ける会社なのかを伝えること
です。
AIには、こう頼めます。
当社は地域密着型の設備工事会社です。
強みは、対応の早さ、現場経験、長年のお客様との信頼関係です。
大切にしている価値観は、誠実な対応、困ったときに頼れる存在であること、長く使える品質です。
この内容をもとに、会社のキャッチコピー案を10個出してください。
中小企業らしい温かさと信頼感が伝わる表現にしてください。
また、採用向けなら、
若手採用向けに、当社で働く魅力を伝えるメッセージを考えてください。
未経験から技術を身につけられること、地域の役に立つ仕事であること、少人数で相談しやすいことを伝えたいです。
ロゴの方向性を考える場合も、AIは使えます。
当社のブランドイメージを整理してください。
キーワードは、信頼、技術、地域密着、誠実、安心です。
ロゴを作る場合の方向性、色のイメージ、避けた方がよい印象を整理してください。
ただし、ロゴやスローガンは注意が必要です。
AIが出した案をそのまま使うのではなく、
他社と似ていないか。
商標上の問題がないか。
自社の実態と合っているか。
社員が納得できるか。
ここは必ず確認します。
AIは、ブランディングを完成させる道具ではありません。
アイデアを広げる道具です。
最後に選ぶのは人です。
5. 経営数字の“ざっくり分析”にも使える
AIは、経営数字の整理にも使えます。
たとえば、
売上の推移
粗利率の変化
商品別売上
顧客別売上
月別の増減
固定費の変化
部門別の利益
資金繰りの見通し
こうした数字を見て、傾向を整理することができます。
もちろん、AIに会計判断を丸投げしてはいけません。
税務や会計処理の最終判断は、税理士や専門家に確認すべきです。
ただ、数字の変化を分かりやすく説明させることはできます。
たとえば、月次の売上データがある場合です。
以下は、直近12か月の売上と粗利率のデータです。
月ごとの変化を整理し、気になる点を挙げてください。
中小企業の経営者が確認すべきポイントとしてまとめてください。
なお、会計判断ではなく、傾向の整理としてお願いします。
顧客別売上なら、
以下の顧客別売上データをもとに、売上上位顧客、前年から伸びている顧客、減少している顧客を整理してください。
既存顧客への追加提案につながりそうな視点も出してください。
商品別粗利なら、
以下の商品別売上と粗利率をもとに、粗利に貢献している商品を整理してください。
売上は大きいが粗利率が低い商品、売上は小さいが粗利率が高い商品も分けてください。
このように頼むと、数字を見る切り口が増えます。
社長は忙しいので、数字をじっくり見る時間が取りにくいこともあります。
AIを使えば、
「どこを見るべきか」
「何が変化しているか」
「次に確認すべきことは何か」
を整理しやすくなります。
6. 月次会議や経営会議の資料づくりにも使える
経営数字の分析は、会議資料にもつながります。
たとえば、月次会議で使う資料です。
売上。
粗利。
受注状況。
問い合わせ件数。
クレーム件数。
採用状況。
資金繰り。
重点課題。
こうした情報をAIに整理させると、会議資料のたたき台になります。
たとえば、こう頼みます。
以下の月次データをもとに、経営会議用の報告資料を作成してください。
今月の良かった点
気になる点
原因として考えられること
来月確認すべきこと
実行すべきアクション
の形で整理してください。
これにより、数字が単なる報告で終わらなくなります。
「売上が上がった」
「粗利が下がった」
「問い合わせが増えた」
「クレームが減った」
これだけでは、次の行動につながりにくいです。
大事なのは、
数字を見て、何をするか
です。
AIは、そのつなぎを手伝ってくれます。
もちろん、原因の特定は慎重に行う必要があります。
AIが出した原因は、あくまで仮説です。
現場に確認する。
営業に聞く。
お客様の声を見る。
数字の元データを確認する。
この作業は必要です。
ただ、会議前に論点を整理しておくことで、会議の質はかなり上がります。
7. 社員向けの方針説明にも使える
戦略や数字を考えたら、次に大切なのは社員への共有です。
社長の頭の中にあるだけでは、会社は動きません。
社員に伝わって初めて、行動が変わります。
ただし、経営方針を社員に分かりやすく伝えるのは簡単ではありません。
専門的すぎると伝わりません。
抽象的すぎると動けません。
厳しすぎると不安になります。
楽観的すぎると危機感が伝わりません。
ここでもAIが使えます。
たとえば、こう頼みます。
以下の経営方針を、社員向けに分かりやすく説明する文章にしてください。
難しい言葉は避けてください。
会社の現状、今後力を入れること、社員にお願いしたいことを整理してください。
不安をあおるのではなく、前向きに一緒に取り組む雰囲気にしてください。
朝礼用なら、
上記の内容を、朝礼で3分程度話す原稿にしてください。
一文を短くし、話し言葉に近い自然な文章にしてください。
社内文書なら、
上記の内容を、社内共有用の文書にしてください。
見出しを付け、読みやすく整理してください。
最後に、各部署が今日から意識することを箇条書きにしてください。
経営方針は、立派な言葉よりも、伝わる言葉が大事です。
AIを使えば、社長の考えを社員に伝わる形に整えやすくなります。
8. 実際に始めるなら、この流れがおすすめ
では、戦略・ブランディング・数字分析にAIを使う場合、どう始めればよいのでしょうか。
おすすめは、次の流れです。
ステップ1
まず社長の考えをメモにする
最初からきれいな文章にしなくて大丈夫です。
まずは、思いつくままに書き出します。
たとえば、
今、会社で困っていること
今後伸ばしたい事業
自社の強み
自社の弱み
お客様から評価されている点
社員に伝えたいこと
数字を見て気になっていること
来期に取り組みたいこと
箇条書きで十分です。
このメモが、AIとの壁打ちの材料になります。
ステップ2
AIに整理してもらう
次に、AIに整理を頼みます。
たとえば、こうです。
以下は、当社の現状について社長が書いたメモです。
内容を整理して、
強み
課題
機会
リスク
今後取り組むべきこと
に分けてください。
中小企業の経営者が見やすい形にしてください。
これにより、頭の中が見える化されます。
ステップ3
戦略案を複数出してもらう
整理できたら、次に打ち手を出してもらいます。
上記の整理をもとに、今後1年間で取り組むべき戦略案を5つ出してください。
それぞれについて、期待できる効果、必要な準備、注意点、実行のしやすさを整理してください。
ポイントは、複数案を出してもらうことです。
1つだけだと判断しにくいです。
複数案があると、比較できます。
ステップ4
数字や現場情報と照らし合わせる
AIが出した案を、そのまま採用してはいけません。
必ず、数字や現場情報と照らし合わせます。
売上や粗利の状況と合っているか
人員的に実行できるか
現場に負荷がかかりすぎないか
お客様のニーズと合っているか
資金繰りに無理がないか
自社の強みを活かせるか
ここを確認します。
AIの案は、あくまでたたき台です。
判断は社長が行います。
ステップ5
社員に伝わる言葉に直す
最後に、決めた方針を社員に伝える文章にします。
AIには、こう頼みます。
以下の方針を、社員向けに分かりやすく説明する文章にしてください。
難しい経営用語は避けてください。
なぜ取り組むのか、何をするのか、社員に期待することを整理してください。
前向きな雰囲気で、短文中心にしてください。
方針は、決めただけでは動きません。
社員が理解し、納得し、行動できる形にすることが大切です。
9. 注意点:AIに経営判断を丸投げしない
ここはとても大事です。
AIは便利です。
でも、AIに経営判断を丸投げしてはいけません。
なぜなら、AIは自社のすべてを知っているわけではないからです。
現場の空気。
社員の性格。
お客様との関係性。
過去の経緯。
資金繰りの実感。
社長の覚悟。
地域での評判。
取引先との微妙な関係。
こうしたものは、社長や社員にしか分かりません。
AIは、もっともらしい戦略案を出すことがあります。
でも、それが自社で実行できるかは別です。
たとえば、
「新規事業を展開しましょう」
「SNSを強化しましょう」
「高付加価値化しましょう」
「採用ブランディングを強化しましょう」
どれも正しそうです。
でも、誰がやるのか。
いつやるのか。
予算はあるのか。
現場は回るのか。
お客様は求めているのか。
ここを考えなければ、絵に描いた餅になります。
AIは、壁打ち相手です。
質問すれば、視点をくれます。
整理すれば、見やすくしてくれます。
案を出せば、比較しやすくしてくれます。
でも、最後に決めるのは社長です。
10. 社内で使い回せる「経営壁打ちプロンプト」を作る
AI活用を定着させるなら、経営検討用の指示文を用意しておくと便利です。
強み・課題整理用
以下は、当社の現状メモです。
内容を整理して、強み、弱み、機会、脅威に分けてください。
そのうえで、今後1年間で優先すべき課題を3つ挙げてください。
戦略案作成用
以下の状況をもとに、中小企業でも実行しやすい戦略案を5つ出してください。
それぞれについて、期待効果、必要な準備、注意点、実行難易度を整理してください。
ブランディング案作成用
以下の会社情報をもとに、当社のブランドメッセージ案を作成してください。
お客様に伝えたい価値、会社の強み、避けたい印象も整理してください。
キャッチコピー作成用
当社の強みは〇〇です。
お客様に伝えたい価値は〇〇です。
この内容をもとに、キャッチコピー案を10個出してください。
信頼感があり、中小企業らしい温かさが伝わる表現にしてください。
数字分析用
以下の売上・粗利データをもとに、傾向を整理してください。
気になる変化、確認すべき点、次に取るべきアクション案をまとめてください。
会計判断ではなく、経営判断の材料として整理してください。
社員向け説明文作成用
以下の経営方針を、社員向けに分かりやすく説明する文章にしてください。
難しい言葉を避け、なぜ取り組むのか、何をするのか、社員にお願いしたいことを整理してください。
前向きで、短文中心の文章にしてください。
こうした型を持っておくと、経営会議や方針検討の前に使いやすくなります。
11. 今日からできる一歩
今日から始めるなら、まず社長自身が10分だけ時間を取ってください。
そして、次の3つを書き出します。
今、会社で一番気になっている課題
自社の強みだと思うこと
今後1年で取り組みたいこと
箇条書きで構いません。
きれいに書く必要はありません。
そのメモをAIに入れて、こう頼みます。
以下は、当社の現状についてのメモです。
内容を整理して、強み、課題、今後取り組むべきことに分けてください。
そのうえで、今後1年間で実行しやすい施策案を5つ出してください。
中小企業でも無理なく始められる内容にしてください。
まずはこれだけです。
出てきた答えを見て、こう考えます。
「これは使えそう」
「これは違う」
「これは少し変えればできる」
「これは社員と話してみたい」
「これは数字を確認した方がよい」
それで十分です。
AIとの壁打ちは、正解をもらうためではありません。
考えるきっかけを増やすためです。
経営は、社長が一人で抱え込みがちです。
でも、頭の中にある考えを外に出すだけで、整理されることがあります。
AIは、その相手になります。
戦略を考える。
強みを言葉にする。
ブランディングの方向性を出す。
数字の変化を整理する。
社員に伝える文章を作る。
こうした場面でAIを使えば、社長の考える時間はより濃くなります。
最後に判断するのは人です。
でも、判断する前の整理はAIに手伝ってもらえます。
このシリーズで紹介してきたAI活用は、どれも特別なものではありません。
議事録。
日報。
メール。
資料整理。
営業資料。
リサーチ。
FAQ。
採用。
教育。
技術承継。
そして経営の壁打ち。
どれも、中小企業の日常業務に関わるものです。
AIは、大企業だけのものではありません。
むしろ、人手が限られている中小企業こそ、うまく使う価値があります。
AIは、人を減らすための道具ではありません。
限られた人員で、
本当に大事な仕事に集中するための道具です。
社長の時間を取り戻す。
社員の負担を減らす。
会社の知恵を残す。
お客様への対応を良くする。
未来を考える時間を作る。
そのために、まずは小さく使ってみる。
これが、中小企業のAI活用の第一歩です。
