あの頃を思い出しながら、赤星を3本。
平成3年生まれ、今年で30歳。学生時代の友人とはだいたいがSNSでつながっている。Twitter・Facebook・Instagramのうち、最低1つは相互フォローになっていて、甥っ子と遊んだり、職場で表彰されたりと、更新頻度の多い人だと学生のとき以上に近況を把握している。
そんな今の時代に、顔もわからないほど疎遠になっていた元親友と、10年ぶりに再会することになった。
その彼と飲んだビールが、最高にうまかった。
今日はそんなはなしを書きます。
・・・
ルクアの10F、丸福珈琲店の4人がけテーブルに、対角になるように置かれたグラスとおしぼり。
待ち合わせの時刻まではまだ1時間近くあったけど、家にいても落ち着かないので先に店で待つことに。
キーボードをパチパチたたいていると、予定より10分遅れて彼がやって来た。店側の意図に気付かずか、あるいは気付いた上でか、彼は迷わずぼくの正面の席を選んで腰を下ろす。隣のイスにドサッとかばんを置いたその様子に若干の横柄さを感じてしまい、「うわぁ、なんか苦手な人になっちゃったかな」と、思わずため息に似た深呼吸をした。
「動画どこで撮ろっか?」と今日のプランを練りはじめて30分。真向かいに座る彼と正対するのがなんとなく気まずくて、さっきからずっと体を斜めに向けて話しをしている。
昔はちがった。
中学時代、彼とは「親友」と呼び合える間柄だった。お互いの実家に泊まり、母親の手料理を食べ、一緒に風呂に入った。「シャンプーどれ?」と聞かれてわざとボディソープを渡し、「おいこれちゃうやつやんけ!」とキャッキャして笑い合った日々。
高校も同じで、部活も同じだった。高2の頃、文系理系で別々の道を選びはじめてから、少しずつ話しをしなくなった。ちょうどその時期、好きだった女の子に彼氏ができて、その彼氏がまさかの親友であることを知り、ますます話さなくなってしまった。
ぼくたちが仲良しだったことを知る母親からは、実家に帰るたびに「〇〇は最近どうしてるん?」と聞かれる。その度にきまり悪く感じながら、「最近会ってないから知らんわぁ」と言葉を濁して話題を断ち切った。
・・・
急に会うことになったのは、同じ中学の女の子からのLINEがきっかけだった。同級生の披露宴で流すお祝いムービー用に、動画を撮って送ってほしいという依頼。メッセージに加え、口パクで校歌を歌っている動画も欲しいらしい。この手の頼まれごとが苦手で、返事を渋っていると、不意に「動画のはなし聞いた?一緒に撮ろや」と彼から連絡がきた。
他でもない、彼から連絡が来たことに驚いた。なんせ彼は、新婦と中学時代に付き合っていた男だ。つまり、元カレだ。ぼくが断るとさすがにひとりじゃお祝いできないだろうなと、勝手に気を遣い、ふたりで動画を撮ることにした。
「校歌はほんま勘弁してほしいわぁ」
残り少なくなったメロンソーダをすすりながら、彼がぼやく。久しぶりに会う彼は見た目こそ変わっていないものの、昔のように一緒にいて心から安心できる雰囲気は感じなくなっていた。
さっと撮影して帰ろう。まずは校歌だ。
撮影場所に決めたグランフロントのスカイロビーへ、足早に向かう。しんと静まり返った空間の中、外の景色を見る為に置かれたチェアーを土台に、タブレットを固定する。インカメにした画面には、正座をした今年30歳の男たちが映っている。
……あれ、なんだかたのしそうだ。
小さい音で校歌を流し、メロディに合わせて口を動かす。リズムに乗って首を上下に振りつつ、わざとらしく口をパクパクした男がふたり。画面越しに見るその光景がなんだか照れくさくって、自然と笑みがこぼれてしまう。
……あれ、意外とたのしいぞ。
流行りのYouTube動画のように、一発撮りで事が進んだ。
次はメッセージだ。
もう少し声を出せる場所をと探して、近くの喫煙室を見つける。ふたりとも煙草は吸わないが、人が少ない上に密室で、さらにオシャレな内装になっていると来れば、こんなに動画向きな場所はない。
同じようにタブレットを固定する。最初のセリフは「〇〇ちゃん、結婚おめでとう。」だ。▶︎ボタンを押し、動画を回す。小声でせーのとつぶやき、声を合わせてセリフを言う。
ぼく 〇〇ちゃん、結婚おめでとう
彼 〇〇ちゃん、結婚おめでとうござ
ぶふっwwと吹き出し、笑顔がはじける。
「ちょ、もうまちがってるやん!」と、自然とツッコミを入れてしまう。

さっきまで感じていた気まずさはどこへやら。
一緒にパワプロをして遊んだあの頃のように、いつの間にか自然体で話せている。懐かしい、そして居心地の良い空気に、ずっと会ってなかったことがまるで嘘みたいに思えた。
動画を撮ったあとは、「一杯だけ飲みに行こう」と、梅田にある立ち飲みバーへ。
赤い星マークが描かれたサッポロの瓶ビールを注文し、コツン、と乾杯。「これ、美味いねん」と彼が頼んだ、ニラに卵の黄身を乗せたTHE・ニラ玉をふたりでつつきながら、同級生の名前を一人ずつ交互に挙げて、「まだおるはずやねん!」なんて笑い合った。アルコールでふわっとした頭に浮かぶ中学時代の彼と、目の前にいる彼の笑い方がぜんぜん変わってなくて、うれしくなった。
まだ外も明るい17時、梅田の地下にあるバーに、中学の同級生の名前を一人ずつ挙げてキャッキャする男がふたり。
ぼくらが肘をついているカウンターには、赤い星マークの空瓶が3本、たのしそうに並んでいた。

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