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旅するカバン — 記憶を運ぶ相棒

カバンに詰めたのは
服よりも、思い出の予感。
母が畳んでくれたシャツ、
祖父の古いカメラ、
旅先で使うはずのノートとペン。
それぞれが、まだ見ぬ景色を夢見ている。

出発前がいちばん楽しい。
天気予報を何度も確認して、
スーツケースの鍵をカチリと閉める音に、
胸が高鳴る。
空港の喧騒、駅のアナウンス、
非日常がすぐそこにある気がして。

観光名所にチェックをつけて、
「ここは絶対に行きたい」と地図に星を描く。
スマホのメモには、
地元の人しか知らない食堂の名前。
旅先の味は、記憶に残るスパイス。

そして、旅の醍醐味は
予定外の寄り道にこそ宿る。
迷い込んだ路地裏で見つけた古書店、
知らない言語で話しかけてくれた笑顔、
風に揺れる洗濯物の匂い、
そのすべてが、心の奥に静かに染み込んでいく。

写真よりも記憶が鮮やかで、
夕暮れの海辺、
朝市のざわめき、
ふと立ち止まった瞬間の風の匂い。
笑い声がカバンの奥に染み込んでいく。

帰り道、カバンは少し重くなる。
それは疲労じゃない、満足の重み。
靴の裏についた砂、
観光地のパンフレット、
切符の半券は、ただの紙じゃない。
乗り込んだ電車の窓から見えた海、
隣に座った人との沈黙の心地よさ、
そのすべてが、角の折れた紙に宿っている。

レストランのレシートには、
初めて食べた郷土料理の驚き、
店員の笑顔、
「美味しかったですね」と言い合った夜の空気。
数字の羅列の奥に、
確かにあった温もりが残っている。

爽快な疲れが体を包み、
「また来よう」と、そっとつぶやく。
カバンは静かに眠る。
次に目覚める日を、待ちながら。

 

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