タイトル:【都蘭山居手帖】人生の中途下車:四〇歳の決断と、土石流の老厝との邂逅
一九九九年十二月二日。それは、台北という都市の喧騒から離れ、東海岸の都蘭へと「中途下車」を決めた、私という人間の人生の分水嶺だった。
四十歳を迎えたその年、私は田舎への移住を夢見ていた。蔡医師の案内で車を走らせ、激しい季節風が吹き荒れる東海岸を北上する。その山奥に、かつて土石流に呑み込まれた一台の廃屋が佇んでいた。
窓は割れ、室内には厚く積もった黄泥が堆積し、老朽化した電柱がその場所の危うさを物語っていた。だが、農舎の裏山を登り、眼下に広がる太平洋と緑島を見渡した瞬間、見知らぬ土地であるはずなのに、胸の内に不思議な懐かしさが込み上げてきた。
「五年は家賃はいらねえ。その代わり、修理は全部あんたがやれ」 家主の豪快な一言で、私の農舎暮らしは、出会ってわずか三分で呆気なく決定した。
事後回想すれば、それはあまりに無謀な賭けだった。当時の私は、一生一度も工具を握ったことのない都会育ち。それからの日々は、東華大学での研究生活と、調査報告書という名の十数万字の執筆、そして現場での泥まみれの修繕作業という、過酷な多重生活の連続だった。
台東の泥の中から農舎を掘り起こし、壊れた窓を嵌め直し、傾いた電線を繋ぎ直す。これは単なる古い家屋の再生ではない。私という人間を、泥の中から再び磨き上げる「靈魂の整修」だったのだ。
【著者より:この連載について】 本稿は、電子書籍『意外的旅程:都蘭農舎山居歳月』(2018年増補版)より抜粋しました。1999年から2009年にかけて、都蘭の山林で紡がれた私の「初恋」のような記録です。2026年、私はこの物語を日本語へと翻訳し、Rakuten Kobo および Amazon Kindle にて出版いたします。
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