同じ問題が繰り返される。この構造の中に居続けるのは限界だった。
最初に違和感を持ったのは、クラウドソーシングのコンペだった。
ランサーズでパッケージデザインに応募したとき、興味本位と、あわよくば少しでも収入になればという軽い気持ちで参加した。
しかし、1つの案件に100案近く集まっている状況を見て、違和感があった。
採用は1点、報酬は数万円。非採用の一部は数千円。残りは無報酬。
その後、提案したデザインがまとめられ、別の形で使われているのを確認した。
個別の作品ではなく、素材として扱われていた。
この時点では、まだ例外だと思っていた。
しかしOEMの現場でも同じことが起きていた。
営業からの依頼でデザインする。正式な依頼書はない。
そのデザインは提案資料として使われる。
採用されることもある。しかし別案件で似た構成が使われることもある。
事後報告はない。
ある時、過去に出したデザインが複数組み合わされ、別の資料になっているのを確認した。出所は消えていた。
AI生成が普及してから、未確定段階のデザインが素材として扱われる流れはさらに増えた。
案の数が増え、検討に使われる回数も増えた。
画像は短時間で大量に生成される。案は無制限に試される。
その結果、デザインは、設計ではなく検討素材として扱われることが増えた。

問題はここで終わらない。
見た目のデザインが決まったあと、印刷データは不完全なまま残る。
フォント、リンク、塗り足し、表示サイズ。整っていない状態で工程が進む。
この段階で仕事を引き受けるのが、最終実務者である。
この役割は、本来の設計ではなく、不完全な前提を成立させるための後処理である。
印刷会社のオペレーターや請負デザイナーが、データを修正し、印刷可能な状態に成立させる。
ただし、この作業は本来の設計ではない。不完全な前提を補修しているだけである。
ここで理解したことがある。
問題は個別の営業や案件ではなく、構造にある。
◯未確定のままデザインが先行する
◯ラフが素材として蓄積される
◯判断が後工程に回される
その結果、最終実務者が成立責任を引き受ける。という状態になる。
ここまでが現場の状態である。
この状態では、いくつかの具体的なリスクが発生する。
◯表示ミスや誤植が、最終工程で初めて発見される
◯修正の前提が不明確なため、対応が場当たりになる
◯デザイン意図と印刷結果がズレる
◯修正回数が増え、納期が圧迫される
◯責任の所在が曖昧なまま、最終実務者に集中する
さらに、問題が発生した場合でも、どの工程で起きたものか切り分けができず、再発防止の設計につながらない。
結果として、同じ問題が繰り返される。
では、どうするか。
選択肢は2つだった。
1.素材化されたデザインの制作と、出所不明のデータを成立させる後処理を引き受け続ける
2.前段階で、前提を設計する。目的と条件を整理し、工程全体を成立させる側に回る
私は、後者を選んだ。
具体的に変えたのは入口である。
依頼書がない案件は受けない。
デザイン分類を事前に決める。
変更範囲を明確にする。
デザインと印刷データ(版下)を分け、使用範囲を明示する。
未確定のまま進める案件を止める。
結果として、仕事は減った。
ただし、残った案件は
◯前提がある
◯修正が制御できる
◯最終工程が安定する
AIはこの流れをさらに明確にする。
チェックや整形は自動化できる。
しかし、前提の設計は代替されない。
残るのは
◯何を決めるか
◯どこまで決めるか
という領域である。
素材提供と最終実務者から整理する側への移行は、能力の問題ではない。
関与する段階を変えることである。
結論
デザインが素材として扱われる構造はすでに存在している。
コンペやAIはそれを加速させただけである。
成立させる側に残るか、整理する側に移るか。
選択は工程のどこに立つかで決まる。
そして、この流れは今後も続く。
AIはさらに進み、案を出すこと自体の価値は相対的に下がっていく。
その中で残るのは、
何を目的とし、どのように組み立てるかを決める役割である。
見た目を作ることではなく、目的を設定し、条件を整理し、成立する形に組み上げる。
この工程を担う側に移らない限り、デザインは引き続き素材として扱われる。
結果として、従来の「案を出すこと」を中心とした役割は、AIや構造の中で代替されやすくなる。
どこまで関与するかではなく、どこで判断を持つか。
それが今後の分岐になる。
