見出し画像

Ep9. 私とテニスのストリング|張ることもまた、テニスだった

メルボルンでテニスコーチをしているK-LIFEです。



今回は、少し視点を変えて、テニスの「裏側」にあるものについて書いてみようと思います。

それが、ストリングです。

ラケットに網目状に張られている、あの糸の部分。
テニスをする上で欠かせないものですが、実際にはプレーそのものほどは語られない存在かもしれません。

でも、自分にとってストリングは、ただの道具ではありません。
プレーを支えるものでもあり、テニスとの関わり方を広げてくれたものでもあります。



高校3年間、私のラケットは父が張ってくれていました。

父が買った中古のストリングマシーンを使って、家で張ってくれていたのを覚えています。
当時の自分は、張り上がったラケットを受け取るだけで、その裏にある作業や技術について深く考えることはありませんでした。



その後、大学でテニス部に入ってから、自分で張るようになりました。

最初に教えてくれたのは先輩です。
ストリングの通し方、引っ張る順番、結び方。
ひとつずつ覚えながら、少しずつ自分の手で張れるようになっていきました。

今振り返ると、あの頃から、ただテニスをするだけではなく、テニスを支える側の面白さにも少しずつ触れていたのだと思います。



今、そのストリングマシーンはオーストラリアにあります。

日本から根性で持ってきました。
重さは約30kg。

父と一緒にネジを一本一本外して解体し、段ボールに詰めた時間は、今ではかなり良い思い出です。
実家のスペースも空いて、結果的にみんな少し嬉しかった気もします。

あのときは大変でしたが、こうして海外まで持ってきたことで、今の自分の小さな仕事につながっています。



こちらでストリングサービスを始めてから、実質6か月ほどになります。
途中で2か月ほど旅行のために止めていた時期もありましたが、これまでに12名のお客さんにサービスをしてきました。

年齢層は30代が中心で、9割以上が男性です。
そして、これはかなり印象的なのですが、みんな本当によく遅れます。
例外は、ひとりの日本人永住者くらいでした。

とはいえ、来てくれるだけでもありがたいお客さんです。
だからこそ、できるだけ丁寧に、一生懸命サービスしたいと思っています。



一方で、連絡をくれたのに実際には選んでもらえなかった人も20人ほどいました。

最初は単純に落ち込みましたが、そのたびに理由を一つずつ考えるようにしました。
何が足りなかったのか。
どこで比較されたのか。
どうすれば選ばれやすくなるのか。

その中で大きかったのが、ストリングを持ち込みにするか、自分で提供するかという点でした。

実際、自分の方でストリングも提供するようにしてから、お客さんの反応はかなり良くなりました。
おそらく、相手からすると「全部まとめて頼める」方がシンプルで楽なのだと思います。

こういう小さな改善の積み重ねは、ストリングそのものとは別の意味で面白い部分でもあります。



ストリングサービスをしていて楽しいこともあります。

それは、いろいろな種類のラケットやストリングに触れられることです。

これまでは何年も、自分のラケットばかり張ってきました。
慣れた形、慣れた感触、いつもの作業です。

でも、サービスを始めてからは、他のブランドのラケットや、新しいモデルのラケットを手にする機会が増えました。
自分で買わなくても、実際に張って、手に持って、少し素振りをしてみることができる。

ほんの少しのことですが、その違いを感じられる瞬間はかなり楽しいです。
「こういう打球感なのか」「この形は振り抜きが違うな」と、自分の中の感覚が少しずつ増えていく感じがあります。



もうひとつ好きなのは、張り上がったラケットをお客さんに手渡す瞬間です。

その人が、このあとコートに立ってテニスを楽しむこと。
その時間に、自分の仕事が少し関わっていること。

それを実感できるのが嬉しいです。

派手な仕事ではないですが、誰かのプレーの時間を支えることができる。
それはコーチングとも少し似ている気がします。



ストリングサービスを始めたばかりの頃は、1本張るのに1時間近くかかっていました。

理由はシンプルです。
これまで自分のラケットばかり張っていて、急ぐ必要がなかったからです。

むしろその時間は、自分にとってデジタルデトックスのようなものでした。
ただストリングに向き合って、手を動かしていると、5分くらいでだんだん無我夢中になっていく感覚があります。

スマホも見ず、余計なことも考えず、ただ目の前の作業に集中する。
あの時間は、今でも嫌いではありません。



ただ、今は少し変わってきました。

メルボルンのテニス仲間やコーチ仲間から良いアドバイスをもらいながら、少しずつ効率も意識するようになり、今では1本25分ほどで張れるようになっています。

もちろん、まだ速いとは言えません。
でも、自分の中ではかなり大きな変化です。

同じ作業でも、慣れと工夫でここまで変わるのかと思わされます。



ちなみに、私のボスのひとりは、全豪オープンの公式ストリンガーです。

そして彼は、1本を8分で張り終えます。

初めて聞いたときは、正直意味が分かりませんでした。
速いというより、もはや別の競技のようです。

でも、そういう人が近くにいると、自分はまだまだだなと思うと同時に、この世界の奥深さも感じます。

テニスは、ただ打つ人だけで成り立っているわけではない。
見えないところで支えている人たちの技術や積み重ねがあって、あの1本1本のラリーが生まれているのだと思います。



プレーすることもテニス。
教えることもテニス。
そして張ることも、またテニスだと感じています。

自分にとってストリングは、ただの作業ではなく、テニスとの関わり方を増やしてくれるものです。

これから先、どこまでこのサービスを広げるかはまだ分かりません。
でも少なくとも今は、一本ずつ張りながら、自分の感覚と技術を少しずつ積み上げていきたいと思っています。



次は、
「はじめて8時間コーチングした日」
について書いてみようと思います。

では。

いいなと思ったら応援しよう!