三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)を読んで思ったこと
本書(三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書))では、時代の流れとともに読書の在り方がどのように変化してきたのかが考察されています。読書が社会によってどのように捉えられてきたのか、様々な観点でまとめられていました。個人的にも非常に興味深く読みました。詳しく知りたい方は、ぜひ本書を読んでみてください。

この投稿では本の要約は行わず、特に気になった点をピックアップし、それぞれについて考えたことを書いていきます。
本を読めないのは全身全霊で仕事をしているから?
本書では、「現代の労働は、労働以外の時間を犠牲にすることで成立している」「全身全霊で働くことをやめなければ、読書をする時間は取れない」と述べられています。確かに、その通りだと感じます。
働き方改革が議論される一方で、残業や遅い時間までの業務、休日出勤を当然視し、それを美徳とする人が一定数いるのも事実でしょう。また、周囲もそれを称賛することで悪い流れを作っている気がします。
例えば、深夜や休日に送る必要のないメールをあえてその時間帯に送る行為は、翌日の朝や週明けに送るのと何が違うのでしょうか。こうした行動は、「仕事をしています」「こんな遅くまで働いている」という自己アピールに見えてしまいます。
会社携帯を持っている人にとっては深夜に通知が鳴るのは迷惑です。せっかく仕事から離れたはずなのに、通知によって仕事を思い出してしまいますし、睡眠の妨げにもなります。
化学メーカーの工場でその場で解決できないようなトラブルがあると休日や深夜にかかわらずスタッフには電話がかかってくることがあり、休暇中でも仕事を完全に切り離すのは難しいでしょう。
さらに、三交替勤務をしている人たちも労働時間以外の生活を犠牲にしながら仕事を続けているといえます。こうした環境では、読書の時間を確保するのが困難になるのも理解できます。
手っ取り早く必要な情報を手にしたい
読書とノイズの関係について
本書では、読書をしない理由の一つとして「ノイズ」の存在を挙げています。その定義は以下の通りです。
読書で得られるもの → 知識 = ノイズ + 知りたいこと
インターネットで得られるもの → 情報 = 知りたいこと
つまり、読書は自分の知りたい情報以外の内容も含まれており、読んでいく中で必要な情報を探す、理解する作業が求められます。一方、インターネット検索では、ピンポイントで必要な情報を得ることができます。
最近、「コスパ」や「タイパ」を重視する傾向が強まっています。短時間でライバルとの差をつけたい、効率的に本の内容を知りたいと考える人が増えているのではないでしょうか。必要な情報だけを素早く収集することが求められる時代になっているのかもしれません。
TikTokやYouTubeのショート動画、切り抜き動画の流行も、要点を短時間で理解したいというニーズの表れです。ネットニュースも一部分のみが取り上げられ、それに対して様々な意見が飛び交っています。前後の背景があっての話なのに、一部分だけ切り取られてしまうと、真意が伝わらず、変なところで話が盛り上がってしまうと感じます。
また、YouTubeやブログでは、本の要点を整理したコンテンツが多数存在します。「この本の重要なポイントは〇〇」と要約された情報を求める人が増えているのでしょう。このようなコンテンツが充実しているのは、まさにそれだけ需要があるということだと考えられます。
「コスパ」「タイパ」を極めた先には何が待っているのか。個人的には、この点について考えることがあります。このテーマについては、別の記事で改めて掘り下げてみようと思います。
インターネットの世界もノイズだらけ
インターネットには膨大な情報があふれており、誰もが容易にアクセスできます。しかし、必要な情報を検索する能力や、得られた情報を正しく判断する力が求められます。結局のところ、何が正しいのかを理解し、消化するためには、ある程度の知識と自分の中の指針・価値観を明確にする必要があると考えます。自分自身の考えの指針、価値観などがないと、多くの情報に流されてしまい、結局何も決められなくなってしまう懸念もあります。
検索で目的の情報にたどり着いたものの、その内容がよくわからず、さらに検索を繰り返す。検索するたびに新たな疑問が生じ、終わりのない「検索の無限ループ」に陥ることもあります。
また、最近では生成AIが発達し、質問すれば何らかの答えがすぐに返ってくる時代になりました。しかし、情報の良し悪しを十分に考慮しないまま、手軽に入手できる情報を鵜呑みにしてしまう危険性もあります。
その結果、本のようにじっくり読んで必要な情報を見つけるスタイルは、今の時代では敬遠されがちなのかもしれません。
何でもかんでも検索したり、生成AIに頼ったりすることで、自分の頭で考える機会が減るのではないかという懸念もあります。物事の成り立ちを考えず、表面的な情報だけを得てしまうと、深い理解にはつながりません。
前後の背景を含めた情報を知ることで、より深い知識につながるのではないでしょうか。部分的な情報だけを見ていても理解できなかったことが、全体を知ることで見えてくることもあるかと思います。
現実世界もノイズであふれている
手っ取り早く必要な情報を手に入れたいという話をしましたが、実際の仕事ではノイズが多く、情報を正しく見極める力が求められます。
例えば、化学メーカーの工場では、さまざまな装置が稼働しており、それぞれ圧力、温度、濃度などを監視するために計器が設置されています。アラーム値を設定し、トレンドデータを常に監視していますが、それでも予期せぬトラブルが発生することがあります。
すぐに解決できる場合もありますが、複雑な問題の場合は原因を徹底的に探る必要があります。真因にたどり着けなければ、同じトラブルが繰り返される可能性があります。
ノイズだらけの環境の中で、必要な情報を抽出し、問題を解決する力が求められます。また、現象の前後の背景を考慮することで、適切な対応策を講じることができます(ある程度原因の絞り込みがしやすくなる)。
プログラミングではデバッグ機能を使えばエラー箇所が明示されますが、ものづくりの現場では計器が示している数値だけではエラーがわからないこともあり、それ以外の要因も考慮しなければなりません。例えば、本来監視すべきパラメータを見落としている可能性もあるでしょう(見なくてはいけない項目を見れていない可能性もある)。
現場では単純な因果関係だけでなく、複合的な要因が絡み合っていることも多く、それらを紐解く必要があります。こうした思考力を養うために、読書も有効な手段になるのではないかと考えます。
こうした探究心や分析力がなければ、工場などのメーカー(ものづくり)における理工系の仕事には向かないかもしれません。
事実だけを見ても、真実はわからない
私が好きな『名探偵コナン』のセリフに、「事実=真実とは限らない」というものがあります。目の前にあるものは確かに事実ですが、それが必ずしも真実とは限らないという意味です。
これは映画のシーンで登場するセリフで、毛利小五郎が人質になっていた妻である妃英理に向かって拳銃を撃ち、足に軽傷を負わせる場面がありました。事実だけを見ると、「妻に向かって発砲した」という衝撃的な出来事ですが、その背景を知らなければ、なぜ彼がそのような行動を取ったのかはわかりません。この一件により、彼は警察を辞め、個人探偵として活動することになったというエピソードがあります。詳細が気になる方は劇場版 名探偵コナン 14番目の標的(ターゲット)を観てみてください。
このように、物事の背景を考えず、断片的な事実だけで判断すると、誤解や偏った見方につながることがあります。
日本には「空気を読む」「気を遣う」といった文化が根付いていますが、部分的な情報だけを切り取って前後の背景を無視するような考え方が広まると、こうした文化も薄れてしまうのではないかと懸念しています。
読書をすることによって、単なる情報だけではなく、その背景や文脈を深く理解する力を養うことができます。もし読書の習慣が失われていけば、日本人らしさの良い部分までも失われてしまうのではないかと考えています。
まとめ
現代社会における読書の在り方は、労働環境の変化や情報収集の手段の進化とともに大きく変化しています。全身全霊で働くことで読書の時間が確保できないという現実、また、効率的な情報収集を重視する傾向が高まり、読書が敬遠されがちな状況も見受けられます。しかし、読書は単なる情報収集以上の価値を持ち、背景や文脈を深く理解することで知識をより豊かにする重要な手段です。
インターネットがもたらした「手っ取り早く必要な情報を得る」文化は、確かに利便性を向上させましたが、一方で、情報の断片化や誤解を招くリスクもはらんでいます。部分的な情報だけで物事を判断するのではなく、背景を考慮しながら知識を得ることで、より正確で深い理解へとつなげることができます。
また、現実世界も情報のノイズで溢れており、必要な情報を抽出し、正しく判断する力が求められます。特にものづくりの現場では、複合的な要因が絡み合っており、単純な因果関係にとらわれず、深い探究心を持って問題を解決する力が必要です。
「事実=真実とは限らない」という言葉にもあるように、単なる事実だけでは物事の本質は見えてこないことがあります。読書を通じて、表面的な情報にとらわれず、背景や文脈を考慮した深い理解を養うことが、今後ますます重要になってくるでしょう。もし読書の習慣が失われてしまえば、情報を深く考察する力や、日本独自の文化・思考様式までも衰退してしまう可能性があります。
今の時代だからこそ、読書を通じてじっくり思考する習慣を大切にし、情報の本質を捉える力を養うことが重要なのではないでしょうか。
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