秋風が吹くと、君はいつもより遠くへ歩きたがった
朝夕の風に涼しさが混じり始め、空が高くなってくると、きまって思い出す景色があります。 それは、昔一緒に暮らしていた柴犬との、秋の日の散歩道です。
夏の厳しい暑さの時期は、ハアハアと息を切らしながら日陰を探し、足早に済ませていたお散歩。でも、季節が巡り秋風が心地よくなってくると、彼の足取りは目に見えて軽やかになりました。
「今日はもう少し先まで行こうよ」
そんな声が聞こえてきそうなほど、こちらを振り返りながらぐいぐいとリードを引っ張る彼。その目的地は、決まって普段より少し距離のある「川の土手」でした。
当時の思い出の景色そのものです。
川沿いの草むらを歩きながら、秋色に染まり始めた木々や家並みを背に、誇らしげに立つ姿。ピンと立った耳と、くるんと丸まった立派な尻尾。お気に入りだった黄緑色のハーネスが、秋の柔らかな日差しと少し枯れ始めた草の色に、とてもよく似合っていました。
土手に着くと、彼は立ち止まって秋の風の匂いを一生懸命に嗅いだり、穏やかに流れる川面をじっと見つめたりしていました。まるで彼なりに、深まりゆく季節の変化を全身で味わっているかのようでした。 私もリードを引きながらその凛々しい横顔を眺め、一緒に深呼吸をする。あの土手でののんびりとした時間は、私にとってかけがえのない宝物です。
今はもう、隣でリードを引っ張る彼の姿はありません。 それでも、秋晴れの空の下でふと土手沿いを歩くと、今でもあの元気な足取りや、ふわりと香る草の匂いが鮮やかに蘇ってきます。
今年の秋も、私は君との思い出と一緒に、少し長めの散歩に出かけてみようと思います。
