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「なぜ、弟は死んだのか?」*短編小説*家族*喪失*早逝*もしも*note


「なぜ、弟は死んだのか?」



弟は、若くして死んだ。

頭は良くなかった。
というより、
勉強をする意味を知らないまま、
大きくなった奴だった。

好奇心だけは人一倍あって、
知らないことにすぐ手を出す。

けれど、
それが危ないものかどうかを、
見分ける力はなかった。

悪いことをしようとしていたわけじゃない。

ただ、知らなかっただけだ。

人を疑うという発想が、
最初から抜け落ちた奴だった。

親には、ずいぶん迷惑をかけていた。

金も手も時間も、
全部吸い取るみたいに使って、
何も返さなかった。

結局、恩を返す前に死んだ。

正直に言うと、思ってしまった。

なんのために生まれてきたんだ、こいつは。

弟が死んだとき、頭に浮かんだのは、
悲しみだけじゃなかった。

ひとつは、妙に静かな考えだった。

もしかしたら弟は、
自分が大人にならないことを、
生まれた時から分かっていたんじゃないか、
というものだ。

だから、勉強もしなかった。

弟にとって、
先を見据えた知識など、
何の価値にもならない、
無駄事でしかなく、

弟が、
楽しいを中心に素直に生きるのも、
当然だったのではないか。

もうひとつは、もっと嫌な想像だ。

もし弟が生きていたら。

無知さを、どこの誰かに利用され、
ニュースに出る側の人間に、
なっていたんじゃないか。

テレビの向こうで名前を呼ばれる。
顔が晒される。

そして家族の自分たちは、
加害者の家族として見られる。

外を歩けば、視線を感じる。

何もしていないのに、責められる。

そうなるくらいなら――
若くして死んだ、かわいそうな人。

世間は、そういう風に片付けてくれる。

それで終わる方が、
まだ弟や、残された自分たちのため、
だったんじゃないか……。

最低だと思う。
でも、この考えが浮かんだのは事実だ。

「最初から短い人生と決まってたんだ」とか、
「もっとひどい未来を避けたんだ」とか。

ただの、後付けでしかない。

なぜ弟は、
若くして死んだのか?

弟がいた今と、いない今。

どっちがより、
不幸せか…。

出来れば、
弟のいた今が、
不幸せであればいい。

そんな風に、思ってしまう。

弟のいない今を、
正解に、したいのかもしれない。



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