「旧梨木邸連続殺人事件」判決の法律的根拠と刑法理論
作中の判決文解説です。
異論はあるかもしれませんが、個人的には、実在する条文および判例理論と整合性の取れた判決文であり、「日本法上の実在する条文・判例理論に基づいた合理的構成」と言って差し支えない、と自負しています。
「人を殺した者は、死刑または無期もしくは五年以上の懲役に処する。」
本件は2名を計画的に殺害しており、通常であれば死刑または無期懲役が妥当。殺人の刑法上の最低刑(5年以上の懲役)にまで減軽できるのは、刑法68条の酌量減軽を適用した場合です。
まずは医学鑑定について解説しておきます。
「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」
本件の「重度のPTSDがあっても、心神耗弱とまでは言えない」という判断は、実務上しばしば見られる解釈です。
責任能力の判例理論!用語解説
責任能力の有無は3つに分類されます。
「責任能力あり」
「心神耗弱(刑法39条2項:罪を減軽)」
「心神喪失(刑法39条1項:無罪)」
行為の違法性を認識しそれを制御する能力があるなら責任能力あり。判断力・制御能力が著しく低下している状態が心神耗弱。判断力・制御能力が完全に失われている状態が心神喪失。
責任能力の有無は、医師の精神鑑定に基づいて裁判所が判断します。医師の鑑定意見に裁判所が必ず従う義務はあるわけではありません。裁判所が最終的な判断権を保持します。ただし影響は大きいです。
判断要素としては、①精神障害の有無、②犯行時に症状が顕著だったか、③是非善悪の弁別能力(認知)→その認識に基づいて行動を制御する能力(意思決定)となります。
さて、本題です。なんで美緒は懲役25年に?
「法律に特別の定めがある場合または情状に特に酌量すべきものがあるときは、刑を減軽することができる。」
本件では、「国家機関の不作為」「精神的外傷」「社会的孤立」等を情状として、裁判所が酌量減軽を適用しました。死刑または無期懲役から懲役25年への減軽は、刑法68条と刑法13条・14条の減軽の方式に基づく判決です。
⇒ 減軽の方式とは?
被告人に有利な事情(酌量すべき事情や法律上の規定)がある場合に、本来科すべき刑より軽い刑を選択する制度です。
ここは「裁判官の裁量」で行われる、というのがポイントです。被告人に極めて同情すべき事情がある場合に使われます。量刑の実質的な柔軟性を確保する機能と言えます。
刑法13条・14条は、ある刑から一段階ずつ下の刑に減軽するというルールを定めています。
「死刑を減軽するときは、無期拘禁刑又は10年以上の拘禁刑とする。無期拘禁刑を減軽するときは、10年以上の拘禁刑とする。」
つまり、死刑から一段階下がって無期、さらに一段階下がって10年以上の有期懲役となります。
「有期の拘禁刑を減軽するときは、その刑期の長期の2分の1とし、短期があるときは、その短期の2分の1とする。」
減軽は1回だけに限定されていないため、複数の減軽(法定・任意・酌量)を段階的に適用することで、相当大幅な減刑が理論上可能です。ただし当然ながら、法定刑の下限(殺人なら5年)を下回ることはできません。
⇒ 死刑→懲役25年まで減軽できるか?
死刑
↓(刑法13条)
無期拘禁刑(無期懲役)
↓(刑法13条)
有期懲役10年以上
↓(さらに酌量減軽や任意的減軽)
懲役30年以下(ただし下限5年以上)
つまり判決文の「懲役25年」は、段階的減軽のルールに従って合法的に導かれた有期懲役刑、法理上正しく構成され実務的にも説得力のある量刑設定だと思われます。
⇒ 判例理論との整合性
最高裁での大法廷判決において、「情状酌量が著しい場合は、法定刑を超えてでも減軽が許容されうる」との判示が存在します。つまり本件のような特殊事情を酌量事由として認める構造があるのです。
また過去の私的復讐事件でも、酌量した判例があります。つまり私的復讐の情状酌量事例は実際に存在するのです。
加害者への報復殺人を、強い精神的負担と制度不信を考慮して減軽する、「私刑性」を批判しつつも、動機に情状を認めるという構成は、本件と類似していると言えるでしょう。
判決文末尾にある「裁く者として深い遺憾の意を表する」というくだりは、かなり異例ではあるものの、判決理由の一部であれば形式的に違法性はありません。実務でも一部の高裁判決で、被告人や遺族への共感を滲ませる説示は存在します。
主文。被告人を懲役25年に処する。
本件は、被害者遺族である被告人が、司法に裁かれなかった加害者らに対し、自らの手で制裁を加えたという、私的復讐事件である。
2人の命を計画的に奪った行為は、法秩序を根本から揺るがす重大犯罪である。刑法199条は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する」と定めており、通常は死刑又は無期懲役が相当である。
医学鑑定により、被告人には重度のPTSDに起因する行動制御が著しい困難が認められたが、刑法39条2項の心神耗弱には当たらないと判断する。
しかし、本件は情状酌量の余地が極端に大きい。
被告人がこれに至るまでに置かれた環境、経験した深甚な精神的外傷、社会的孤立、そして過去の事件における国家機関の対応の不備に起因しており、裁判所としては、国家機関の不作為が被告人の深い孤立と絶望を助長した事実は看過できない。
また、被告人は、自発的に犯行を認め、逃亡や証拠隠滅の意思も認められず、深く反省している。
本件は、被告人の個人的事情に起因するものであり、一般予防の観点からも、無期刑を選択すべき事案とは言えない。
以上諸事情を総合的に勘案すれば、更生可能性を考慮すべき事案である。よって刑法68条により酌量減軽を適用し、死刑又は無期拘禁刑を懲役25年に減軽する。
なお、幼い妹を奪われた被告人に対し、国家機関の不作為が更なる苦痛を与えたことについて、裁く者として深い遺憾の意を表する。
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