【ショートショート】金のオノ銀のオノ、そして幽霊(幽霊目線ver.)
ちゃぽーん。
オノを落としてしまった。うかつだった。
泉の水面に映る私のオノがあまりにも美しかったから、つい見とれてしまっていた。
どうしよう。大切なオノなのに…。
すると、泉から「ゔっゔん!」と変な声が聞こえた気がした。
そして水面が光り出した。
泉から人が出てくる。
金色の長い髪が美しい女性だった。
この泉に住んでるのだろうか。
でもなぜか髪や服は濡れてなかった。不思議。
「お待たせしました。あなたが落としたのは…」
この人なら落とした私のオノを知ってるかもしれない。
私は即座に聞いてみることにした。
「私のオノ…」
「ん…?」
目の前の綺麗な女性の表情が変わった。
私の声、聞き取れなかったのかな。
「私のオノ…」
もう一度言ってみた。
綺麗な女性の顔がみるみる強張っていくのがわかる。
「私のオノ…」だけでは伝わらない事に気づき、どうしてほしいかも言ってみることにした。
「返して…」
「なるほどなるほど……ぎゃー!ゆゆゆ、幽霊ー!」
急に綺麗な女性が取り乱した。
私もつられてちょっとだけ驚いた。
でも『幽霊』って何のことだろ。
もしかしたらこの綺麗な女性は見かけによらず人見知りなのかもしれない。
だからパニックになって『幽霊』とか変な事を口走ってしまったのかも。
私はもう一度、正確にお願いしてみることにした。
「私のオノ…返して…」
「いやー!」
綺麗な女性はまだパニックになっている。
私も人見知りだから気持ちは分かる。
でもフォローはしてあげられない。
だって私も人見知りだから…。
だから少し待って、心の中で応援してあげようと思った。
がんばれ…!綺麗な人見知りがんばれ…!
すると私の気持ちが通じたのか、綺麗な女性の目が決意の目になった。
「あ、あのっ!」
平静を取り戻したようだ。よかった。
決意の目がこちらを見つめている。
これでオノの事を聞くことができる。
「私のオノ…」
そう言いながら彼女の目を見つめ返した。
しかし、彼女の目に不安の色がまた混じった。
何かと葛藤している様子の彼女に、私はお願いを続けてみた。
「返して…」
「で、ですよね、すいません!それじゃあ、いつものセリフ失礼します…あ、あなたが落としたのは金のオノですか!?そ、それとも銀のオノですか!?」
彼女はどこから出したのか綺麗に輝く金のオノと銀オノを見せてきた。
でも、なぜそんな事を聞くのだろう。
オノは見たけど、色までは分からなかったのかな。
確かに私のオノはすっごく美しいが、金や銀の美しさではない。
あの黒さと古びた感じが美しいのだ。
「違う…」
私がそう言うとなぜか彼女の顔が少し明るくなった。
「ですよね!普通のオノですよね!正直者のあなたには金のオノと銀のオノを差し上げます!はいどうぞ!」
…なんで?
「正直者とはさすがですね!お疲れ様でした!」
彼女は矢継ぎ早に喋り、私に一礼をした。
私のオノは見てないのだろうか。
私はもう一度お願いしてみることにした。
「私のオノ返して…」
「ですよね!ごめんなさいごめんなさい!」
私がお願いすると、彼女は急に謝り出した。
なんか申し訳ないなと思っていると、彼女は身をかがめ泉の中に手を入れた。
「はいどうぞ!すみませんでした!」
水中から出した彼女の手には見慣れたそれがあった。私の大切なオノだ。
私の心が温かくなるのが分かる。
「ありがとう…」
私は精一杯の感謝を伝えると、私のオノだけを拾った。
私にはこのオノだけあればいい。
私は彼女に背を向け帰路につくことにした。
「い、いえ…」
背後から彼女の疲れ切った声が聞こえた。
知らない人との会話って疲れるよね。わかる。
今、私は2つの喜びに包まれている。
1つは、大切なオノをなくさずに済んだこと。
もう1つは、人見知りの友達ができたこと。
また、会いに来ようかな。
