残夢【第二章】⑤過去(扉)
僕は、大輔との約束通り赤い三角屋根の家の近くまで来た。
自転車で来ようか悩んだけど、結局歩いてきた。女子たちは誰も来ないと思うけど、万が一ばったり会ってしまった時に森の中の近道を走って逃げられるように。家を三時半に出たから、もう約束の時間になっていると思う。でも大輔はなかなか来ない。
少し離れた位置から家を眺めた。
なんでこんなところに家を建てたんだろう。夜は怖くないのかな。
赤い屋根の家は明らかに他の家とは雰囲気が違う。高い塀で囲まれて、大きな門があって、大きなバルコニーがあって。外国の本に出てきそうな家だ。ラブホテルってこんな感じなのかな。
大きな玄関ドアが見えて、その隣にはガレージがあって、車が二台とまっている。どっちみち、すごくお金持ちだ。
薫子たちが夢中になって、この家の人に褒められたいって気持ちになるのも分かるような気がした。そして、僕たちみたいな男子を馬鹿にするのも。
でも、だからと言って勝手に人の物を没収するなんてゆるせない。エロ本とかだったら、まあ、分からなくもないけど。
今日はずっと曇り空。あたりは暗くなりはじめている。これ以上ひとりで待つのは嫌だった。建物の中の電気はまだ点かない。誰もいないのかもしれない。とてもひっそりとしていた。車はとまっているけれど、別の車で出かけているのかもしれない。迷っている間にどんどん暗くなる。
大輔、来ないのかな。玄関まで行ってみようか。
周囲を見渡し、誰もいないことを確かめ、意を決し門を抜けた。ゆっくりと建物に近づく。綺麗に刈り込まれた植木。窓から誰かが見ている、という感じもしない。
二階を見上げた。バルコニーに面した窓から赤と白のカーテンが揺れているけど人の気配はない。本当に留守かもしれない。玄関は大きなガラスの扉。お店の入り口みたいだ。
僕はちょっと戸惑いながら中を覗く。中の電気が点いてなくて、近づいて覗かないとよく見えない。
スニーカーが一足、脱ぎっぱなしで置いてある。お母さんなら「ちゃんと揃えなさい」と怒りそうな具合に、片方だけ明後日のほうを向いている。誰かいるんだ。
中にいる人に見つかったら怖いから扉の中には入りにくい。でも、ここまで来たのだからと中をぐるりと見渡す。
玄関ホールにはクリスマスツリーが飾られ、壁には、ひと目でわかるほど大きな模造紙が貼られていた。
「第三回、アルテミス杯?」
なんだろう。綺麗な女性の写真が貼られ、マンガのセリフみたいに「三代目に輝くのはダレだ」と書かれている。
模造紙にびっしり棒グラフが並び、下一列に名前があった。そして、その名前の上にシールがいくつも貼られている。
学校でよくやる「がんばりましたシール」だ。シールは多い方がいいのだろう。
薫子の名前もあった。
グラフが高く上に伸びている。学校では見たことないくらい薫子のシールは多く貼られていた。あんなに褒められているのか。中学校に行ったら英語ペラペラで自慢されそうだな。
そのグラフの前に折り畳み式のテーブルがあり、漫画本や道具が置いてある。
あれか。
英語の勉強で「がんばりましたシール」を貰ったわけではないのかもしれない。そうだ。大輔が言っていたように、没収してきたものの多さで褒められているのかも。
僕は背伸びして大輔のハンマーを探す。薫子の名前の前に置いてあるかな。でも玄関の外からではよく見えない。
さっきから家の中は全く静まり返っている。チャンスかもしれない。
僕は、扉の取っ手に手をかけた。そっと押してみる。
その時、音が聞こえた。
⑥ 「~ひろ子~」へつづく ▶
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