はじめまして、家族です。《#シロクマ文芸部》

恋は 猫の譲渡会の日にはじまった。
そして終わるのも早かった。
私の初恋はずいぶん苦かったなと、カウンターに飾っていた「あんこ」の写真を眺めた。

小学校のとき、大きな公園で開催されていた「保護猫の譲渡会」。
カゴの隅でうずくまる猫たちを抱っこしたり撫でたりしたかったけど「まずは親と一緒に講習会を受講してください」と無下にされ、あの時はガッカリしたっけ。

ファミリー牧場ではモルモットを膝に乗せてもよかったのに
ウサギを追いかけて人参を上手に食べさせてあげたのに
ヤギは逆に追いかけられてちょっと怖かったけど
猫ならきっと大丈夫なのに。

そんな思いだけが巡って、頬をぷうっと膨らませてその場を離れた。
当時の私は保護猫の気持ちなんて考えようともしてなかったな。
ボランティアの人たちの、苦労も苦悩も、全く。

小学校の時からの親友が、子供に手がかからなくなったからと言って保護ボランティアを始め、友達のよしみだなんて甘い考えではなく、私は彼女から黒猫「あんこ」を引き取った。
病院で検査したときには大きな問題は見つからなかったのに、気持ちが通じ合ってきたと思えた3か月後から急に元気がなくなって。
結局、半年後には亡くなってしまった。
地元の病院では確定診断ができず、薬は気休めにしかならず、ただ衰弱していく「あんこ」を撫でて見守るしかできなかった。

命の重さ、儚さは、分かっていたはずなのに。
あの時は、きつかった。

大きな病院に診てもらい、高価な薬を与えれば、もう少し長生きできるかもしれないと悩む私に、「それを勧めることはできない」と言い切ったのは親友のほうだった。
「次から次へと保護して譲渡して、友香には分かんないよ。私にとってあんこは唯一の存在なんだよ!」
ばかなことを口走ったと、すぐに気づいて謝った。
助けても助けても、あちこちで止まない飼育崩壊。助けきれない命があることを知っていながら、それでも現場へ向かう彼女がどんな思いでいるかなんて、考えなくても分かることだったのに。
あの日の親友の悔しそうな顔を私はいまだに忘れられない。


ドアベルがカランカランと音を立てた。
「いらっしゃ……あ、友香、遅いよぉ」
「ごめん、ごめん。渋滞で。ごきげんなキジトラ、連れてきたぞー」
友香はキャリーケースを少し持ち上げ、にかっと笑う。
「そんな。おいしい寿司かってきたぞー、みたいな顔して」
ふふふ と昔から変わらないふたり。

競合店の多いこの地域で、新規の美容院を開店するのはちょっと厳しいと信用金庫には渋い顔をされたけど、「猫と過ごせる美容室」のコンセプトを伝えたら猫好き担当者が上司を説得してくれた。
大繁盛とはいわないけど、あれから数年、ぼちぼちやれてる。

いまだにお別れのときは大泣きしてしまうけど、新しい家族にたくさん可愛がってもらえるんだから、あの時の涙とはしょっぱさが全然ちがう。

「『はじめましてサクラです』。見て、このポスター、力作!」
「出た。友香の自画自賛! サクラちゅわわーん。はずかちぃでちゅねぇ」
「赤ちゃん語、やめやめぇ」
親友は用意していた奥のケージにサクラをそっと出す。
先輩猫のトラオがしっぽをたててケージに近づく。
ソラとモモはいつも通り遠くから様子を伺ってる。

大丈夫。
サクラちゃん、みんなあなたの家族だよ。
今まで苦労したぶん、これからいっーぱい楽しもうね。
一緒に幸せになろう。

よろしくお願いいたします。

(了)

先週に引き続き、鋭意創作中の長編からのスピンオフです。
「恋」要素が薄いかもしれませんが、ぜひ長編で「あっ」と思っていただければ幸いです。本編と直接の繋がりはありません。(というか長編早く書き上げにゃ)

保護猫については、「猫おじさん」こと池崎さんのテレビ番組や、インスタフォローしている方が少し保護犬について書いているのを読んでいる程度なので、間違った感情だったらどうしようという思いが少しありますが、もちろん真剣に書きました。

「恋は猫」
ドキドキするようなイメージは一瞬で湧く言葉なのに、それを紡いで物語にするのは難しい!
さてどうしたものかと、手元のメモに書かれた単語は「猫かぶり」「猫に小判」「猫ひろし」

恋は猫ひろしのギャグ100連発とともにやってきた。
「ポーツマス! ポーツマス!」
「おかーさーん、お尻からクリームでてますよー」
「らっせーらー、らっせーらー」

猫ひろしさんのギャグです

まじでこのネタで行こうか悩みましたが、この書き出しで恋に堕ちるまで、いったい何文字必要なのか。気が遠くなって諦めました。

小牧部長、今週も素敵な時間をありがとうございました。
これからゆっくり、他の方の作品も堪能させていただきます。

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豆島  圭 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 サポートしていただいた分は、創作活動に励んでいらっしゃる他の方に還元します。