見出し画像

(8人脚本)「ゆく君の流れ/Hug the shade in the sun」作:健康

ゆく君の流れ/Hug the shade in the sun

作:健康

[登場人物]

A・・・女性(21)。Bの恋人。

B・・・男性(21)。Aの恋人。

C・・・女性(14)。Dの娘。万引きをして補導を受けた。

D・・・男性(44)。Cの父親。独り身で娘を育てているサラリーマン。

E・・・男性(18)。Fの親友。卒業したら東京の大学に通う。

F・・・男性(18)。Eの親友。京都の大学に進学する。

G・・・深海魚。中性。いつか陸に登ることを夢見ている。

H・・・深海魚。中性。このまま泳いでいたいと考えている。


(初演:2025年2月 劇団ひなたぼっこ)






開幕。

水の流れる音とともに、二人のシルエットが浮かぶ。


H「まってよ」

G「まてないよ」

H「まってって」

G「まてないよ」

H「どうして、まってくれないの」

G「そういうふうに生きているから」


H「君は、どこまでいってしまうの」

G「さぁ、ねえ」


泡が多く弾ける。

二人、消える。


大衆居酒屋。

木曜日の夜。賑わう店内。

話題の音楽が流れている。

大学3回生のBが、テーブル席でハイボールを飲んでいる。

こまめにスマホを気にしている。

そこにAが店に入り、Bの席に近づく。


A「え、もう飲んでるじゃん」

B「・・・おそい」

A「ん?」

B「君が来るのが遅いんだよ」

A「ごめんよ。また社員がシフト終わりに呼び止めてきて」

B「イケメンの?」

A「そう。副店長」

B「ふぅん」

A「何飲んでるの?」

B「ハイボール」

A「すみません。ノンアルのゆずソーダください」

B「え」

A「ん?」

B「飲まないの?」

A「うん。今日はいいや」

B「俺は飲んでるのに?そんなのこれまでなかったじゃん」

A「何飲むかは人の自由でしょうよー。どうしたの」

B「最後なのに」

A「最後だからだよ」


間。


A「あのさ。シーラカンスっているじゃん?」

B「うん?」

A「シーラカンスがね」

B「まってよ」

A「え?」

B「いないよ」

A「いるよ」

B「いないよ。いきなりシーラカンスの話するやつは居酒屋にいないよ」

A「いるよーここに。てかシーラカンスって知ってる?」

B「知ってるけど。海の魚でしょ。生きた化石」

A「そうそう。シーラカンスってね、魚なのにすごくエラとかが発達してね、手足みたいになってんの。それで海から陸に上陸する進化の途中の生き物って言われてるんだけどね」

B「怖い」

A「ええ?」

B「怖いって。急に何の話してるの」

A「シーラカンスだよ」

B「そんな賢そうな話するタイプじゃないじゃん」

A「失礼だなぁ」

B「急にキャラ変わるの、めちゃくちゃ嫌なんだけど」

A「別にいいでしょ」

B「別人だ。別の君が乗り移ったんだ」

A「私は私だよ」

B「じゃあどうしてそんな話したくなったの?」

A「最近博物館にいったから」

B「誰と?」

A「ん?」

B「いや、いいや。珍しいね」

A「いいよー博物館。博物って感じだった」

B「なんだそれ」

A「博物だよぉ。いろんな生き物がね、世界にはいるの。ほんと面白いよー世界」

B「知ってるよ。少なくとも君よりは」

A「泊は賢いからなぁ」

B「長生きだから」

A「一か月だけね。9月、10月」

B「もっとだよ」

A「3日と、4日。ほぼ一緒だよ」

B「いや、何言ってんだろう俺。ごめん忘れて」

A「酔ってる?」

B「酔ってない」

A「結構飲んでない?」

B「酔ってないってば・・・酔いたくても、酔えないんだよ」

A「それは、最後だから?」

B「君がお酒を飲まないから」

A「だってできるだけ綺麗な私で終えたいもの」

B「ばかだなぁ。君は酒を飲んでるときが一番いい顔するんだよ」

A「うそ。もっとあります」

B「違うね。君は何にもわかってない」

A「・・・わかってない?」

B「うん。本当にわかってない」

A「わかってないか。そっかぁ」


間。


B「うまい棒、値上がりするんだって」

A「え、もうワンコインで買えないってこと」

B「そういうこと。昔は10円だったのに」

A「つらいね」

B「好きだったカレー屋も、味が変わって」

A「おいしくなかったの?」

B「美味しさとかじゃないんだよ。思い出の味じゃなくなったの」

A「そっか」

B「令和ももう終わるんだって」

A「新時代がくるんだね」

B「身の回りがね、ずっと変わり続けてるの。いや、変わることって当たり前じゃん。仕方ないと思うよ。でもいざ変わるとすっげえ困っちゃうわけ」

A「うん」

B「変わりすぎてね、もうどれが俺かもわかんないの」

A「泊は泊だよ」

B「そう、俺は俺で、変われないの。変わってるんだけど、変わってないんだよね。・・・ああ、俺変なこと言ってる」

A「ううん」

B「本当に辛いのってね、独りになったときなんだよ。変われない俺がね、もう限界なの」

A「・・・ごめんね」

B「謝ってもらいたくて生きてない」

A「うん」

B「あのさ。俺、今日、すごく大事なことを君に言いたいの」

A「うん」

B「今世紀、いや、地球の歴史で一番くらい大事なことが言いたいんだよね」

A「じゃあ私も、地球の歴史で一番くらいの私で聞くね」

B「意味わかってる?」

A「とにかく大事ってことでしょ?」

B「うん、まあそう」

A「あ、その前に。飲み物届いてからでもいい?話の途中で店員さん来たらさ、店員さんも、地球の歴史で一番の店員さんになっちゃう」

B「店員さんはならないよ」


間。ドリンクは来ない。


A「遅い。」


A「忘れちゃったのかな」


A、Bのグラスを近くで見つめる。


A「美味しい?」

B「いつも通り」

A「一口ちょうだい」

B「お酒だよ。飲まないんでしょ」

A「う~ん。じゃ、いいや。お手洗いのついでに店員さん聞いてくる」

B「わかった」

A「泊」

B「え?」

A「待ってて」

B「え、うん」


A、去る。

B、一人になる。


グラスを見つめ、飲み干す。

裏で流れていた音楽が、どんどんと大きくなる。


B「君は、俺のことを知らない。それでいいと思うし、どうしようとも思わないけれど」


スマホを見て。


B「写真の中の二人はどれも笑顔だ。・・・君と大概の場所には行ったかな。君は肝心なときに目をつぶるから、綺麗に撮れた写真はほとんどない。それだけはずっと変わらないな」


B「・・・スマホを見ない方が鮮明に思い浮かぶか。海の星、高台の風車、オーロラ、祇園祭、あんまん。どれも昨日のことみたいに覚えてる。数え切れない」


B「数え切れないよ」


B「頭痛ぇ・・・」


音が途端に切れる。


episode:2「あんまん」

日が沈みかける頃。コンビニの駐車場。

D、電話をしている。


D「申し訳ございません。明日必ず終わらせ、納期には必ず間に合わせます。必ず誰よりも先に出社し、必ず残って残業をし、必ず先方の迷惑にさせませんので。はい。必ず、失礼いたします」


電話が切れる。


D「・・・んん」


C、気づけば隣に。



D「日向」


D「日向、どれにする?」


コンビニ。レジの前。

機械に入った肉まんたちを指さす。


C「・・・」

D「あんまんにするか?すみません。あんまん一つください」


「もう一つで半額になりますが、いかがですか」


D「えっ。あ・・・。では、あんまん、もう一つお願いします」


「合計90円になります」


D「はい。90円」


「ありがとうございましたー」


D「すみません。どうも」


店を出る二人。

Dの手にはあんまん。


D「はい」

C「・・・」


食べ始める二人。


C「あつ」

D「ゆっくり食べなさい」


C「怒らないの?」

D「怒らないよ」

C「どうして?」

D「いけないことをしたって、もう十分わかっただろう」

C「そうだけど」

D「ならいいんだよ」

C「そうだけど、」

D「パパより怖かっただろ。警察の人」

C「・・・うん」

D「・・・」

C「怖くなかった」

D「怖くなかったの?」

C「ちっとも怖くなかった」

D「すごいなぁ。パパなら泣いて漏らしてるぞ。パパはびびりだから」

C「日向は怖くなかったよ」

D「うん」

C「ユメちゃんのパパがね、ユメちゃんのこと毎日怒ってくるんだって」

D「うん」

C「そしたらね、ユメちゃんのママが慰めてくれるんだよ。アメとムチなんだって」

D「ほう。アメとムチか」

C「ユメちゃんだけじゃないんだよ。がっちゃんも、ミイちゃんも、ハヤトくんの家も、みんなアメとムチなんだって。日向以外みんなね、同じなんだって」

D「なら、これからパパも日向にムチをしないとな。なんて。ははは」


C「日向、もう学校行かない」

D「え」

C「日向もう学校行かない」

D「どうしたの」

C「行かないったら行かない」

D「そんなこと言うなよ」

C「行かないんだよ」

D「ちゃんと話しなさい」

C「行かないの!」

D「日向」


泣き出してしまうC。


D「日向・・・」

C「だって。警察の人、日向が万引きしたって先生にも言うんでしょ。もう学校行かない。絶対行かない。もうユメちゃんにも会わない」

D「学校の先生は、みんなに言いふらしたりしないよ」

C「でも先生は日向のことを悪い奴って思うもん。なんでパパは日向のこと怒ってくれないの」

D「・・・日向」

C「なんで日向はみんなと違うの」

D「日向、」

C「なんで日向にはママがいないの」

D「・・・」

C「パパじゃなくてママが居る方がよかった」


C、あんまんを投げつける。そのまま走り去る。

その場に残るDとあんまん。


D「・・・・・・」


D、あんまんを拾い、後を追う。


十年後。C24歳。D54歳。

実家。部屋にD。

D、ラジオを流している。


「そしたらね、もうそんな時代じゃないですよとか言うのよ。男と女が並走する時代がやってくるんだと。かー、変わっちまったなア。だがね、俺は思うの。たとえ時代の化石になっても、変わらねえもんもあるってわけ。続いての曲、かけちゃって。」


ラジオの音楽が流れる。昭和の曲。

C、入る。

引っ越しの荷造りをしていた。


C「お父さん。あったかいの飲む?」

D「ああ」

C「お茶?珈琲?」

D「お茶で」

C「うん」


C、湯を沸かし始める。


C「広くなるね。部屋」

D「ああ、そうだな」

C「やっぱり、人が一人いなくなるだけでも寒くなるのかな。ちゃんと暖房入れなよ」

D「大丈夫。こいつがあるから」

C「腹巻きじゃ心細いなぁ」


C、部屋を眺めている。


D「探し物か?」

C「ううん。いざ出ていくとなると、名残惜しいなぁと思って」

D「そうだな」

C「・・・最後かぁ」


C「そういやさ。お父さん、アルバム覚えてる?」

D「アルバム?」

C「昔さ、お父さんに見せてもらった覚えあるんだけど、片付けても見つからなくて」

D「ああ。アルバムは、こっち」


D、C、部屋を出る。


C「えー、こんな大きい金庫あったの。・・・ここに入ってたの?なんで金庫?」

D「これまでの仕事の手帳とか」

C「この指輪は?」

D「それは昔の。お母さんとの」

C「残ってるんだ!へぇ、綺麗だね」

D「・・・ああ」

C「アルバム見てもいい?」

D「ああ」


部屋に戻る。

二人でアルバムを見る。


C「うわー、懐かしいなあ。残っててよかった」

D「そりゃあ残ってるよ。老後の楽しみにするから」

C「え、これ私?」

D「それが日向。3か月のときだったかな」

C「この人はお母さんだよね」

D「ああ」

C「ええー、お父さん、顔今と同じじゃん」

D「そうか?」

C「うん、全然変わってない」

D「ははは」

C「小学校だ。正門懐かしいー。この横の池で落とし合いしたんだよね。今じゃ考えられないけど。あ、ユメちゃんだ。ユメちゃん元気にしてるかな。・・・あれ、お父さんよく授業参観とか来れたよね。だって、お仕事毎日あったでしょう?どうして来れたの?」

D「そりゃあ、日向が頑張ってるから」

C「私覚えてるよ、他のお母さん方の間に肩身狭そうに立ってるお父さん」

D「おかげで先生にはすぐに覚えてもらえたんだよ」


とあるコンビニの写真を見る。


C「・・・ん。なにこれ」

D「どれ?」

C「コンビニ・・・?どこの?」

D「昔、家の近くにあっただろう」

C「あー、あったね。なんでコンビニの写真?」

D「これは、買い直しに行ったときだよ」

C「買い直す?」

D「あんまん」

C「・・・あんまん。ああ~」

D「覚えてる?」

C「忘れないよ。・・・家飛び出しちゃって、結局お父さんが迎えに来てくれたんだよね。そのときにまたあんまん食べたんだ」

D「そう。あったなあ」

C「あのとき、どうしてまたあんまん買ってくれたの」

D「え」

C「私、酷いことしちゃったじゃん。お父さんに」

D「あんまん、美味しかっただろう?」

C「うん。一番」

D「だからだよ。」

C「・・・うん」

D「お父さんな、あのとき日向がもう小さい日向じゃないんだ。変わろうとしてるんだなって思った」

C「変わる、か」


お湯が沸く。


D「入れようか」

C「え、いいよ」

D「いいから」

C「ありがと」


D、お茶を入れに行く。

C、続けてアルバムを見ている。


C「わ、高校と、大学の写真もあるじゃん。この辺私知らないよ。写真残してたんだ」

D「見せてなかったか」

C「うん。知らなかった。もう私も大人になったんだなあ」

D「大きくなったもんだ」


D、お茶の入ったカップをCに渡す。


C「いただきます」


お茶を飲む二人。

一息してから。


C「私、ちゃんとやっていけるかな」

D「ん?」

C「・・・私ね、最近、将来についてよく考えるの。私、こんな性格だからさ、もし上手くいかなかったら、もう駄目になるようにも思うんだよね」

D「上手くいかなかったら?」

C「仕事やっていけなかったり、相手と別れたり、ないでほしいけど、何が起こるかわからないじゃない」

D「ああ」

C「今からが新生活で、新しいことも、出会いも、挑戦も、いろいろあると思うんだけど。それでも、将来の保証って何もないじゃんか。誰も私のことなんかわからないし、私のことは、私が切り開いていくんだと思う。それはわかってるんだけど。将来が、暗く見えて、不安になることがあるんだよね」

D「そうか」

C「私、失敗したらどうしよう。」

D「生きていればいいんだよ。仕事が駄目なら転職したり、人間関係が駄目なら変えればいい。逃げたっていいんだ。なんでも。生きてさえいればいいんだから。日向は大丈夫だよ」

C「・・・生きていれば」

D「何かあればいつでも戻ってきなさい。お父さんはここにいるから」

C「うん」

D「・・・」

C「すごいなあ、お父さん。私、来世もお父さんの子どもがいいな」


D、お茶を吹く。


C「ええーー、ちょっとお父さん」

D「ごほ、ごほ」

C「ティッシュ取ってくる!」


家の電話が鳴る。

D、落ち着かせて電話を取る。


D「はい。泊です。そうです泊です。はい。わかりました。少しお待ちください」

C「ああ、アルバムにかかってないよね」

D「日向。もうタクシー来たそうだ」

C「あ、もう来たの」

D「お父さん先に荷物降ろしとくぞ」

C「お父さん大丈夫なの?」

D「お父さんは大丈夫だから」

C「わかった。ありがとう」


D、去る。

C、ティッシュでアルバムを拭く。


C「よかったー、中は濡れてない」


そのとき、アルバムから何枚かの紙が出てくる。

少し黄色くなった古い紙。

一枚ずつ手に取る。


C「あれ。これは、絵?」


風車の絵


C「なんの絵だろう」


海の中、魚の絵


C「お父さんが描いたのかな」


オーロラの絵


C「ん?」


桜の絵。祇園祭と書かれた旗の絵


C「桜、祇園祭・・・?」


episode:3「ニセ・祇園祭」

京都。高校の教室。

チャイム。


教室で推薦の書類を書いているE。

そこに同級生のFが入る。男子高校生の会話。


F「日向!」

E「泊」

F「日向、大変や」

E「どしたん」

F「ほんまにやばい」

E「なんやねん」

F「落ち着いて聞けよ」

E「おう」

F「外にめっちゃ可愛い姉さんおる」


ものすごいスピードで教室を飛び出すE。

が、赤い顔して戻ってくる。


E「おい!!おるん校長やないか!!」

F「はっはっはっは!」

E「恥かいたわ!ったくだましたな」

F「おもろいなあ。可愛かった?」

E「可愛かった?ちゃうねん。今ちょうど校長に出す書類書いてんの。ほんまえぐいわ」

F「内定取り消しやな」

E「あほか。意地でも東京行くねん」

F「推薦ってもうそれで終わりなん?」

E「そう。この書類出したら、今受かってる大学で決まり」

F「そうかぁ。そうかぁ」

E「ん?」

F「・・・」

E「ん??」

F「東京行くんよな」

E「そうやで」

F「なんで東京行くん」

E「なんでって、変わりたいから」

F「はー、優等生は言うこと違うな」

E「泊は、逆に何で東京行かへんの」

F「えー、京都おりたいから?」

E「京都ラブやな」

F「俺は変わりたいとは思わへん」

E「泊も賢いやん。数学はできへんけど歴史得意やからそれ使ったらいいのに」

F「そうかなあ」

E「そうよー、歴史博士」

F「生きてる時間が違うからな」

E「一か月だけな。9月、10月」

F「もっとだよ」

E「3日と、4日。ほぼ一緒や」

F「あれ?この話前にもせんかったっけ」

E「してへん。こんなしょーもない話」

F「うるさいなあ。俺は、変わるの怖いなー思うの。ようするわ」

E「そっか」


F「なあ、日向が東京行く前にさ、京都全部まわらへん?」

E「お前俺のこと好きなん?」

F「嫌いではないで」

E「きつー」

F「腐れ縁やもん」

E「なんやそれ。というか、京都全部まわるってなに?」

F「京都に、道あるやん」

E「あるな」

F「それ全部歩く」

E「一生かかるわ」

F「えーいいと思ったのに。逆にさ、日向がやり残したことないん?」

E「やり残したこと?京都で?」

F「そう」

E「せやなぁ・・・割と悔いのない人生おくってるからな」

F「羨まし」

E「あ、今年くらい行けばよかったな。祇園祭」

F「祇園祭?」

E「推薦の勉強で忙しくしてたから行ってないんよな」

F「ああ、去年は俺らも行ったもんな」

E「そう。今年はごめんな」

F「ええで。俺も忘れてたし」

E「忘れてたんかい。いやー祇園祭結構好きやら。それがもう暫く見られへんのは残念やわ」

F「夏なったら帰ってきたらいいやん」

E「俺、一回出たら帰ってこんような気がするんよな。やから無理」


間。


F「そんな、寂しいこと言うなや」

E「え?ああ、すまん」

F「寂しくなるやろ!」

E「え、」

F「またそうやって俺のこと置いていって、戻ってこうへんのやろ。ほんま、いい加減やわ。残された俺は寂しいやろ。寂しいやんか!」

E「いや、すまんて。どしたん」

F「けっこう俺はお前とおって楽しかったんや!!あほ!!!」

F「・・・・・・」


E、手を銃の形にして。


E「ばん」

F「シュン!カキンカキン!」


F、手を刀にして銃弾を切る。

いつもの二人のノリ。


F「これで世界の平和は守られた・・・ちゃうねーーーん!!」

E「ちゃうかったか」

F「ええわ」

E「もうええわ?」

F「もうええわ」

二人「ありがとうございました!」

F「ちゃうっ!ぜんぶちゃう!ちゃう!!」

E「おもろいなあ」

F「・・・ちゃうねん」


F、手をグーにしてEにあてる。

いつもと違う。


E「・・・泊?」

F「なあ」

E「うん」

F「なんで東京行くん」

E「なんでって、変わりたいから」

F「何から変わるん」

E「何から?」

F「日向は日向やで」

E「そうやな。やからこそ、変わらなあかんねん、俺は」

F「・・・」

E「泊?」

F「ごめんな、変なこと言って」

E「いやいや」

F「変やわ、ほんま俺だけおかしいよな。忘れて」

E「どうしたん」

F「どうしたんやろなぁ、ははは」

E「泊」

F「ごめん。ほな!」

E「泊!」

F「・・・帰るから」


F、教室を去る。

残されたE、進路の書類。

書類を掴み、教室を去る。


卒業式の日。

教室では、卒業生が最後に机を廊下に出している。

生徒の声が聞こえる。教室の音。

F、登場。他の生徒に向けて。


F「はーい。これでもう最後やで。うん、俺いくわ」


机を運びだす。


その間にE、登場。ほうきで掃除をしている。

そこに他の生徒が話しかける。


E「ん?ああ、卒業おめでとう。な、式あっという間やったなー。うん。そうやねん、東京の大学。そうそう、下宿する。来週の火曜には引っ越しやから、帰ったら準備やわ」


F、戻って来て、次に椅子を運ぼうとする。


E「やり残したこと?えー、その回答難しいんよなぁ」


E、Fの方を少し見て。


E「そうやな、祇園祭かな。今年は行けへんかったから」

F「・・・」

E「じゃあ、またどこかで」


E、生徒と離れる。

Fの方を向くが、Fは椅子をもってその場を去ってしまう。


E「・・・」


E、教室を去る。


翌週。

Eが京都を旅立つ日。桜の花が少しだけ咲き始めた。

E、バスに乗る。バスが走る。


E「いざサヨナラと思うと、そりゃあ寂しくないわけはない。ずっと暮らした街。変わるようで変わらない街。・・・三条の橋、めっちゃ綺麗なってた。あ、あの公園。泊とよく遊んだなぁ。そこのカラオケ行ったなぁ。あそこのカラオケも。あそこのカラオケも。カラオケ多いんよなぁ。そっか、ここ曲がったら、河原町見るのもこれで・・・」


途端にバスの外を見て、息をのむ。


E「・・・え」


E、慌てて降りるボタンを押す。


E「あいつ、何やってんねん」


E、バスを降りる。


四条河原町。

舞台には、いかにもお祭りの服装をして、りんご飴をもつF。

賑わう街の中でたった一人。明らかに目立っている。


そこにやってくるE。

咄嗟に言葉が出ない。


F「・・・おっす」

E「おっすちゃうわ。何やってんの」

F「何って、見たらわかるやろ。お祭り男」

E「お祭り?」

F「男」

E「今日、祭りちゃうやんな」

F「そう。やから、俺とやろうや。祇園祭」

E「祇園祭」

F「いや、ニセ祇園祭か。それでも良ければやけど」

E「・・・こんな、人がめっちゃおる中で?」

F「もうすぐ春やからな。今年は桜咲くの早いんやって」

E「俺で、いいん?」

F「りんご飴、わたがし、焼きそば。あ、焼きそばは俺の手作りね。お面ももう一個あるし、日向の好きなラムネも買ってきてん」


E、爆笑。


E「お前、俺のこと好きやなぁ」

F「嫌いではないで」

E「俺も」

F「ありがと。ほな行こう。お祭りタイムや」


二人歩き出す。

Eに浴衣を渡したり、わちゃわちゃして夢中になっている間に、

周りの人に焦点が当たりだす。

A・・・・姉

H・・・・Aの妹

B・・・・友達と電話してる学生

C・・・・祭りが好きな人

G・・・・祭りを開く人

D・・・・お祭り開く人2


A「あれ、今日お祭りだったのかな」

H「なあに?」

A「ほらあの人見て、りんご飴。お祭りなんじゃない?」

H「お祭りやってるの!?お姉ちゃん行きたいー!」

A「えー、でもどこでやってるんだろう」

H「あっちじゃない?(EFの歩く方を指して)」

A「あ、じゃあついていってみる?」

H「うん!」

A「そうしよっか。楽しみだねえ」


AH、二人の後ろについていく。

C、そこに近づいて。

Bは少し離れて友人と電話をしている。会話並行して。


C「すみません、今日お祭りありますか?」

A「多分?妹が行きたいって聞かなくて」

C「そうなんですね。へー、へー、いいなぁ」

H「一緒に行こうよ、お祭り!」

C「いいんですか?私お祭り大好きなんですよ!」/B「え、今日お祭りだったの」

H「私も!同じだね」   /B「もしもし、なんか祭りの恰好

C「うん。同じですね」  してる人がいて」


Cも一緒に歩く。

B、そこに近づいて。


B「さーせーん。これって何の並びなんすか」

C「お祭りがあるみたいです」

B「おい祭りだってよ!(大声)。まじかー行きたくね?お前らも河原町来いよ。

(Cに)あの、俺も行っていいっすか?」

C「どうぞどうぞ!」

B「(電話に)先いってるわ、また祭りで。連絡して、ほんじゃ!」


Bも一緒に歩く。

E、後ろに人が続いていることに気が付く。


E「ん?おい、後ろ」

F「えっ!?・・・こんにちは~」

ABCH「こんにちは~」

E「どういう状況?」

F「わからん!」

C「お祭り楽しみですね~」

ABH「ですね~」

E「どういう状況!?」

F「あ、あの、りんご飴いります・・・?」

H「食べる!」


わちゃわちゃする一同。

それを見ていたG。

次の☆のDとGの会話、それ以外の会話は並行する。


A「こら、すみません!」

F「いえ!お面とか、焼きそばとか、いろいろあるんですよ」

A「あら、たくさんあるんですね」

C「屋台いいですよねぇ」

E「屋台?」

C「私も屋台のご飯が大好きで、ついいろいろ買っちゃうんですよね」

A「お祭りってワクワクしますよねぇ」

B「俺もうお腹空いちゃって」

H「お腹すいたー!」

E「なんかさ、勘違いしてない?」

F「ん?どゆこと?」

E「いや、だからさ、俺たちの・・・」


G「あんた。あれ見て」

D「なんや、祭りか?おかしいな、今日は何もないやろうに」

G「やりたくなってきた、祭り」

D「奇遇やな。俺もや」

G「あんな笑顔見たら、居ても立っても居られんわ」

D「おっしゃ、店出すか!」

G「うちはみんな集めてくるわ!」

DG「やろう、祭り!!!」


祭りの音頭が聞こえだす。


D、祭りの服装になる。

(頭に何か巻いたり、祭りのウチワをもってもいい)

D、Gも加わり、さらに賑やかになる。

屋台が一面につくられ、一気にお祭りムードに!


F「なんやこの音」

E「おい泊、あれを見ろ」

F「えええええ!!いったい何が起きてんねん!!」

DG「いらっしゃいませーーーー!!!!」

E「屋台がどんどんつくられてく!!」

A「街が祭りになっていく!!」

C「たこ焼き!」

B「ポテト!」

E「チョコバナナ!」

H「チョコバナナ、食べたい!!」

A「こら、走らないのー!」

C「すごい、綺麗!」

B「お前ら早く来いって、祭りもう始まってるんだからさァ」

D「まだまだこれからやで~」

G「おおきに!じゃんじゃん食べていきや!!」

E「泊」

F「日向」

E「泊!」

F「日向!これは流石に」

二人「おもろすぎるやろ!!」


ドカンと花火があがる。


二人「花火、きたーーー!!!」


余韻を残しながら、ゆっくりと音、光が静かになっていく。

灯りが小さくなる。


祭りから時間が経ち、夜になった京都。

夜の街の環境音。

EF、京都駅に向かって歩いている。


F「右やって」

E「左だよ」

F「右!絶対こっち」

E「左だと思うんだけどなぁ」

F「じゃんけんほい。負けたー」

E「はい、左ね」

F「あ!」

E「京都タワー」

F「くぅ、こっちが正解かぁ」

E「よかったー。新幹線も間に合いそう。あとは京都タワーの方向かえば着くわ」

F「東京まで、どのくらいかかるん?」

E「時間?二時間ちょいかな」

F「早いな。あっという間やん」

E「ほんまに、科学の力ってすげーやな」

F「便利なったな」

E「せやねぇ」

F「でも、京都と東京。地球と月くらい、遠く感じるわ」

E「見た目だけじゃわからんのかもな、遠さって」

F「だって簡単に会われへんもん」

E「まぁ新幹線安くはないわな」

F「あーあ。さっきの交差点。右に曲がったらよかった」

E「ん、なんて?」

F「なんもない」

E「あ!」

F「え?」

E「あの公園、俺ら来た事あるよな」

F「え、ああ、あれや、昔たまに行ったゲーセンの帰り、ここ通ったわ」

E「チャリ漕いでな。あれって、こんなところにあったんや」

F「よく気づいたな」

E「懐かしいなあ」

F「ほんまな」

E「俺らって、初めて遊んだのいつなんやろな」

F「覚えてへん?」

E「流石に」

F「めっちゃ遊んだもんな、俺ら」

E「おかげでどこ行っても思い出多いな」

F「いいんやで、俺はこのまま京都全部歩いても」

E「あほか。新幹線来てまうわ」

F「知ってるわ。あほ」


二人、そのまま去る。


泡がはじけるように、転換。


episode:0「海底200メートル」

数億年前。

海の底。

G、H、出る。


H「まってよ」

G「まてないよ」

H「まってよ」

G「まてないよ」

H「どこまで君はいくんだよ」

G「えー」

H「そんなに泳いで、君はどこまでいくの?」

G「・・・教えようか」

H「うん」

G「君は、見える?」

H「なにが?」

G「あれ」

H「どれ?」

G「あの光」

H「わかんない」

G「そっかぁ。見えないか」

H「君には何が見えてるんだよ」

G「私にはね、ぽかぽかした光が向こうに見えるの」

H「ぽかぽか、ひかり。向こうって、向こう?」

G「そう、この世界の向こう側。私はあそこに行きたい」

H「無茶だよ。だって、僕らはこの世界を出られないんだもの」

G「出られないじゃなくて、出るんだよ」

H「そうは言ってもなあ。この身体じゃだめだよ」

G「じゃあ、身体が変わったら?」

H「え?」

G「身体が変わったら、どうだろう」

H「ええ」

G「もしかしたら、私の腕が大きくなって、この先を進めるようになるかも。足が生えて、世界を自由に歩き回けちゃうかも。手ができたら、何か大切なものを掴んだり、抱きしめられるかも。声が出るようになったら、私の想いを、届け―って伝えたり。心ができたら、どきどきぎゅ!って、毎日がもっとハッピーになる!」

H「・・・すごいね」

G「それって、とっても素敵だと思わない?」

H「うん、思う」

G「私はね、そういうふうに生きたいの」

H「すごいね」

G「いつか、きっと、もっと、キラキラぽかぽかが待ってるんだよ」

H「すごいよ、君は」

G「え~」

H「君はそうやって僕の知らないことを楽しそうに語る。僕の知らない世界を見ている」

G「だって。私は私だもの」


B、入って。


H「変わってゆく君が、眩しすぎるほど輝いて見える」

B「君と違って、ただそれを眺めることしかできなかったんだ」


episode:1996「さようなら」


舞台にA、B。

居酒屋を出たあとの帰り道。


A「わ、寒いね」

B「・・・」

A「寒くないの?」

B「うん」


A、Bの胸に手を当てる。


A「・・・つめたい」

B「え」

A「あ。ごめん」


B「ごめん」

A「ううん」

B「本当に、ごめん」

A「私も。ごめんね」


A「・・・」


B、Aの手を掴んで。


B「もう少し、話をしてもいい?」

A「うん」

B「・・・」

A「・・・」


二人、立ち止まる。


A「あ。シーラカンスの話、続きしたっけ?」

B「してない。多分」

A「・・・海にいた魚が進化して、形を変えて、陸上に生活するようになったんだけどね。別に、陸に上りたいよーって頑張って進化したんじゃないんだって」

B「え」

A「たまたまその形になって、たまたま生き残っただけで、上りたいよーと頑張ったわけじゃないんだって。私それ、知らなかったんだよね」

B「違うよ」

A「ええ?」

B「それは違うよ。だって、あんなに上ろうと頑張ってたんだもん」

A「やけに知ったように言うね」

B「知ってるよ。少なくとも君よりは長生きだから」

A「一か月だけね。9月、10月」

B「もっとだよ」

A「3日と、4日。ほぼ一緒だよ。あれ、この話さっきもしたっけ」

B「した。何度もした」

A「そうだっけ」

B「居酒屋でも、家の中でも、教室でも、ふうしゃで」

A「ええー。泊、よく覚えてるね」

B「うん。日向はすぐに忘れるじゃん」

A「ごめん。覚えるの苦手なんだよね」

B「俺は全部覚えてる」

A「全部?」

B「日向の忘れたことも全部。全部、俺は覚えてるんだよね」

A「うん」

B「俺、今日、大事なことを言いに来たの」

A「地球で一番なんでしょ」

B「そう」

A「聞くよ」


B「俺、君のことが好きだった」

A「うん」

B「ただの好きじゃないんだよ。生まれ変わっても会いたいくらいの好き、愛とか言葉で表せないくらい好きだった」

A「うん」

B「けれど。もう、終わりにする。」

A「・・・」

B「だから、さようならが言いたい。またね、がないさようならを言いたい」

A「うん」

B「・・・」

A「あのね」

B「うん?」


A「私、君と一緒で幸せだったよ」



D「日向、もう忘れ物ないか」

C「うん。大丈夫」

D「そうか。冷えるから、風邪ひかないようにな」


E「泊」

F「うん」

E「俺、お前と会えてよかったわ」

F「当たり前な」


H「あのさ」

G「うん」

H「どこまで行っても追いかけるから」

G「うん」

H「だからどこまで行ってもいいからね」

G「わかったよ」

H「うん。行ってらっしゃい」


D「行ってらっしゃい」


F「行ってらっしゃい」


B「日向」

A「うん。泊」

B「さようなら」


A「ありがとう。さようなら」






私の愛する京都の春


いいなと思ったら応援しよう!