こちら、光学設計部_第九回【LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.】
皆さん、こんにちは。
LUMIXのレンズについて深掘りしていく連載、「こちら、光学設計部」です。
「こちら、光学設計部」では、私たち光学設計部がレンズ設計の解説や特徴について、カタログやWebサイトでは読めないこだわりや想いについて紹介していきます。
これからレンズを検討される方には、ぜひLUMIXのレンズの設計思想を知っていただき、既にお持ちの方は、撮影で楽しんでいただいている優れた描写の裏側にある、知られざるこだわりや思いをお楽しみください。
開発者による、専門用語が飛び交うレンズ解説記事です。
読めばあなたも、レンズ沼の深淵を覗くことに。
第九回目は、「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」、担当は工藤です。
はじめに
2019年、当社初の35mmフルサイズイメージセンサー搭載ミラーレス一眼カメラ「DC-S1R」「DC-S1」の2機種を発売するにあたり、レンズの第一弾としては「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」「LUMIX S PRO 70-200mm F4 O.I.S.」「LUMIX S PRO 50mm F1.4」の3本が発売されました。
本稿では、この3本のうち「LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.」についての解説をしたいと思います。
本レンズはS1R・S1のキットレンズであり、最初のSレンズです。LUMIXはS PROレンズとSレンズの2ライン展開をしており、Sレンズは、高い光学性能に加え、機動性やユーザビリティも重視して開発されているレンズになります。
フルサイズミラーレスという新システムにおいて、多くのお客様が最初に手にするレンズであるため、プロ写真家やハイアマチュアのお客様のニーズにも応える、高い描写性能と機動力を備える必要がありました。
そこで、S-R24105は次の3点を商品コンセプトとしました。
・広角から中望遠までズーム全域で優れた描写性能を実現
・最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロに対応
・優れた機動力(高速・高精度AF、Dual I.S.対応)
それぞれについて、光学設計的なポイントを交えながら解説致します。

広角から中望遠までズーム全域で優れた描写性能
下図は、S-R24105のレンズ構成図です。

物体側から順番に、「正負正負正」の5群ズーム構成を採用し、ズーミング時の収差変動を補正することで、ズーム全域において高い描写性能を実現しています。
レンズ構成は13群16枚で、非球面レンズ2枚、非球面/EDレンズ2枚を採用して球面収差を抑制するとともに、UEDレンズ1枚、EDレンズ2枚を最適に配置することで、色収差をはじめとした諸収差を補正し、画面の中央から周辺まで高い描写性能を実現しています。
EDレンズ:Extra-low Dispersion Lens(特殊低分散レンズ)の略称。白色の光は、レンズのプリズム効果で、青、緑、赤の光へ波長別に分離=分散される。おおむね波長別の分散度合いが低いながらも、青の領域で分散が相対的に大きいガラス(EDガラス)を素材としたレンズをEDレンズと呼ぶ。
UEDレンズ:Ultra Extra-Low Dispersion Lens(特殊超低分散レンズ)の略称。EDレンズよりさらに低分散で、蛍石に近い性能を持つものをUEDレンズと呼ぶ。



最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロ
本レンズの大きな特長の一つが、ズーム全域で最短撮影距離0.3mまで寄れる点です。被写体に近づくことで、被写体をより大きく、印象的に写すことができ、望遠端ではハーフマクロ撮影が可能です。
しかし、高速AFとハーフマクロの両立には工夫が必要でした。
オートフォーカスの高速化を実現するためには、フォーカスレンズをなるべく軽量化する必要があります。そこで、非球面/EDレンズを採用することでフォーカスレンズを1枚とし、フォーカスの軽量化とフォーカス変動時の収差抑制の両立を図っています。
また、フォーカスレンズのパワー(光を曲げる強さのこと)が強すぎると、それだけ収差補正が困難になります。
そのため、フォーカスレンズのパワーを制限し、フォーカスレンズのすぐ後ろのレンズ(5群の1枚目)に負のパワーを持ったEDレンズを配置することで、フォーカス変動によって発生する色収差をはじめとした諸収差を良好に補正しています。
その結果、本レンズはズーム全域で最短撮影距離0.3mを実現しました。これにより、望遠端では最大撮影倍率0.5倍となり、ハーフマクロ相当の倍率で撮影することが可能です。
さらに、最短撮影距離での撮影を想定した場合、最も被写体側のレンズの表面が被写体やその付近にある物に接触して汚れてしまうことが考えられます。この汚れ付着を防ぐために、最も被写体側のレンズの表面にはフッ素コーティングを施しており、汚れの付着を防ぐとともに、付着した汚れを簡単に落とせるようにしています。

優れた機動力(高速・高精度AF、Dual I.S.対応)
光学設計の工夫としてフォーカスレンズを1枚にして軽量化を図り、さらにリニアモータを採用することで高速、かつ高精度なフォーカシングを実現しています。
さらに、本レンズはレンズ鏡筒の中に専用の手ブレ補正用レンズ群を内蔵することで、カメラのボディ内手ブレ補正とレンズ内手ブレ補正をリアルタイムで連動させて制御しています。それにより、「7.5段(※1)」という高い手ブレ補正効果を実現しています。
「Dual I.S.2」手ブレ補正7.5段の使用には、ファームウェアVer.1.2以降のアップデートが必要です。
※1 CIPA規格準拠(S1R/S1/S1H使用時、Yaw/Pitch方向:焦点距離 f=105mm)
光学的な手ブレ補正には、ボディ内の撮像素子を動かして手ブレを補正する方法(B.I.S.)とレンズ内の一部レンズ群を動かして手ブレを補正する方法(O.I.S.)の大きく分けて2種類があります。下図の赤線で囲まれた非球面/EDレンズが、O.I.S.レンズ群になります。

手ブレ補正レンズを搭載した光学設計においては、手ブレ補正レンズ群の重量、移動量、および補正時の解像性能の確保が重要になります。
手ブレ補正レンズ群の重量が重くなりすぎると、手ブレ補正レンズ群を動かすための機構の大型化に繋がるとともに、高精度な制御が困難になってしまいます。そのため、手ブレ補正レンズ群の軽量化が重要になります。
本レンズでは、O.I.S.レンズを3群内に配置し、さらに非球面/EDレンズ1枚とすることで、軽量化を図りつつ、手ブレ補正時においても非点収差や色収差を抑制するようにしています。
この構成は光学性能向上の効果が大きい一方で、モノづくりが非常に難しくなりますが、自社の優れた調整・工法技術により、実現することができました。
最後に
以上が、S-R24105についての解説となります。本製品を既にお持ちの方は、描写性能はもちろん、寄って撮れることや手ブレ補正性能にも注目していただけると嬉しいです。また、本製品をお持ちでない方も、本稿がレンズ選びの参考となりましたら幸いです。
