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【note詩】メリケンかぶれの冷蔵庫

山の手育ちの
メリケンかぶれ
シェイクスピアだのゴーリキイだの
カタカナ並べて
タバコふかして
絵筆を動かす
きみの横顔が愛おしい

ある年の夏
クリィム色にくすんだ
冷蔵庫が
湿気だらけの木造長屋へ
やって来た

夢のように広く
オリオン座のように遠い
メリケンから

山の手育ちの
背高のっぽな
きみによく似た冷蔵庫
どこか朴訥で
澄ました顔をしているね

「メリケンの冷蔵庫は質がいいんだ」
嬉しそうに語る
夢追い人のきみ
の理屈は
メリケン主義でしかないのが可笑しくて

そうは言っても
大枚をはたいた
甲斐があった

父が遺した
あばら家で
凛とたたずむ
大きな体の冷蔵庫
きみと並ぶと兄弟みたいで
わたしは笑わずにいられない
ミシミシと床を転げまわりながら

やさしい冷気は
守ってくれた
大根を
たまごを
山菜のおむすびを
椎茸と筍の煮物を
きみとわたしの
生活を

ある晴れた朝
きみは
石造りの橋がある
大きな国へと旅立った

「ご主人は立派に戦われた」
という声が聞こえた気がするが
よくわからない
手渡された白い箱には
一粒の小石だけ

乾いた大地を駆けてゆく
きみの顔が勇ましく
真っ赤に上気していたなんて
本当とは思えない

黒々とした髪を
丸刈りにした日の午後
真っ青な顔で震えていたことを
わたしだけは知っているから

白い箱が届いた
秋の暮れ

突然、
冷蔵庫が泣いた

オォウンオォウン
ギュルギュルル

言葉を声にのせられず
もどかしがっている
重い唸り
手を伸ばしてみようにも
なんにも掴めない
寂しい呻き

オォウンオォウン
ギュルギュルル

きみの背丈とほぼ同じ
背高のっぽな冷蔵庫の
素肌に口づけしたら
異国の大地で噴き出した
きみの血潮が流れているみたいに
あたたかくて
抱きしめたまま
夜を過ごさずにいられない

やがて
冷蔵庫は黙り込み
動かなくなった

きみが愛したメリケンと
わたしの国は
戦いをはじめた

わたしは冷蔵庫を捨てたあと
海と山のある村に引っ越した

二人で暮らしたあばら家には
新しい主が越してきたが
今年の春に爆弾が落ち
一家は焼けて死んだという

きみと冷蔵庫のいない世界
にも慣れたころ
畑から掘り起こした
腐りかけの大根を
シャク、シャク、
と切る

血しぶきのあがらない
きみの肌ほど白い大根を
一切れつまみ
苦くてからい、涙の味を
噛みつづけていたら
夜が明けた

いつの間にか
わたしの国とメリケンは
仲よくなっていたらしい

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るつ@文学フリマ大阪14【と-35】 連載中の戯曲『緋色の桔梗』は推敲を経て、書籍化・文学フリマ販売を目指しています。サポートは制作費に使わせていただきます!※何らかの形で上演をする場合はご一報ください。

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