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琵琶湖は女神の涙だった──湖北・湖南・湖西・湖東の神々が守る永遠の湖 第十一話 湖の約束

春が過ぎ、
湖の村には夏の風が吹き始めていた。

朝の湖は
鏡のように静かだ。

舟を出せば
水はゆっくりと揺れる。

魚は豊かで、
村は穏やかだった。

だが青年の心には
最近、別の想いが生まれていた。

それは

あの少女のことだった。

少女は
湖を愛していた。

朝は湖を見に来る。

昼は岸で水を汲む。

夜は月の光を見つめる。

まるで
湖と話しているようだった。

青年は
そんな少女を見るのが好きだった。

ある日、
少女は言った。

「ねえ」

「この湖って、誰かが守ってる気がする」

青年は少し驚いた。

「どうして?」

少女は湖を見た。

「だって優しいもん」

「風も、水も」

青年は空を見上げた。

北の山。

南の流れ。

西の峰。

東の光。

四柱の神の存在を
青年はまだ知らない。

だが
なぜか感じていた。

この湖は
ひとりではない。

その日の夜。

二人は
湖の岸に座っていた。

月が湖を照らしている。

波が
静かに光を揺らす。

少女は
小さく言った。

「もしさ」

「ずっとここにいられたらいいね」

青年は
しばらく黙っていた。

そして言った。

「いられるよ」

「俺が守る」

少女は
驚いて青年を見る。

「どうやって?」

青年は笑った。

「魚をとって」

「家を建てて」

「ここで生きる」

少女は
少し照れながら笑った。

青年は立ち上がった。

湖の前に立つ。

そして
ゆっくり言った。

「この湖の前で約束する」

「俺はここを離れない」

「ずっとこの村で生きる」

少女は
その言葉を聞いていた。

湖の水が
小さく揺れる。

風が
二人の髪を揺らす。

少女は言った。

「じゃあ私も約束する」

「ずっとここにいる」

「ずっと一緒」

二人は
湖の前で手を重ねた。

それは
小さな約束だった。

だがその約束は

この湖に刻まれた。

湖の中心で
光が揺れた。

女神、淡海が
静かに二人を見ていた。

その瞳には
優しさがあった。

そして
悲しさもあった。

女神は知っている。

人の約束は
美しい。

だが

永遠ではない。

遠くの山では
四柱の神が湖を見ていた。

瀬田流神が言う。

「人は誓う」

伊吹嶺神は答える。

「そして時が試す」

比良守神は言った。

「守れる者もいれば」

「守れぬ者もいる」

鈴鹿照神は
静かに湖を照らしていた。

「それでも」

「誓いは光になる」

湖の岸で
二人は笑っていた。

未来を信じて。

この湖が
永遠だと思って。

だが

運命は
まだ動き始めたばかりだった。

遠くの山で
黒い雲が生まれていた。

それは

嵐ではない。

人の運命だった。

(第十二話へ続く)

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