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琵琶湖は女神の涙だった──湖北・湖南・湖西・湖東の神々が守る永遠の湖 第十四話 湖を知る老人

嵐が去った翌日。

湖は
何事もなかったように
静かだった。

水面は
朝の光を映している。

昨日の嵐が
嘘のようだった。

だが村の人々は
知っていた。

昨日、奇跡が起きたことを。

青年は
無事だった。

舟から落ち、
湖に飲まれたはずだった。

だが

湖が
彼を岸へ運んだ。

村人たちは
何度も話した。

「湖が助けた」

「誰かが守っている」

その言葉は
村の中で
少しずつ広がっていった。

その日の夕方。

村に
ひとりの老人が現れた。

長い旅をしてきたようだった。

杖を持ち、

静かな目をしている。

村人が聞いた。

「旅の人か?」

老人はうなずいた。

そして
湖を見た。

しばらく
何も言わなかった。

やがて
老人は静かに言った。

「ここには神がいる」

村人たちは
顔を見合わせた。

「神?」

老人は湖を指した。

「この水は」

「ただの水ではない」

青年と少女も
その話を聞いていた。

少女は聞いた。

「どうしてわかるの?」

老人は
湖を見つめたまま言った。

「昔から伝えられている」

「涙の湖の話を」

村人たちは
黙った。

誰も
そんな話は知らない。

老人は続けた。

「この湖には女神がいる」

「そして」

「四柱の神が守っている」

その言葉に
青年は驚いた。

北の山。

南の流れ。

西の峰。

東の光。

なぜか
胸の奥で
何かが繋がった。

少女は
小さく言った。

「私、見た」

村人たちが振り向く。

少女は湖を見ていた。

「白い人」

「湖の真ん中に立ってた」

老人は
ゆっくりうなずいた。

「それが女神だ」

湖の中心で

小さな光が揺れた。

女神、淡海は
村の様子を見ていた。

人が
少しずつ気づき始めている。

この湖が
ただの湖ではないことを。

山の上では
四柱の神が湖を見ていた。

瀬田流神が言う。

「人が知る」

比良守神が
腕を組んだ。

「知れば欲も生まれる」

伊吹嶺神は
静かに言った。

「だが祈りも生まれる」

鈴鹿照神は
湖を照らしていた。

「それが人だ」

老人は
最後に言った。

「覚えておきなさい」

「この湖は」

「人の想いを受け止める湖だ」

「喜びも」

「悲しみも」

「すべて」

その言葉を聞いたとき

女神の涙が
また湖へ落ちた。

少女は
湖を見つめていた。

その涙を見て
小さく言った。

「湖は」

「泣いてる」

老人は
静かに答えた。

「そうだ」

「だからこの湖は」

「枯れない」

(第十五話へ続く)

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