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琵琶湖は女神の涙だった──湖北・湖南・湖西・湖東の神々が守る永遠の湖 第十二話 嵐の日

夏の終わり。

湖の空に
黒い雲が現れた。

朝から
風が強い。

水面は
いつもより荒れていた。

村の漁師たちは
舟を出さなかった。

「今日はやめておけ」

年老いた漁師が言った。

「湖が怒っている」

だが青年は
湖を見つめていた。

最近、魚が減っていた。

村の食べ物も
少しずつ減っている。

青年は
静かに言った。

「少しだけ出る」

仲間は首を振る。

「今日は危ない」

だが青年は笑った。

「すぐ戻る」

少女は
岸でそれを見ていた。

不安だった。

風が強い。

雲が低い。

湖が
いつもと違う。

少女は言った。

「今日はやめて」

青年は振り向いた。

「大丈夫」

「湖は優しい」

少女は
少し黙った。

そして
小さく言った。

「約束したでしょ」

青年は
少し驚いた。

あの夜。

湖の前で誓った。

「ここを離れない」

「ずっと一緒」

少女は
その約束を思い出していた。

青年は
少し笑った。

「すぐ戻る」

「魚をとって」

「夜には帰る」

舟は
湖へ出た。

風が強い。

波が揺れる。

だがまだ
戻れる距離だった。

青年は
網を投げた。

すると

風が変わった。

突然だった。

黒い雲が
湖を覆う。

雷が
遠くで鳴った。

湖が
大きく揺れる。

波が
高くなる。

青年は
顔を上げた。

「……早すぎる」

嵐が来る。

岸では
少女が湖を見ていた。

風が
髪を揺らす。

湖の中央に
小さな舟が見える。

そして
黒い雲。

少女は
胸が締め付けられた。

そのとき

湖の中心で
光が揺れた。

女神、淡海だった。

女神は
嵐の湖を見ていた。

そして

遠くの小さな舟を。

その瞳には
悲しみがあった。

山の上では
四柱の神が動いた。

伊吹嶺神が
北の風を止める。

瀬田流神が
水の流れを整える。

比良守神が
嵐を受け止める。

鈴鹿照神が
光を落とす。

だが

嵐は
それでも強かった。

瀬田流神が言った。

「人がいる」

比良守神が
眉をしかめる。

「危ない」

伊吹嶺神は
静かに言った。

「運命は止められぬ」

鈴鹿照神は
湖を照らしていた。

「だが見守る」

湖の上で

舟は
激しく揺れていた。

青年は
必死に舟を戻そうとする。

だが波が高い。

風が強い。

雷が落ちる。

そのとき

巨大な波が
舟を襲った。

岸で
少女が叫ぶ。

「戻って!!」

だが声は
風に消えた。

湖は
荒れていた。

そして

女神の涙が
また一滴

湖に落ちた。

(第十三話へ続く)

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