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「私、諦めなかった、諦めなかったよ!!」

先生、誕生日いつ?」
中学3年生の男子生徒が唐突に質問してきた。わたしはしばし考え答える。
ここでクイズです!
この仕事(塾講師)をしていると、皆んなに忘れられてしまう日です。
さあ、いつでしょう
?」

今度は彼がしばし考え、答える。

1月30日か31日か2月1日!!
「.....大当たりです。」

こんなヒントで当てられても嬉しくないですね、正直なところ。さらに悪いことに、皆んなどころじゃない、自分だって忘れてしまうという...。
夏のある日、私は携帯電話のプラン見直しでショップに立ち寄り、必要書類に記入を始めた。
「お客様」と、ためらいがちに店員さんが声をかけてくれる。
「はい?」
あの、ご年齢が...
よくよく見ると、私は誕生日が過ぎたことを半年経つたその時まで忘れていて、年齢をひとつ若く書いていたんですね
生年月日からの計算が合わない。
気まずいです。
わざとサバを読んだのではありません。
職業病なんです。
誕生日どころじゃないんです。

誕生日は空に消えていく

10年以上も前のはなしです。
そんな誕生日を1ヶ月ほど過ぎたある日、私は塾に最後まで残りレポートを書いていた。もう1人残っていたスタッフが外の看板を教室の中に運んでいた時に、ふらりと1人の女性が現れた。
Yちゃん!!どうしたの?!
去年大学薬学部に受かってからは、しばらく会っていなかった元生徒様だった。
灯りがついているから、まだ誰かいるんだと思って寄った。
聞けばまだ夕飯を食べていないという。早速ご飯に誘って2人でゆっくり話すことになった。

Yさんとの思い出は数知れず、個性的な生徒様だった。まず、初回の授業から忘れられないのは、常に斜めに座って文字通り斜に構え、絶対にこちらを真っ直ぐに見ようとしない。 
真っ直ぐ座りなさい。」
これが授業のスタートだった。
姿勢だけじゃない。勉強に関しても斜めな姿勢は徹底していて、いかに自分ができないか、を滔々と語る。
英語は苦手、数学は元々文系の頭だから無理、といった調子で、これを延々と語る。
まずは、私が担当になったからには、『できない、わからない、無理』は言わない。約束しなさい。」
ネガティヴな言葉は口癖で条件反射のように口から出てくる。これは自分が気づいて直さないと直らない。これは徹底して直してもらった。
しばらくすると、オープンキャンパスに行ってある大学に惚れ込み、俄然前向きになった。その上、医歯薬系の長文を読み始めると、「面白い!!もっと読んでもいい?」と夢中になった。
公募推薦の入試(併願)にも合格し、さらに自信をつけ、それから模試では9割を割ることが無くなった。
最近、友達から英語の〇〇(苗字)と呼ばれてる」と胸を張って言うまでになった。

創薬の夢に向かって

大学入試の日、Yさんは一日おきに第一志望校を受験した。受験が終わると、塾に直行し、解いたばかりの入試問題を届けてくれる。初日の問題は難しかった。採点してみると5割の正答率、厳しい結果だ。ところが、次に受けた当日、またYさんが入試問題を持って塾に駆け込んできた。私のいるブースに入ってくるや否や、
先生、解いてみて!!私、諦めなかった、諦めなかったよ!!
解いてみると7割以上出来ている。これはいける、と思った。
そして彼女は合格した

入試本番

食事をしながら、大学の部活の写真を見せてくれる。ビックバンドでトランペットを吹いている、という。大所帯のクラブで皆んなの笑顔が眩しい。ゼミは一番厳しいという評判の教授につく予定という。

今だから、先生達が言ってくれたことがわかる。だから、私は先生達がしてくれたことを私の生徒にすることにしたの
なんと彼女は大学生講師として塾で活躍しているというのだ。

受験の時期になると思い出す。
私、諦めなかったよ!!
Yさんのあの時のあの声が
今でも聞こえてくるような気がする。

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