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カフェ開業 完全ロードマップ 第20回

カフェ開業 完全ロードマップ 第20回 オープン後1年で見直すべきことは、売上ではなく、人生と商いのバランスである。


──季節変動、決算、価格改定、働き方、次の1年をどう設計するか。

前回の記事では、オープン後6か月で考えるべきことは、拡大ではなく、続けられる型を作ることである、と書きました。売れる曜日、売れる商品、常連、原価、店主の疲れ、発信の負担。半年続いた店に必要なのは、次々と新しいことを増やすことではなく、営業、商品、数字、働き方を無理なく続けられる形に整えることです。

今回は、いよいよ開業後1年について考えます。

カフェを開いて1年が経つということは、春夏秋冬を一度経験したということです。暑い季節、寒い季節、雨の多い時期、年末年始、連休、閑散期、繁忙期。冷たいドリンクが動く時期もあれば、焼き菓子や温かい飲み物が選ばれる季節もあります。冷暖房費が重くなる月もあれば、思ったより人が動かない月もあるでしょう。

半年では見えなかったことが、1年経つと見えてきます。売上の波。季節商品の強さ。常連のお客様の変化。仕入れ価格の変動。光熱費の負担。店主の体力。休み方。家族との関係。発信を続ける難しさ。価格を上げるべきかどうか。来年も同じ働き方を続けられるのか。

ここで、ただ「年間売上はいくらだったか」だけを見ると、大切なものを見落とします。

もちろん、売上は重要です。利益も重要です。数字を見ない経営は危険です。しかし、小さなカフェを続けるために本当に見直すべきことは、売上だけではありません。

オープン後1年で見直すべきことは、売上ではなく、人生と商いのバランスです。

1年続いたことは、まず大きな成果である。

カフェを1年続ける。

これは、とても大きなことです。

開業前は、店を開くことが大きな目標になります。物件を見つけ、資金を用意し、内装を整え、メニューを作り、保健所や消防の確認を済ませ、仕入れ先を決め、プレオープンを行い、グランドオープンを迎える。そこまででも十分に大変です。

しかし、本当の商いは、開いた後に始まります。

毎日仕込みをする。お客様を迎える。会計をする。片付ける。発注する。売上を記録する。SNSを更新する。口コミに向き合う。メニューを調整する。原価を見直す。体力を保つ。近隣との関係を大切にする。これを、晴れの日も雨の日も、忙しい日も静かな日も続けていく。

1年続いた店には、必ず何かがあります。

派手な成功でなくてもいいのです。大行列ができていなくても、雑誌に載っていなくても、SNSで何万人に知られていなくてもいい。1年、扉を開け続けた。その事実には、積み重ねがあります。

だから、1年目の振り返りで最初にやるべきことは、反省ではありません。まず、続けたことを認めることです。

続けたからこそ、見える数字があります。続けたからこそ、見えるお客様があります。続けたからこそ、見える疲れがあります。続けたからこそ、来年の設計ができます。

1年目は、成功か失敗かを決めるための判定期間ではありません。

次の1年を、より無理なく続けるための検証期間です。

1年経つと、季節の波が見えてくる。

半年では見えにくいものがあります。

季節の波です。

カフェは、季節の影響を受けます。気温、天気、日照時間、学校行事、連休、年末年始、地域イベント、人の移動。こうしたものが、来店数や売れる商品に影響します。

夏は冷たいドリンクが出るかもしれません。一方で、焼き菓子が動きにくくなるかもしれません。冬は温かい飲み物やチョコレート系の商品が動く一方で、日が短くなり、夕方以降の来店が減るかもしれません。春は新生活の動きがあり、地域に新しいお客様が入ってくる可能性があります。秋は気候が安定し、カフェ利用が増える時期かもしれません。

ただし、これは一般論です。大切なのは、自分の店ではどうだったかです。

自分の店は、どの季節が強かったのか。どの季節に売上が落ちたのか。どの商品が季節と相性がよかったのか。どの時期に店主の体力がきつかったのか。冷暖房費はどの月に重くなったのか。雨の日は本当に弱かったのか。連休は動いたのか、それとも近隣のお客様が減ったのか。

1年分の記録があると、来年の準備ができます。

夏に売れた商品を早めに磨く。冬の光熱費を見込んで価格や営業日を考える。閑散期にイベントや物販を仕込む。繁忙期前に仕込み方法を整える。季節ごとの発信を前倒しする。

季節変動は、怖がるものではありません。

読めるようにするものです。

1年目の数字は、来年の地図になります。

年間売上を見るだけでは、店の状態は分からない。

1年経つと、年間売上が出ます。

月ごとの売上。客数。客単価。曜日ごとの差。季節ごとの差。商品別売上。原価。利益。固定費。税金や社会保険料の負担。見なければいけない数字はたくさんあります。

もちろん、年間売上は大切です。

しかし、年間売上だけを見ても、店の状態は分かりません。

たとえば、年間売上は悪くなかった。でも、店主が休めていない。利益が残っていない。仕込みが重すぎる。売れている商品ほど原価が高い。家賃や光熱費の負担が重い。発信に疲れている。家族との時間がなくなっている。これでは、売上があっても続けるのは難しくなります。

逆に、年間売上はまだ理想に届いていない。でも、常連が育っている。客単価が少しずつ上がっている。利益商品が見えてきた。仕込みの型が整った。営業日を調整して体力が戻ってきた。Googleマップや口コミからの来店が増えている。こういう店は、次の1年で伸びる可能性があります。

数字は、結果です。

でも、結果だけを見ても判断はできません。

1年目に見るべきなのは、売上の額ではなく、売上の質です。どの商品で売上を作ったのか。どのお客様が支えてくれたのか。どの曜日が強かったのか。どの売上が店主の疲労と引き換えになっていたのか。どの売上は無理なく続けられそうなのか。

良い売上とは、単に金額が大きい売上ではありません。

店を続ける力になる売上です。

利益は、店主の人生を守るためにある。

カフェを開く人の多くは、売上には意識が向きます。

今日は何万円売れた。月商はいくらだった。昨年比はどうだった。目標に届いたか。もちろん、売上を見ることは大切です。

しかし、1年目の振り返りでは、利益を必ず見なければいけません。

売上があっても、利益が残らなければ店は続きません。材料費、包装資材、家賃、水道光熱費、通信費、消耗品、広告費、修繕費、借入返済、税金、社会保険料、そして店主自身の生活費。売上からさまざまな支出が出ていきます。

ここで大切なのは、利益を「最後に残ったもの」として見ないことです。

利益は、店を続けるために必要な余白です。

設備を直すための余白。繁忙期に備えるための余白。閑散期を乗り越えるための余白。店主が休むための余白。家族との生活を守るための余白。次の商品を試作するための余白。

利益がないと、すべてがその場しのぎになります。冷蔵庫が壊れたときに慌てる。仕入れ価格が上がったときに苦しくなる。体調を崩したときに休めない。店主の給料を後回しにする。これでは、店は続いているように見えても、店主の人生が削られていきます。

小さなカフェにとって、利益は欲張りではありません。

店と店主を守るための条件です。

1年目の振り返りでは、「売れたか」だけでなく、「残ったか」を見てください。そして、「残った利益は、店主の生活と次の1年を守れるだけのものだったか」を考えてください。

価格改定は、怖いが避けて通れない。

1年営業すると、価格について考える場面が必ず出てきます。

仕入れ価格が上がった。包装資材が高くなった。光熱費が重くなった。人件費を考える必要が出てきた。店主の生活費をきちんと確保したい。開業時に申し訳なさから低めに設定した価格では、続けるのが難しい。

ここで出てくるのが、価格改定です。

価格を上げることは怖いです。

お客様が離れるのではないか。高いと思われるのではないか。常連に申し訳ない。近隣の店と比べられるのではないか。SNSで何か言われるのではないか。そう考えるのは自然です。

しかし、価格を上げないことで、店が続かなくなることもあります。

大切なのは、価格改定を突然の値上げとして行うのではなく、店を続けるための誠実な見直しとして考えることです。

価格を上げる前に、まず数字を確認する。原価はいくらか。包装資材はいくらか。仕込み時間はどれくらいか。提供にかかる手間はどれくらいか。店主の給料は確保できているか。今の価格で、品質を守り続けられるか。

そのうえで、必要な価格改定を行う。

そして、1年続けた店だからこそ、価格改定を伝えやすくなる面もあります。

開業直後の店には、まだお客様との関係が十分に育っていません。しかし、1年営業してきた店には、通ってくれたお客様がいます。味を知っている人がいます。店主の姿勢を見てくれている人がいます。季節ごとの商品や、日々の営業を見守ってくれた人がいます。

つまり、1年目の価格改定は、単なる値上げではなく、これまで育ててきた信頼関係の上で行う見直しでもあります。

もちろん、何も説明せずに価格だけを変えるのは避けたいところです。けれども、「これからも品質を守り、無理なく店を続けていくために見直します」と丁寧に伝えれば、理解してくださるお客様は少なくないはずです。むしろ、お客様の中には、店が無理をして安く続けることよりも、きちんと続いてくれることを望んでいる人もいます。

価格改定は、お客様を遠ざける行為とは限りません。

店を続けるために、店主とお客様の関係を少し成熟させる機会にもなります。

安くすることが親切とは限りません。無理な価格で続けて、品質が落ちたり、店主が疲弊したり、店が閉まってしまう方が、お客様にとっても残念なことです。

1年目は、価格を感情ではなく、数字と誠実さで見直す時期です。

確定申告は、数字と向き合う機会である。

1年営業すると、避けて通れないものがあります。

確定申告です。

確定申告というと、面倒な事務作業のように感じる人も多いと思います。領収書をまとめる。売上を確認する。経費を整理する。帳簿を見る。税理士に相談する。会計ソフトを確認する。慣れていない人にとっては、かなり負担の大きい作業です。

しかし、確定申告は、単なる義務ではありません。

自分の商いを数字で振り返る機会でもあります。

何にお金を使ったのか。どの月に支出が重かったのか。材料費はどれくらいだったのか。包装資材は想定より多かったのか。水道光熱費は季節によってどう変わったのか。広告宣伝費は売上につながっていたのか。消耗品はどのくらいかかったのか。利益は残っていたのか。

こうしたことが、数字として見えてきます。

確定申告で慌てないためには、申告時期が近づいてから一気に整理しようとしないことです。

1年経った今の段階で、領収書や請求書、クレジットカード明細、銀行入出金、売上データ、仕入れ明細をどう整理するかを決めておきたいところです。紙の領収書は月別に分ける。データで受け取った請求書はフォルダに保存する。現金払い、カード払い、振込を分けて確認する。会計ソフトを使うなら、毎月どこまで入力するかを決める。

この小さなルールがないと、申告時期に「何がどこにあるのか分からない」という状態になります。すると、数字を見る以前に、探す作業だけで疲れてしまいます。

確定申告は、年に一度だけ頑張る作業ではありません。日々の商いを、あとで振り返れる形に残しておく習慣です。

毎月末に30分だけ領収書を整理する。定休日に売上と経費を入力する。税理士や商工会議所に相談する前に、月ごとの売上、仕入れ、家賃、光熱費、消耗品、借入返済をざっくり一覧にしておく。

それだけでも、申告時期の不安はかなり小さくなります。

もちろん、税務の細かい判断は専門家に確認した方がよいです。自分だけで判断しようとせず、必要に応じて税理士や商工会議所、青色申告会などに相談することも大切です。

ただ、店主自身が数字を見なくてよいわけではありません。

数字を見ることは、店を責めることではありません。

店の現実を知ることです。

1年目の確定申告は、面倒な作業であると同時に、次の1年の経営を整えるための材料になります。

1年で、お客様は少し変わる。

1年営業すると、お客様の顔ぶれも少し変わります。

開業直後に来てくれた人の中には、来なくなる人もいます。一方で、3か月目、6か月目から少しずつ来るようになった人がいます。最初はひとりで来ていた人が、家族や友人を連れてくるようになることもあります。季節によって来る人もいます。平日だけ来る人、週末だけ来る人、雨の日に来る人、ギフトの時期にだけ思い出してくれる人。

お客様は、固定された存在ではありません。

店と一緒に変化していきます。

だから、1年目に見直したいのは、「誰が来ているか」です。

開業前に想定していたお客様と、実際に支えてくれているお客様は同じでしょうか。違うとしたら、それは悪いことでしょうか。もしかすると、店が現実の街の中で見つけた、新しい顧客像かもしれません。

たとえば、最初は若い女性向けのカフェを考えていたけれど、実際には近隣の年配の方が午前中に通ってくれている。仕事帰りの人を想定していたけれど、昼間の在宅勤務の人が支えてくれている。観光客を狙っていたけれど、地域の常連が増えている。

これは、コンセプトの失敗とは限りません。

現実から見えてきた店の役割です。

1年目には、開業前に想像したお客様と、実際に店を支えてくれているお客様を照らし合わせる必要があります。そして、必要であれば、コンセプトの言葉を少し更新してもよいのです。

コンセプトは、最初に決めたら絶対に変えてはいけないものではありません。

ただし、軸を失わないように、現実に合わせて磨いていくものです。

常連との距離を見直す。

1年営業すると、常連のお客様が生まれているかもしれません。

いつもの時間に来る人。いつもの席に座る人。いつものメニューを頼む人。店主と少し話す人。家族の話をしてくれる人。新しいお客様を連れてきてくれる人。お店の変化に気づいてくれる人。

これは、とてもありがたいことです。

常連は、売上だけでなく、店主の心も支えてくれます。静かな日でも、あの人が来てくれたから今日はよかったと思えることがあります。店が地域の中に少しずつ根づいている実感にもなります。

ただし、1年目には常連との距離も見直した方がよいです。

近くなりすぎていないか。内輪の空気になっていないか。初めて来た人が入りにくくなっていないか。特定のお客様にだけ特別扱いをしすぎていないか。店主が聞き役になりすぎて疲れていないか。常連との会話が、他のお客様の居心地に影響していないか。

小さな店では、人間関係が魅力になります。

でも、人間関係が近くなりすぎると、店主が疲れることもあります。お客様同士の距離感が難しくなることもあります。初めてのお客様が「自分はここに入っていいのかな」と感じることもあります。

常連を大切にすることと、店を開かれた場所に保つこと。

この両方が必要です。

1年目は、関係性の濃さではなく、関係性の健やかさを見直す時期でもあります。

店主の体力は、1年で正直な答えを出す。

開業直後は、気合いで動けます。

3か月目には疲れが出始めます。6か月目には働き方の型を整える必要が出てきます。そして1年経つと、店主の体力はかなり正直な答えを出します。

この働き方を、もう1年続けられるのか。

ここを見ないまま、売上やメニューの話だけをしてはいけません。

朝の仕込みは続けられるか。閉店後の片付けは重すぎないか。定休日に本当に休めているか。睡眠は足りているか。食事は取れているか。腰や肩や手首に負担は出ていないか。気持ちが休まる時間はあるか。家族との関係はどう変わったか。友人と会う余裕はあるか。店のことを考えない時間はあるか。

これらは、経営と関係ないようで、深く関係しています。

店主の体力が壊れると、店は続きません。店主の気持ちが削られると、接客の質も落ちます。生活が崩れると、判断も鈍ります。小さなカフェでは、店主の状態がそのまま店の品質になります。

だから、1年目の振り返りでは、売上表だけでなく、自分の体も見てください。

この働き方は、自分を壊していないか。この営業日は、自分の生活に合っているか。このメニュー数は、自分の体力で続けられるか。この発信頻度は、自分の心を疲れさせていないか。

店を続けるためには、店主が続けられる状態でいる必要があります。

家族との関係も、経営の一部である。

カフェ開業は、店主ひとりの夢のように見えます。

しかし、実際には家族や身近な人にも影響します。

収入の変化。生活リズムの変化。休日の変化。家事や育児の分担。会話の時間。将来への不安。開業前には想像していなかった負担が、家族にかかっていることもあります。

1年目には、ここも見直す必要があります。

家族は、店のことをどう感じているか。応援してくれているか。不安を抱えていないか。店主が疲れすぎて、家庭で余裕を失っていないか。休日が店の作業で消えていないか。収入について、きちんと共有できているか。

これは、少し話しにくいテーマかもしれません。

でも、小さなカフェを続ける上で、とても大切です。

店が続いていても、家族との関係が壊れていくなら、それは本当に続けたい商いでしょうか。逆に、家族が店のリズムを理解し、無理のない範囲で支えてくれているなら、店主はかなり強くなります。

家族をスタッフのように扱う必要はありません。

でも、家族の生活に影響している以上、家族との対話は必要です。

1年目は、店だけでなく、暮らしの中で店がどんな存在になっているかを見直す時期です。

発信は、続けられる言葉に変えていく。

開業前から開業直後までは、発信することがたくさんあります。

物件が決まった。内装が進んだ。メニューを試作した。ショップカードができた。プレオープンをした。オープンした。新商品が出た。売り切れた。来店のお礼を伝えた。

しかし、1年経つと、発信のテーマは少し変わります。

毎日新しいことが起きるわけではありません。同じような営業が続きます。定番商品があり、いつものお客様がいて、いつもの仕込みがあります。ここで発信に疲れる人もいます。「何を書けばいいのだろう」「同じことばかりになっていないか」「反応が落ちてきた」と感じることもあるでしょう。

1年目には、発信をイベント型から日常型へ変えていく必要があります。

特別な投稿だけでなく、日々の営業リズムを伝える。今日の焼き菓子。ゆっくり過ごせる時間帯。季節の変化。定番商品の背景。店主が大切にしていること。常連に支えられていること。来店前の不安を減らす情報。

発信は、毎回目立つ必要はありません。

続けられる言葉で、店の現在地を伝えればいいのです。

1年続いた店には、派手なニュースよりも、積み重ねの説得力があります。

発信もまた、無理なく続けられる形に整えていく時期です。

1年目に、やめることを決める。

1年営業すると、増やしたいことが出てきます。

新しいメニュー。イベント。通販。ワークショップ。夜営業。モーニング。スタッフ採用。コラボ。新しい発信。地域活動。可能性はいくつもあります。

しかし、1年目に大切なのは、増やすことだけではありません。

やめることを決めることです。

続けてみたけれど、負担が大きすぎたメニュー。売上にはなるが、店主を疲弊させる営業日。毎回準備が重いイベント。反応はあるが利益につながりにくい商品。発信のためだけに続けている企画。店のコンセプトから少しずれているサービス。

これらを見直す必要があります。

やめることは、失敗ではありません。

店を軽くすることです。

小さなカフェは、何でもできる店にはなれません。むしろ、何をやらないかが店の個性になります。やめることで、残すべきものが見えてきます。減らすことで、主力商品が強くなります。捨てることで、店主の体力が戻ります。

1年目は、足し算だけでなく、引き算の経営を始める時期です。

次の1年に向けて、目標を小さく具体的にする。

1年目の振り返りが終わると、次の1年を考えることになります。

ここで、大きすぎる目標を立てると苦しくなります。売上を倍にする。毎日満席にする。新商品を毎月出す。通販を始める。イベントを増やす。スタッフを雇う。もちろん、目標があることは大切です。

しかし、小さなカフェにとって、次の1年の目標は、もっと具体的でよいと思います。

定休日をきちんと休めるようにする。客単価を100円上げる。食品ロスを月に1万円減らす。常連のお客様が使いやすい時間帯を整える。主力商品を一つ育てる。価格改定を丁寧に行う。Googleマップの写真を毎月更新する。仕込みの時間を1時間短縮する。店主の給料を毎月一定額確保する。

こうした目標は地味に見えるかもしれません。

でも、店を強くします。

大きな夢は大切です。しかし、商いを続けるのは、小さな改善の積み重ねです。次の1年に必要なのは、勢いだけではありません。続けるための具体的な設計です。

目標は、店主を追い詰めるためのものではありません。

次の1年を少し楽に、少し良くするためのものです。

1年後に見るべき三つのバランス。

ここまで、オープン後1年について見てきました。季節変動、年間売上、利益、価格改定、確定申告、お客様、常連との距離、店主の体力、家族との関係、発信、やめること、次の1年の目標。考えることは多いですが、整理すると、1年後に見るべきバランスは三つです。

一つ目は、数字のバランスです。売上、利益、原価、固定費、店主の給料、税金、設備更新の余白。売れているかだけではなく、残っているか、守れているかを見ることです。

二つ目は、お客様とのバランスです。常連を大切にしながら、新しいお客様にも開かれているか。想定していたお客様と、実際に支えてくれているお客様の間に、どんな変化があるかを見ることです。

三つ目は、店主の人生とのバランスです。働き方、体力、休み、家族、生活費、気持ちの余裕。この商いが、店主の人生を豊かにしているか、それとも少しずつ削っているかを見ることです。

この三つのバランスが崩れると、店は続きにくくなります。

売上があっても、店主が壊れたら続かない。常連がいても、利益が残らなければ続かない。利益があっても、人生が苦しくなるなら、その商いを続ける意味を見直す必要があります。

カフェは、人生を犠牲にして続けるものではありません。

人生の中に、無理なく置き直していくものです。

CAFES理論を読んでくださった方へ。

今回のオープン後1年の話も、以前お届けした「CAFES理論」とつながっています。

CAFES理論とは、小さなカフェを継続可能な商いとして考えるために、コンセプト、顧客、空間、経済性、店主自身の持続性を整理する考え方です。カフェを「開く」だけではなく、「続ける」ために何を設計すべきかを考えるための土台として、このロードマップシリーズともつながっています。

オープン後1年は、CAFES理論で考えてきたことを、人生と商いの両面から見直す時期です。

コンセプトは、1年営業した今も生きているか。顧客は、実際に店を支えてくれている人として見えてきたか。空間は、店主にもお客様にも無理なく使われているか。経済性は、売上だけでなく利益、価格、税金、生活費とつながっているか。店主自身は、この働き方を次の1年も続けたいと思えているか。

つまり、オープン後1年は、売上の総括だけをする時期ではありません。

人生と商いのバランスを見直す時期です。

このロードマップシリーズは、CAFES理論で考えたことを、開業準備から開業後の運営へ翻訳していくシリーズです。今回の1年目も、単なる年間報告ではなく、「この店は、自分の人生の中で続けられる形になっているか」を確かめる工程として考えてみてください。

今日の宿題

今回の宿題は、オープン後1年を「売上の振り返り」で終わらせないための整理です。項目は少し多めですが、すべてを一度に埋める必要はありません。

まずは、5分でできるセルフチェックとして、次の3つだけ考えてみてください。

□ この1年で、店を支えてくれた商品は何ですか。
□ この1年で、店主の人生を一番圧迫したことは何ですか。
□ 次の1年で、増やす前にやめるべきことは何ですか。

この3つが書けるだけでも、1年目の見直しはかなり進みます。余裕があれば、ここから先の項目を使って、数字、お客様、店主の生活、価格、次の1年の目標を整理してみてください。

1. 数字編──売上ではなく、残ったものを見る。

□ 年間売上はいくらでしたか。
月ごとの売上、強い月、弱い月を確認してください。

□ 利益は残りましたか。
材料費、包装資材、家賃、水道光熱費、消耗品、広告費、税金、借入返済、店主の生活費を見直してください。

□ 店主の給料は確保できましたか。
「余ったら取る」ではなく、生活を守れる金額だったか確認してください。

□ 申告時期に向けた整理ルールはありますか。
領収書、請求書、売上データ、仕入れ明細、カード明細、銀行入出金を、月別に確認できる状態にしておきましょう。

2. 季節・商品編──1年分の波を見る。

□ 強かった季節と弱かった季節はいつですか。
春夏秋冬、気温、天気、連休、地域イベントとの関係を見てください。

□ 季節ごとに売れた商品は何ですか。
来年に向けて、早めに準備すべき商品を書き出してください。

□ やめる、減らす、価格を見直す商品はありますか。
売上だけでなく、原価、仕込み、店主の負担から判断してください。

3. お客様編──誰に支えられた1年だったか。

□ 実際に店を支えてくれたお客様は誰ですか。
開業前の想定と比べて、どこが同じで、どこが違ったかを見てください。

□ 常連との距離は健やかですか。
近くなりすぎていないか、初めての人も入りやすい空気があるかを確認してください。

□ もう一度届けたいお客様は誰ですか。
来なくなった人、まだ届いていない人、もっと来てほしい人を書き出してください。

4. 店主の人生編──この働き方は続けられるか。

□ 体力は持っていますか。
睡眠、食事、休み、閉店後の疲れ、体の痛み、気持ちの余裕を確認してください。

□ 家族や身近な人との関係はどう変わりましたか。
店の営業が、暮らしにどんな影響を与えているかを見てください。

□ この働き方を、もう1年続けたいと思えますか。
思えない場合、営業時間、メニュー数、発信頻度、休み方を見直してください。

5. 価格・発信・次の1年編──続けるために整える。

□ 価格改定が必要な商品はありますか。
原価、手間、品質、店主の生活を踏まえて考えてください。

□ 価格改定をどう伝えますか。
「値上げ」ではなく、品質を守り、店を続けるための見直しとして、どんな言葉で伝えるか考えてください。

□ 発信は続けられる形になっていますか。
イベント型の発信から、日常型の発信へ変えていけるかを考えてください。

□ 次の1年で、やめることは何ですか。
負担が大きいメニュー、営業日、イベント、発信、サービスを見直してください。

□ 次の1年で、小さく具体的に改善することは何ですか。
客単価を上げる、食品ロスを減らす、定休日を守る、主力商品を育てるなど、現実的な目標を書いてください。

最後に、次の一文を書いてください。

私が次の1年で整えるべき、人生と商いのバランスは、____である。

この一文が書けると、1年目の振り返りは単なる数字の確認ではなくなります。

売上を見る。

利益を見る。

お客様を見る。

体力を見る。

家族との関係を見る。

そして、その店が自分の人生の中で、無理なく続けられる形になっているかを見る。

オープン後1年は、売上の総括だけをする時期ではありません。

人生と商いのバランスを見直す時期です。

次回予告

次回は、このロードマップの最終回です。

テーマは、そのカフェは、本当に続きますか? です。

ここまで、人生設計、コンセプト、市場調査、事業計画、資金、融資、物件、内装、メニュー、仕入れ、人、集客、プレオープン、オープン初日、1か月、3か月、6か月、1年と見てきました。

最後に問い直したいのは、シンプルなことです。

そのカフェは、店主の人生を壊さずに続いているか。

お客様の暮らしの中に、無理なく存在しているか。

数字、空間、商品、関係性、働き方は、ひとつの商いとしてつながっているか。

次回は、カフェ開業ロードマップの終着点として、「店を開くこと」ではなく、「暮らしと商いを続けること」について考えていきます。

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