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1杯からはじめる人生-最終話 「店で学んだこと。ここから、外に出る」

最終話 「店で学んだこと。ここから、外に出る」

カフェは、“席で稼ぐビジネス”だった。
時間と席数に縛られ、回転と単価で成立する。

自家焙煎は、“豆で稼ぐビジネス”だった。
売り方次第で、どこまでも伸びる。

同じコーヒーでも、構造が違う。
この店で、それを知った。

さとみは、カウンターの中で立ち尽くしていた。
忙しいわけじゃない。でも、頭の中はずっと動いている。

「最初はさ、コーヒーが好きで始めたんだよね」

美咲が、ふと声をかける。

「はい。でも今は…ちょっと違います」

「どう違う?」

さとみは少し考えてから答える。

「“売れるかどうか”で見てます」

美咲は頷く。「いいね。それが“仕事”」

少し間が空く。

「でもさ」と美咲が続ける。「ここって、あくまで“店”なんだよね」

さとみが顔を上げる。

「席があって、人が来て、その場で飲む場所。だからどうしても、時間と席数に縛られる」

カフワが静かに言う。「それが飲食の構造」

さとみは、ゆっくりと理解する。

「じゃあ…自家焙煎は?」

カフワが続ける。「豆は持ち帰れる。場所に縛られない。だから、売り方で伸びる」

「物販ってことですか」

「そう。飲食じゃなくて、物販」

その一言で、全部がつながる。

さとみは小さく笑う。「同じコーヒーなのに、全然違いますね」

美咲が言う。「だから迷うんだよ。カフェやりたいのか、コーヒーで稼ぎたいのか」

答えは、もう出ていた。

そのとき、カウンターの奥からブナさんが声をかける。

「さとみ」

振り返る。

「興味あるなら、今度焙煎見に来るか」

一瞬、言葉が止まる。

「…いいんですか?」

「見るだけじゃ分からないけどな。やるなら教える」

短い言葉だった。でも、十分だった。

さとみは頷く。「行きます」

美咲が少しだけ笑う。「いいじゃん。次のステージだね」

カフワも続ける。「“売る側”から、“作る側”へ」

その言葉を、さとみはそのまま受け取る。

この店で学んだことは、終わりじゃない。
むしろ、ここから始まる。

カフェは、入口だった。
構造を知るための場所だった。

これからは、外に出る。

豆を焼く。
売り方を考える。
もう一度、最初からつくる。

さとみはエプロンを外す。
いつもの景色が、少し違って見える。

「ありがとうございました」

誰に向けた言葉かは、自分でも分からない。

でも、ちゃんと区切りはついた。


一杯の余韻|ブナさんの一言

「店は教えてくれる。でも、答えは外にある」

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