HANDS UP! 第3話

□ 大会前日の放課後

日直で一人教室に残っていた司の元へ顔を出す豪

司「忘れ物か?」
豪「シュンが生徒手帳を落としたらしい」
司「そうか。僕も手伝おう」

司も席を立って周囲を見渡し、駿のロッカー内に黒い物を発見

司「……あれじゃないか?」

紺の生徒手帳を手に取り確認する豪

豪「早速シュンに連絡しよう」
司「日誌も書けたし、僕もすぐ行くよ」

手帳に挟まっていた小さな紙片がヒラリと床に落ち、司が拾う

司「何だ、写真か? ……っ!?」
豪「これは……?」

不意にパタパタ足音が聞こえてきて、司は咄嗟に写真をポケットに隠す
他クラスの生徒が廊下を足早に通過し、顔を見合わせる二人

司「……見なかったことにしよう」

互いに頷き合い、今度こそやってきた駿を二人は素知らぬ顔で出迎えた

□ 後半開始

スコアは10対12、自陣の位置を入れ替えて張尾高ボールで後半開始

権田「頑張れ寺道ー!」
観客「勝てよサイ高ーっ!!」
校長「裏鞭次じゃぁぁ!!」

女子ハンド部以外もあちこちから声援
校長達の後方で、教頭は割れたグラサン片手にしょんぼり体操座り
開始直後、左45°米田のパスがポストに渡り、ディフェンスの手を引っかけたままシュート

サA「げ!」

ピピーッ!
長い笛が鳴り、サスケAにイエローカード、張尾高は7mスロー
7mラインに立った米田が右下を狙うが、司はバシィッと蹴り上げ、頭上に高く打ち上がるボール

駿「たーまやー!」
女ハン「「ナイスキー王子! マジイケメン!」」
司「っ……受け取れ駿っ!」

女ハンの声援に若干怯みつつ、受け止めたボールをライナーでぶん投げる司
速攻に走っていた駿がビビりながらも無事キャッチ

駿「NEOレーザー速! こっわ!」

ディフェンスが寄ってくると同時に駿がパスし、受け取った豪が左腕を振りかぶる

豪「ふんっ!!」

野球投げの豪快なジャンプシュート
豪速球がネットに突き刺さる

女ハン「「ナイシュー大和田マジ最高!」」
駿「っしゃ! ヤバスギ改めサイ高トリオ!」

自陣に戻りつつ駿と豪がハイタッチし、司ともガッツポーズを交わす
以降、両チーム点の取り合いが続く

□ 後半残り10分

スコアは19対18、再度高の一年メンバーに疲れが見え出し、ミスも増える

南条「ごめんパス悪い!」
サC「っしゃあドンピシャ!」

足元へのパスをサスケCは思い切り蹴っ飛ばす
ゴールには入ったが、審判は真顔で笛を吹きキックボールの反則

全員「「…………」」

沈黙の後、敵味方も含め会場全体が大爆笑

サ「つい蹴っちまったー!」
サB「分かる、分かるぞ……!」

頭を抱えるサスケCに共感するサスケA・B
張尾高の攻撃。落ち着いたパス回しでディフェンス位置をずらすと、左サイド稲葉が駿の脇から狭いコースを狙ってシュート
司はボールに触れたが、こぼれ球がゴールに入る

寺道「ドンマイ! 一本取り返そう!」

再度高の攻撃。パスを受けた駿がシュンッとフェイントで敵を引きつけ、走り込んできた豪にパス
豪と寺道も攻め込み、ディフェンス左側に隙間が広がる

サC「次こそ、いくぜ!」

サッカー仕込みの脚力で鋭くカットインするサスケC
相手二人が間を詰めた所で、南条にパス

里内「なっ!」
茶谷「やべっ!」

南条がシュートを狙い、キーパー飯塚は前へ出てコースを塞ぐ

南条「よし……!」

バスケットボールのように山なりのシュートを放つ南条
ループシュートが決まり、ギャラリーから歓声

女ハン「「ナイシュー南条もう一本!!」」

□ 再度高のタイムアウト

スコアは22対23
寺道と司、そして駿以外はかなりバテバテ

松井「ラスト5分! 気合いと根性で勝ってきな!」
女ハン「「気合いを入れろ! 根性見せろ!」」
 
松井が激励し、女子ハンド部メンバー達と校長は一層声を張り上げドンドンパフパフと盛り上げる
すっかり汗ばんだ校長のスキンヘッドは体育館の照明でテッカテカ

□ 後半残り5分

張尾高ボールで試合再開
中央に走り込んだ米田が高い打点からロングシュート

寺道・司「「ハンズアップ!!」」
 
サスケAに代わりサスケBが豪と二人でハンズアップ
司の好セーブで得点を防ぐ

司「速攻ぉーっ!!」

真っ先に走り出す駿はマークされ、二番目に走っていた南条へのロングパスもカットされる

寺道「! 早く戻って!!」

即座に一点返され、再度高も急いで攻め始めるが、今度は豪のパスミス

寺道「一度落ち着こう!」
司「ディフェンス一本!」

攻守入れ替わりの連続で一年生達はバテバテ
ここぞとばかりに素早いパス回しで攻める張尾高

駿「手ぇ下がってんぞ! ハンズアップ!」
松井「ここ踏ん張り所だよ、ハンズアップ!!」

容赦なく豪を抜き米田がカットイン
一歩詰めた駿の足元に鋭いバウンドパス

米田「寄せ集め集団に、負けるかよっ!」

絶妙のタイミングで走り込んできた左サイド稲葉がキャッチ

駿「く……っ!」

フリーでシュートに行かれ、顔を歪めて司を振り返る駿
彼が初めて見せる切羽詰まった顔に強気の笑みで返す司

司(任せろ。行け!)

目が合うなり歯を食いしばった駿が駆け出す
左足下へ力強く放たれたシュートを、司の爪先が辛うじて蹴り上げた

司「取れっ豪ぉぉ!!」

ダイレクトで顔面に飛んできた球を豪がしっかりと掴む
そのまま振りかぶり、渾身の力で相手コートへぶん投げた

豪「シュ──ンッ!!」

敵陣にディフェンスはゼロ
パスも駿へとドンピシャで飛んでいくが、やや軌道が高い

飯塚「させるかぁぁ!」

相手キーパーがパスカットを狙って飛び出す
明らかに身長差で駿の方が不利

司「駿!」

生徒手帳に挟んであった写真を思い出す豪と司
“送球魂”Tシャツ姿でハンドボールを抱えた三白眼気味の少年と、彼よりやや背が低く“跳躍男”Tシャツ姿で金メダルと賞状を手にした茶髪の駿
笑顔で肩を組んで映る写真右下には『駿兄、全中優勝!』の文字

豪・司「「跳べぇぇ──っ!!」」

声に反応した駿が、力強く床を蹴る

駿「!?」

目の前の光景に重なる過去の記憶
幻を振り払うように跳び上がり、両手を高く掲げる駿

寺道「っ危ないっ!」

周囲が息を飲む
ボールを掴むと同時にキーパーと軽く接触した駿は、見事な体幹で無事着地

仲間達「「行けぇぇ!!」」」

過去と現在がダブったまま、ゴールを狙う駿

視界に飛び込んでくる6mライン
(視界に飛び込んでくる踏切板)
声援を送る仲間達とギャラリーの観客達
(声援を送る陸上部仲間と“送球魂”Tシャツの弟)
再度高ユニフォーム姿でジャンプシュートの跳躍をする駿
(陸上競技会のゼッケンを付けて走り幅跳びの跳躍をする駿)
ネットを揺らすボール
(砂場に残る一人分の足跡)
シュートを決めて床に降り立つ駿の背中
(津波を受けた被災跡地で独り佇む駿の背中)
歓声を上げる仲間達と、頭上でどよめく2階ギャラリー
(辺りに広がる瓦礫の山と、片隅に転がる古ぼけたハンドボール)

 駿「──ん?」

ゴチィィン!!
思考が飛んでいた駿は勢い余ってゴールポストに直撃
飛び散る星と共に視界が暗転

□ 試合後、保健室

ベッド上で目覚めた駿は目を瞬かせる

駿「? あれ……?」
豪「シュン、大丈夫か!? 痛みは? 気分は悪くないか!?」
駿「デコがイタ冷たい」
司「それはタンコブ冷やしてるせいだね」

顔を覗き込む豪と司を押しのけ起き上がる駿

駿「試合は? やっぱ負けた?」
司「あぁ。相手キーパーが退場したけど、既に豪達はバテバテでね」
豪「すまん……俺もシュンのようにジョギングを日課にすべきか……?」
駿「いや。もし勝っても次の相手、情熱大付属だろ?」

対戦表を思い浮かべる駿
豪と司は神妙に頷く

司「……男子の第一シードで全国区らしいね」
豪「メダッチ達はボッコボコだった」

複雑な顔の二人に噴き出しつつ、頭の後ろで手を組む駿

駿「そりゃご愁傷様だな。……さーて、やっとお役御免だ!」

意味深に視線を交わした豪と司が、おずおずと口を開く

豪「なぁ……」
司「あのさ……」
駿「? 何だよ、二人して」

怪訝な目をする駿に、以前と同じ“おねだり”の表情をする二人

豪「……三人でハンド部、やりたい。ダメか、シュン?」
司「僕からも頼むよ、駿。一緒にやらないか……?」

一瞬虚を突かれ、しかし即座に不敵な笑みを形作る駿

駿「はっ、冗談はよしたまえビッグボーイズ。君らと違い、おれは身も心もちっこい軽薄男──」
寺道「小笠原君! 大丈夫!?」
駿「! あ、はい。タンコブできただけっす」

寺道と助っ人メンバーが駆け込んできて、ひとまず頷く駿
好機とばかりに眼鏡を押し上げた司は、無駄に爽やかな笑みを浮かべた
司「丁度良かった。寺道さん、僕と豪はこのままハンド部に入ろうと思います」
寺道「えっ、本当かい!?」

パッと顔を輝かせる寺道に頷き、胡散臭い笑顔で続ける司
司「あと南条君とサスケC──矢島君も入部を検討中だそうで」
寺道「そうなの!?」

寺道が高速で振り向くと、南条と矢島はぎこちなく頷く
司の意図を察して話を引き継ぐ豪

豪「今、シュンも是非と誘ったんす。確か5人いれば、部も存続できますよね」
駿「は!?」

目を剥く駿に反論の間を与えず、司が畳みかける

司「手っ取り早く多数決を取ろう。駿に入部してほしい人ー?」
豪「ハンズアップ!!」

豪の吠えるような大声で、シュバッと条件反射のように挙手する面々

司「賛成多数、これでハンド部も存続決定!」
駿「おい待てどこの暴君!?」
寺道「部が存続!? 本当に……!?」
矢島「あれ、先輩泣いてます?」
豪「俺も嬉しい。ありがとう、シュン」
駿「は、嵌めやがったな……!」

最早断れない空気に顔を引き攣らせた駿は、キッと周囲を睨み上げた

駿「っ勘違いしないでよね! バイト優先、部活は二の次だから!」

ツッコむどころか満足げな笑みを溢す“ハンド部”のメンバー
やれやれとお手上げのポーズをしながら、駿は虚空に向かってナレーション

駿「──こうして、おれの青春はお手玉部に捧げられたのだった! 以上!」
司「和訳違う! ハンドボール部!」


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