HANDS UP! 第1話
【あらすじ】
中学時代にヤバスギトリオと呼ばれた駿・豪・司の三人は、同じ再度高校三年の寺道が他校の友人に絡まれる現場に遭遇。彼は廃部寸前のハンドボール部に一人で所属しており、成り行きで三人は試合の助っ人をすることに。
駿達は校長を味方に付けて部室や練習場所などの問題を一気に解決したものの、強豪サッカー部の反感を買う。そこで司と駿の策略により素人同士のハンドボール対決に持ち込んで勝利し、丸く収めつつ助っ人要員も確保した。
寺道と友人による約束の試合で、駿達は素人ながら個々の特技を駆使して彼をサポートし、接戦となるが地力の差で逆転には至らなかった。駿の過去を垣間見た豪と司は、彼をハンド部に誘う決意をする。
【本編シナリオ】
□夕方、どこかの海辺
中学一年くらいの男子二人が準備運動する後姿
“送球魂”のTシャツを着用した黒髪の少年が、“跳躍男”のTシャツを着た茶髪の兄に人差し指を突き付ける
弟「勝負だ、兄貴!」
兄「跳躍男とお手玉男の対決か」
弟「和訳違う! 送球(ハンドボール)!」
兄「ジャンプマンVSハンドマンか」
弟「イングリッシュで誤魔化すなぁ!」
逆光で顔はよく見えないが、互いに笑みを浮かべている
兄「ふっ、本家ジャンパーに勝てるかな」
弟「ジャンプシュートには自信あるし! じゃー行くぜ!」
兄&弟「「よーい、ドン!!」」
夕陽の沈み始めた水平線
砂浜に向かって助走し、オレンジに輝く太陽へと大きく手を振り上げ、高く高く跳躍する二人
□三年後。熱知(あっち)県立再度(さいど)高校近くの寂れた公園
公園奥のゾウさん滑り台前で、ブレザー姿を着崩した金髪男に詰め寄られる学ランの男
米田「で、俺との約束、破る気か? あぁ!?」
寺道「……」
仲間を従えた金髪ロン毛の米田に凄まれ、唇を噛む寺道
生け垣の向こうから謎の学ラン三人組が登場
豪「手を上げろ! お前らは完全に包囲されている!」
司「その制服、隣町の張尾(ハリビ)高ですね? 通報しますよ?」
駿「タイムイズマネー! さっさと失せな、ベイベェー!」
二人「「……?」」
豪と司が駿の両脇を固め、ライフルのように傘を構える
顔を見合わせる寺道と米田
沈黙に耐えきれなくなった三人はヒソヒソ相談
駿「完全スベッたな」
司「だから強盗スタイルは微妙だと……」
豪「だがネオの水○黄門案は古くないか?」
駿「後任せていい? 帰って黄門様観たいし」
司「遠近法!? そして丸投げ!?」
いつの間にか公園入口でスマホを弄っている駿
米田が金髪を掻き上げ寺道を振り返る
米田「再度(サイド)高の一年か?」
寺道「多分……?」
興味深そうに豪と司を眺める米田
米田「180㎝超えか。スポーツ経験は?」
司「他校の不良に教える義理は無──」
豪「俺は元野球部の控え投手、ネオは元サッカー部二軍キーパーだ」
司「律儀か!」
米田「野球部とキーパーね……」
米田が再び寺道を睨む
米田「助っ人でも何でもいい。月末までに頭数だけは揃えろ」
寺道「……努力するよ」
豪「成程、日を改めて決戦か」
司「喜ぶな! 拳も構えるな!」
ファイティングポーズを取る豪を鼻で笑い、米田は足下の“張尾高校送球部”と印字されたエナメルバッグを背負う
米田「違う、試合だ」
司「……ハンドボール部?」
米田「今のもただの口論だしな」
駿「ただの熱血運動部かーい!」
公園入口からここぞとばかりにツッコむ駿
米田「とにかく、試合には絶対来い。決着付けようぜ」
駿「青春ですなぁー」
バツが悪そうに舌打ちした米田が去っていく
苦笑しつつ見送っていた寺道は、改めて後輩達に頭を下げた
寺道「心配してくれてありがとう。僕は3年の寺道重善(てらみち しげよし)。君達は?」
司「どうも。僕は1年7組の金大路司(かねおおじ つかさ)です」
豪「同じく7組の大和田豪(おおわだ ごう)、です」
駿「同上、小笠原駿(おがさわら しゅん)、以上!」
三人が順番に自己紹介
茶髪ウェーブヘアの長身眼鏡イケメン司は丁寧に会釈
司より更に一回りガタイのいい短髪三白眼の豪は無表情で背筋を伸ばす
猫目を細めて不敵に笑う小柄な駿は、早口に捲し立てると踵を返すが、豪は彼の両脇を抱え上げた
駿「おいゴー何すん──」
司「先輩を助けるって言い出したのは駿だろ?」
駿「アイドンノゥー、ワスレマシター」
豪「先輩、ハンド部なんすか」
豪と司からホールドされる駿
寺道は頷きつつ親友の言葉を思い出す
寺道「……実は、メダッチも言ってたけど」
司「誰ですか?」
寺道「さっきの金髪。米田(コメダ)っていう、同中のハンド部仲間でさ」
豪「中学のダチすか」
寺道「うん。それで月末の大会、一回戦で彼らの学校と当たるんだ」
駿「ふーん。初戦から運命の一戦っすねー」
寺道「でもうちの部は僕一人だから、試合どころか廃部の危機でね」
駿「そーすか。それもまた運命っすねー」
足元に置いてあったエナメルバッグから古びたハンドボールを取り出す寺道
寺道「だから……もし君達が良ければ、ハンドの試合で助っ人を──」
駿「ノォーセンキュウー」
司「体育の授業で結構面白かったし、いいですよ。なぁ豪?」
豪「あぁ。俺も構わない」
駿「やれやれ。お前ら身も心もビッグボーイズだな。ま、頑張りたまえ」
回れ右した直後に豪と司からガッシリ肩を掴み直され、ジト目で二人を見上げる駿
豪「シュンもやろう」
駿「悪いがゴー君、おれにはバイトに青春を捧げるという使命があるのだよ」
肩を竦める駿へと、豪は眉根を寄せ、司もどこか困ったように微笑む
駿「? ……おーい?」
豪「……三人でハンド、やりたい。ダメか、シュン?」
司「僕からも頼むよ、駿。手を貸してくれないか……?」
駿「や、デカ男二人のおねだりとか需要ねーし?」
豪&司「「……」」
駿「……」
豪&司「「……」」
駿「……全く、お人好しのビッグボーイズめ」
無言の攻防を経て根負けした駿が大袈裟に嘆息し、キッと寺道を睨み上げる
駿「っ勘違いしないでよねっ! 今回限り、一試合だから!」
寺道「え!? あ、ありがとう!?」
司「いやツンデレ!? てか先輩には敬語!」
駿「覚えときなさいよっ!」
司「どこの悪役令嬢!?」
驚きつつ目を輝かせる寺道へと吐き捨て、公園を飛び出す駿
寺道「本当にいいの? 特に彼……」
豪「シュンは困った人を放っとけない兄貴肌ですし」
司「素直じゃないけどな。寺道さんが絡まれてた時も、真っ先に走ってったし」
寺道「でも、なんで……?」
小さな背中が見えなくなった方向を見つめる豪と司
豪「……シュンは、早朝ランニングが日課なんす」
寺道「?」
豪「中三の冬に転校してきて以来、毎朝──」
ランニング中、再度高校ハンドコートで汗を流す寺道をフェンス越しに一瞥する駿の図
豪「あんたが一人でシュート練してるの、見てたって」
□週明けの朝、3ー1教室内
先日の三人組について話す寺道に色めき立つ同級生達
女「それ、噂のヤバスギトリオじゃん!」
寺道「や、ヤバスギ……?」
男「ジミッチ家遠いし知らねぇか? この辺で一番荒れてた屋場杉中!」
女「最凶不良の大和田と大手会社御曹司の金大路は昔から有名だったけど──」
男「転校生を加えた三人で、今も校区内を牛耳ってるらしいぞ?」
寺道「はは……そうなんだ……」
駿「ジミッチ先輩ー!」
寺道「っ!?」
顔を引き攣らせる寺道
直後、教室入口からヒョコッと顔を出す駿
□3-1前廊下
騒つく教室を慌てて出ると、真顔の豪とドヤ顔の駿&司が待っていた
駿「大会の話っすけど。予選は再度高が会場校ですよね?」
寺道「う、うん。うちは女ハンが強豪だからね」
駿「その女ハンと、あと校長センセが全面的に協力してくれるそうです!」
豪「サッカー部に取られてた部室も確保したっす」
司「尤も、必ず試合メンバーを揃えるって前提ですけどね」
寺道「え? え?? えぇ!?」
情報量の多さに理解が追い付かない寺道
“校内施設使用申請書”の用紙片手に、駿が勿体ぶって語り出す
駿「そう、これは今朝の出来事……おれ達三人は、まず校長に取り入ろうと企み──」
司「いや言い方!」
駿「んで校長室に突入したら、ヤクザ系教頭に正座させられて──」
寺道「あぁ、京極先生ね……」
厳ついグラサンで臙脂色のスーツを着こなし、 “極”と書かれた金の扇子を愛用する極道風な外見に加えて中身もガラの悪い教頭を思い浮かべ、遠い目をする寺道
駿「練習場所や部室など、最低限の権利を主張し──」
寺道「ごめん……部員が僕一人だから、全部他の部に取られちゃって」
駿「ジミッチ先輩のぼっちネタで情に訴えても一蹴され──」
司「だから言い方!」
駿「そこへ校長登場、以上!」
司「最後雑ぅぅ!!」
寺道「何があったのぉ!?」
思わずシャウトする司と寺道
聞き役だった豪が淡々と補足する
豪「教頭に『申請書は渡せない、もう紙が無い』と言われて」
駿「そうそう! んで校長が激おこで一件落着!」
寺道「??」
□校長室回想
黒髪フサフサヘアーなヤクザ風教頭の胸倉を掴んでブチ切れる、眩いスキンヘッドのマッスル校長
神守『髪が!? 無いだとぉぉ!?』
京極『もっ申し訳ありません神守(かみもり)校長っ!』
神守『髪はまだある! 絶対に! 絶対にだっ!!』
京極『ありますありますっ! すぐ準備しますぅぅ!』
神守校長から解放され、ずれたサングラスから覗くつぶらなお目々を潤ませて駿達を睨む京極教頭
京極『っ申請書は用意してやる! 尤も部室に使える空いた部屋など無いだろうがな!』
神守『ヘアーが!? 無いだとぉぉぉ!?』
京極『いえいえ部屋あります何とかしますぅぅ!!』
□回想終了
思い出し笑いで肩を震わせる駿と司、開いた口が塞がらない寺道
豪「──で、後はシュンの熱弁すね」
□校長室回想2
駿『一人で頑張ってた先輩の為にも、絶対勝ちたいっす!』
熱心に語る駿と腕組みしながら相槌を打つ豪&司
頭と瞳と笑顔の白い歯を輝かせる校長
神守『その熱意や良し! 予選は丁度うちが会場校だ、全校を上げて協力しよう!』
駿『あざーす! 何てったって、うちの校訓は──』
駿&神守『『裏鞭次(リベンジ)!!』』
校長室に掲げられた再度高校の校訓、“裏鞭次〜足掻き、奪り返せ、我が栄光〜”
校訓の額縁前で揃ってサイドチェストのポージングする校長とヤバスギトリオに教頭は諦めの表情
□回想終了
最早言葉も出ない寺道へと喋り続ける一年生達
寺道「……」
駿「申請書出せば部室も返ってきて、あと女ハンの顧問に確認後コート練習もできるんで!」
司「練習メニュー等、女子の部長と相談しておいてください。僕らハンドはほぼ素人ですし、色々教えてくださいね」
豪「後は人数集めを頑張るだけっす」
寺道「う、うん。色々、ありがとう……」
言うだけ言って去っていく凸凹三人組を見送りながら、胸が熱くなる寺道
寺道(金大路君、大和田君。それに、小笠原君……!)
駿から受け取った申請書を握り締め、寺道は彼らの背中へと深く頭を下げた
寺道(ありがとう。本当に、ありがとう──!!)
廊下の角を曲がる手前でチラリと寺道を振り返り、無言で目を細める駿
同じ頃、教室内でサッカー部の部長が部員達を密かに集めて相談し始めた
□昼休み、3-2教室前廊下
寺道は隣の教室を訪ね、中肉中背だがそれなりに筋肉質な自身と同等以上に逞しい女子ハンド部部長の権堂と話す
権堂「私は構わないけど。詳しくは松井先生と決めて」
寺道「ありがとう、助かるよ」
ムスッとしつつ微かに頬を染めている権堂には気付かず、申請書を持って職員室に向かう寺道
□渡り廊下に面した中庭
渡り廊下を通過中、寺道は中庭にたむろしていた坊主頭の集団に囲まれる
玉越「おい、寺道」
寺道「……玉越君?」
サッカー部部長の玉越は“再度高蹴球部”ジャージを着た男達を従え、寺道を中庭へと引っ張り出す
玉越「聞いたぜ、部室の話」
寺道「いや、その……」
玉越「なに一年使ってしれっと強奪してんだ、あぁ!?」
サ部「サッカー部は50人近くいるんだ、人数比考えろ!」
玉越「この紙も没収な!」
寺道「あ……!」
記入済みの申請書を玉越に奪われて破り捨てられ、顔色を変える寺道
豪「手を上げろ!!」
不意に響いた野太い怒号に、一同ビクッと身を竦ませる
渡り廊下には、購買帰りと思われるヤバスギトリオ
フランスパンをライフルのように構える豪の横で駿はニヤニヤ笑い、司も苦笑気味
駿「まーた絡まれてんすかジミッチ先輩!」
寺道「あ、はは……」
面長の顎をさすりつつ三人を睨み付ける玉越
玉越「お前らか、 ヤバスギトリオとかいう1年は」
駿「……最強トリオじゃなかったっけ?」
豪「最強無敵トリオだ。自称だが」
司「全く浸透しなかったけどね」
玉越「どうでもいいわぁ!」
上級生に凄まれてもマイペースな三人組に苛立つ玉越
玉越「とにかく、部室は渡さねえぞ!」
駿「やーでも、大会前の作戦会議に必要ですしー?」
首の後ろで手を組む駿を、サッカー部員達が嘲笑う
サ部「は? 出場すら危うい雑魚共が何言ってやがる」「うちは県大会常連のエリート集団だ、どっちに部室が必要かなんて明らかだろ?」
司が黒縁眼鏡を押し上げつつ一歩踏み出す
司「でもここ数年は一回戦負けですよね?」
玉越「あぁ!?」
制服のポケットからサッカー部の勧誘チラシを取り出し、隅っこに書かれた戦績を示す司
司「人員不足で出場の危ういハンド部と、優秀な人材を集めても勝てないサッカー部──立場的には大差無いのでは?」
寺道「ちょ、金大路君!?」
玉越「てめぇ、言わせておけば……!」
黒い笑みを浮かべる司
玉越の額には青筋が、寺道の額には冷や汗が浮かぶ
寺道「どうしよう……!」
豪「シュン、どうする?」
駿「ブラック王子にお任せー」
既に寺道の存在は忘れられ、司VS玉越+サッカー部員の構図に
駿はどこ吹く風でスマホを弄り出す
司「部室の使用権も対等に決めません? 例えば明日の放課後、ハンドで三対三の勝負とか」
玉越「は!? 何でそんな面倒なこと......」
司「僕らも全員素人ですよ。あ、勝つ自信無いんですか?」
玉越「っ、いいだろう、結果は見えてるがな!」
火花を散らす司と玉越
さらりと便乗した駿がさらに煽る
駿「じゃ、おれら勝ったら三人ほど試合の助っ人借りていーっすか?」
玉越「あぁ!?」
駿「エリートなら余裕っすよね!」
玉越「っ当然だ、いくらでも貸してやる!」
肩を怒らせて立ち去りかけた玉越が、寺道へと指を突きつける
玉越「ただし経験者の寺道は抜きだぜ、対等な勝負だからな!」
寺道(何気に大人げない!)
サッカー部集団が渡り廊下に消える
ピコンッと電子音が聞こえて仰天する寺道
寺道「へ!?」
駿「計画通り……!」
動画撮影終了のボタンを押した駿が、司に負けず劣らず腹黒く笑う
司「あぁも容易く挑発に乗ってくれるとはな。言質も取れたし」
駿「負けてもノーリスク、勝てば部室と助っ人ゲットだぜ!」
駿と司は悪魔の笑みを浮かべ、豪は既に見えなくなったサッカー部へと無言で合掌
駿「あ、それと申請書どーぞ! 沢山貰っといたんで!」
寺道「えっ何これ多っ!?」
大量の紙束を渡され仰天する寺道
駿「『髪は多いに越したことはない!』by校長!」
寺道「……君達だけは敵に回したくないね」
ドヤ顔の駿に、乾いた笑いを漏らす寺道
□翌日の放課後、ハンドボールコート
コートの周りには、“エクスタグラム”を通して広まった投稿動画『一時のノリでベタな展開wハンド部vsサッカー部(前編)』の効果で集まった野次馬集団
寺道「何この状況……」
司「マイナー部は話題性も大事なので」
寺道「そ、そう……なんか、ごめんね?」
眉を下げる寺道へと豪が真顔で親指を立てる
豪「この世は弱肉強食、生きる為に戦うだけっす」
寺道「武士かな!?」
駿「それにジミッチ先輩は、試合前のトラブル避けたいっしょ?」
寺道「!!」
駿「おれらは所詮、ただの助っ人なんでー」
心を見透かすように猫目を細める駿、それに頷く豪と司
寺道は息を飲むと、思わず破顔した
寺道「本当、君達には敵わないなぁ……!」
そこへ玉越率いるサッカー部員が現れたが、動画の効果で既に怒り心頭
玉越「変な動画まで作りやがって、ふざけんのも大概にしろよ!」
駿「勝手なことして反省してます。だが後悔はしていない!」
玉越「しろ!!」
サッカー部チームは四人全員が大柄な3年生で、ギャラリーから野次が飛ぶ
野次「体格差エグくね?」「大人げないぞ玉越―!」
玉越「煩ぇぇ!!」
審判を任された寺道は両チームをセンターラインに並ばせる
駿の隣には体操服姿の見慣れない男子生徒
寺道「……あの、彼は?」
駿「こいつはジョーナン、ジョーダン二世と呼ばれた元中学MVPの天才PGっす」
南条「ポイントガードしか合ってないから! 弱小チームの二軍だったし!」
司「さっき駿が下駄箱で呼び止めた、初対面の南条君です」
南条「バスケ部の見学行きたかったのに……!」
寺道「その、ごめんね……?」
巻き込まれて半泣きの南条に同情し、寺道は駿達の分まで謝罪
サ部「だはは! 人数合わせのザコチビかよ!」
駿「この小さな救世主を侮らない方がいいっすよ?」
豪「シュンの方が小さくないか?」
駿「小さいことは気にしない!」
寺道(でもバスケのPGか……確かにパス回し役は向いてる)
少しだけ感心しつつ、審判として気持ちを切り替える寺道
寺道「三対三、5分間のミニゲームで。僕が簡単に笛吹くね」
スタートのホイッスルを鳴らすと、サッカー部の精鋭達は意気揚々とセンターラインから駆け出す
玉越「おっし、まずは軽〜く1点──」
ピッ!
寺道「オーバーステップ、反則の場所から一年ボール」
玉越「はぁっ!?」
駿「おや、初歩的なミスですな先輩?」
駿のスローインから南条、豪へとパスが繋がる
司「よし南条君、豪と二人で突っ込め!」
豪「うおぉぉ!」
ピッ!
寺道「オーバーステップ、三年ボール!」
豪「うぐっ!」
玉越「ははは! 初歩的なのはどっち──」
ピッ!
寺道「キックボール。ボール蹴ったら反則だよ」
玉越のスローインは味方の脚に当たる
両チームからツッコミの嵐
サ部「真面目か!」
豪「地味に細かいぞ先輩!」
玉越「テメー調子乗ってんじゃねーぞ! こっちは部活の時間削って──!」
ピピーッ!
寺道「玉越君、警告。次やったら退場だよ」
玉越「なっ!?」
玉越に胸倉を掴まれながら真顔でイエローカードを出す寺道
寺道「みんなも気を付けてね」
一同「「はい」」
揃って直立不動の姿勢を取る一同
一年ボールでゲーム再開、駿が南条にパス
駿「ゴーは左な! ナンジョーよろしく!」
南条「う、うん!」
左右へ走る駿と豪に相手はマンツーマンでディフェンス
体格や運動神経は一見サッカー部の方が上
サ部「要は手でサッカーやるのと一緒だろ、余裕だぜ!」
南条がパスフェイントからドリブル
僅かに空いたスペースへと即座に走り込む駿
サ部「な!?」
駿「手と足はベツモノっすよ? ……ゴー、オゥケェイ?」
豪「オゥケェェイ!!」
鮮やかななバウンドパスが通り、豪の豪速球がゴールをぶち抜く
GK「っどわ!?」
玉越「何やってんだ、一年坊に決められやがって!」
サ部「こんな小せぇゴールくらい守れよ!」
GK「けどあいつの球かなり速いし、体感速度やばいぞ!」
先制点を許して荒れるサッカー部
一方ハンド部(仮)は余裕のハイタッチ
南条「大和田君だっけ、すごい球だね!」
駿「ゴーは剛速球すぎて誰も捕れない悲劇の控えピッチャーだったのさ」
司「南条君もいいフェイントだった。さすが元バスケ部だ」
寺道(うん、ナイスプレー!)
ピッピッと得点の笛を鳴らす寺道は、相変わらず食えない笑みを浮かべた駿を見やる
寺道(でも、今のパス……それに指示も、初心者にしては……)
寺道のすぐ目の前で、豪に声を掛けている駿
駿「ゴー、あんま引くな!」
サ部「楽勝だぜ!」
豪「ぐっ!?」
あっという間に豪を抜いた相手がシュート
好セーブでゴールを守る司
サ部「んなっ!」
駿「ネオ様ナイスー!」
司「コラ豪、こぼれ球拾え──っての!」
一本目に続き、ルーズボールを拾われた二本目も司が鮮やかに捌き切る
感嘆する寺道
寺道(上手い! さすがキーパー経験者!)
司「速攻ぉー!」
司が南条に出したロングパスは玉越にカットされ、そのまま逆速攻
完全にフリーの玉越がシュートしたが、再三止められる
玉越「うげっ!?」
駿「さっすが守護神! NEOガーディアン!」
司「所詮サッカー部の手投げシュートだし?」
玉越「んの生意気メガネェ……!」
南条「金大路君ナイス!」
腹黒い笑みで煽る司に殺気立つサッカー部
目を輝かせる南条へと豪が真顔で補足
豪「キーパー技術は高いが、キックは笑えるほど壊滅的──グボァッ!?」
またも司が足でシュートを止め、勢いよく弾かれたボールが豪の顔面に直撃
もんどり打って倒れた彼を見て、態とらしく騒ぐ駿
駿「ゴーさんが死んだ! この人でなし!」
司「いや狙ってないから!」
駿「ゴー様は滅びぬ、何度でも蘇るさ!」
南条「もう復活した!?」
ふざけた態度にサッカー部が苛立ち、寺道は苦笑
豪「シュン! パース!!」
豪の大声に相手が釣られ、南条にパスが通る
駿「三歩歩けるぞ、ナンジョー!」
南条「う、うん!」
豪「パァァスッ!!」
南条からボールを貰う駿
玉越ともう一人が間合いを詰め、前のパスコースを潰す
玉越「はは! チビは不利で、気の毒に──いぃっ!?」
直後ヒョイと背後に放られたボールを南条が受け取り、フリーになった豪へとパスが繋がる
寺道(! バックパス!?)
野次「一年ハンド部が2点目!」
野次「おいおい大丈夫かサッカー部!?」
豪の得点で歓声と野次が入り交じる
玉越達はムキになって突っ込む
玉越「冗談じゃねえ、負けられっか!」
司「豪、しっかりハンズアップ!」
豪「おぉ!!」
司の指示で豪が長い両手を伸ばしてコースを絞り、またもシュートは外れる
司「駿!!」
駿「オゥケェイ!」
一番に駆け出した駿が弾丸のようなロングパスを捕り、ゴールに向かう
駿「あ」
ガィン!
駿のシュートはゴールの枠に阻まれる
ピィーッ、とストップウォッチを見てホイッスルを鳴らす寺道
寺道「ゲーム終了!」
駿「っしゃー!」
司「おい最後のは決めろよな!」
駿「ビクトリィィ!」
司「聞けぇぇ!」
はしゃぐ一年生達、苦々しげに舌打ちするサッカー部
両チーム整列
寺道「3対0でハンド部一年生の勝ち!」
挨拶を終えるなり駿に詰め寄る玉越達
玉越「てかお前! 絶対ハンド経験者だろ!?」
サ部「元何部だよ!?」
駿「帰宅部ですが何か?」
不敵に笑う駿よりも更にドヤ顔しながら、豪と司が説明する
豪「シュンのいた中学は、全校生徒数が一桁だったらしい」
司「何部の試合も全員総出だったらしいので、大抵の競技は程々にこなしますよ?」
南条「へぇー! 道理で上手いと思ったよ!」
駿「……何でお前らが自慢げ?」
微妙な顔の本人を余所に二人の熱弁は続く
豪「それに、小柄さを活かした小回りと小細工はすごいと思う」
司「小生意気で小賢しい、清々しいほどの小悪魔っぷりもな!」
駿「褒め言葉にトゲがありませんかビッグボーイズ!?」
ニヤリと口角を上げた司が、逆光眼鏡を押し上げつつ玉越へと向き直る
司「……で、約束。覚えてますよね?」
玉越「……わーったよ、部室も助っ人も持ってけ」
駿「さっすがエリート、話が分かるぅ!」
心底疲れた表情で盛大に嘆息する玉越
玉越「お前らに関わるのは二度とごめんだぜ……!」
駿「そう言わず、今後とも持ちつ持たれつ仲良くしましょーよ?」
玉越「全力でお断りだっつーの!」
猫撫で声ですり寄る駿
心底嫌そうに後退った玉越は、仲間と共にさっさと部活へ向かう
彼らが去った後、得点板の隙間からスマホを取り出す駿
駿「さーて、残るはアフターケアですな!」
寺道達がギョッとする中、一人だけ苦笑いする司
司「君って本当、お人好しだよね」
駿「ノンノン。人類皆兄弟、ラブ&ピースが一番だろ?」
したり顔で笑う駿
逞しい女子ハンド部員達が部活の準備にやって来る
顧問に会釈した寺道は、得点板を片付けに行く駿を呼び止める
寺道「……小笠原君」
駿「?」
寺道「本当はハンド、素人じゃないよね?」
一連のプレーを見て確信をもった寺道が尋ねる
パチリと目を瞬かせた駿は、チェシャ猫のようにニヤリと笑った
駿「……さぁー?」
□後日、3-1教室
“エクスタグラム”に投稿された動画『一時のノリでベタな展開wハンド部vsサッカー部(後編)』を見ている寺道
コメ『ハンド部面白い!』『ヤバスギトリオ強ぇ!』『月末土曜に大会だって!』
玉越「っとに、生意気な奴ら……」
寺道「本当、彼らには敵わないよね……」
一つ前の席で舌打ちする玉越に寺道も苦笑い
動画の終盤、再度高サッカー部の試合ビデオを編集したカッコいいダイジェスト映像がテロップと共に流れ出す
動画『ハンド部PR動画の為に憎まれ役を買って出ていただいたサッカー部の皆さんに感謝申し上げます。実際の再度高サッカー部は素晴らしいチームですので、今後の活躍にも是非ご期待ください』
コメ『部長悪役ハマりすぎw』『意外と優しい!』『名演技乙です!』
ドヤ顔のヤバスギトリオによるマッスルポーズで動画終了
玉越「初戦敗退したら承知しねぇぞ?」
寺道「……努力するよ」
フンと鼻を鳴らして会話を打ち切る玉越
寺道は大会のトーナメント表を取り出し、隣に並ぶ“再度”と“張尾”の文字をなぞる
寺道(試合に、出られるんだ……!)
かつて先輩達と共に試合前に整列し、円陣を組んだ光景を思い浮かべる
自分と米田が握手し、駿達と共に肩を組む姿を想像しながら、久しく聞いていなかった円陣時の掛け声を口にした
寺道「HANDS UP,JUMP UP,SIDE-BY-SIDE……!」
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