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第16話:山海の珍味ヤンヤン(下)

 襄陽(ヤンヤン)は食材も豊富である。海辺であるから、海の幸は豊富であるが、特にイカが美味い。水槽には、たいていイカの群れが泳いでいるし、御土産としてスルメが、いたるところで売っている。
 春は、海から鮎(アユ)の稚魚が南大川を遡ってくる。襄陽市内を通って、南に方向を変え、五台山の方に上っていく、比較的大きな川である。初夏になると長い竿を操って、釣り人がアユ釣りを楽しんでいる。日本と同じ、友釣りであろうか、季節感あふれる風景である。この季節、襄陽市内でアユ料理を楽しむことができる。
 
 秋は鮭(サケ)が遡ってくる。最盛期には地元で鮭祭りが開かれる。これもきっと美味いはずである。もっとも、釣り人に解禁される時期は、ほんの数週間しかなく、その間に鮭を釣り上げることのできる人は、極めて限られているという。
 そして、より一般的に得られる食材、料理として、「センテ」がある。生の鱈(タラ)の意味である。これに対して「トンテ」というのがあるが、これは冬凍らせた鱈のことで、棒鱈のように干からびた状態でよく何処でも売っている。
この「センテ」を鍋にして、美味しく食べさせてくれる店が襄陽市内にある。「センテ」に、ネギやら野菜を放り込み、ちょっとピリ辛味で頂くのは最高である。
 

ヤンヤンの名物、タラ鍋


 松茸はあまりにも有名である。10月ごろになると、襄陽市では松茸祭りが開かれ、これに参加する観光客で賑わう。日本からも、近くの襄陽空港までチャーター便が運航されるほどである。
 
 ある松茸の季節のことである。何回か通ったことがある市内の料理屋に、仲間で押し掛けたことがあった。目的はマツタケである。
「おばちゃん、懐かしいね。覚えてる。又来たよ」 「えぇ、覚えてますよ。お久しぶり。今日は何にします」 松茸を食べたいと言ったところ、鍋用に刻んだものはあるが、一本の姿のままのものはないという。
 クさんが「松茸の料理は僕に任せなさい。ついては、近くで早く松茸買ってきて」と言うではないか。
 
 確かに、向かいにも、2,3軒隣りにも、松茸屋さんがある。向かいの店に飛び込むと、先客と店の主人とのやり取りをしっかり参考にさせてもらって、不揃いではあるが、キロ7万ウォン(当時約7千円)で買ってくる。
 「クさん、買って来ましたよ。どうです」 「うん、まあ、これでしかたないな」 おばちゃんが松茸を引き取って洗おうとすると、「だめだめ、洗ったら香りが落ちる。ハケを持って来て」と言って、あの普段はおうようなクさんが、几帳面にも、新聞紙の上で、松茸の根に付いた土を刷毛で落としている。
 

ヤンヤンのマツタケ


 次に松茸を切ろうとすると、これも駄目。姿焼が基本であるという。炭火に網を乗せて焼くのがいいらしいが、炭もないし、網もないので、普通のガスコンロに、焼き肉用の鉄の鍋を乗せて、その上で焼くことにする。
 姿形が違うキノコを、一つ一つアルミホイルに包み、鍋の上に載せる。クさんは、何やら真剣な面持ちで焼き具合を見ている。「よし、焼けた」と言っては、一つ一つ取り出し、私たちに分け与えてくれる。
 
 ホイルを開くと、香りが逃げないで中に籠っているのだ。「なるほど」 そして、熱々の松茸を手で摘まんで、縦に細く裂き、塩を軽くつけて頂くのだ。レモンやゴマ油の類はご法度。「本来の香りを消してしまう」からである。
 こうして、クさんをマツタケ博士と称えつつ、有り難く、また、美味しく、襄陽の松茸を堪能したのであった。
 
 襄陽の西側には有名な雪岳山(ソラクサン)がある。恐らく韓国で一番人気のある山であろう。最高峰は1708メートルで、国立公園となっており、山麓には幾つか温泉もある。
 

ヤンヤンからすぐ西側にある名峰雪岳山(ソラクサン)


 初秋に雪岳山の見える所で、友人たちとゴルフをしたことがあった。午後1時半頃のスタートだったので、18ホールを回るのに、結局夜7時近くまで掛かり、最後の3ホールはナイターとなった。
 その時、ふと西の空を見ると、夕闇が迫る大空を背景に、連峰のシルエットが、ぼぅと浮き出ている。視線を上にやると、上弦の月と宵の明星が、優しく浮かんでいる。何とも幻想的な雰囲気を醸し出して、しばし時が止まったようである。一幅の絵のような、その瞬間を保存して、ずっと大事にしまっておきたい。そう思った。(16話おわり、17話につづく)
 

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